うちの担当達はただただカワイイ 作:トレーナー
「ゔ……ぐ……」
頭痛ぁい……。
「だ、大丈夫ですかトレーナーさん……」
「俺はなんとか、ギリギリ……桐生院は、大丈夫か?」
「……はいっ! 私の方もなんとか!」
「うあっ頭に……!」
「あ、す、すみませんっ」
今は、夕暮れも過ぎて夜も明けきった時間帯。
俺ともう1人……同僚の、桐生院葵というトレーナーは、先日退職した先輩トレーナーの後始末をこなしていた。
「……なんとか、終わらせられましたね……」
「だなぁ……いや多かった、本当に……」
「あはは……」
あの人の前では散々馬鹿だといじってはいたが、あの人もベテランなのだからそりゃ抜けた穴は大きいよな。
「……先輩と言えば、"あの人"はまだ働いているんでしょうか?」
「ん? あー……かもなぁ、"あの人"色々とおかしいし、なんなら昨日も働いてたっぽいの見たぞ」
桐生院と俺は学生時代からの同級生という奴である。
正確には、俺と桐生院と、もう1人。
「ええっ……やっぱり、すごいですね」
「まあ、そりゃ学生時代からわかりきってたろ」
他の先輩と呼び分ける時、俺と桐生院が"あの人"と呼ぶ、正真正銘、学生時代からの先輩。
俺はともかく、名門のトレーナー家系である桐生院ですら霞みかねないレベルの凄腕にして、トレーナー界の麒麟児。
「……あの人も、いつか辞めてしまう……のでしょうか……」
「さあな。そうなって欲しくはないが」
「……」
とにかく『他者に好かれること』と『他者の為に動き続けること』に秀でた人で、要領も悪くないというおまけまで付いてくるのだからもう、否の付けようがないよなぁ。
そんな人だからか、担当以外からもとても人気がある。
つまり、いつ辞めることになってもおかしくないのだ。
「……っと、これ以上はなしなし。徹夜でネガティブ思考になってるぜ桐生院」
「あっ、すみません」
「あやまられることではないな、うん。……この時間なら理事長達もいるだろうし、書類とか持って行って、ささっと解散して休憩なり何なりするとしようぜ」
「……はいっ」
トレセン学園の中であれば、俺と桐生院以上にあの人と親しい人物は……いるかも。
まあ、学生時代を知る人物はいないと言える。
だからこそ、あの人が辞めるとなったら……って考えると、少々ナイーブになってしまう節がある、俺と特に……桐生院は。
悪い癖だ、治したくても治し難い。
「ハッピーミーク、元気にやってるか?」
「とても調子がいいみたいです、最近はニシノフラワーさんやビターグラッセさん達と仲が良いらしくて」
「ビターグラッセ……あぁ、樫本トレーナーの」
一時期、理事長の代理として働いていたイメージしかない、あんまり接点ないんだよな俺。
確か、件のビターグラッセと、リトルココン? というウマ娘を含むチームで活動している……筈だ。
「ご存じでしたか」
「つってもそれくらいなんだけどな。ほとんど関わりないし」
「私は、あの人繋がりで時折意見を交わすことがありまして、その時に」
「ほー、なるほどなぁ」
「トレーナーさんも、今度一緒に話してみませんか?」
「え?」
「樫本トレーナーだけじゃなくて、他にも色々な分野の人と意見交換ができるんですよ」
「……それってあの人も?」
「え? はい、基本はあの人も一緒に、という形になりますね」
「そうか。……んー、遠慮しとくわ」
単なるお邪魔虫になりそうだ、どちらにせよ。
隣を歩くウマ娘第一主義者は、あまり気付いてはいなさそうなのだがね。
「全く、できる人ってのは」
「?」
「何でもない、ただの独り言だ」
トレセン学園の名物は、ウマ娘とトレーナーの、恋の攻防だけではなく。
トレーナー同士の、ちぐはぐしてて、不器用な恋模様も含まれるのだ。
「お兄ちゃん、デートしよっ♪」
「……おー、いきなりだなカレン」
「うん、サプライズだよ?」
「そりゃとんでもないサプライズだ」
実質チームの部屋となってしまっているトレーナー室にて。
一応ちゃんとしたチームの部屋もあるんだがな、隣に。
「えっ」
何故か鉄球を両手でにぎにぎしているウインバリアシオンが固まり。
鉄球を落とすもんじゃありません、足に落ちたら危ないぞ、ただでさえウマ娘基準でとんでも質量になってるのに。
……ってか、何で握ってんのか、それそういう使い方じゃないよな?
「……へ〜?」
備え付けのソファーですやすやと眠っていた筈のセイウンスカイが、チラリと片目でこちらを見つめ。
……狸寝入りか、はたまた今起きたのか。
ピンと、耳が立っている。
「っ……!!」
ぽやぽやと考え事をしていた筈のシュヴァルグランが、キリッとこちらを見ている、備え付けのお菓子、買い足さないとな。
「……」
早速、大規模な嵐が直撃してきた。
いや、洒落ならんが?