「あーあ、また失敗だ。何をやっても上手くいかないや」
人気のない夜中の路地裏。僕はいつものようにできた失敗作を傍目にすら見ずに闇に消えていく。
ってことで、雄英ヒーロー科に落ちて僕自身の
まぁ、まだ正式な不合格通知みたいなのは来てないんだけどね。だけど、ポイントを獲得できる行動なんて一つもなかった僕なんかが合格できるわけないって話だよ。
まぁそれでいつもの如く見事に挫折した僕だけど、ただでは転ばずに他人も転ばすのが負け犬上手たる僕さ。
どうせなら全部僕以下に引きずり下ろして見下す、という目標を設定したわけだけど、そのためのお勉強ってことで永らくしてこなかった
ほら、僕ってヒーロー科落ちただろう?でも僕としてはデクくんとの約束である、4月にまた会うっていう本来の目標とはとてもじゃないけど関係ない、ゲームのサブクエストみたいな中間目標があるのさ。
そのために何が一番手っ取り早いかなって考えたとき、思い付いたんだ。
ヴィラン連合に入ればいい、ってね。
だってそうだろう?ヴィラン連合の木っ端でもそれに入れば、雄英襲撃事件のとき、つまり4月にデクくんと再開できるじゃないか。
そうとなれば、チンピラ的な感じでいいからヴィラン連合に誘われるくらいの悪名を轟かせよう。
ってなって、今に至る。
まずは
ずばり僕の
いらないステータスを欲しいステータスに振り直すとか、根本的に組み替えるとか、そんなことは一切できない。いや、そんなことないとは一概には否定できないけれど、それが良いように作用することは一切なかった。
必ず劣化する。必ずマイナスに進んでいく。
だけど、少し面白い発見だってあったんだ。それは、個性を改悪して改悪して改悪を重ねれば、それが限りなく
例えば、欠損含めて身体の状態を維持する個性を
皮肉だよね、他者を
まぁそんなわけで、【
ちょっと分かりにくいな?まぁいいや。
それで、悪名の方だけど……これについてはこのニュースを見てくれればいい。
『新手のヴィラン!?路地裏に怪生物が出現する事件が多発』
はい、ということで肝心の僕の影も形もない報道のされ方されちゃってるんだよね。いやー、本当は僕の名前くらい広めたかったんだけどね、世界はそうはいかせてくれないらしい。多分僕が未成年だからだろうね。
あーあ、また失敗だ。何をやっても上手くいかないや。
でもどうやら小悪党界隈では、僕の存在は知られてきているっぽいんだよね。主に、いつも夜中に路地裏を出歩いているカモとして。
いやーチンピラって馬鹿ばっかだね!いつも路地裏にいるならそれ相応の力を持ってるって証なのに、目に見える情報の中でも最も少ない情報量で勝手に断定してるんだからさ。
まぁ、僕は力なんて全然ないんだけどね。誰が僕は力ある存在なんていったんだい?いってないよね、そんなこと。
「おいお前、ちょっとツラ貸せや」
っと、噂をすればなんとやら。今日はもう帰る予定だったんだけど……まぁ、僕がそう上手くいくわけないよね。
半身振り返って見てみれば、そこには金髪剃り込みツーブロックの大男という分かりやすくチンピラという風貌だった。因みに、見るからにサメみたいな魚人って感じの異形系個性持ちだね。
「僕に何か用でもあるのかい?あぁ、最初に断っておくと、お金なんてたったの50円しか持ってないからカツアゲならやめることをオススメするよ。いや、もしかして僕で憂さ晴らしするつもりかな?だったら残念だけど僕は止められないね。で、なに?」
「お、おう……いや、なんでもねぇ」
そう言って顔を引き攣らせながら立ち去ろとするサメチンピラくん。
「おいおい、そんなあからさまに隙を晒すなよ。そんなことされたら、僕なんかはソレをいじくり倒したくなる」
「はっ?」
杭をどこからか取り出して、そのまま杭で左胸、つまり心臓を貫いた。
「【
いつの間にか目の前のサメチンピラくんは、杭に刺された中くらいのただのサメになっていた。
「今更僕に話しかけたことを悔いても遅いぜ?君はもう取り返しが付かないんだから。おっと、もう聞こえてないか。いや、聞こえていても反応なんてできやしないから関係ないな。……ふっ、決まったぜ」
あたりは静寂に包まれる──と、思っていたけれど、サメがピチピチと跳ね回って上手く締まらない。
「なんだ君、反応できたの?……あーあ、また失敗だ。何をやっても上手くいかないや」
そう独り言ち、今度こそは路地裏の闇へと消えていく。
いつの間にか杭はきえていた。
「彼もリストに入れておきましょう」
路地裏に蔓延る闇色の霧は今、晴れた。
◇◇◇◇
「ただいまー」
実験から大体一週間後。
僕はいつものように夜遅くに家へと帰る。そして、それを叱る親なんて皆割石家にはいない。うちは歪んでる家庭なんだ。僕が歪めたんだけど。
誰も迎えてくれないし、誰も締め出しもしないそんな家。
