騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物)   作:ゼロさん

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ありふれた展開で新シーズン開幕

「ヒャハハハ!!!皆殺しだ!鏖殺だ!殺戮だァ!!!」

 

 

 

戦慄、絶望、困惑――そんな表情を浮かべた賊達が、生々しい音を響かせながら冗談のように切り飛ばされていく。

 

 

 

ある者は、下半身を立たせたままに上半身を血飛沫を上げながら切飛ばされていき、またある者は、横っ飛びに回避を試みたもののに体の一部を切り飛ばされ、運良く攻撃に当たらなかった者も時速千二百キロで爆進する人間…人間?のソニックブームで骨や内臓を粉砕された。

 

 

 

たった一瞬で賊の集団は全員が絶命するに至った。

 

何故こんな事が起きたのだろうか。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

最初に、その騒動に気がついたのはシアだった。

 

 

 

「……何か襲われてません?」

 

 

 

例のごとく、ハジメが車内でユエとイチャつき、それに香織が割って入り、パワーアップして氷雪を纏うようになった般若と雷を纏う龍が威嚇し合い、結果、運転を光輝に押し付けたのでほとんど前を見ていなかったハジメは、シアの言葉でようやく前方に注意を向けた。

 

 

 

シアの言う通り、どうやら何処かの隊商が襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。近づくにつれ、シアのウサミミには人々の怒号と悲鳴が聞こえ、ハジメの〝遠見〟にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。

 

 

 

「相手は賊みたいだな。……小汚ない格好した男が約四十人……対して隊商の護衛は十五人ってところか。あの戦力差で拮抗しているのがすげぇな」

 

「……ん、あの結界は中々」

 

「ふむ、さながら城壁の役割じゃな。あれを崩さんと本丸の隊商に接近できん。結界越しに魔法を撃たれては、賊もたまらんじゃろう」

 

「でも、一向に引く気配がありませんよ?」

 

「そりゃあ、あんな隊商全体を覆うような結界、異世界組でもなけりゃあ、そう長くは持たないだろう。多少時間は掛かるが、待っていれば勝手に解ける」

 

「私も同意する…うっ!」

 

「光輝お前運転変わってくれるのはいいけどいい加減にしろよお前ホントに。」

 

「ふーん…それって私がSexy(いい発音)過ぎるって事かい?」

 

「コイツ無敵か?」

 

「ハジメ。頭やべーやつは無敵なんだぞ。」(男子高校生兼魔法少女)

 

「お前も充分頭おかしい側だからな?」

 

 

 

最初に奇襲でもされたのだろう。重傷を負って蹲る者が数人、既に賊に殺られたようで血の海に沈んでいる者も数人いる。ハジメ達のいう強固な結界により何とか持ち堪えているようだが、ただでさえ人数差があるのに、護衛側は更に数を減らしているのだ。結界が解ければ嬲り殺しにされるだろう。冒険者らしき女性などは、既に裸に剥かれて結界内にいる仲間の冒険者に見せつけるようにして晒し者にされていた。

 

 

 

そしてハジメの推測通り、ハジメ達の会話が途切れた直後、結界は効力を失い溶けるように虚空へと消えていった。待ってましたと言わんばかりに、雄叫びを上げた賊達が隊商へとなだれ込んだ。賊達の頭の中は既に戦利品で一杯なのか一様に下卑た笑みを浮かべている。護衛隊が必死に応戦するが、多勢に無勢だ。一人また一人と傷つき倒れていく。

 

 

 

と、その時、何か酷く驚いたような表情で固まっていた香織が、焦燥を滲ませた声音でこの中で一番強くて恐らくあの中にいる人物と最も仲が良い(と勘違いして(思って)いる)人物に救援を求めた。

 

 

 

「光輝くん、お願い! 彼等を助けて! もしかしたら、あそこに……」

 

 

「………(あの馬車に居るのは原作から考えて恐らく王女…しゃあなし、原作のフラグ的に助けるか。*1)………しょうがないにゃぁ…いいよ。」

 

 

「光輝くん……ありがとう。」

 

