「···ぅん?」
知らない天井だ。
「目が覚めたか」
「風···ここまで運んでくれたの?」
「ああ」
どうやらボクは気絶して、風の学校にある保険室のベッドに運ばれたらしい。
いいのかな、ボクは他校の生徒なんだけど。
風が睨みを一発かませば融通は効くのかな。
「すまんやった。子供相手にやり過ぎた」
「は!?ボクは15だ!」
「俺の一個下?そうは見えんが」
年齢を聞いて驚く風の顔は傑作だった。
子供っぽいと言われたようで腹は立つけど。
···それにしても、ボクと同学年じゃなくて年上なのか。
まあ見た目だけを言えば大人にも見えるけど。
「ありがとう···ございます、先輩」
「気絶させたんは俺や。礼を言う必要はない。···あと、先輩と呼ばんでもいい」
「や、負けたのはボクだから···じゃなくて、ボクっすから。そのへんの筋は通しますよ」
「···そうか」
そう、ボクは負けたんだ。
だけど何故かあまり悔しくはなかった。
···少しの沈黙の後、風──じゃなくて、先輩が口を開いた。
「堀野飛鳥···お前は強かった。本気で戦ってここまで手こずったのは初めてや」
「···嘘ばっかり。全然攻撃してこなかったじゃないっすか」
「女を好き好んで殴る趣味は無い」
「ボクが、女···」
「ん?お前男なんか?」
「いや違いますよ!ただ···ボクを女扱いするのは父さんと母さんだけだったから」
「···そうか」
◆◆
この一件から、ボクは先輩に修行をつけてもらえるようになった。
というよりボクが一方的に押しかけた。
平日は先輩の授業があるから放課後に。
休日はほとんど一日中、先輩と一緒にいた。
たまにはデートにも行きたかったけど仕方ない、先輩は頭格ゲーだから。
そんな所にボクは惚れ込んだんだし。
···先輩との出会いから数ヶ月。
「東京へ殴り込みに行くが、お前も来るか?」という誘いがきた。
ボクは勿論二つ返事で了承。
初めて先輩の方から誘ってくれたから、これはかなり嬉しい。
高校?そんなのボク知らない。
「先輩、駅弁買います?」
「···そうだな」
「っ!ゴチになります!」
「おお、好きなもん買っていいぞ」
「冗談っすよ先輩。割り勘ですよ」
「···すまんな」
「いえいえ。先輩金無いっすもんね」
「·········」
「すいません」
ちなみに先輩は、東京行きの新幹線内でも相変わらずの格好だった。
結構センシティブじゃない?
◆◆
「着きましたね」
「ああ···東京やが···」
新幹線から降りるとそこは別世界。
高層ビルが立ち並び、平日の昼間だというのに歩行者がやたら多かった。
先輩はとりあえず大きめの公園へ行き、獲物を探しているらしい。
···さっそく噴水の側にいた、いかにもガラの悪い男4人組に話しかけた。
「この街で一番強い奴知っとるか?知っとったらここに連れて来てくれんか?」
「なんだテメェ」
「ガキ連れてカッコつけてんのか?」
「コイツは俺の···」
「舎弟っす!」
「このチビが舎弟?超ウケるわ」
「どこの田舎モンだ?」
「っつーかこの子結構美少女じゃね?」
「んだお前、ロリコンか───グハァ!?」
おっと失礼。つい手が出てしまった。
「ボクは15歳だし、喋ってる暇があったら、とっとと仲間を連れてきてよ」
「んだ、このガキ···ぶべら!?」
「そうやな、お前らじゃ相手にならん。とっとと連れて来い」
「ッ、お前ら覚えてろよ!」
◆◆
「人数多いっすね」
「これだけおれば1人ぐらいマシな奴おるやろ。···飛鳥はここで待っとけ」
「了解っす」
ざっくり素手が4割、金属バット持ちが4割。
残りはナイフとか、何かしらの武器を隠し持っている感じかな。
···うーん、先輩相手には荷が重い。
「うおおー、はっはっはー」
「デケー、何だこいつ」
「ボコボコにしていーの?」
ゴロツキ数十人に囲まれながら先輩は不敵に笑い、下駄を脱ぎ捨てた。
「ちっとはマシな奴おるかいな」
「言うねーコイツ」
「殺していい?」
「さァ···来なィ」
先輩の蹂躙劇が始まった。
技をほとんど使わず、フィジカルのゴリ押しだけであっさりと勝利。
···これ、福岡連中の方が強かったな?
◆◆
東京に来て3日が経ったが、猛者には中々出会えずにいる。
不良高校をハシゴして、ある高校の番長の伝手でボクシングの世界チャンプと戦えたけど···やはりと言うべきか、結果は先輩の勝利。
ジャブはかなり速かったけどパワーが足りなかった模様。
スーパーライト級はダメだね。
···ちなみに東京に来てからの宿は、今のところはカプセルホテルだ。
所持金が尽きたら野宿にする予定。
「2人一部屋ならお金節約できますよ?」
「あんな狭い場所で2人も寝れるわけがなかろ。どうしたって密着するやろう」
「ボクは平気っすよ?」
「阿呆か」
「ちぇっ···とりあえず次の高校行きますか」
今日も今日とて先輩が学校を蹂躙するだけの1日になりそうかな。
不良高校ほどではないけど、そこそこ治安が悪そうな高校にも手を伸ばした。
でも結果はお察し。
「あー弱か···まだ博多の方がマシな奴おった」
「ホントっすね。ざーこざーこ、よわよわ〜」
「てめぇこのクソメスガキ!」
「ボクに負けたザコが何言ってんの?」
この学校もダメだったか···そう思い、悪態をついてオサラバしようと考えた瞬間。
ザコ番長が興味深い内容を語ってくれた。
「ちょっと待て···実は影の総番長がいるんだ、この学校には···」
「え、玄野?」
「玄野ってあの···玄野すか?」
「そうだ、玄野呼んで来い!」
「玄野!!」