騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物) 作:ゼロさん
北の山脈地帯を背に魔力駆動四輪が砂埃を上げながら南へと街道を疾走する。何年もの間、何千何万という人々が踏み固めただけの道であるが、ウルの町から北の山脈地帯へと続く道に比べれば遥かにマシだ。サスペンション付きの四輪は、振動を最小限に抑えながら快調にフューレンへと向かって進んでいく。
もっとも、前の座席で窓を全開にしてウサミミを風に遊ばせてパタパタさせているシアは、四輪より二輪の方が好きらしく若干不満そうだ。何でも、ウサミミが風を切る感触やハジメにギュッと抱きつきながら肩に顔を乗せる体勢が好きらしい。
運転は当然ハジメ。その隣は定番の席でユエだ。後部座席に、ウィルが乗っている。そのウィルが、ハジメに対し、少々身を乗り出しながら気遣わし気に話しかけた。
「あのぉ~、本当にあのままでよかったのですか?話すべきことがあったのでは……特に愛子殿には……」
ハジメは振り向かないまま、気のない返事をする。
「ん~? 別に、あれでいいんだよ。あれ以上、あそこにいても面倒なことにしかならないだろうし……先生も今は俺らがいない方がいい決断が出来るだろうしな」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「お前……ホント人がいいというか何というか……他人の事で心配し過ぎだろ?」
ハジメの言葉を聞いても、なお、心配そうな表情をするウィルにハジメは苦笑いだ。会ったばかりの冒険者達の死に本気で嘆き悲しみ、普通に考えれば自殺行為に等しい魔物の大群に襲われる自分とは関係ない町のために残り、恨みの対象であるティオを許し、今は半ば脅して連れ出したハジメと愛子達との関係を心配している。王国の貴族でありながら、冒険者を目指すなど随分変わり者だとは思っていたが、それを通り越して思わず心配になるぐらいお人好しだ。
「……いい人」
「いい人ですねぇ~」
「うむ、いい奴じゃな」
ウィルは、一斉に送られた言葉に複雑な表情だ。褒められている気はするのだが、女性からの〝いい人〟というのは男としては何とも微妙な評価だ。
「わ、私の事はいいのです……後…それとその…光輝…様(畏怖)は…」
「……光輝?彼奴にはちょっとムカついたから走ってもらってるが。」
「走って!?」
「アイツが俺を女に戻すのを拒否って来たからだよ…」
「……ハジメ、可愛い」
「……」
「可愛いですぅ」
「可愛らしいのう…」
「ハッハッハッ可愛いですよハジメ!」
「うるせぇ真面目に走れ!」
「ハーイ…ハッハッハッ…」
「セイクリッドちゃんも可愛いと思うぞ♡」
「………お前は男なのか女なのかどっちなんだ?」
「男でも女でもあるに決まってんだろ。(マジトーン)」
「……シア。その、何だ、今回は助かった。(話題逸らし)遅くなったが……ありがとな」
「……………………誰?」
多少照れくさくとも我慢して礼を言った結果、返ってきたのは驚愕の表情とそんな言葉だった。ハジメの額に青筋が浮かぶが、自業自得と言えばそれまでなので我慢する。
ハジメを凝視するシアに、今度はしっかりと視線を合わせて「ありがとな」と礼を言うハジメ。そんなハジメのストレートな言葉に、シアは全身に電撃でも流されたかのようにフルフルと身を震わせると、途端に落ち着きをなくしてそわそわし始めた。視線を激しく彷徨わせ、頬を真っ赤に染めている。ウサミミは、あっちへピコピコ、こっちへピコピコ。
「え、えっと、いえ、そんな、別に大した事ないと言いますか、そんなお礼を言われる程の事ではないといいますか、も、もう! 何ですか、いきなり。何だか、物凄く照れくさいじゃないですか………………えへへ……………というかソッチに目覚めそうなんですけど…」
てれてれと恥ずかしげに身をくねらせるシアに、ハジメは苦笑いしながら少し疑問に思ったことを尋ねてみる。目覚めそう云々は無視する。
「シア。少し気になったんだが……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ? 先生とは、大して話してないだろ? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」
「それは……だって、ハジメさんが気にかける人ですから」
「……それだけか」
「? ……はい、それだけですけど?」
「……そうか」
