運だけの奴、ミレニアムの受験に受かってしまう。   作:Ringseiran

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時期とか季節とかは、何となくふわっと


学習用BD?見たさ、でも、俺のだけ違う言語だったと思うんだよ

 

 

正真正銘ミレニアムサイエンススクール一年生、雲摩カセこと俺は、現在、人生で一番の危機に直面しているかもしれなかった。

 

かもしれないと断っておくのは、受験の時こそ人生で一番の危機だったかもしれないからだ。しかし逆に言うならば今回こそ、本当に人生で一番の危機かもしれない。

 

端的に言うなら、学習用BDの内容が全然理解できない。

 

それはもう、清々しい程分からない。

 

始まりから終わりまで、全てのBDを3周ほど視聴したのだが、未知の世界に脳内を支配されていた時間が大半を占めていた。

 

まさか、ミレニアムの学習用BDがこんなにもレベルが高いとは正直思っていなかった。いくらここの生徒の頭が意味分からないくらい良いとはいえ、この学園だって何処まで行っても高等学校だ。それに校風は生徒の得意分野を伸ばすものなのだから、基本科目の内容は常識の範囲内だろうと予想していた。せいぜい、「あーやっぱりレベル高いね、これは勉強頑張らないと」って感じで終わると思っていた。

 

だが、実際問題そんなことはなかった訳で。この学園も一応は後期中等教育機関である筈なのだが、そんな面影を感じさせない洗練された教育内容であった。まったく、ミレニアムには頭が上がらない。いやまあ、感謝はしていないのだけれど。

 

今頃ではあるのだが、入試を完全な運任せで合格してしまった弊害が本格的に出てきている。

 

もう今までのように、周りの頭が良過ぎて一人ナイーブになるだけでは済まされない。

 

このままでは当然のように落単を繰り返し、当たり前のように留年。そして留年に次ぐ留年を繰り返し、そのうち老けてしてしまうかもしれない。ミレニアムの長老とか呼ばれる未来が見える見える。

しかし、そんな未来は断固拒否だ。

それならば、出来るだけ早くから対策を練らなければならないだろう。どうにかして次の定期試験までに、赤点を取らない対策を練るのだ。

 

そんな意志を胸に抱えて、俺はミレニアムタワーのある一室の前に立っていた。

 

ドンドンドンと、扉をノックする。

 

そうしてノックを続けていれば、扉はスライドして開かれた。

 

「⋯⋯あのねカセ、いつも言ってるわよね。ミレニアムの扉は一見分厚いように見れるかもしれないけど、普通のノックで十分教室の中に音が届く作りになっているから、そんなに何度もノックしなくていいって」

「あ、そうだったな、ごめん」

 

扉の中から出てきたのは、一人の女子生徒。

ミレニアムの白いジャケットと黒いブレザーを着こなし、菫色の瞳と同じ色の髪をツーサイドアップに纏めらているのが特徴的な女子生徒。俺の数少ない友人、早瀬ユウカだ。

 

「それで、貴方セミナーに何の用?」

 

訝しむような目で、此方を見るユウカ。

 

そしてそう、俺がやってきた場所とは、ミレニアムサイエンススクールの生徒会とも言える、セミナーの部室であった。

 

ユウカは1年生でありながら早くもその計算能力を見込まれ、セミナーの会計を担っているのだ。

 

なんというか、俺とは雲泥の差である。

 

だが、俺が用のあるのはセミナーではなく、早瀬ユウカ個人だ。そしてその用とは無論、

 

「勉強を教えてください」

 

至ってシンプル、彼女に教えをこいにきたのである。

 

「無理ね、帰って」

「ええーー!!」

 

想像してたものと違った彼女の言葉に、思わず大声が出た。しかしユウカはそんなことお構い無しといった様子で、セミナーの部室に戻っていく。

 

だけど、それをただ見送る俺ではない。

 

「ま、待って!!」

 

自動スライド式の扉が閉まる寸前、半身を教室の中に挟む。尻尾が潰れて痛いが、今はそんな事に構っている場合ではない。どうにかユウカの袖を掴み、全身全霊で懇願する。

 

