騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物) 作:ゼロさん
…なんか最後の方可笑しいんだけど…しかも直せないし…読者の方はどうなってたり…?
ミスってた。直しとく…なんでコレ気づかなかったんだ俺…
「で…申し開きは?」
〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟
「浸りすぎ〜!」
〝あっだぁ!?なんでいきなり殴った!?〟
「なんかイライラしてて殴りたかったから…*1で?ハジメ裁判長。判決をどうぞ」
「判決、死刑。お前の都合なんざ知ったことじゃないし。散々面倒かけてくれたんだ。詫びとして死ね」
〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟
ハジメは冷めた目で黒竜の言葉を無視し拳を振るおうとした。だが、それは叶わなかった。振るおうとした瞬間、ユエがハジメの首筋にしがみついたからだ。驚いて、思わず抱きとめるハジメの耳元でユエが呟く。
「……殺しちゃうの?」
「え? いや、そりゃあ殺し合いしたわけだし……」
「……でも、敵じゃない。殺意も悪意も、一度も向けなかった。意志を奪われてた」
どうやら、ユエ的には黒竜を死なせたくないらしい。ユエにとっては、竜人族というのは憧れの強いものらしく、一定の敬意も払っているようだ。
しかも、今回は殺し合いになったと言っても、終始、黒竜は殺意や悪意をハジメ達に向けなかった。今ならその理由もわかる。文字通り意志を奪われており、刷り込まれた命令を機械の如くこなしていたに過ぎない。それでも、殺しあった事に変わりはないが、そもそも黒竜はウィルしか眼中になく、ハジメと戦闘になったのは、ハジメが殺意を以て黒竜に挑んだからである。
更に言えば、ハジメの都合上ウィルに死なれては困るので、ウィルを狙ったという点では確かに敵と言えるかもしれないが、その意志は黒竜の背後にいる黒ローブの男だ。敵と言うなら、むしろこっちだろう。
それに、止めた理由はもう一つある。
ユエとて、ハジメのスタンスは知っている。しかし、ユエの眼には、かつて殺してきた〝敵〟と黒竜が同じには見えなかった。吸血鬼族の王であって、手痛い経験もあるユエの人を見る目は確かだ。そのユエの目は、己の心に黒竜の本質を 〝敵〟とは伝えていなかった。ユエは、ハジメには出来るだけ〝敵〟以外の者を殺して欲しくなかったのだ。
なぜなら、
「……自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」
ハジメが〝敵〟以外を殺す事で〝壊れて〟いくのではないかと心配しているのである。
ユエの言葉を受け止め、その心を察するハジメは、よくよく考えてみると、今の黒竜は〝敵〟と認定するべきものかと少し首を捻る。操られていたからといって、殺し合いの最中にそれを慮ってやるほどハジメは甘くはない。容赦なく殺すだろう。
しかし、洗脳が解けて正気が戻った後にまで、わざわざ処刑するように殺すことは〝敵は殺す〟という考えとズレているのではないか?
「でもこいつ気持ち悪いから殺しとかない?」(証拠隠滅)
「お前さぁ…」
首元に抱きつき、今にもキスしそうな至近距離のユエと見つめ合いながら、友達にドン引きしていると、不意に、割と切羽詰った声に話しかけられた。
〝いい雰囲気のところ申し訳ないのじゃがな、迷いが少しでもあるなら、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、死んでしまうのじゃ〟
「ん? どういうことだ?」
〝竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?〟
その場の全員が、黒竜のいう光景を想像してしまい「うわ~」と表情を引き攣らせた。特に女性陣はお尻を押さえて青ざめている。
〝でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ〟
若干、気になる言葉があったが、その弱々しい声音に本当に限界が近いようで、どうやらハジメが考えている時間はないらしい。
ハジメは、片腕にユエを抱いたまま、迷うくらいならパートナーの言葉に従っておこうと決める。人とは、得てして自分のことほどわからないものだ。ならば、もっとも信頼するパートナーが感じている不安を取り除く方向で決断するのも間違いではないだろう。
ハジメは、そう考えて光輝に黒竜の尻に刺さっている杭を抜くように言い、光輝は棒に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。
〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟
みっちり刺さっているので、何度か捻りを加えたり、上下左右にぐりぐりしながら悪意と力を相当込めて引き抜いていくと、何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。光輝は、その声の一切を無視して容赦なく態と抉るように引き抜く。
ズボッ!!
〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟
グポッ!!
ンアー!!♀
ズボッ!!
オウッ!な…なんで一回入れたんじゃ…?まぁええか…
そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。
黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。
見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張し、今にもこぼれ落ちそうになっている。シアがメロンなら、黒竜はスイカでry……
黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになってしまった。このまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にゴキブリを見る目と大差がない。
「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」
何やら危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、ハァハァしているので色々台無しだったが……
「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
「(こいつクラルスって名前だったんだ…忘れてた…)」
ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。
魔物を操ると言えば、そもそもハジメ達がこの世界に呼ばれる建前となった魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは愛子達も一緒だったのか、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測したようだ。
しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで国は滅びる…」等と口にし、随分と国に対して恨みがあるようだったという。
黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。
と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。
そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……
「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」
ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。
「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」
事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。なので、愛子の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。
と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。
「あの、ハジメ殿達なら何とか出来るのでは……」
その言葉で、全員が一斉にハジメの方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。
「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」
ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。
「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」
愛子は、ハジメの言葉に、また俯いてしまう。そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。生徒思いの愛子の事だ。このような事態を引き起こしたのが自分の生徒なら放って置くことなどできないのだろう。
しかし、数万からなる魔物が群れている場所に愛子を置いていくことなど出来るわけがなく、園部達生徒は必死に愛子を説得する。しかし、愛子は逡巡したままだ。その内、じゃあ南雲が同行すれば…何て意見も出始めた。いい加減、この場に留まって戻る戻らないという話をするのも面倒になったハジメは、愛子に冷めた眼差しを向ける。
「残りたいなら勝手にしろ。俺達はウィルを連れて町に戻るから」
そう言って、ウィルの肩口を掴み引きずるように下山し始めた。それに慌てて異議を唱えるウィルや愛子達。曰く、このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、ハジメなら大群も倒せるのではないか……
ハジメが、溜息を吐き若干苛立たしげに愛子達を振り返った。
「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺か光輝じゃないと動かせない構造だから、俺に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」
理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる愛子達。
「まぁ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。愛子も、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。
