騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物) 作:ゼロさん
「フフッ…フハハ…フッハハハハハ!」
ズッシャァ!!!
ドッゴオ!!!
メッキャァ!!!
「愉しい!愉しいなァ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)
ウルの町を襲う数万規模の魔物の大群の遥か後方で、即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めている少年、清水幸利は、目の前の惨状に体を震わせながら言葉を失った様に口をパクパクさせていた。ありえない光景、信じたくない現実に、内心で言葉にもなっていない悪態を繰り返す。
(なんなんだよアイツら!いきなり来やがって…特にあの
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!」
(なんで武器を使わない!?頭が可笑しいのか!?*1)
「クソォ…なんで…なんでだよ…アイツに切り札も殴り殺された!魔物も殆ど全滅…なんでだよ…せっかく…此処から復讐が果たせるんだって…!全部壊せるって…そう思ったのに…」
ブオォン!!!*2
「グッべェ!?ち…畜生…め…」グタッ
清水幸利にとって、異世界召喚とは、まさに憧れであり夢であった。ありえないと分かっていながら、その手の本、Web小説を読んでは夢想する毎日。夢の中で、何度世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えたかわからない。清水の部屋は、壁が見えなくなるほどに美少女のポスターで埋め尽くされており、壁の一面にあるガラス製のラックには、お気に入りの美少女フュギュアがあられもない姿で所狭しと並べられている。本棚は、漫画やライトノベル、薄い本やエロゲーの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いていた。
そう、清水幸利は真性のオタクである。それは、
クラスでの清水は、〝彼〟に会うまでは所謂『モブ』だった。しかし今は『主人公の友人B』と言った所だ。原作では特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。話しかけられれば、モソモソと最低限の受け答えはするが自分から話すことはない人間だった。しかし
「清水…で良かったかな?私の名前は『天之河光輝』アニメみたいなサブカルとか大体の趣味を広く浅くだけど納めている。仲良くしてくれると助かるかな。アニメとか好き?私と友達にならない?」
「え…あぁ、うん…良いよ?」
元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた。当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあり創作物や妄想に傾倒していった。
しかし、其処には
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「イヤ〜…3人で遊びに来れて良かったよ。スタバのフラペチーノ美味しいね…」*3
「うん。あっそういえばだけどさ…恵理さん置いてきて良かったの?」*4
「確かに…なんだか寂しそうだったが」*5
「恵理は養子だって話したっけ?プライバシー的に言わないでおくけどさ、引き取る前に色々あったんだよね。それで寂しがりやでさ。後で埋め合わせするからヘーキヘーキ。というかこの後はたしかゲームセンターで対戦だったよね?」
「おう。あっその前に俺トイレ行ってくる。対戦中に行きたくなんない様にしたいし。」
「じゃあ私達はそこら辺で待ってるよ。」
「いってらっしゃい。」
「おう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜トイレ終わりにて〜
「ふう〜〜…」
「…兄貴?」*6
「…お前…なんで此処に…」
「此方がそう言いたいんだけど?クソ兄貴。いっつも外に出ないでキモイのばっか見てんだから何時も通り部屋で大人しくしてろよ。無駄に俺と顔似てるんだからさぁ…同級生に見られたら困るんだよ。ここ塾の奴ら良く通るし。」
「………俺が何処居ても良いだろ。」
「お前みたいなキモイオタクが家族だと思われると困るって言ってんだよ!」ゲシィ
「いって…」
「兄さんも「あいつが弟だと思われると世間体悪いから」つって彼女に弟は俺だけって言ってるんだが?わかる?家族のお荷物なんだよ。引きこもり!お前は外出ないで引きこもってろよ!」
「……………」
「その言い草はちょっと感心できないかな?」
「…お兄さん誰?」
「そこに居る君の兄の友達だよ。」
「…お前友達なんて居たんだな。引きこもりオタク風情がよ。」
「さっきから…『オタク趣味』の何が悪いのさ。」
「……!!!」
「…はぁ?オタクキモイでしょ。」
「『キモイ』からってどうなるってのさ。んん?」
「…風評とか…そういうので…」
ゲシィ!*7
「ヒッ…」
「風評程度の『くだらない』事で『私の友達』を貶めるな…」
「殺すぞ糞餓鬼…!!!」*8
「ヒェッ…ごめんなさい…」タッタッタ
「ふぅ〜…失礼な奴だ…あっごめん人の弟糞餓鬼とか言っちゃって…ちょっと
「…ハハッ…大丈夫だよ、
(…ああ…此奴みたいな奴らを『主人公』って言うんだな…*9納得だ。精々俺は遠くから眺めるモブって…いや、友達枠かな…少し自意識過剰過ぎか?)