「お前にしかこんなこと頼めないんだ!頼む!!見捨てないでーー!!」

「ちょ、ちょっとやめて、服が伸びちゃうでしょ!」

「頼むから!!少しだけでもいいから!ほんの先っぽだけだからー!!」

「変な誤解を招くような言い方はやめて!!」

「うわあ!!」

 

ユウカに手を払おうとされた時、勢い余って転がりながら部室に入室する。その様子を見たのだろう彼女から、大きなため息が聞こえてくる。

 

だけど、俺には彼女を頼る理由があった。

こんな情けない姿を晒してまで、なんとしても早瀬ユウカという少女を頼みの綱とする理由が、存在するのだ。

 

それこそ、

 

「俺、ユウカしか友達いないんだよーー⋯⋯」

 

案の定、こんな情けない理由である。

 

「あ、貴方、よくそんなことを人前で言えるわね……」

「だって、もう手段は選んでられないし……」

 

部室の床に俯きながら、どうしようもない現状を説明する。

 

「ここ数ヶ月、どうにかBDの内容を理解しようと思って図書館に入り浸ったけど、出てくるのはもっと難しい専門書ばっかりだし、部活探しは勉強でやってる暇ないし……俺、受験期より勉強してるんだけど……」

「受験期に勉強してなかったでしょ……もししてれば、ギリギリでもついていけたんじゃない?」

「うっ……」

 

ジト目で言われたその言葉には、全く返す言葉がない。

いや、本当にその通りである。受験前にどうにか習得した秘策は使えなかったのだから、あの時に勉強していればもう少しましな状態で入学出来ていたのかもしれないのだ。

 

しかし過去は過去、もう過ぎ去ってしまった時間は戻ってこない。だから、今こうして最後の希望に縋り付いてる。

 

「頼むよユウカ!!」

 

俯いていた頭をさらに下げ、この学園唯一の友達に土下座する。

 

「なっ……」

 

この行動には流石の彼女もひるんだようで、少し後ずさる音が聞こえてきた。

だけどやっぱり返答は変わらず、

 

「無理よ」

 

そんな一言が返ってくる。

 

「な、ならせめて、試験の回答方式をセミナーの権限でマーク式から筆記に……」

「それこそできる訳ないでしょうが!」

「頼むよユウカーーー!!」

「ああもう諦めなさい!というか早く部室から出ていって!関係者以外立ち入り禁止よ!」

「あっ、ちょ、耳はっ、耳は引っ張らないでーー!!」

 

両耳をガシッと鷲掴みにされ、づるづると廊下まで引きずられる。

ポイっと捨てる様に部室から出された後で、ユウカは少しだけ申し訳なさそうに口を開いた。

 

「…………本音を言うなら教えてあげたいけど、セミナーの仕事で忙しいの……だから、今回だけは一人で頑張ってみて、それでもし本当に駄目だったら、その時はまたちゃんと相談に乗るから」

「えっ」

 

その言葉を最後に扉は静かにスッと閉まり、廊下に一人取り残された。

しかし、脳内を占めるのはそんな事実より、ユウカから言われた最後の言葉だ。そのせいで、心に残った感情と言えば、友人への頼み事を断られた悲しさなんかより、

 

「あんなこと言われたら、もう頼めるわけないよ……」

 

どうしようもなく、やるせない気持ちだけだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

IQが20違うと会話が成立しない。

そんな話を、どこかで聞いたことがある。

俺はこの学園に入学するまで、その言葉を信じてはいなかった。たとえどんなに頭脳が違えど、どこまで行っても同年代の子供、世間話の一つや二つ、このミレニアムでも出来ると思っていたのだ。

 

あの、入学式の日までは。

それは数ヶ月が経った現在も全く変わらないようで、広場にて売店で買ったパンを食べている今も、耳に入ってくる生徒同士の会話と言えば、よく分からない研究や開発の専門用語だ。

 

入学式でユウカが友達になってくれたのも、励ましの言葉をかけてくれたのも、涙が出る程うれしかった。だからこそ、勉強も友達作りも早くどうにかして、彼女に迷惑をかけないようにしたかったのだ。そう思ってここ数ヶ月一人で勉強してみたものの、最後には情けなく頼ってしまい。あまつさえ、あんな言葉をかけさせてしまった。

 

こうなってくると、つくづく自分にミレニアムは合わないのだろうと痛感する。

そしてまた、何度目かも分からない溜息をつくと、

 

