『もしもし、レイカ。和泉が襲撃に遭った。今度はもっと大勢引き連れて来ると思うから、そこを仕留めたい。来てくれる?』
「うん、分かった。すぐ行く。···じゃあね」
想定通りとはいえ事態はそれなりに急を要するため、零くんからの電話を素早く切り上げた。
···吸血鬼の行動パターンを調べた結果、前世の展開とほぼ同じである事が分かった。
マシンガンで武装した約100人の黒服が、和泉くんのマンションに襲撃を仕掛ける···これは囮で、本命は別にあった。
囮が機能している間に玄野くんの弟を人質にして、幹部連中が私たちを無力化する手筈だ。
見た目だけでなくやり口まで人間に似ている。
ちなみに、これらの情報は吸血鬼の“巣”に定期的に忍び込んで入手した。
アジト内で“ステルス看破のサングラス”を付ける吸血鬼は殆どいなかったし、たまに見破られても全て返り討ちにした。
だから今日まで私の存在を知る者はいなかった。
「お前···本当に人間か?」
「まだ息があるんだ、無駄にしぶとい」
電話を受け取る数十分前、吸血鬼の本拠地の1つであるナイトクラブ。
仕掛けていた複数の盗聴器から、襲撃を察知した私は幹部連中へ奇襲した。
屋内でかなりの手練を複数人相手取るのは骨が折れたけど、この程度なら勝てる。
スーツの蓄積ダメージ量もまあ及第点か。
頬に付いた返り血を拭いながら、上体と下体が泣き別れた金髪の吸血鬼を見下ろす。
私と同じく刀の使い手であり、人外の膂力も相まって大上段からの振り下ろしには目を見張るモノがあったけど···こうなってしまえば間もなく死ぬだろう。
「他の奴らは···どうした」
「和泉くんに襲撃を仕掛けた奴らなら、今頃東郷さんに殺されてると思うけど」
「はっ···そうかよ」
吸血鬼という種族は──少なくとも東京にいる同胞は絶滅したと悟ったのだろう。
男は笑った。そしてそれは余裕を示す笑いではなく、恐らく“諦め”から来るもの。
「言い残す事はある?」
「···俺以外の誰にも負けるな。アイツにそう伝えてくれ」
吸血鬼の首魁はそれだけ言って動かなくなった。
···“アイツ”って多分和泉くんの事だよね?
過去に何かしらの因縁があったのかな。
吸血鬼の殲滅はミッション外の戦闘であって、ガンツにとっては関係ない。
そちら側の疲労など知らん、星人を殺せ···という“運営”の意思の下、翌日には再び“黒い玉の部屋”へ招集された。
黒球の表面に文字列が浮かぶ。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい。』
『くろのあきら。
特徴 おとうと。つよい。』
玄野アキラ···玄野くんの弟で、メカニズムの詳細は不明だけど吸血鬼となり、そしてそのまま吸血鬼陣営に取り込まれてしまった可哀想な男の子。
背丈が兄より高くて大人びていてもまだ中学生と聞くし、少しは助けてやりたい気持ちもある。
とはいえ、あくまでも最優先は零くんの命。
制限時間内に星人を倒せなかったらどうなるか分からない以上、彼を殺さずにミッションを切り抜けるのはリスキーだ。
もし“15点ペナルティ”がガセだった場合、制限時間を超過した後は全くの未知。
和泉くんが危惧しているように、私たちがガンツに“処分”される可能性もある。
「この中で1番100点に近い人は誰ですか?」
アキラくんを真っ先に殺そうとした和泉くんの刀を取り上げて、私の考えるこのミッションの“攻略法”を全員に共有する。
まずアキラくんは殺す。
ただし、誰が殺すのかが問題だ。
100点メニューでアキラくんを再生できるのは、私の前世の経験があるから確定。
今回のミッションで100点に届いた人がアキラくんを再生すればいい。
もっと言えば、ミッションが終わって転送される時に誰かが触れていれば、アキラくんも一緒に部屋へ転送される可能性だって多少はある。
前世云々を伏せつつ力説したところ、なんとか全員の賛成が得られた。
玄野くんも渋々ながら受け入れてくれたので、100点到達に一番近い和泉くんがアキラくんの首を斬り落とした。
やはり素晴らしい剣の冴えで、彼は痛みを殆ど認識せずに死ねただろう。
···前世と大して変わらない展開になったね。
予想通り、玄野くんに抱えられた首の無い亡骸が徐々に何処かへ転送されていく。
しかしガンツ部屋にアキラくんの姿は無かったので、おそらく“魂”や肉体のデータはガンツに格納されていると思われる。
全員が転送されてから採点が始まり、無事に和泉くんが合計100点を獲得したので、これまた私の知る過去と同じく部屋の外で彼は“再生”された。
ガンツに注文を付けて、吸血鬼化のトリガーとされているナノマシンを除去させることも当然忘れない。
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・レイカ
やる時は殺る。