「あっそうだ(唐突)清水はあんまり人に強く出れ無いからさ。何かあったら私に言ってくれ。守ってあげよう!………なんてね!ハジメ待ってるから早く行こうか。」
「…おう!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そう。清水は転生者によって脳をチリチリに焦がされて好感度が天元突破したのだ。そんな清水であるから、異世界召喚の事実を理解したときの脳内は、まさに「キターー!!」という状態だった。愛子がイシュタルに猛然と抗議している時も、光輝が人間族の勝利と元の世界への帰還を決意し息巻いている時も、清水の頭の中は、何度も妄想した異世界で華々しく活躍する自分の姿では無く、『
そして実際、清水が期待したものと、現実の異世界ライフには齟齬が生じ無かった。まず、〝勇者〟は自分ではなく光輝であること、その為か、光輝が活躍し、自分は〝その中のサブキャラクター〟だった。念願が叶い、望んだ通りの現実に嬉しさを増す清水は、内心で見狂喜乱舞していた。
〝自分はカッコいい主人公と一緒に世界を救うヒーローになれるんだ!〟
それこそが、脳を転生者に焼かれて推し活に目覚めた推し活戦士清水の喜びだった。本来なら、『なぜ、自分が勇者ではないのか。なぜ、光輝ばかりが女に囲まれていい思いをするのか。なぜ、自分ではなく光輝ばかり特別扱いするのか。自分が勇者ならもっと上手くやるのに。自分に言い寄るなら全員受け入れてやるのに……』そんな、都合の悪いことは全て他者のせい、自分だけは特別という自己中心的な考えが心を蝕んでいく筈だった清水は精神的に無敵の人と化したのだ。
そんな折だ。あの【オルクス大迷宮】への実戦訓練が催されたのは。清水は、チャンスだと思った。クラスメイト達と一緒に戦う
自分が決して特別な存在などではなく、ましてご都合主義な展開などもなく、ふと気を抜けば次の瞬間には確かに〝死ぬ〟存在なのだと。トラウムソルジャーに殺されかけて、遠くでより凶悪な怪物と戦う〝勇者〟を見て、そのまま大切な
そして、奈落へと落ちて〝死んだ〟クラスメイトを目の当たりにし、彼も他と同じ様に心が折れた。『自分の
清水は、王宮に戻ると再び自室に引き篭ることになった。だが、日本の部屋のように清水の心を慰めてくれる創作物は、ここにはない。一緒に遊んでくれる
闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。清水の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。
その間、王宮では
……死んだのだ、彼らは。
清水は吐きそうだった。何度も自殺しそうに…後を追いそうになった。しかしその度に踏み止まった。自分が生き残れたのは彼等のお陰だったし、彼等の意志を無駄にしたく無かった。
それに
実際は檜山のせいで落とされたので特に変わらなかっただろうが、精神的に限界だった清水は檜山の事を頭から追い出したのだ、あんなのが『クラスメイト』だと思いたく無かった為に。
そして、浮かれた気分などすっかり吹き飛んだ陰鬱な心で読んだ本から、清水は、ふとあることを思いついた。闇系統魔法は、極めれば対象を洗脳支配できるのではないか?というものだ。清水は歓喜した。『
清水はこう思った。
「
と思ったのだ。
しかし、そう簡単に行く訳もなかった。まず、死ぬ原因となった自分達を召喚した王国の人間を洗脳しようとしても、人間の様に強い自我のある者には、十数時間という長時間に渡って術を施し続けなければ到底洗脳支配など出来ない。当然、無抵抗の場合の話だ。流石に、術をかけられて反応しないものなど普通はいない。それこそ強制的手段で眠らせるか何かする必要がある。人間相手に、隠れて洗脳支配するのは環境的にも時間的にも厳しく、ばれた時のことを考えると非常にリスクが高いと清水は断念せざるを得なかった。
肩を落とす清水だったが、ふと召喚の原因である魔人族による魔物の使役を思い出す。人とは比べるべくもなく本能的で自我の薄い魔物ならば洗脳支配できるのではないか。清水は、それを確かめるために夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、人に比べて遥かに容易に洗脳支配できることが実証できた。もっとも、それは既に闇系統魔法に極めて高い才能を持っていたチートの一人である清水だから出来た事だ。以前、イシュタルの言ったように、この世界の者では長い時間をかけてせいぜい一、二匹程度を操るのが限度である。
王都近郊での実験を終えた清水は、どうせ支配下に置くなら強い魔物がいいと考えた。ただ、人の目が付き纏う為、迷宮の最前線に行くのは気が引けた。そして、どうすべきかと悩んでいたとき、愛子の護衛隊の話を耳にしたのだ。それに付いて行き遠出をすれば、ちょうどいい魔物とも遭遇出来るだろうと考えて。
結果、愛子達とウルの町に来ることになり、北の山脈地帯というちょうどいい魔物達がいる場所で配下の魔物を集めるため姿をくらませたのだ。次に再会した時は、世界が滅ぶ時だと夢想して。
本来なら、僅か二週間と少しという短い期間では、いくら清水が闇系統に特化した天才でも、そして群れのリーダーだけを洗脳するという効率的な方法をとったとしても精々千に届くか否かという群れを従えるので限界だっただろう。それも、おそらく二つ目の山脈にいるブルタールレベルを従えるのが精々だ。
だが、ここでとある存在の助力と、偶然支配できたティオの存在が、効率的に四つ目の山脈の魔物まで従える力を清水に与えた。と、同時に、そのとある存在との契約と日々増強していく魔物の軍勢に、清水の心のタガは完全に外れてしまった。そして遂に、満を持して大群を町に差し向けたのだった。
