レイカ視点。もう1つの可能性。
重度の曇らせ注意。夢オチ注意。
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「アイツが···最後か」
零くんが天井の化け物を見据える。
その目からは、いつも私に向けてくれる温かさが無くなっていて。
思わず背筋が凍った。
「待ってくれ···嫌な予感がする」
「このまま全員で逃げよう··その方がいい」
「私も···今のうちに逃げたほうがいいと思う」
「···分かった。みんなは逃げてくれ···俺一人で···こいつを殺す」
「黒川···お前死ぬ気···なのか?」
「······死ぬつもりは無いよ。コイツを倒したら···俺もそっち行くから待っててくれ」
嘘だ。ずっと一緒にいたから分かる。
今の彼は生きる事を半ば諦めてしまっている。
「私も、残るよ」
「来るな。······
「私を頼るって、言ったでしょ?」
「···コイツだけは俺が殺る。だからレイカは早く逃げてくれ」
「嫌だよ···私は──」
「早く行けッ!!」
初めて聞く、零くんの怒鳴り声に気圧された。
「···行こう」
武田さんに手を引っ張られる。
零くんが私から離れていく。
「···いや···いやッ! 零くんッ!!」
私が叫んでも、彼は振り向いてくれなかった。
◆◆
建物の外に出る手前で私は立ち止まった。
「待って···」
「アイツを信じてやれ。きっと勝って戻って来るさ」
「今からでもみんなで引き返して···零くんを助けに···」
「···外にも敵がいるかもしれない。あの星人は黒川に任せればいいだろ」
「···なら、私だけでも様子を見てきます」
武田さんの手を振りほどこうとするけど、強く握りしめられて離れられない。
「ダメだ、行かせられない」
「なんであなたに、そんな権限が──」
「アイツの気持ちを汲んでやれよ!!君を含めて!俺たちの命が助からないとアイツが一人で残った意味が無いんだよ!!」
···その手を、放して。
早く行かないと零くんが死んでしまう。
そう考えるだけで、涙がどうしようもないくらい溢れて、止まらない。
「それなら私も、零くんと一緒に死ぬから。だから···邪魔をしないで!!」
強引に振り切り、来た道を走って引き返す。
「零くん···!」
待ってて。今度は私が助けるから。
◆◆
なんとか間に合った。
念力で浮き上がり、ダメージを与えられて苦しんでいるけれど生きている。
私は身体のあちこちが抉れた化け物へ向けて、Zガンを連射した。
「(Zガンでも潰せない···なんて防御力!)」
それでも効果はあった。
念力が解除され、零くんも解放された。
「このまま···潰れて!」
この化け物だって生物だ。
超重力を何度も叩き込めば殺せるはず。
身体が少しずつ薄く潰れていき、もう少しで倒せる──僅かに油断した刹那、念力によってZガンを真ん中から折られ、私自身も吹き飛ばされた。
「レイカ!なんでッ···」
そんな泣きそうな顔しないで。
私だって戦える。君の力になるから。
「言っただろ···邪魔だから来るなって」
「私も···」
「必要ないから。帰れ」
「いや···!」
「もう一度───に会いたかった」
「え······」
呆然とする私に背を向け、零くんは駆け出してしまった。怪物の掌から出る念力を避け、足下でソードを振る。
足が斬り離されると同時に、今度はXガンを乱れ撃つ。間をおいて念力を使っていた腕が弾けた。
しかしその直後に怪物の“顔”が零くんを睨み──零くんの立っている場所が抉れた。
ゲル状の物質が溢れ、念力によって零くんのスーツが壊れてしまったんだと分かる。
急いで駆け寄るけど···零くんの意識が、もう無くなっている。
「そんな···」
だけど
「私が···アレを倒せれば···」
零くんは死なない。死なせない。
スイッチを入れて刃を現出させ、構えた。
「(念力の起点は掌と胴体に張り付いた“顔”。そこを潰せれば勝てる)」
この念力、どうやら動く敵に当てるのは難しいようだ。それなら足を緩めることなく刃を振るい続ければいい。
私だって訓練で鍛えてきたんだ。体力も付いてきたし、ソードの扱いにも慣れている。
化け物の足や胴に深い裂傷を刻み、目に見えて念力の強度も低下してきた。
「(───今だッ!!)」
