NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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11.再始動

 時が過ぎて、7月に入る。

 北米大陸の情勢はザニー撃破の報告と共に公国軍が急速に支配下を広める。北米ゲリラが活動を止めた事も要因の一つにあるが、それ以上に青い巨星の存在が大きかった。ガルマ准将の支援を受けたランバ・ラル隊は、連邦軍の拠点を片っ端から制圧し、後事をガルマ准将に託して次から次に進軍をした結果、一月と経たず、北米全土を制圧し、現在は北米と南米を繋ぐ陸路、メキシコを橋頭保にパナマを目指して進軍を開始している。

 同時進行でガルマ准将は海路からキューバに上陸、制圧にはキャリフォルニアベースで鹵獲した連邦軍の次期主力潜水艦に独自の改修を加えた潜水母艦マッドアングラーを旗艦にしたマッドアングラー隊。中でも特殊工作員のアカハナが活躍し、メキシコ湾とカリブ海から連邦海軍を叩き出した。

 以上の活躍を以て、ランバ・ラルは大尉から大佐に昇進(一軍を率いるのに階級が足りない事も彼が昇進した理由の一つ、ルウム戦役での功績も加味されている)。合わせて、ガルマも少将に昇進を果たす。

 数ヶ月の休養を経て、キリー中佐も北米に着任する。

 

 一方で中東方面でも動きを見せる。

 一度は停滞した戦線だが、公国軍と同様に連邦軍もまた苦しみに喘いでいた。それもそのはずで連邦軍は公国軍のモビルスーツに対する明確な対応策も与えられないまま敗北を繰り返しているのである。余りに現地の将兵の反発が強くなっていたので、情報漏洩の危険の承知の上でV作戦の一機、ガンタンクの前身に当たるRTX-44を改修した機体、陸戦強襲型ガンタンクが急遽、現場に配置される。コアブロックシステムの開発が進められていた当時の機体、簡易変形の機能が搭載されているのは、その名残である。

 しかし、あくまでも後方支援用の機体が元になっている。

 故に近付かれてしまっては、手も足も出せないのは以前と変わらぬままであり、機動性も無限軌道では逃げる事も出来ず、結果として鹵獲される事態に陥っている。しかし、V作戦のデータの流出を少しでも抑える為、自爆装置が取り付けられており、特に記憶装置のあるコックピットの周辺は念入りに火薬が詰め込まれていた。

 これにより、公国軍はガンタンクを鹵獲する事は出来ても、情報を抜き出すことは出来なかった。

 

 苦しみながらも、なんとか中東方面を制圧。今はアフリカ大陸の制圧に乗り出している。

 5月中旬、宇宙では公国軍が宇宙要塞ソロモンを完成させる。続いて、6月末にア・バオア・クーを完成。月のグラナダを含めて、ソロモン、ア・バオア・クーを結んだ本土防衛の要を完成させる。モビルスーツもまた5月にザクの次世代機であるグフが完成しており、ラル大佐の昇進に合わせて部隊に配備されており、6月にはドムが完成する。宇宙専用機として、高機動型ザクⅡが開発されたのもこの時期で最終的に製造された56機は公国軍のエースパイロットに受け渡される。

 一方、連邦軍のモビルスーツ事情はと言えば、7月に漸くプロトタイプガンダムが完成する。

 地上の戦況に憂いた軍の高官がガンダムタイプの先行量産を開始、陸戦型ガンダムとして重要拠点に配備されて行く事になる。その内の一機が北米大陸に配備、なんて事にはならず、代わりに一機の試作機が送り出される。

 ゴップは、戦後の事を憂いていた。

 連邦軍のモビルスーツ開発はAE社が一手に担っている。

 軍需産業の中核を一社が担う事は、戦後の国家バランスをコントロール出来る力を持つ事になるのではないか。これが西暦時代の情勢なら問題はない。国と国が争う状況になるので企業が戦争をコントロールするなんて事態に陥る事はない筈だ。