 

「(別に王女も香織どうでもいいけどイベント的に助けた方が良いから助けるだけだし気にしないで)いいよ。じゃ、行ってくるけど、ハジメ達は待ってな。」

 

 

 

光輝が以前造って貰ったドラゴン殺しを試し振りすると、獰猛な笑みを深め、40人程の盗賊の群に突っ込んで行った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

香織は、複数人用の光系回復魔法〝回天〟を連続使用して、一気に傷ついた冒険者達や隊商の人々を治癒していく。しかし残念ながら、ハジメ達が来る前に倒れていた護衛の冒険者達は、既に事切れていたらしく、いくら再生魔法であっても死者の蘇生までは出来ないので全て遠き理想郷(アヴァロン)で蘇生させて行く。全て遠き理想郷(アヴァロン)の能力は、『体内に鞘を所持している者を不老不死にする能力』だ。原作シリーズでは異なるが、まぁとにかくこの小説での能力はそれだ。

 

 

 

そんなこんなで流れ作業で蘇生(アヴァ)る光輝に、突如、人影が猛然と駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しい。だが、実は先程の結界を張って必死に隊商を守っていたのがその人物であると、魔力の流れと色で既に確認していたので、ハジメは特に止める事もなく素通りさせた。

 

 

 

「光輝様!」

 

 

 

フードの人物は、そのままの勢いで光輝に飛び付き、可憐な声で光輝の名を呼びながらギュッと抱きついた。

 

 

 

「リリィ王女…やっぱり、あの結界、見覚えが有った。まさか、こんなところにいるとは思わなかったので、半信半疑だったが……」

 

 

 

カスがリリィと呼んだフードの相手、それは、

 

 

 

――――ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ

 

 

 

その人だった。

 

 

 

リリアーナは、心底ホッとした様子で、ずれたフードの奥から煌く金髪碧眼とその美貌を覗かせた。そして、感じ入るように細めた目で光輝を見つめながら呟く。

 

 

 

「私も、こんなところでまた光輝様に会えるとは思いませんでした。…僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね。…まぁ貴方は私の運命の人なのですから当然と言えば当然なのですが…♡」(ハイライトオフ)

 

「リリィ?それはどういう……(めんどくさい雰囲気…好感度稼ぎ過ぎたかな?)」

 

 

「『僥倖』…?それってどういう…」

 

 

「香織、治療は終わったか?」

 

 

 

香織とリリアーナが真剣な表情で見つめ合っていると、いつの間にか傍までやって来ていたハジメが、そう声をかけた。全く気配がなかったので、「ひゃ!」と可愛らしい声を上げて驚くリリアーナ。そして、フードの中からハジメを見上げて、しばらく考える素振りを見せると、ピコン!と頭に電球が灯ったような表情をしてハジメに挨拶を始めた。

 

 

 

「……南雲さん……ですね? お久しぶりです。雫達から貴方の生存は聞いていました。貴方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。……貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

 

「もうっ、リリィ! 今は、そんな事いいでしょ!」

 

「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ? あとで詳しく聞かせて下さいね?」

 

「(雫は…話から推測するに立ち直ったのかな?恋心はスッパリ諦めてくれれば良いんだが…もうハーレム割とお腹いっぱいなんだよね…リリィはどうする…?ヤンデレは割とどストライクだが…迷い所だ。)」

 

 

 

どこかからかうような口調で香織と戯れるリリアーナは、照れて真っ赤になる香織を横目にフードの奥からハジメに笑いかけた。

 

 

 

国民から絶大な人気を誇る王女の笑顔。一度それを向けられたなら、老若男女の区別なく陶然とすること間違いないと思わせる可憐なものだ。しかし、それを見たハジメは、特に何かを感じた様子もなく、むしろ胡乱な眼差しをリリアーナに向けて空気を読まない言葉を放った。

 

 

 

「……っていうか、誰だお前?」

 

「へっ?」

 

「(原作で知ってたけど)ハジメさぁ…」

 

 

 