ティオが、魔力枯渇で動けないので光輝が髪を掴みズルズルと引きずって行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、何故か光輝が運ぶことになった。
だが、そこで背負ったり、抱っこしないのがクズ転生者クオリティー。何故か悲しそう*2に顔をしかめると、いきなりティオの豊満な胸を鷲掴みズルズルと引き摺りだしたのだ。
愛子達の猛抗議により、仕方なく髪に持ち替えたが、やはり引き摺るのはかわらない。何を言っても光輝は改めない上、何故かティオが恍惚の表情を浮かべ周囲をドン引きさせた結果、現在のスタイルでの下山となった。
一行は、背後に大群という暗雲を背負い、急ぎウルの町に戻る。
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ウルの町
ウルの町に着くと、悠然と歩くハジメ達とは異なり愛子達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。ハジメとしては、愛子達とここで別れて、さっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたのだが、むしろ愛子達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。
町の中は、活気に満ちている。料理が多彩で豊富、近くには湖もある町だ。自然と人も集う。まさか、一日後には、魔物の大群に蹂躙されるなどは夢にも思わないだろう。ハジメ達は、そんな町中を見ながら、そう言えば昨日から飯を喰っていなかったと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町の役場へと向かった。
ハジメ達が、ようやく町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。
普通なら、明日にも町は滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるのがオチだろうが、何せ〝神の使徒〟にして〝豊穣の女神〟たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。
ちなみに、車中での話し合いで、愛子達は、報告内容からティオの正体と黒幕が清水幸利である可能性については伏せることで一致していた。ティオに関しては、竜人族の存在が公になるのは好ましくないので黙っていて欲しいと本人から頼まれたため、黒幕に関しては愛子が、未だ可能性の段階に過ぎないので不用意なことを言いたくないと譲らなかったためだ。
愛子の方は兎も角、竜人族は聖教教会にとっても半ばタブー扱いであることから、混乱に拍車をかけるだけということと、ばれれば討伐隊が組まれてもおかしくないので面倒なことこの上ないと秘匿が了承された。
そんな喧騒の中に、ウィルを迎えに来たハジメがやって来る。周囲の混乱などどこ吹く風だ。
「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」
「そうだね。無駄な時間過ごしたくないし。」
そのハジメ達の言葉に、ウィル他、愛子達も驚いたようにハジメを見た。他の、重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメ達に不愉快そうな眼差しを向けた。
「な、何を言っているのですか? ハジメ殿、光輝殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」
「そんな事言われても…この町にどうこうしてあげる愛着も理由も無いし…」
「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ? 観光の町の防備なんてたかが知れているんだから……どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」
「だねぇ。」
「そ、それは……そうかもしれませんが……でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません! 私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿達も……」
「光輝、やれ。」
「了解。どっせい!」ボゴォ!
「グハッ…」
「……俺達の仕事は『ウィル』をフューレンに連れ帰ること。お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら……手足を砕いて引き摺って連れて行く。光輝がな?」
「なっ、そ、そんな……」
「セイ!」
「オグッ…ぐぅ…」グタ…
ハジメの醸し出す雰囲気から、その言葉が本気であると察したウィルが顔を青ざめさせて後退りする。その表情は信じられないといった様がありありと浮かんでいた。ウィルにとって、ゲイル達ベテラン冒険者を苦もなく全滅させた黒竜すら圧倒したハジメ達は、ちょっとしたヒーローのように見えていた。*3なので、容赦のない性格であっても、町の人々の危急とあれば、何だかんだで手助けをしてくれるものと無条件に信じていたのだ。なので、ハジメから投げつけられた冷たい言葉に、ウィルは裏切られたような気持ちになったのである。身勝手だね。
言葉を失い、ハジメから無意識に距離を取るウィルに光輝が拳を叩き込んだ。周囲の者達がウィルとハジメを交互に見ながら動けないでいると、ふとハジメ達の前に立ちふさがるように進み出た
愛子だ。彼女は、決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げる。