 本来、ゴップは自分から動くことはしない。

 気付いていても日和見に徹し、時代の流れに身を委ねながら適応する。しかし今の彼には、愛娘が存在する。自分が生きた時代の後、寒くなった時代を義娘に歩ませても良いものか。

 否である。

 ゴップはAE社一強の時代が訪れないように布石を打った。AE社の後援にはビスト財閥が存在する。地球連邦政府はビスト財閥に弱味を握られており、AE社の言いなりになっている節がある。その弱味をゴップは知らなかった。

 故にゴップは根本的解決よりも次善の策、布石を打つ事にした。

 

 地球連邦政府の力が弱まり、軍部の発言力が強くなったから出来る強行策。ゴップは独自の伝手を用いてモビルスーツの開発を呼び掛ける。

 表向きには、武闘派と保守派の内部抗争。東洋の島国で起きた陸軍と海軍の対立にも似た愚策と評される事になり、以後、二十年以上もの間、ゴップ無能説の根拠ともなる計画となる。

 計画の名は、ペイルライダー計画。

 レビル大将とは別のアプローチによるモビルスーツ開発計画であり、秘密裏に開発が進められて来た。そしてプロトタイプガンダムが開発されたのとほぼ同時期に試作機が完成する。厳密には試作機の試作機、プロトライダー。まだ青い機体が開発されていない時期の純連邦製のモビルスーツである。

 

 一方でレビル大将が推し進めるV作戦。

 ザクベースのガンダムの開発は、既に一機のガンダムを完成させて二機目の設計図を引いた経験から思いの外、早く設計図が書き下ろされる。

 連邦と公国の技術の融合、と云えば聞こえは良いが実際には、ザクの利点をガンダムに詰め込んだ機体。つまりは拡張性を重視している。完成版ガンダムは、今持てる技術の粋を集めた一品物の特別機である事に対して、ザクベースのガンダムは、あえて拡張性に余裕を持たせる事で、来るべき技術競争の波にもある程度、対応できるように開発したものである。

 それ故に、基本性能で云えば現状、完成版ガンダムを超えるものではなかった。

 

 このザクベースの開発でアイデアが閃いたテム・レイは勢いのまま、軽量化ガンキャノンの図面を引き始める。役割理論なんて面倒な事を考えずとも良かったのだ。モビルスーツの利点はその汎用性にある。軽量化ガンキャノンには、ある程度の白兵戦も出来るように作り直す。テム・レイ自身は、自分の事を0から1を生み出す発明をしたミノフスキー博士に劣ると考えているが、彼もまた十二分に天才なのである。

 

 

 キリー・ギャレット中佐がサイド3での休養を経て、再び地上に降り立った。

 キャルフォルニアベースにて、准将から少将に昇進したガルマの歓迎を受けた彼女は、休養に至った経緯から少し気不味く思いながらも差し伸べられる彼の手を受け取った。

 今回、彼女が再び北米大陸に召喚されたのには理由がある。

 ランバ・ラル大佐が前線の指揮に釘付けとなった為、北米内部の治安維持活動に手が回らなくなってしまった。そこで白羽の矢が立ったのは、地上のゲリラ鎮圧の功績のあるキラー・ハーピーことキリー中佐である。

 ガルマは、彼女の為に新しいモビルスーツを用意し、彼女を待っていた。

 

「流石にゲリラ鎮圧の為に最新鋭の機体を用意する事は出来なかったが、今でも十分に活躍できる機体だと思っている」

 

 ガルマ少将が用意したのは、陸戦高機動型ザク。全身を青色に塗装し、肩を橙色に染めた機体を前に「一度は戦線離脱をした者に過分な評価を」と頭を深々と下げながら受領する。

 

「しかし今回、この機体に乗るのは私ではありません」

「ふむ? と、いうと?」

「ランバ・ラル大佐の報告書を見て、私は考えたのです。私が、あのザクのパイロット⋯⋯いえ、北米のジャンヌ・ダルクでしたか? 兎も角、あの機体と出会えなかったのは私自身に問題があったのだと」