ハジメがまだ王国にいた頃からリリアーナと香織達は積極的にコミュニケーションをとっていたし、他の生徒に対してもリリアーナは必ず数回は自ら話に行っている。確かに、ハジメは立場的に微妙だったので、リリアーナと直接話した回数はそれほど多くはないが、それでも、香織も交えて談笑したことはあるのだ。

 

 

光輝?勇者という立場だしここぞとばかりに口説いたらしい。ホントそういうとこだぞお前。

 

 

そして、リリアーナは、王女である事と、その気さくで人当たりのいい性格もあって、一度交流を持った相手から忘れられるという経験は皆無。なので、全く知らない人間を見るような目で見られた事にショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまった。

 

 

 

呆然としているリリアーナに代わって、慌てたように香織がフォローを入れる。

 

 

「ハ、ハジメ君! 王女! 王女様だよ! ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ! 話したことあるでしょ!」

 

「……………………………………………………………………………………ああ」

 

「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

 

「リリィー! 泣かないで! ハジメくんはちょっと〝アレ〟なの! ハジメくんが〝特殊〟なだけで、リリィを忘れる人なんて〝普通〟はいないから! だから、ね? 泣かないで?」

 

「おい、何か俺、さりげなく罵倒されてないか?」

 

「〝さりげなく〟じゃなくて〝ガッツリ〟罵倒されてるよ。まぁ迷宮落ちてからの日々が濃かったのも有るとは思うけど…」

 

「なんか納得いかん。」

 

「殺す?」(アッサリ)

 

「ヤメロ止まれ引く事覚えろカス。」

 

 

 

そんな微妙な雰囲気のハジメ達のもとへ、ユエ達と、見覚えのある人物が寄ってくる。

 

 

 

「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

 

「確か、モットーで良かったよな?」

 

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある」

 

 

 

握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。

 

 

 

彼の商魂が暴走した事件は、ハジメもよく覚えている。この世界の商人の性というものを、ハジメはモットーで学んだようなものだ。実際、彼の商魂はいささかの衰えもないようで、握手しながらさりげなく、ハジメの指にはまった〝宝物庫〟の指輪を触っている。その全く笑っていない眼が、「そろそろ売りませんか?」と言っていると感じるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 

 

背後で、シアがモットーとの関係を説明し、「たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……」とリリアーナが更に落ち込んでいたりする。そんな彼女を香織が必死に慰めているのを尻目に、ハジメはモットーの話を聞いた。

 

 

 

それによると、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったようだ。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているらしい。モットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたようだ。

 

 

 

 ハジメ達は、ホルアドを経由してフューレンに行き、ミュウ送還の報告をイルワにしてから、【ハルツィナ樹海】に向かう予定だったので、その事をモットーに話すと、彼はホルアドまでの護衛を頼み込んできた。

 

 

 

しかし、それに待ったを掛けた者がいた。リリアーナだ。

 

 

 

「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」

 

「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」

 

「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

 

 

 

どうやらリリアーナは、モットーの隊商に便乗してホルアドまで行く予定だったらしい。しかし、途中でハジメ達に会えたことでその必要がなくなったようだ。その時点で、リリアーナの目的にキナ臭さを感じたハジメだったが、文句を言おうにも香織が「これ以上、リリィをいじめないで!」と無言の訴えをしているので、取り敢えず黙っていることにした。

 

 

 

「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

 

「えっ? いえ、そういうわけには……」

 

 

 

お金を受け取ることを固辞するモットーに、リリアーナは困惑する。隊商では、寝床や料理まで全面的に世話になっていたのだ。後払いでいくら請求されるのだろうと、少し不安に思っていたくらいなので、モットーの言葉は完全に予想外だった。

 

 

 

そんなリリアーナに対し、モットーは困ったような笑みを向けた。

 

 

 

「二度と、こういう事をなさるとは思いませんが……一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな」

 

「それは、まさか……」

 

「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、お一人で忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

 

 

 

モットーの口振りから、リリアーナは、彼が最初から自分の正体に気がついていたと悟る。そして、気が付いていながら、敢えて知らないふりをしてリリアーナの力になろうとしてくれていたのだ。

