騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物) 作:ゼロさん
赤銅色の世界。
【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっているのだ。
また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が〝生きている〟と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。
まぁ別にこのパーティーなら余裕なのだが。
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現在砂漠のど真ん中。
皆さん。お元気ですか?今、サンドワームとかいうミミズ畜生に喧嘩を売られました。車揺れて…酔いそう…
サンドワームによる地中からの奇襲を受け続けながら、チャンスとばかりにハジメにしがみつく香織のお尻を、ユエが、忌々しいとばかりにペシペシと平手打ちするが、香織は頬を染めたまま、ハジメの腹部に顔を押し付けて動こうとしない。
襲って来たサンドワームは3体。サンドワームが、地中より上体を出した状態で全ての奇襲をかわした四輪を睥睨し、今度はその巨体に物を言わせて頭上から襲いかかろうとした。
「そう言えば、何げに使うの初めてだなっと!」
そんな事を言いながら、ハジメは、四輪をドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行すると同時に四輪の特定部位に魔力を流し込み、内蔵された機能を稼働させる。
ガコンッ! カシャ! カシャ!
機械音が響き渡るのと同時に、四輪のボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出してきた。そのアームは、獲物を探すようにカクカクと動き、迫り来るサンドワームの方へ砲身を向けると、バシュ! という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した。
オレンジの輝く尾を引きながら、大口を開けるサンドワームの、まさにその口内に飛び込んだロケット弾は、一瞬の間の後、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。
「うへぇ……キッショ。コレ掃除絶対面倒じゃんか。後香織、ハジメへのセクハラは辞めない?」
光輝が頭の後ろで手を組みながらぼやく。こういう掃除は迷宮に居た頃から光輝の担当だ。ハジメ曰く、「ユエにそんな事させられる訳ねぇだろ。」だそうだ。人数が増えた今もなんだかんだ光輝がやっている。
そして白崎はセクハラ中だ。なにハジメの股に顔突っ込んでる。犯罪だぞ。
「あ、あの、ハジメくん。ごめんさない。その、つい衝動的に……決してエッチな目的があったわけじゃないの。ただ、ちょっと、抱きついてみたかったというか……」
「……そして、あわよくば、そのままハジメを堪能しようと?」
「うん、そうなんだ……って違うよ! ユエ、変なこと言わないで。私は、ユエみたいにエッチじゃないよ」
「……私をエッチと申したか……確かに、ハジメと二人っきりだと否定は出来ない」
「……お前ら、もう黙ってくれよ。それとユエ、恥ずいから夜の話は余りしないでくれ」
三体のサンドワームを四輪内蔵のロケット弾で粉砕したハジメは、光輝がうんざりした様な顔で「ハジメー!」と言いながら下の方を指さしたのを見てもう一戦かと視線を鋭くする。
だが、その横合いで、普段通りの掛け合いをする香織とユエに、微妙に気勢を削がれてしまった。思わず、うんざり気味に注意する。
もっとも、内心、確かに二人っきりというか〝夜〟のユエはエッチを通り越して、物凄くエロいなとか思ってしまい、それを見透かしたらしい香織が涙目になってしまった。ユエの方は妖艶な笑みを零しながら舌舐りをしてハジメを見つめており、それを見た香織は更に可愛らしい唸り声を上げている。どうやら無意識に更なる火種を撒いてしまったようだ。
後部座席からシアが、「気持ちは分かりますよ、香織さん。お仲間ですね」と同情を含んだ眼差しを向けながら香織の肩をポンポンと撫でていた。
ハジメは、それら全てをスルーして車のドアを開け、地面に降り立った。それと同時にハジメの前の方の地面からサンドワームがハジメ達を呑み込もうと現れる。
しかし、ハジメは銃すら構えない。ハジメは唯一言呟くだけだ。
突然、目の前のサンドワームが大穴を複数開けて吹っ飛んだ。
サンドワームの死骸は、衝撃と共に砂埃を盛大に巻き上げた。その噴火の如き砂柱には当然、砂色の肉片と真っ赤な血が多分に含まれている。
「俺だけの時間だぜ…なんてな。」
「ハジメの野郎羨ましい…なぁ光輝。セイクリッドちゃんも
「後でどんなのが良いか選ぼうね〜…」
「ハジメくん! あれ!」
「……白い人?」
幽波紋をしまうのと、香織が驚いたように声を上げ前方に指を差すのは同時だった。香織が指を差した先には、ユエが呟いたように白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた。おそらく、先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。しかし、なぜ食われなかったのかは、この距離からでは分からず謎だ。
「お願い、ハジメくん。あの場所に……私は〝治癒師〟だから」
懇願するような眼差しをハジメに向ける香織。ハジメとしても、なぜ、あの状態で砂漠の魔物に襲われないのか興味があったので香織の頼みを了承する。何か、魔物を遠ざける方法やアイテムでもあるのかもしれない。実際、樹海にはフェアドレン水晶という魔除けの効果を持つ石がある。魔物が寄り付きにくくなるという程度の効果しかないが、もしかしたらより強力なアイテムがある可能性は否定できない。
そんなわけで、四輪を走らせ倒れている人の近くまでやって来た。その人物は、ガラベーヤ(エジプト民族衣装)に酷似した衣装と、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。顔はわからない。うつ伏せに倒れている上に、フードが隠してしまっているからだ。
四輪から降りた香織が、小走りで倒れる人物に駆け寄り仰向けにした。
「!……これって……」
フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。だが、香織が驚いたのは、そこではなく、その青年の状態だった。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。明らかに尋常な様子ではない。ただの日射病や風邪というわけではなさそうだ。
ハジメは、まるでウイルス感染者のような青年の傍にいる事に危機感を覚えたが、治癒の専門家が診察しているので大人しく様子を見ることにした。香織は〝浸透看破〟を行使する。これは、魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能である。まぁ
香織は、片手を青年の胸に置き、もう片手に自分のステータスプレートを持って診察用の魔法を行使した。その結果……
「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」
「香織? 何がわかったんだ?」
「う、うん。これなんだけど……」
そう言って香織が見せたステータスプレートにはこう表示されていた
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状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可
症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血
原因:体内の水分に異常あり
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「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。天恵よ ここに回帰を求める 〝万天〟」
香織はそう結論を下し、回復魔法を唱えた。使ったのは〝万天〟。中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除だ。鈴達にかけられた石化を解いた術である。因みに
しかし……
「……ほとんど効果がない……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」
どうやら、〝万天〟では、進行を遅らせることは出来ても、完全に治すことは出来なかったようだ。体内から圧迫されているせいか、青年は、苦しそうに呻き声を上げている。粘膜から出血も止まらない。香織は、今の段階では、明確な治療法が思いつかなかったので、歯噛みしながら応急措置を採ることにした。
「光の恩寵を以て宣言する ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ 〝廻聖〟」
光系の上級回復魔法〝廻聖〟。これは、一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法だ。基本的には、自分の魔力を仲間に譲渡することで、対象の魔力枯渇を一時的に免れさせたり、強力な魔法を放つのに魔力が足りない場合に援護する事を目的とした魔法だ。
また、譲渡する魔法は術者の魔力に限らないので、領域内の者から強制的に魔力を抜き取り他者に譲渡する事も出来る。いわばドレイン系の魔法としても使えるのだ。但し、他者から抜き取る場合は、それなりに時間がかかり、一気に大量にとは行かず実戦向きとは言えない。この辺りが〝上級魔法〟たる所以だ。
もっとも、香織は、本来十小節は必要な詠唱を僅か三小節まで省略し、実戦でもある程度使えるレベルに仕上げていたりする。いかに香織の技量が凄まじいか分かるというものだ。しかし
香織が苦しむ青年にこの魔法を使ったのは、もちろん、体内で荒れ狂い体を圧迫する魔力を体外に排出するためだ。ステータスプレートには、〝体外への排出不可〟と表示されているが、上級魔法による強制ドレインならば〝あるいは〟と試すことにしたのだ。
純白の光が、青年を中心に広がり蛍火のような淡い光が湧き上がる。神秘的な光景だ。目を瞑り、青年の胸に手を起きながら意識を集中する香織の姿は、淡い光に包まれていることもあって、どこか神々しさすら感じる。
香織が、いとも簡単に上級魔法を行使したことに、魔法に精通するユエやティオなど年長組が思わず「ほう……」と感嘆の声を漏らすほどだった。ミュウは、シアに抱っこされながら、「きれい……」とうっとりした表情で香織を見つめている。
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ハジメがかまくら(砂)を作り影を作りそこにぶち込んだ。
そうこうしていると、青年が呻き声を上げ、そのまぶたがふるふると震えだした。お目覚めのようだ。ゆっくりと目を開けて周囲を見わたす青年は、心配そうに自分を間近で見つめる香織を見て「女神? そうか、ここはあの世か……」などとほざきだした。
そして、今度は違う理由で体を熱くし始めたので、いい加減、暑さと砂のウザさにうんざりしていたハジメと何となく暴力を振る気分だった光輝は、イラッと&カスみたいな表情を隠しもせずに、香織に手を伸ばそうとしている青年の腹を踏みつけた。
「おふっ!?」
「ハ、ハジメくん!?」
体をくの字に曲げて呻き声を上げる青年と驚いたように声を上げる香織を尻目に、ハジメは、青年に何があったのか事情を聞く。白崎は光輝を視界に入れていない。ヤバイ奴なので関わりたくないと思われているらしい。
青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、【グリューエン大砂漠】最大のオアシスである【アンカジ公国】の特徴的な服装だったとハジメは記憶している。〝無能〟と呼ばれていたとき、現実逃避気味に調べたのだ。青年が、アンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かうはずだった場所が危険地帯に変わってしまう。是非とも、その辺のことを聞いておきたかった。
ハジメの踏み付けで正気を取り戻した青年は、自分を取り囲むハジメ達と背後の見たこともない黒い物体に目を白黒させて混乱していたが、香織から大雑把な事情を聞くと、ハジメ達が命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと共に事情を話し始めた。
その話を聞きながら、ハジメは、どこに行ってもトラブルが付き纏うことに、よもや神のいたずらじゃあないだろうな? と若干疑わしそうに赤銅色の空を仰ぎ見るのだった。