そして、その結果は……
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
世界を壊すなんて決意した癖に、石を的確に頭に投げつけられ気絶していたのだ。情けなさで清水は泣きそうになった。
膝立ちで清水に視線を合わせる愛子に、清水の憔悴したギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話……というより悪態をつき始めた。
「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも…馬鹿にしか居ないのかよ…………『やるべき事』に気付きもしないで……ホント、俺含めて馬鹿ばっかりだ……だから俺が全部壊してしてやろうと思っただけだろうが……」
「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! 馬鹿なのはアンタだけでしょ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
「黙ってろ。」
「「「!?」」」
「…そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。私は何故清水君が全部壊そうという考えになったのか、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……」
「復讐だ。」
質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、怒りと殺意が滲み出る表情を浮かべた。
「俺の…大切な…『友達』だった!光輝も!ハジメも!友達だったんだよ……二人が死んで…俺は何もやる気が起きなかった…でも見つけたんだよ!やるべき事を!」
「…やるべき事とは?」
「決まってるだろ!復讐だよ!彼奴等が死んだのは…この世界に俺等を呼んだ『国』と!そいつらと戦争やってる『魔族』と!!!そいつらが生きてる『世界』ごと壊してやるんだよ!」
「…だとしても、コレだけの数を使役するのは困難な筈です…」
「簡単だ、俺等に協力してくれる奴らはいるんだ。魔人族とかな?」
「なっ!?」
清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、ハジメ達と原作を知っている光輝を除いた、その場の全員が驚愕を表にする。清水は、その様子に狂気的な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。
「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん殺そうとしたけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、信じ込んでくれたのさ。俺の「魔人族に協力したい」って嘘をな?だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」
「契約……ですか? それは、どのような?」
戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、何かあったのかと心配する。
そんな愛子に、頭がおかしくなったのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。
「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」
「……え?」
清水は突然、手をグッと引き寄せ、愛子の首に腕を回してキツく締め上げたのだ。思わず呻き声を上げる愛子を後ろから羽交い絞めにし、何処に隠していたのか十センチ程の針を取り出すと、それを愛子の首筋に突きつけた。
「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」
裏返ったヒステリックな声でそう叫ぶ清水。その表情は、病人のように引き攣り、眼は狂気を宿している。先程まで肩を震わせていたのは、どうやら嗤っていただけらしい。
愛子が、苦しそうに自分の喉に食い込む清水の腕を掴んでいるが引き離せないようだ。周囲の者達が、清水の警告を受けて飛び出しそうな体を必死に押し止める。清水の様子から、やると言ったら本気で殺るということが分かったからだ。みな、口々に心配そうな、悔しそうな声音で愛子の名を呼び、清水を罵倒する。
「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」
「清水君…なんで…」
「復讐だって言ってんだろ先生!?
「…」
「おい、お前、厨二野郎、お前だ!後ろのフード野郎じゃねぇよ!お前だっつってんだろ眼帯!馬鹿にしやがって、クソが! これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ!わかったら、銃を寄越せ!それと他の兵器もだ!」
「厨二病って…」*10
「(今の…なんか聞いた憶えが…気のせいか。)さっさとしろ厨二病!」
バサッ
「やぁ清水、久しぶり。元気…じゃ無さそうだね。」
「………………………………………………………………………………………………は?…は?あぇ?へ?光輝?なんで???」
「残念だったね、トリックだよ。」
「厨二病…」*11
次回はキチゲ発散する。