 

 

 

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

 

「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

 

「え? ……いいえ、わかりません」

 

「それはですな、〝信頼〟です」

 

「信頼?」

 

「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

 

 

 

リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。リリアーナは、諦めたように、その場でフードを取ると、真っ直ぐモットーに向き合った。

 

 

 

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

 

「勿体無いお言葉です」

 

 

 

リリアーナに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

 

 

 

その後、リリアーナとハジメ達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。去り際に、ハジメが異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、ハジメもアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。それだけで、ハジメが異端者認定を受けた理由やら何やらを色々推測したようで、その上で「今後も縁があれば是非ご贔屓に」と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、前に脅されたのがムカつくから殺しておくけど。そういえば殺すの忘れてたよ、さんきゅー王女。ふぉーえばー王女。」

 

 

しかし彼の運勢はこの世界にもう一人転生者が居れば確実に踏み台になっていたであろうクソカス転生者と遭遇した時点で尽きていたが。

 

 

 

モットー(と暗殺に向かったニンジャ)達が去ったあと、ハジメ達は魔力駆動四輪の中でリリアーナの話を聞くことになった。焦燥感と緊張感が入り混じったリリアーナの表情が、ハジメの感じている嫌な予感に拍車をかける。そして、遂に語りだしたリリアーナの第一声は……

 

 

 

「愛子さんが……攫われました」

 

 

 

ハジメの予感を上回る最低のものだった。

 

 

 

リリアーナの話を要約するとこうだ。

 

 

 

最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。

 

 

 

父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように〝エヒト様〟を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

 

 

 

それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが……

 

 

 

違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 

 

 

そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、リリアーナは一度もメルドを捕まえることが出来なかった。

 

 

 

そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。それが、ハジメの異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、〝豊穣の女神〟として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も、全てを無視して決定されてしまった。

 

 

 

有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメを神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

 

 

 

恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、ハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 

 

 

愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった。

 

 

 

リリアーナは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

 

 

 

銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、リリアーナを見つけることなく去っていった。リリアーナは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

 

 

 

ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。悩んだ末、リリアーナは、今、唯一王都にいない頼りになる友人を思い出した。そう、香織だ。そして、香織の傍には話に聞いていた、あの南雲ハジメがいる。もはや、頼るべきは二人しかいないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。

 

 

 

アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、ハジメ達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。

 

 

 

「あとは知っての通り、ユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらいました。まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、その途中で賊の襲撃に遭い、それを香織達に助けられるとは夢にも思いませんでしたが……少し前までなら〝神のご加護だ〟と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

 

 

 

自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。

 

 

 

香織は、リリアーナの心に巣食った恐怖を少しでも和らげようと彼女をギュッと抱きしめた。

 

 

 

その様子を見ながら、ハジメは内心で舌打ちする。リリアーナの語った状況は、まるで【メルジーネ海底遺跡】で散々見せられた〝末期状態〟によく似ていたからだ。神に魅入られた者の続出。非常に危うい状況だと言える。

 

 

 

それでも本来なら、知った事ではないと切り捨てるべきだろう。いや、むしろ神代魔法の取得を急ぎ、早急にこの世界から離脱する方法を探すべきだ。

 

 

 

しかし、愛子が攫われた理由に察しがついてしまったハジメは、その決断を下すことが出来ない。なぜなら、十中八九、愛子が神の真実とハジメの旅の目的を話そうとした事が原因であると言えるからだ。おそらく、駒としての光輝達に、不審の楔を打ち込まれる事を不都合だと判断したのだろう、というハジメの推測は的を射ている。

 

 

 

ならば、愛子が攫われたのは、彼女を利用したハジメの責任だ。攫ったという事は殺す気はないのだろうが、裏で人々をマリオネットのごとく操り享楽に耽る者達の手中にある時点で、何をされるかわかったものではない。

 

 

 

ハジメの生き方が、より良くなるようにと助言をくれて、そして実際、悪くないと思える〝今〟をくれた恩師のことを、ハジメはどうにも放っておくことが出来そうになかった。

 