シアのキョトンとした表情に、ハジメは何とも言えない表情をする。確かに、ハジメにとって愛子は恩師といえる存在ではある。他のクラスメイト達と異なり、いなくなってしまえばそれなりに衝撃を受けるであろう相手だ。死ななくて良かったと素直に思える相手だ。だが、それを言動で明確に示した覚えはなかった。しかし、ユエといい、シアといい、ハジメの心情などお見通しだったようだ。それだけ、何時も心を砕いてくれているという事だろう。今更ながら自分には過ぎた仲間だと、そんな思いが心に過ぎる。
これは、ユエに言われるまでもなく何かしらの形で報いるべきだろうと、ハジメは未だテレテレしているシアに話しかけた。
「シア。何かして欲しい事はあるか?」
「へ? して欲しい事……ですか?」
「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?」
いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながら、何気なく隣のユエを見ると、ユエは優しげな表情でシアを見つめ、コクリと頷いた。ユエは、ハジメの感謝の気持ちなのだと視線で教え、素直に受け取ればいいと促す。それを正確に読み取ったシアは、少し考えた後、にへら~と笑い、ユエに笑みを浮かべて頷くとハジメに視線を転じた。
「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……なぜです? どう考えても、遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」
「〝出来る範囲で〟と、そう言っただろうが」
「十分出来る範囲でしょう! さり気なく私を遠ざけてユエさんとはしてるくせに! 知っているのですからね! お二人の情事を知るたびに胸に去来する虚しさときたら! うぅ、フューレンに着いたら、また私だけお使いにでも行かせて、その隙に愛し合うんでしょ? ぐすっ、また、私だけ……一人ぼっちで時間を潰すんですね……ツヤツヤしているユエさんを見て見ぬふりしなきゃなんですね……ちくしょうですぅ……」
「いや、おまっ、何も泣かなくても……俺が惚れているのはユエなんだから、お前の事は、まぁ、大事な仲間だとは思うが恋情はなぁ……そんな相手を抱くっつうのは……」
「……ぐすっ……ハジメさんのヘタレ!」
「……おい」
「根性なし! 内面乙女のカマ野郎! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」
「ハジメェ!恋情と性欲は別ですよぉ!フッフッ…」
「黙れクソ野郎!」
「今は女です!」
「クソアマァ!」
「ぷふっ……数万規模の魔物を殲滅した男が……ヘタレ……ぷふっ」
「意外とハジメ殿は純情なのじゃなぁ、まだ関係をもっておらんかったとは……ご主人様にお尻の初めてを奪われた妾の方が一歩リードじゃな……」
などと言う小声が聞こえてくる。ハジメは、全員車外に放り出してやろうかと、一瞬本気で考えたものの、隣にいるユエから何故か非難がましい視線を向けられたためグッと堪えた。そして、頬を引き攣らせながらシアに再度話しかけた。あと、ウィルは後でシメると心に誓う。もう一つの声は……相手にしたくないので放置だ。
「シア。もうちょいハードルを下げろ。それ以外なら……」
「……ハジメ、ダメ?」
何故かユエから援護射撃が来る。シアは、「ユエさぁ~ん」と情けない声を上げながらヒシッとユエに抱きついた。明らかに、ユエは、ハジメがシアを抱くことを容認しているようだ。最近、本当にシアに対して甘いユエ。深い友情ゆえのものかと思っていたハジメだが、何だか困った妹のために世話を焼くお姉さんのようになって来ている。しかも、かなり重度のシスコンタイプ。
愛しい少女から、他の女を抱いて欲しいと頼まれる。全く、意味がわからない状況にハジメは頭を抱えた。光輝じゃないんだぞ…という思いがよぎる。だが、ハジメにも譲れない思いがある。
「……俺が、心から欲しいと思うのは、ユエ、お前だけなんだ。シアの事は嫌いじゃないし、仲間としては大事にしたいとは思うが……ユエと同列に扱うつもりはない。俺はな、ユエに対して独占欲を持ってる。どんな理由があろうと、他の男が傍にいるなんて許容出来そうにない。心が狭いと思うかもしれないし、勝手だとも思うかもしれないが……ユエも同じように思ってくれたらと、そう思う。だから、例え相手がシアでも、他の女との関係を勧めるというのは勘弁してくれないか?」
「……ハジメ」
腕にシアをしがみつかせたまま、ユエが頬を染め潤んだ瞳で真っ直ぐハジメを見上げる。ハジメもまた、そっと片手をユエの頬に当て優しく撫でながら見つめ返した。二人の間に、それはもう甘い雰囲気が漂う。空気の色すら艶やかな桃色になっているようだ。
