敵が認識できない場所から狙撃出来れば安全だろう···その考えは安直だったのかもしれない。
相手はただの星人じゃない、人の言葉を理解する程度には知能がある。
「零くん···何処にいるの!?」
川から離れたとあるビルの屋上、そこに彼の姿は無く。
代わりに壊れたフェンスと、一部が砕けたコンクリートの床、そしてZガンがあった。
···零くんがここにいた事は明白。
だけどZガンを置き去りにするほどの緊急事態が発生した。
Zガンは片手で持てるとはいえ、体積が大きいから持ち運びには向いていない。
それこそ走って逃げる時は邪魔でしか無い···
「足跡はこっちに続いてる···!」
ガンツスーツの力をフル活用して走ると、丁度こんな具合で床が破損する。
それを追って向かいのビルへ飛び移る。
···予想通り、このビルにも足跡が。
これを十数度繰り返してようやく辿り着いたその場所に···物言わぬ
何処を見ても無事な箇所は無い。
瞳の光は消え失せ、呼吸や拍動も感じられない。
私はまた、選択を間違えた。
◆◆
黒川の亡骸を放置し、ぬらりひょんが次に目を付けたのは岡八郎だった。
「(何やコイツ、妙に
ハードスーツを駆使して真っ向から殴り合う過程で、岡八郎は違和感に気付いていた。
銀行員として多忙な彼は、定期的に通信教育の空手を嗜んでいる。
日頃から人型の生物と殴り合う訓練をしている男に言わせれば、この星人の動きは何かしらの武術を齧った
それもそのハズ、ぬらりひょんは先ほどの戦闘で黒川の戦い方を模倣している。
無限にも思える程の再生能力を持つのに、人体急所を庇う動きをしている理由がこれだ。
「(どっちみち、俺1人で殺すんは無理やな。適当なタイミングで逃げて、不意討ちをキメんとコイツは死なへん···“アレ”使うか)」
基本的に一度きりしか使えないが、ハードスーツから無理矢理抜け出すと大量の蒸気が溢れる。
周りの視界は白に包まれ、一時的に岡の姿を視認できなくなる。
抜け殻となったハードスーツが両断され、玄野たちは息を呑む。
···そして煙が晴れた時、岡が立っていたのはぬらりひょんの
死神の腹に刀が突き刺さる。
「おおおおおおおォォォオオッ!!」
渾身の力を込めて刀を振り上げ、ぬらりひょんを腹から頭にかけて引き裂いた。
···これでぬらりひょんは暫く動けない。
離脱する為の時間稼ぎには十分だろう。
「そうか···やっぱり意識の外からの攻撃か」
そう呟いて立ち去ろうとする岡に、玄野が強い声で警告する。
「まだだ! アイツはまだ死んでない! 早くトドメを刺さないと──」
「そんなん知っとるわ···ならお前らが
「な···ッ!?」
「待てよ!おいッ!」
殺すならZガンで畳み掛ければいいが、ここは橋の上。下には川が流れている。
水がZガンの衝撃を緩和してしまえば、肉片の1つや2つは残る可能性が高い。
そうなれば
「(こんなの···どうすればええねん)」
“強さ”という一点において、大阪チームは岡八郎に絶対的な信頼を寄せている。
最早ある種のカリスマ、信仰に近い。
それ故に···山咲杏は動揺していた。
「(岡が勝ちきれない相手なんて見たこと無い···こんな化け物、誰が勝てるんや!?)」
しかし放って置くわけにもいかない。
今回のミッションでは制限時間が撤廃されており、星人を全滅させるまで部屋に転送されないからだ。
「クソッ···」
悪態をつきながらも、加藤が刀を構える。
認識されている状態では無駄だと分かっているが、ほんの少しでも他のメンバーが打開策を考える時間を稼ぎたい。
···そう考え、振り下ろす直前。
“ギョーン”というXガンの射撃音が何処からともなく響き、数秒のラグを経てぬらりひょんの胴体が弾けた。
そして────虚空に光が明滅し、ステルスで潜んでいた東京チームの最高戦力が姿を表す。
味方も怯ませる程の殺気を帯びて。
大阪の面々にとって、レイカと言えば“テレビによく出る有名アイドル”程度の認識しか無い。
「なんであんな動きが出来るんや···!?」という山咲杏の言葉がそれを端的に表している。
テレビで可愛らしく笑っている姿からは全く想像できない、凄まじい気迫で剣を振るう。
最初見かけた時は、男たちに守られ辛うじて生き残っているのでは?とも思ったが···とんでもない、むしろ逆だ。
レイカの役割は囮である。
闘いながら誘導し、橋の上からコンクリートで整備された道路に戦場を変える。
もう一つ、狙撃するメンバーたちが定位置に付くまでの時間を稼ぐ。
他のメンバーの行方を追わせないために、死の間合いでヘイトを買い続ける。
巨拳が肩を掠め、両目の光線が靡いた髪の先端を消し飛ばす程ギリギリの戦い。
僅かなズレが容易く命を奪い去る、極限状況下に晒され続ける恐怖。
黒川を“二度”殺された怒り。
レイカの心情は様々な要素が混じり合い、本人すらも把握できないほどドス黒い憎悪に溢れ───そしてそれこそが、肉体の限界を打ち破る“起爆剤”となった。
「ほッ···やはり戦いとは、こうでなくては」
レイカの著しい成長がぬらりひょんの適応を遅らせている。
しかしこのままではやはりジリ貧だ。
体力が尽きればレイカは死ぬが、ぬらりひょんにはそもそも体力の上限など存在しない。
ただし形態変化は打ち止めのようで、いくらダメージを受けても髑髏頭のままだ。
更なる強化は無いことだけが救いか。
「···任務を遂行する!」
レイカの進化にぬらりひょんが追いつき始めたタイミングで、再びの転機。
現役の自衛官にして狙撃のプロ──東郷のロックオン射撃が命中した。
両者入り乱れる超速戦闘の最中、ターゲットに照準を合わせるのは極めて困難だが、この男は見事にやり遂げた。
それをきっかけにレイカは武器をXガンに変更。
レイカ自身も離れた場所から攻撃する事で、他のメンバーが狙撃しやすくなった。
着実にぬらりひょんの不死性を奪い去っていく。
堪らず両目のレーザーを闇雲に放つが、ガンツチームの場所を把握しているわけじゃない。
黒川は序盤からずっと同じ位置に留まっていたからバレただけである。
「賢しい奴らだ···だが、お前だけは逃さん」
ぬらりひょんを死に至らしめるのはZガンだけだが、Zガンの射程はそう広くない。
近くにいるレイカにさえ注意すればいい。
────そんな訳が無いだろう
ぬらりひょんの敗因は人間を侮りすぎたこと。
この星に来てから、長らく敗北を経験していなかった故の油断と慢心。
狙撃だけでは1手足りない事など百も承知。
トドメを刺すのはレイカではない。
“カンッ”
どこからか玩具のような軽い音が小さく響き、超重力がぬらりひょんを押し潰す。
“カンッ カンッ”
ぬらりひょんが臓物の浮かぶ血の池に変貌した後も、重圧は降り止まない。
何が起こったのかも認識できぬままに殺される。
たった一体の星人が破壊し尽くされる。
同情する者は1人もいない。
···玄野計がステルスを解除した時、ぬらりひょんの細胞は死に絶え、復活の可能性は完全に消滅していた。
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黒川死亡により、決して折れない強固なヤンデレフラグが立ちました。