「南雲君と天之河君なら……君達なら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」
愛子は、どこか確信しているような声音で、ハジメ達なら魔物の大群をどうにかできる、すなわち、町を救うことができると断じた。その言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めく。
愛子達が報告した襲い来る脅威をそのまま信じるなら、敵は数万規模の魔物なのだ。それも、複数の山脈地帯を跨いで集められた。それは、もう戦争規模である。そして、一個人が戦争に及ぼせる影響など無いに等しい。それが常識だ。それを覆す非常識は、異世界から召喚された者達の中でも更に特別な者、そう勇者だけだ。それでも、本当の意味で一人では軍には勝てない。人間族を率いて仲間と共にあらねば、単純な物量にいずれ呑み込まれるだろう。なので、勇者ですらない*4目の前の少年達が、この危急をどうにかできるという愛子の言葉は、たとえ〝豊穣の女神〟の言葉であってもにわかには信じられなかった。
ハジメは、愛子の強い眼差しを鬱陶しげに手で払う素振りを見せると、誤魔化すように否定する。
「いやいや、先生。無理に決まっているだろ?見た感じ四万は超えているんだぞ?とてもとても……」
「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」
「南雲君、天之河君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」
「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」
ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、愛子は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。近くで愛子とハジメの会話を聞いていたウルの町の教会司祭が、ハジメの言葉に含まれる教会を侮蔑するような言葉に眉をひそめているのを尻目に、愛子はハジメに一歩も引かない姿勢で向き直る。
「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」
愛子が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。
「南雲君に光輝君、あんなに穏やかだった君達が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います*5。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君達が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君達には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」
ハジメは黙ったまま。光輝は「(なんか申し訳ないな…)」と思いながら、先を促すように愛子を見つめ返す。
「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、天之河君、君達は日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」
「……」
「……」(もう慣れてるし別に日本に帰っても直す気ないんだよなぁ…)という顔
「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。天之河君、君は人を惹きつける事が出来る人です。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君達がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」
一つ一つに思いを込めて紡がれた愛子の言葉が、向き合うハジメに余すことなく伝わってゆく。町の重鎮達や生徒達も、愛子の言葉を静かに聞いている。特に生徒達は、力を振るってはしゃいでいた事を叱られている様な気持ちになりバツの悪そうな表情で俯いている。それと同時に、愛子は今でも本気で自分達の帰還と、その後の生活まで考えてくれていたという事を改めて実感し、どこか嬉しそうな擽ったそうな表情も見せていた。
ハジメは、例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに〝先生〟であり続ける愛子に、内心苦笑いをせずにはいられなかった。光輝は、既に寂しい生き方を愉しみ散らかしていた事について途轍もなく先生に土下座したくなった。
愛子は一度も〝正しさ〟を押し付けなかった。その言葉の全ては、ただハジメと光輝の未来と幸せを願うものだ。
ハジメは、愛子からすぐ傍にいるユエへと視線を転じる。ユエは、どういうわけか懐かしいものを見るような目で愛子を見つめていた。しかし、ハジメの視線に気がつくと、真っ直ぐに静かな瞳を合わせてくる。その瞳には、ハジメがどんな答えを出そうとも付いていくという意志が見えた。
光輝は、恵理を見た。恵理は、例えどんなに険しい道のりであろうとついて行くという狂気的なまでの意志の宿った目であった。
奈落の底で、〝堕ちる〟寸前であったハジメの人間性をつなぎ止めてくれた愛しい彼女の幸せを、ハジメは確かに願っている。そう出来るのが自分であればいいと思っているが、愛子の言葉を信じるなら、ハジメの生き方ではユエを幸せにしきれないかもしれない。