見つめ合う二人の顔は次第に近づいていき、そして……
「性奴隷オススメですよハジメェ!!!」
「……完全に忘れてますよね……私のこと……私へのご褒美のお話だったはずなのに……」
剣呑な声音とカスみたいな言動が刺さる。ジト目でシアが至近で見つめ合うハジメとユエの二人を真横から睨む。そこで、ようやく周りの状況に気がついた二人は、そそくさと距離をとった。ユエは、まだ照れくさいのか片手でその綺麗な髪をいじいじしながら心を落ち着かせている。ハジメは殺意が湧いている。
不意打ち気味に告白されたハジメの本心に、大分心乱されたようだ。無表情が崩れて、自然と口元がニマニマしてしまう。独占したいという言葉も、独占されたいという言葉も、人によっては重いと思うかもしれないが、ユエにとってはこの上なく嬉しいことだった。心が震えて、思わずハジメ以外の全てを忘れる程に。
「……なるほど、お三人の関係が何となく分かってきました……シア殿は大変ですね」
「ユエとの絆が深いのぅ……まぁ、妾はご主人様に罵って貰えればそれだけで良いが。」
ウィルがハジメ達三人の関係を察しつつ砂糖を吐きそうな表情をする。後ろで何を想像したのかハァハァし始めた変態の存在など知らない。
「……ハジメ、ごめんなさい。でも、シアも大切……報いて欲しいと思う。だから、町で一日付き合うくらいは……ダメ?」
「ユエさぁ~ん」
なお、ハジメにシアの事を頼むユエ。シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。ハジメは、その様子を見て苦笑いしながら答えた。
「別に、それくらい頼まれなくても構わないさ。というか、ユエに頼まれたからってんじゃシアも微妙だろ? シアが頼むなら、それくらいは付き合うよ」
「ハジメさん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」
「……ホントお前って奴は……」
「まぁ、まだそれは無理そうなので、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」
「ああ、わかったよ」
「ん…あとハジメ。」
「なんだ?」
「後で私と百合エ◯チするべき。」
「」(白目)
暗に、特別はユエだけだと改めて伝えたつもりなのだが、おそらく分かっていながら全くめげないシアに複雑な表情をしつつも、「まぁ、シアの好きにしたらいいか」とデートの申し込みを了承するハジメ。ハジメ自身、既にシアが大切な存在であることに変わりはないので、ユエに頼まれたから仕方なくではなく、今回の頑張りに報いようと本心から了承した。ユエは百合の花が咲いた。ハジメは後で光輝を必ず殴ると誓った。
「なんでしょう、このアウェイ感。一家団欒中に紛れ込んだ他人の気分です」
「う~む。これは寂しいのじゃ……そろそろご主人様と絡みたいのじゃ…」
「今はまだ忙しいので!ハッハッ疲れはしませんが!」
「のじゃぁ…」
いちゃいちゃほのぼのする前席の後ろで居心地悪そうな表情をするウィル。それと、誰も呼んでいないのに、いつの間にか荷台に乗り込んで、荷台と車内をつなぐ窓から頭だけ車内に入れて、先程からちょくちょく会話に参加してくるティオ、車と併走する
戦いの前に、光輝に付いて行きたいと頼んだにもかかわらず、結局、放置されたどころか存在そのものを忘れられてしまい、慌てて走り出した魔力駆動四輪の荷台に飛び乗ったのだが、窓から車内を覗き込んでいた姿に、車内の全員がドン引きし、いないものとして扱うことにしたのである。因みに光輝は走ってて忙しそうなので絡みたかったが辞めた。
「そろそろ反応して欲しいのじゃぁ!」
「…光輝!」
「なんですか!?ハッハッハジメ!」
「コイツ要る!?」
「ドラゴン欲しいです!」
「ハァ〜…光輝がそう言うなら…光輝がちゃんと面倒見ろよ。」
「ハッ理解ハッハッしました!そうだハジメの性別は街に入る前には元に戻しますね!」
「お? おぉ~、そうかそうか! うむ、では、これから宜しく頼むぞ、ハジメ殿にご主人様、ユエ、シア。妾のことはティオで良いからの! ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ……」
「……むぅ」
「よ、宜しくお願いしますです……」
喜色を表にするティオを尻目にハジメは「しょうがない…」ともう一度ため息を吐き、ユエは不満そうに唸り、シアは戸惑ったように挨拶を返した。
新たな仲間、変態の竜人族ティオが加わり、一行は中立商業都市フューレンへと向かう。