刀身を伸ばし、化け物の“顔”に深々と突き刺した。軟い部分を確かに貫いた手応えがある。
化け物が倒れ込み、勝利の喜びと安堵が胸中を満たし、横に目を遣ると───
「······え?」
化け物の鋭利な尾に、鳩尾を貫かれた零くんが立っていた。
「よかった······」
「零くん···?」
私を見て安心したように膝から頽れ、貫通した場所からボトボトと血を流す。
「私を庇って、こんな」
「···死なせたくなかったから」
「守るって···言ったのに···!私は···!」
「これで···良いんだよ。···レイカが···生きてて、良かった」
前へ倒れ込む零くんを受け止めて···気付いてしまった。その“軽さ”に。
「嫌だ···」
彼からはもう···生命の気配を感じられない。
こうして抱きしめているのに、どんどん冷たくなっている。
「零くん···嫌だよ···あ···あぁ···───ああァぁあアァああ!!!!!」
私の愛した人は死んでしまった。
もう二度と生き返らない。
これから沢山、一緒にやりたいことがあったのに。
私の力が足りなかったせいで、零くんは死んだ。
私の無力さが、零くんを殺した。
「···私も···そっちに···」
零くんのいない人生なんて意味がない。
震える手でソードを自分の首筋に押し当てる。
「·········」
目を閉じて、そのまま刃を引き斬ろうとした瞬間···脳裏に浮かんだのは零くんの笑顔。
もう二度と見れなくなってしまった表情。
「······ごめんね。零くん」
やっぱりもう少しだけ、待っていてほしい。
「私が、全部殺す」
零くんを死に追いやった文明全てを、私がこの手で破壊し尽くす。
それこそが零くんへの弔いにして贖罪。
幽鬼のようにふらつく足取りで立ち上がり、冷え切った零くんの身体を背負って歩き出した。
◆◆
零くんの亡骸は建物の外に埋めた。
見知らぬ土地に、零くんを一人置き去りにするのは凄く辛いけど。
私はもう止まらないと決めたから。
決意を胸に、母船へと転送された私は──そこで新しい“地獄”を見た。
巨人たちの身ぐるみを剥がし、地球人が銃を突きつけている。
中にはレイプを試みようとしている外国人もいて、文明人に対する敬意などは微塵もなかった。
それに激怒した男の人たちを見ても、私の心は動かなかった。
奴らは私にとって害虫未満の存在であって、それを甚振って何が悪いのか。
むしろ温情を向ける彼らの方が薄気味悪い。
彼らを置き去りに1人で駆け出した。
目指す先は、周りの人たちが呟いていた戦場。
そこではアメリカチームと巨人族が最後の戦闘を繰り広げているらしい。
そこへ向かう道中で声を掛けられ、“真理の部屋”がどうとか言われたが無視した。
しばらく走り続けると、格子状の屋根と壁に囲まれている広々とした空間に出た。
そこではアメリカチームの1人が巨人の残存精鋭兵と一対一で闘っている。
双方、なぜ総力で挑みかからないのか。
苛立ちながらも突撃し、アメリカの男と戦っていた巨人の胴体を斬り捨てる。
そのまま流れに身を任せるようにステップを踏み、剣を振りあげる。
それを繰り返すだけで
1匹だけそれなりに動きが速いヤツもいたけど、あっけなく巨人たちは全滅した。
空しさを抱えながら、次は眼下に聳える
全てが真っ白な空間。
その中心には巨大な“何者か”が立っている。
人に似た造形だが、顔面から腹部までが抉れて空洞になっている。
神秘とグロテスクが混在しているような、不可思議な感覚を覚えた。
「下平玲花···“真実”を知りたいか」
“真実”が何を指しているのかは分からないけど、私は首を縦に動かし肯定した。
「お前たちが何故今まで何度も部屋に呼ばれ、憎くもない敵と闘わされてきたのか答えよう」
そうして語られた様々な“真実”は確かに驚くべきものだった。でも彼を喪った私の頭にはほとんど入らず、目の前の存在が心做しか不機嫌になっている気がする。
「それでは最後に教えよう···人間の生命とは本質的な価値を持たない。チリやゴミとなんら変わらない」
「······は?」
だけど。最後の一言を聞いた瞬間、麻痺しきっていた感情が再び発露し始めた。
『レイカが···生きてて、良かった』
私を救ってくれた零くんの生命すらも侮辱したのだ、目の前のコイツは。
「···殺す」
「では見せてやろう。人間はただのモノにすぎないことを」