 

 

だからこそ……

 

 

 

「取り敢えず、先生を助けに行かねぇとな」

 

 

 

ハジメは、それを選ぶ。切り捨てず、見捨てず、救う事を選ぶ。

 

 

 

ハジメの言葉に、リリアーナがパッと顔を上げる。その表情には、共に王都へ来てくれるという事への安堵と、意外だという気持ちがあらわれていた。それは、雫達から、ハジメは、この世界の事にも雫達クラスメイトの事にも無関心だと聞いていたからだ。説得は難儀しそうだと考えていたのに、あっさり手を貸してくれるとは予想外だった。

 

 

 

「宜しいのですか?」

 

 

 

リリアーナの確認に、ハジメは肩を竦めた。

 

 

 

「勘違いしないでくれ。王国のためじゃない。先生のためだ。あの人が攫われたのは俺が原因でもあるし、放って置くわけにはいかない」

 

「愛子さんの……」

 

 

 

リリアーナは、ハジメが純粋に王国のために力を貸してくれるわけではないと分かり、少し落胆するものの、ハジメが一緒に来てくれる事に変わりはないと気を取り直す。しかし、次ぐハジメの言葉には、思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 

 

「まぁ、先生を助ける過程で、その異変の原因が立ちはだかればぶっ飛ばすけどな……」

 

「……ふふ、では、私は、そうであることを期待しましょう。宜しくお願いしますね。南雲さん……」

 

 

 

愛子を攫ったのは教会の修道服を着た女だ。そして、異常な程教会に傾倒する国王達のことを聞けば、十中八九、今回の異変には教会が絡んでいると分かる。つまり、愛子を助けるということは、同時に異変と相対しなければならないという事でもあるのだ。その事は、ハジメも分かっているはずであり、それは取りも直さず、実質的にリリアーナに助力すると言っているに等しい。

 

 

 

香織と笑みを交わし合うリリアーナを横目に、ハジメは口元を僅かに歪める。

 

 

 

ハジメには、愛子救出以外にも、もう一つ目的があった。それは【神山】にある神代魔法だ。ミレディからの教えでは、【神山】も七大迷宮の一つなのである。しかし、聖教教会の総本山でもある【神山】の何処に大迷宮の入口があるのか、さっぱり見当もつかない。探索するにしても、教会関係者の存在が酷く邪魔で厄介だった。

 

 

 

なので、先に攻略しやすそうな【ハルツィナ樹海】へ向かうことにしたのだが……今回の事で、【神山】に向かう理由が出来てしまった。そして、愛子を救出する過程で、教会と争う事になる可能性は非常に高い。ならば……総本山をハジメの方から襲撃して、そのまま神代魔法を頂いてしまうべきだろう、とハジメは考えた。

 

 

 

リリアーナの言った銀髪の女……ハジメの脳裏に、【メルジーネ海底遺跡】の豪華客船でチラリと見えたアレイスト王の傍に控えていたフードの人物が浮かび上がった。船内に消える際、僅かに見えたその人物の髪は、確か〝銀〟だったと。同一人物かは分からない。時代が違いすぎる。しかし、ハジメには予感があった。その銀髪の女と殺り合う事になる、と。

 

 

 

ハジメは闘志を燃やす。己の道を阻むなら、例え相手が何であろうと、必ず殺してやる! と。瞳を野生の狼のようにギラつかせ、獰猛な笑みを口元に浮かべるハジメ………とは別に、混乱している男が此処に一人。

 

 

 

 

「??????」

 

 

 

兵士達に生気が無いのは恵里が操っていたからである筈だ。しかし恵里は光輝の隣に居るし、この世界ではヤンデレを拗らせていない。………ならば何故?原作と一切状況が変わっていない事に対して考えれば考える程混乱する光輝だった。

 

「光輝君どうしたの?僕達ハジメ君において行かれちゃうよ?」

 

 

「………大丈夫、気にしないでくれ…行こうか恵里。」

*1
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