眠りから覚めてだとか、知らない道に迷い込んでなどではなく、ただ学校の帰り道を歩いていたら突然目の前の景色が砂漠へと変わったのだ
携帯を確認するも、表示されるのは圏外のマーク。ここが何処だか全くわからない
「どうするかなあ…とりあえず、何か見えるところまで歩いてみるか」
そう呟いて歩き続けること数時間。砂だらけの景色は一向に様変わりする気配はなく、じりじりとした日差しと熱気で佐祐の体力はどんどん削られていく
常にカバンに忍ばせているサイダーのペットボトルも中身をほとんど飲み切り、ようやく見つけた岩の日陰で一休みすることにした
「一体何処なんだよここ…少なくとも日本じゃないよな?」
鳥取砂丘がこんなに広いとは聞いたことがない。だとするとここは中東か、アフリカか
「…だとしたら、人に会えても会話は出来そうにないな」
英語以外の外国語なんてまったく話せないし、その英語にしても学校で習う日常会話レベルに少し足りないくらいだ
とすれば、人に会ったら身振り手振りでどうにか日本人であることを伝えて、大使館かそこまで連絡できる場所まで連れて行ってもらうしかなさそうだ
この広い砂漠で、運よく人に会えれば、だが
「このまま野垂れ死ぬは嫌だなあ…」
項垂れていると、遠くから微かに音が聞こえてきた
砂をかき分けるような、あるいは滑るような音だ
「!」
顔を上げ、音のした方角へ顔を向ける。もしかするとこれは、人の移動する音かもしれない
「すいませーん!助けてくださーい!!」
言葉が通じずとも、叫べば何かしかの反応があると思い残る体力の限り声を出す
しかし、音の方向からは一向に返事はない
それでも、音は確実にこちらへ近づいてきていた
「よかった、これで助かるは、ず...」
安心した瞬間、ふと気づく
音の方へ改めて目を向けると、大きく盛り上がった砂が少しずつ、こちらへと近づいていた
(何かはわからないけど、ヤバイ。絶対ヤバイ)
直感的に感じ取り逃げようとする佐祐だったが、砂に足を取られ思うように進まない
一方、砂の盛り上がりはどんどんとこちらに迫って来て、佐祐の数m手前で一層大きく盛り上がった
そうして現れたのは、佐祐の身長を優に超える芋虫に似た怪物。こちらに向ける口の中には幾重にも歯が並び、赤黒い汚れが付着している
「う、わああああああああ!!?」
食われる。本能的にそう察した佐祐は走り出そうとするが、焦れば焦る程に足が砂に沈み歩は遅くなる
怪物は佐祐に食らいつかんと、長い胴を伸ばし近づいてくる
「来るな、来るなぁ!」
何か投げる物はないかと手元を探るが、掴むのは砂ばかり。カバンは数m先に置き去りにしたままだ
怪物が口を一層大きく開け、襲い掛かって来る
とうとうここまでかと、佐祐は恐怖から目を瞑り───
「我が意を受け汝、敵を穿つ礫となれ《
聞こえてきた綺麗な声と共に、冷たい飛沫が顔にかかった
「えっ……?」
目を開けると、怪物が身体を濡らし苦しそうに跳ねている
そして少し後ろの方に──帽子を被った青髪の女性が立っていた
「やっぱり
女性は呟きながら、手に持った50㎝程の長さの棒を怪物に向ける
「とりあえずもう一発!我が意を受け汝、敵を穿つ礫となれ《
女性の声と共に、杖の先端から水の塊が生み出され怪物へ向け飛んでいく
勢いよく飛んできた水の塊に当たると、怪物は苦しそうな声をあげ倒れ伏した
「ふぅー、2発でギリギリ気絶っと…そこの君、大丈夫ー?」
女性は怪物が倒れるのを確認すると、佐祐の方へと近づく
「砂漠で一人でいるなんてどうしたの?いやまあ、わたしも一人なんだけど…とにかく、
「あ、えっと…」
佐祐は言葉が出なかった。砂漠、怪物、女性の使った不思議な力。色々なことで頭がパンクしそうだった
それでも、どうにかして言葉をひねり出す
「助けてくれたのはサンキューな。それで、ここが何処か知りたいんだけど…」
「ここ?リカルド砂丘のはずだよ。副学長が座標を間違えてなければ、だけど」
世界の地理には詳しくないが、聞いたことのない地名だった
それでも、人に会えたのは幸運だ。更には、日本語まで通じている
「俺、気づいたら日本から急にここにいたんだよ。それで、何処かもわからなくて...なあ、携帯の電波が繋がるところまで案内してくれないか?日本大使館に連絡したいんだよ」
「ニッポン?携帯?…あー、もしかして…」
女性は急に佐祐の服をじろじろと観察し始めた。時折、「教本の特徴と...」「それに言葉も…」と何か呟いている
「え、と?どうしたんだ?俺の服装、何か変わってるか?」
確かに、砂漠で学生服というのは変わった格好かもしれない
しかし、女性の見る目はそれとは違っていた
「えーと…そういえば名前聞いてなかったね。私はサーシャ。サーシャ・スプリングスよ」
「あー...鷹宮佐祐だ」
「タカミャ…」
外国人には、少し発音しにくいらしい
「佐祐、でいい」
「サスケ、ね。ありがとう。それで、最初に一つ伝えないといけないんだけど…」
サーシャは、佐祐の目を真っすぐに見た
「ここは、君のいた世界じゃありません」
「この世界の名前は【