虚空から突然、生物の再生──あるいは創造、復元が始まった。
最初は僅かな肉片だったのが心臓になり、僅か十数秒後には1人の人間が立っていた。
「···零くん」
「······ん···ここは······ッ!?」
たまらなくなって、抱きついてしまった。
理屈や理由なんかどうだっていい。
今ここに零くんが居て、生きている。
「零くん···ううゥぅぅうう···」
「レイカ···ああックソ···!なんで···!」
「証明しよう。人間が只のモノであることを」
零くんが震えながら、だけど強く抱きしめ返してくれる。
「レイカッ!愛してる!!」
「嬉しい···私も愛してる」
パンッ
小さな破裂音が響いた。
零くんが“分解”され、骨と肉片だけの無残な姿へと変貌していく。
「え? あ、あ···?」
「理解しただろう。人間は只のモノにすぎない」
ようやく気付いた。最初からこの下衆は、零くんを救う気なんか無かったんだ。
思えば零くんの様子もおかしかった。
直感的に気づいていたのだろう。
「──────────────!!!!!」
零くんと死に別れるのはこれで3度目だ。
胸が張り裂けるように苦しい。
怒りや悲しさ···虚しさが湧き上がり、私を突き動かす。
大きく跳躍し、目の前の存在へソードを振りかぶる。ほんの僅かに残った理性が“勝てるわけがない”と冷静な判断を下す。
当然だ、相手は巨人とは比較にもならない程の絶対的上位存在。
故にこれは文字通りの自殺行為。
苦しみを背負って生きていくのは無理だ。
零くんが私の存在意義だったのに。
早く私を、零くんのところへ···連れて行ってくれと希いながら···私は─────
◆◆
◇◇
◆◆
「────あああ!!!?」
「うわああ!?どうした!?」
········あれ?
「零くん? なんで···生きてるの」
「!? 待ってどういうこと?」
ここは···零くんの部屋···。
昨日はご飯を食べて、一緒にお風呂に入って···同じベッドで寝て···。
じゃあ、今までのは全部、夢···?
「なんかめっちゃ魘されてたけど···どんな夢見てたの?大丈夫?」
「零くん···ホントに生きてるよね···?」
「ええ?当たり前じゃん」
「零くん···ううゥうぁアアァァ···」
もう何も、考えられない。
「うぁァアアァあ゙ぁぁ゙────!!!!!」
「うおぉ!?マジでどんな夢見たんだよ!?」
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レイカが見た夢は、大阪編で岡が死に、黒川が生物兵器と戦った場合のIfルート。おまけに神星人も原作と同じかそれ以上に鬼畜。
なお、このルートはあくまで“もしも”の可能性であって、どの世界線にも実在していない。
曇らせは通す、夢オチも通す。
ただしバッドエンドは通さない(重要)。
レイカはこの夢を見てから暫くの間、夢かどうか疑心暗鬼になって黒川依存症を発症した。
最悪のイメージを平穏な生活で上書きしても、ふとした瞬間に不安で押しつぶされそうになって、結局完治するまで数ヶ月かかった。
《オマケ》
《Side黒川》
よほど怖い夢を見たんだろう。
レイカは何十分も泣き続けた。
「どう、落ち着いた?」
「···多少は」
涙や鼻水で綺麗な顔が台無しである。
ティッシュを箱ごと手渡すと、ブブブブー!!と爆音で鼻をかみ始めた。
テレビじゃ流せないなコレ···放送事故だよ。
「もうさ、今日は仕事休んじゃおうよ」
「ふぇ···?」
今のコンディションで仕事できるわけがない。
ひょっとしたらレイカならやり遂げてしまうかもしれないけど···ここ最近は凄く忙しかったし、ここに来て疲れが出たんだろう。
一度きっちり休まねば。
「2人でどこか···ディ◯ニーランドはまだ復興中だけど、茨城にある遊園地は営業再開したらしいし、そこ行ってみない?」
「ゆうえんち。行゛ぐ」
「おっとと···甘えん坊になっちゃって」
今も俺の胸にグリグリと顔を押し当てながら抱きついている。
悪い気はしないけど、ここまでくると圧倒的に“心配”の方が勝つ。
「···どんな夢見たの?」
「零くんが···死んじゃう夢」
「ああ···大阪の時の?」
「違くて。カタストロフィの···岡さんが倒してくれたヤツに···零くんが···」
やべえまたレイカが震えだした。
「大丈夫···俺はここにいるから」