「君、浮かない顔だね、一年生かい?」

 

頭上から声をかけられた。

入学してから始めての出来事に驚いて、素早く声の方に向く。

 

「驚かせてしまったか、ごめんね」

 

俺の様子を見てそう言った彼女の姿を見てると、やっぱり知らない人だった。

薄紫の長髪を風になびかせ、煤が付いているがよく整った顔で此方を覗き、何故か手にはボルトを持っている。その口ぶりからおそらく先輩なのだろう女子生徒は、笑顔でこちらの反応を伺っていた。

 

「え、えっと、誰?」

 

ついうろたえて少しだけ失礼な口調で訊いてしまったが、目の前の先輩は少しも嫌な顔をせず自己紹介を始めた。

 

「ああ、名乗るのが遅れたね。私はエンジニア部のマイスター、二年の白石ウタハだ」

 

そう優しい声色で語った白石先輩は、今度は此方が名乗るのを待つようにじっと瞳を見つめてくる。それに少しだけドキッとして、思わず目を逸らしてしまう。だけど先輩に名乗らせてしまった以上、こちらも名乗らなければいけないだろう。目を逸らしてしまったことに気まずさを感じながらも、もう一度彼女の目を見て口を開く。

 

「お、俺は、一年の雲摩カセです、え、えっと、帰宅部です」

「へー帰宅部か、珍しいね」

「うっ…………」

 

白石先輩の純粋な疑問が、物凄く心に突き刺さる。悪意がないのはその表情から分かるのだが、そう改めて言われるとやはり自分がこの学園に馴染めていないことを自覚させられる。

 

「あー……大丈夫かい?」

「うう…………大丈夫です。やんごとない事情で心が折れそうなだけですから……」

「それは大丈夫ではないのでは?」

 

ネガティブな心境でいるからか、心配そうな表情を浮かべる白石先輩を見ていれば、この人が優しい人物なのだろうことがよく伝わってくる。というか、優しい人でもなければ全く知らない一年生に話しかけようとは思わないだろう。そう考えると同時、自分が一目で分かるほど露骨に落ち込んでいただろうことに気付き余計に気落ちした。

 

「……それで、俺に何の用でしょうか?」

「ああいや、別にこれと言った用はないんだけれど、たまたま視界に入った君があまりにも元気なさそうだったから、どうしたのかなと」

「はは、優しいですね……」

 

予想通りの経緯に、失礼ながらも乾いた笑いが漏れる。しかしこんな俺でも、何の関係もない白石先輩の手を煩わせてしまうほど落ちぶれてはいない。

 

「俺は大丈夫ですから、気にしないでください。先輩の時間を取らせる訳にはいかないです」

「特に時間は押していないし………私でよければ話くらい聞くよ?」

「せ、先輩…………」

 

笑顔を浮かべながらイケメンな台詞を言う白石先輩を見て、後光が差しているような錯覚を受ける。

 

「じ、実は………………………………って、や、やっぱり大丈夫です!」

「えー、本当?」

 

空気感からついつい口を滑らせそうになるが、よく考えてみれば勉強が難しくて助けを求めた友達に迷惑をかけて落ち込んでいたなど、恥ずかしくて言える訳がない。というかそんな話をしてしまって、こんな優しい先輩にまで呆れられでもしたらますますセンチメンタルになってしまう。あるいはこの先輩なら、こんな情けない話も優しく受け止めてくれるかもしれないが、それ以上に呆れられたときのショックが計り知れない。ここはリスクヘッジでやっぱり口は閉ざしておく。

 

「ほ、本当ですから!これで失礼します!」

「えっ、ちょっと待って!」

 

ごみを急いで回収し、ベンチから立ち上がって背を向けた時、先輩に腕を掴まれた。その力は思ったよりも強く、振り払って逃げることは出来そうにない。

 

「話はしなくてもいいから、もしよかったら少し時間をもらえないかな?」

「へ…………」

「悪い様にはしない」

「で、でも……」

「ね?」

 

何がそんなに彼女を突き動かすのか、先輩は顔をずいっと近づけそんな提案をしてきた。

そのもの勢いに、今の元気のない状態で抗えるはずもない。

 

「わ、分かりました…………」

 