最初は寂しかったけど、今はこんな最低な家がそれなりに好きだ。いやー、愛着って言うのかな?最低で歪だって分かってるんだけど、いや、最低で歪が集まるところだからこそ常に僕以下の存在があって安心できる。
どんぐりの背比べだって?巨人から見た人間が同じ身長に見えること同じように、これはどんぐりにとっては大きな差なんだぜ。
さて、寝れないし、ホットコーヒーでも飲もうかな。身体を温めれば寝付きやすくなるからね。
どう?ブラックコーヒーを飲める僕ってカッコいいでしょ?まぁ苦くて美味しくなんて飲めないんだけどね。
そうしてリビングへ続く扉を通り抜けたときだった。
「お帰りなさい、皆割石九十九」
そこにはキッチリとした服装の黒いモヤが当たり前のようにテーブルに腰を下ろしていた。
「……おかしいな、今日は来客の予定なんてなかったんだけどなぁ」
「えぇ、どうやら貴方はいらっしゃらないようでしたので、失礼ながら勝手に上がらせていただきました」
あっけらかんとそうのたまう黒霧さん。
「そうですか、こんな夜分遅くにご苦労さまです。あ、そうだ!眠気覚ましにホットミルクでもいかがですか?最近いいミルクを仕入れたんですよ~」
「では、頂きます。………眠気覚まし?」
僕はキッチンへと入り、ホットミルクの準備をする。僕も飲むから二人分だ。
そうしている間に少し思考を整理する。
……うん、唐突だったからちょっと混乱したけど、多分ヴィラン連合への勧誘で来たのかな?正直こんな早期に来るとは思ってなかったけど、それなら追い返すことはしなくてよさそうだね。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
片手に持ったホットミルクを差し出せば、黒霧さんはそれを受け取る。
そういえば黒霧さんってどうやって飲むんだろう?というかそもそも飲めるのかな?
「ズズ……うん、おいしっ。それで、貴方は誰なんですか?何で僕に尋ねてきたんですか?」
「これは失礼しました、私、黒霧と申します。本日は貴方を私の所属する組織、ヴィラン連合へとお誘いしたく伺わせていただきました。当然、ヴィラン連合へと加入していただいた暁にはそれ相応の報酬をお支払いましょう」
やっぱりね。僕って探偵の才能あるのかな?やってみたら案外上手くいくかもしれない。身体は貧弱頭脳は凡庸、その名も名探偵ツクモ!真実はいつもの一つ!
ま、僕なんかが上手くいくわけないんだろうけど。
っと、黒霧さんに返事を返さないとだね。
「うん、そのヴィラン連合ってやつに僕も入らせてもらうよ。現代に芽吹く巨悪たる闇組織ってやつに僕、憧れてたんだ!いやはや、僕の短い人生のうち1秒にも渡る長年の憧れが叶うなんて、僕はなんて幸せ者なんだ!」
僕は白々しくてどうでもいい嘘を並べつつ、しっかりと了承する。黒霧さんは特に反応してくれない。軽蔑も、呆れも、嫌悪も感じない顔のままだった。
「では、我々の計画の決行日が近付きましたらまた伺わせていただきます」
「えっ、今教えてくれないの?計画のこととか」
「えぇ。何分、情報が漏れてしまったら非常にマズい案件ですので」
「ふーん、そっか」
黒霧さんは相も変わらずその面相は変わらない。というか黒霧さんって表情とかあるのかな?うーん、なさそうだね。それなら睨めっこ最強じゃないか。
「それって例えば……雄英高校に襲撃しかけるとか?」
「…………………、えぇ、そのようなものです」
動揺して表情出るかなって思ったけど、動揺こそしたものの表情には出なかったね。
あーあ、また失敗だ。何をやっても上手くいかないや。
「へー、それは大変そうだ。僕も今のうちに準備しとかないとね!えーとそうだな、まず水筒でしょ?あとお弁当にレジャーシート……あぁ!おやつも忘れちゃいけないね!」
「……では、また」
「いつでも遊びにきていいぜ?僕はいつでもいるとは限らないけど」
そう言って黒霧さんは消えるように姿を消した。
「あぁ、やっと僕の退屈で偏屈な物語が動き出した気がするよ。ここが僕のターニングポイントだ!今は僕なんかでも上手くいってる気がするぜ」
早朝に向けて歩みを進める深夜2時半。手の付けられてないホットミルクから白い湯気が登っていた。
今回の話の内容が薄いじゃないかって?よく分かったね!僕もそう思ってたんだよ!まさか神様たちと同じ感想が感じられるなんて、僕なんかには身に余る光栄だぜ。でも、仕方がないだろう?なんにだって、天下の少年ジャンプに掲載される作品にだって繋ぎの回っていうのは存在するものだ。そりゃあ、並以下どころかマイナスな僕の物語にだって繋ぎはあるさ。僕も見所が増えるよう尽力したんだぜ?でも、全力で回らない脳を回転させて絞り出したって僕は僕なんだ、結局は上手くいくことはない。そう言う星の下産まれちまったんだから
あーあ、また失敗だ。何をやっても上手くいかないや