「···ありがとう···そうだよね、零くんはあんなことしないもんね···」
「ええ···夢の中の俺は何したんだよ···」
「私の身代わりになったの」
おっと···嫌な予感。
「しかも零くん酷いんだよ。私も戦うって言ったのに邪魔だって言うし。それなのに負けたし。最期は私の目の前で······ううううぅぅぅ」
「よしよし···もう大丈夫だよ」
やべえ。岡がいなかったら絶対やってた事だ。
邪魔だと言ったのは、レイカを突き放して戦わせないようにするため。
負けたのは···考えていた攻略法が違っていたのか、それとも別のところでヘマしたか。
そしてレイカが駆けつけて倒したのはいいけど、俺が身代わりで死んじゃったと。
うへぇ〜十分に有り得た未来すぎて怖い。
「······とりあえず朝ごはん食べよ、な?お腹空いてると嫌な事考えちゃうから」
「···うん」
今日の朝は簡単にトーストとカップスープで済ませた。キッチンでもレイカが引っ付いてきて、難しい調理が出来なかったからだ。
「いただきます」
「···本当にここで食べるの?」
食べる時も側にいないとダメらしく、俺の膝の上に乗って食べると言い出した。
「イヤ?」と涙目で訴えるのは反則だろ。
身支度をささっと整えて、JRとローカル鉄道を乗り継いで到着したのはとある海浜公園。
“公園”を名乗っているが、アトラクションはかなり豊富だ。
「零くん、これ乗りたい」
「げえっ、ジェットコースター!?···いいよ、一緒に乗ろうか!」
「あっははははははー!!」
「ヒィィヤアァァァアァァァ!!」
「うっぷ···やべぇ···」
「ごめん、零くん···」
「いやいや、全然平気───オロロロ」
「零くーん!?」
持っててよかった、エチケット袋。
いやあ、前世で苦手だった絶叫マシンに挑戦したはいいけど···どうやら今世でもダメらしい。
「ふぅ···じゃあ次、どこ行く?」
「え、本当に大丈夫?もう少し休まない?」
「これは本当に大丈夫。吐くのは慣れてるから」
部活で散々“オロロロ”してきてるからな。
上手な吐き方や息の整え方は熟知している。
だから大丈夫だよ···と素直に話したら余計に心配された。
ホントに平気なのに···。
「風が気持ちいい···」
「たまには自転車もいいモンだなー」
今度はサイクリング。
コースがキチンと整備されているし、四阿も点在しているからこまめに休憩できる。
広場には食べ物の屋台があったりしてかなり楽しめた。ちなみに今回は肉巻きおにぎりを選択した。
「はい、あーん」
「あーん···うまっ。じゃあこっちもあーん」
「あーん···おいし」
恋人らしく“あーん”をし合う。
まあ違いはチーズの有無だけなんだけど。
それからはいくつか、メリーゴーランドなどの平和なアトラクションを回って、お土産屋さんに立ち寄った。
「このTシャツどうかな?」
「うーん······」
レイカの個性的な()センスを垣間見た。
さすがに虹色は···いつ着るんだよ···。
いやレイカは何を着ても似合うだろうし···まあ良いか。買っちゃえ。
明日からはまたお互いに忙しくなるので、日が暮れる前には園内から引き上げた。
「楽しかった?」
「うん。すごく」
概ね回復出来たらしい。良かった。
いやホントに···朝のギャン泣きは死ぬほど焦った。泣き止んだ後も、トイレにまで付いてくる勢いだったし···さすがに阻止したけど。
「ん···」
「寝てていいよ、着いたら起こすから」
電車の心地よい揺れで、眠たくなったんだろう。
「夢···じゃないよね」
「え?」
「また起きても···零くんはいるんだよね」
「当たり前じゃん。俺はレイカのモンだから」
「零くんは···私のモノ。···ぇへへ···」
あ、寝た。
うーむ、美少女は寝てても絵になるんだな。
「零くん···」
「ん?···寝言か」
今度はどんな夢を見ているんだろう。
幸せな夢であってほしいな。
「ちょ···そこはダメ···あっ···」
「······」
···悪夢ではなさそうだし、ヨシ。
どれが好き?
-
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田中星人編
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