だからこうやって流されるのは、必然なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

そう、必然なのかもしれないのだが、それはそうと今自分の目の前にあるものは、一体全体何なのだろうか。

 

「何ですか……これ……?」

 

そう言って俺が指さした先にあったものは、何だかよく分からない物体であった。

いや、いくら科学技術の知識がないとはいえ、それが何かは流石に分かる。

 

「ロボッ、ト……?」

 

白石先輩に連れられて、やってきたのはエンジニア部の部室。というかここはガレージだろうか。色々な機材や何かの機械の残骸が散らばり、様々な配線が床を這っているそこには、一体の大きなロボットが立っていた。それがロボットだということが、何故俺にも理解できたかと言えば、その姿は誰もが見たことあるであろう、円盤型の掃除ロボットの形をしていたからだ。言うなれば、超巨大ル○バがそこにはあった。

 

「よく訊いてくれたねカセ。その通り!これは我がエンジニア部が開発した、最新型の超高性能お掃除ロボットさ!」

「すごく、見たことある気がするんですけど…………」

「何、キヴォトスには数え切れないほどのロボットが存在するからね、確率論的には似たようなシルエットの機械を見たことがあっても不思議ではないよ」

「そ、そうですか」

 

あまりに自信満々に言う先輩を見て、それ以上言及するのは気が引けた。だがそう思ったのも束の間、先輩はロボットの近くまで俺の手を引き、その機能を説明し始める。

 

「この子の凄いところは何と言っても、搭載した火炎放射器による広範囲に散らばったごみの一斉焼却能力だ!いつでも小型のごみ探索ドローンを展開して、見つけたごみを塵一つ残さず焼却するんだよ!更に最新型のBluetooth機能と高知能AIを搭載していて、動くごみも触手を伸ばして固定して、しっかり焼却できるのも忘れちゃいけない機能だね」

 

いや、こんな見た目して焼却機なのかい。どう見ても吸い込む様にしか見えなかったのだが。

 

「そして一番の見どころは……」

「ゴ、ゴクリ……」

「焼却機関をエネルギー臨界点に到達させたときの自爆機能さ!」

「こ、こわ……何でそんな機能を…………」

「ふっ、ロマンかな」

 

そう言った白石先輩の目は輝いており、何故か誇らしげに胸を張っている。とてもツッコめる雰囲気ではない。

 

「どう、かっこいいでしょ?」

「カ、カッコイイデス」

 

あまりに笑顔で訊いてくるものだから、怖いと言える訳もなく、どうにかここは話を合わせて乗り越えようと、片言でもお世辞を言っておく。噓も方便というものだ。

 

「そうか、これで元気も少しは出たかな」

「えっ…………」

 

お世辞を続けようと思ったところで、予想外の言葉に面食らった。

 

「な、なんで……」

「男の子はカッコイイロボットを見れば元気が出るんだろう?だったらまさにエンジニア部の発明品の出番だよ、喜んでもらえてよかった」

 

イケメンな台詞を言って、ニコッと笑う白石先輩。その表情を見てみれば、また後光が差しているようだった。そして何より、久しぶりにユウカ以外の人の優しさに触れて感動する。

 

「せっかくここまで紹介したんだ。丁度動作テストをしようと思っていたし、どうせなら見ていってほしい」

「は、はい!」

 

そう言った白石先輩の姿は、初めよりも更に綺麗に見えた。そして彼女は、取り出した操作パットらしきものを手に取る。その姿はなんだかかっこいい。そして彼女は指を掲げ、

 

「高性能お掃除ロボ……激燃え君、発進!」

 

パッドのスイッチを勢いよく押した。

 

『焼却システム……起動、焼却対象を……捜索します……』

 

ロボはゆっくりと音声を吐き、小型のドローンを展開する。そして幾つものドローンが、ガレージを探索し始める。暫くすれば対象となるものを見つけたようで、ある場所を中心にピタッと止まった。しかしそれは、何故だか此方を囲んでいる。

 

「あの……白石先輩、なんか赤外線センサーがこっちに向いてるのは気のせいですか?」

「…………いや、まさか、ね」

 

『焼却対象発見……人間…………この星の…………ゴミ、焼却開始…………!』

 

どうやら白石先輩の開発したロボットは、少しばかり、いや、かなり思想が強いらしい。




キヴォトスにもル○バはあるのだろうか
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