「そこまで思い詰めることでもあるまい。私はまだ、新人類という意味でのニュータイプの存在には懐疑的だが、本当に人の思念を感じられる者が居るのであれば一人で対応するのは不可能だったはずだ」

「少将、私では、あれを捕まえることは出来ません」

 

 ガルマは、前髪を弄り、少し考え込む仕草を見せる。

 

「では、どのように?」

「ニュータイプには、ニュータイプをぶつけるべきかと」

「ほおう?」

「私は本国の、とある研究施設で、ある少女と出会いました」

「ニムバス大尉から話は聞いている。あの研究所か?」

「あの研究所です」

 

 キリー中佐は、真っ直ぐとガルマ少将を見つめ返して告げる。

 

「アルマ・シュティルナー少尉。彼女であれば、あるいは」

 

 ガルマは目の前の女性に対して、注意深く見つめ返す。

 

「中佐、貴女はまだ、あのザクのパイロットが生きていると信じているのだな」

「北米のジャンヌ・ダルクが男では、収まりが悪いでしょう」

 

 それはそうだ、とガルマは首肯する。

 あの時、鹵獲したザニーに乗っていたパイロットが、当人ではない事は既に割れている。故にキリー中佐が召喚されたのだ、ラル大佐が危惧し、ゲリラ戦の申し子に後方を脅かされては堪らないと。もしも怪我を負って離脱したのであれば、もうすぐ復帰する頃合で、そうでなくても自分が北米から離れる事でゲリラが活発化する事は目に見えている。

 キリー中佐が率いる部隊の名はノイジー・フェアリー隊、公国軍でも珍しい女性だけで編成されたゲリラ鎮圧部隊。ガルマ少将の計らいで、彼女達は、拠点となる屋敷を得る。

 初陣は、連邦軍が支援するゲリラの鎮圧。既に研究を終えた鹵獲ザクの小隊を蹴散らして、華々しい初陣を飾る。

 ノイジー・フェアリー隊の中核を担うアルマ少尉は、ニュータイプである。

 

 

 北米のとある秘密拠点、マチルダ中尉のミデア補給隊が新型機を搬入する。

 

「プロトライダー」

 

 長い療養期間を経て、久し振りにベッドの上から解放された私、メアリーは、受領した一機の機体を前に息を零す。

 今までの機体とは、一線を画す性能。白く目立つ機体色は、キューバを落とされて公国軍の圧力を受けるジャブローの高官が囮として、北米を掻き回す事を期待しての配色である。無論、御義父様が私を囮にするなんて事はしないと思うけど、そういう事にしておいた方が話がスムーズに進むので、そういう事にしておいたんだと思ってる。

 しかし、本当に、とんでもない機体が、来たものである。

 

「これ、本当に御義父様、いえ、ゴップ大将が?」

 

 問い掛けるとマチルダが首肯する。

 ビーム兵器が搭載されていない試作型、ジャイアント・ガトリングとグレネード・ランチャーを一纏めにした多環境での対モビルスーツ戦を想定した射撃武器。腰には、ザクのヒートホークとグフのヒートサーベルを参考に開発したヒート・レイピアが装備されている。

 搭乗し、試運転をしてみるとザニーの数倍のエネルギーゲイン。ビーム兵器の搭載を想定しての貯蓄量。この機体だけでも分かる。反攻の時期はもう間もなくまで来ているのだと。

 私は、笑みを浮かべて、今日まで戦って来た公国軍のエースパイロット達を思い返す。

 

 青い巨星にキラー・ハーピー、この機体なら必要以上に怯える必要はない。ありがとう、御義父様。と私はボイスレコーダーに吹き込んで、帰還するマチルダ中尉に持たせる。

 彼女達もまたランバ・ラルが北米に居る間は、危険で、北米に入ることが出来なかったのだ。

 だから私はまだ北米に居るし、怪我が治った今はジャブローに帰る意味もなくなった。自分で言うのもなんだけど、北米のジャンヌ・ダルク再始動である。

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