光輝は転生者パワーで何があっても恵理を幸せにするつもりである。光輝は暴れ回り過ぎて印象が薄かったが、彼はハッピーエンド至上主義の、恵理のバッドエンドを打開する為にこの世界にやって来た男。
更に視線を転じると、そこにはハジメを心配そうに見やるウサミミ少女がいる。ユエとたった二人の狭い世界に、賑やかさをもたらした少女。何度ハジメに邪険にされても、物好きなことに必死に追いかけて、今ではむしろユエの方が、仲間として、友人として彼女を可愛がっている。それは、ハジメがシアを受け入れたことで、ユエにもたらした幸せの一つではないだろうか?
ハジメにとって、この世界は牢獄だ。故郷への帰還を妨げる檻である。それ故に、この世界の人や物事に心を砕くようなことは極めて困難だ。奈落の底で、故郷へ帰るために他の全てを切り捨てて、邪魔するものには容赦しないと心に刻んだ価値観はそう簡単には変わらない。だが、〝他者を思い遣る〟ことは難しくとも、行動自体はとれる。その結果が、大切な者……ユエやシアに幸せをもたらすというのなら、一肌脱ぐのも吝かではない。
光輝にとって、この世界は楽園だ。
ハジメは、愛子の言葉の全てに納得したわけではなかった。だが、それでも、〝自分の先生〟の本気の〝説教〟だ。戯言と切って捨てるのは、少々子供が過ぎると言うものだろう。今回暴れることで、ハジメの存在は公のものとなり面倒事が降りかかる可能性は一気に大きくなるが、そこは生徒思いの〝愛子先生〟に頑張ってもらえばいい。どっちにしろ、遅かれ早かれ目を付けられるのは分かりきっていたことだ。面倒事に対する布石はいくつか打ってあるわけだし、この世界に対して自重しないとも決めている。なら、派手に力を示すのも悪くはない。
光輝は割と話を聞いていなかった。だが、それでも、〝先生カワイイヤッター!〟という事しか考えていなかった〝アホ〟だ。子供みたいに『なんか楽しそう!』という思いで今回暴れられ、それでいて多分怒られることもない。
そんな事を、ハジメはちょっと言い訳がましく考えながら、
「「……先生は、この先何があっても、俺(私)の先生か(い)?」」
それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメと光輝。
「当然です」
それに、一瞬の躊躇いもなく答える愛子。
「……俺がどんな決断をしても?それが、先生の望まない結果でも?」
「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決ことではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」
「私が犯罪を犯しても?既に沢山犯してるんだけど…」
「…(葛藤)…(悩み)…(大人の責任)…ハイ!!!(ヤケクソ)一生でも付き合ってあげますよ!ええ!」
「(告白か?)」
「告白かな?淫行教師じゃないか!(歓喜の声)」
「え?…(気づき)マ゜!(絶命)ちちち違うんです!違うんですよ!」
ハジメはしばらく、その言葉に偽りがないか確かめるように愛子と見つめ合う。わざわざ言質をとったのは、ハジメ自身、できれば愛子と敵対はしたくなかったからだ。ハジメは、愛子の瞳に偽りも誤魔化しもないことを確かめると、おもむろに踵を返し出入口へと向かった。ユエとシアも、すぐ後に続く。光輝はニマニマしている。顔はイケメンフェイスでカッコいいが腐りきった性根が漏れていてキモい(直球)
「な、南雲君?光輝君?」
そんなハジメとカスに、愛子が慌てたように声をかけた。ハジメは振り返ると、愛子の〝先生ぶり〟には参ったとでもいうように肩を竦めて言葉を返す。
「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ…光輝、やれるな?」
「勿論。
「お前の方が強いのは事実だが…おい待て今なんか変じゃなかったか?……まぁお前が変でヤベー奴なのは何時もの事か。(ナチュラル失礼)」
「まぁね。(自覚してる癖に直さないクズ)」
「南雲君!光輝君!」
ハジメと光輝の返答に顔をパァーと輝かせる愛子。そんな愛子にハジメは苦笑いする。
「俺の知る限り一番の〝先生〟からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする……光輝。蹂躙しろ」
「了解!」
そう言って、両隣のユエとシアの肩をポンっと叩き、『最高戦力』と共に再び踵を返して振り返らず部屋を出て行った。ユエとシアが、それはもう嬉しそうな雰囲気をホワホワと漂わせながら、小走りでハジメの後を追いかけてゆく。
パタンと閉まった扉の音で、愛子とハジメ。ついでにあたおか転生者の空気に呑まれて口をつぐんでいた町の重鎮達が、一斉に愛子に事情説明を求めた。
愛子は、肩を揺さぶられながら、ハジメが出て行った扉を見つめていた。その顔に、ハジメに気持ちが伝わった喜びは既にない。ハジメに語った事は、ハジメの生き方を悲しく感じた事は、まぎれもない愛子の本心だ。
だが、結果、大切な生徒に魔物の大群へ立ち向かうことを決断させたことに変わりはない。力を振るうことに慣れて欲しくないと言いながら、戦いに赴かせるという矛盾を愛子は自覚している。ハジメ達に生き方を改めて考えて欲しいという思いと、ウルの町の人々もできれば助けたいという思い。結果的に、両方とも叶いそうではあるが……もっとやりようはなかったのかと、愛子は、内心、自分の先生としての至らなさや無力感に肩を落としていた。
願わくば、生徒達が皆、元の心を失わないまま、お家に帰れますように……愛子のその願いは既に叶わぬものだ。愛子自身、昨夜のハジメ達の話を聞いて、その願いが既に幻想であると感じている。しかし、それでも願うことは止められない。
重鎮達の喧騒と敬愛の眼差しを向ける生徒達に囲まれて、愛子は悟られない程度に溜息をつくのだった。可愛いね。(ロリコンの意志)
無双とか書いてるけど一切無双してないタイトル詐欺