NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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12.あのザクのパイロット

 アルマ・シュティルナー少尉は、フラナガン機関の被験者として訓練と称した実験を受けた過去がある。

 しかし当時のフラナガン機関の研究者は、ニュータイプと呼ばれる人種が放つ特殊な脳波の研究に没入しており、脳波を発信する事よりも受信する事に長けていたアルマは、サイコミュ兵器を扱う事の出来ない落ち零れとして扱われる。

 彼女にとって幸運だったのは、当時のフラナガン機関は、ニュータイプが持っている能力の解明の方に力を入れており、

人為的に能力の覚醒を促す研究をして居なかった事。当時、フラナガン機関は、目に見える成果が必要だったので、ただ単に勘が鋭いというだけに収束する彼女の能力は、数値上の価値はあっても、対外向けの広告塔としての価値は低かった。

 それ故に放置をされ続けていたのが先日までの話。モビルスーツの戦闘シミュレーターを、ゲーム感覚で、一人きりで遊ぶ彼女を、キリー・ギャレット中佐が、ニュータイプの価値を戦場で証明すると交渉し、機関から連れ出す。

 

 まだ歴史の浅い公国軍では、階級には、明確な意図が込められている。

 将官は、一軍を率いる者として扱われる。佐官は、軍の目的を達成するという前提の下、一部隊の差配を自由に出来る権限を持っている。

 彼女は、新部隊の設立を軍に認めさせる。

 そしてアルマ少尉を中核に据えたノイジー・フェアリー隊を結成した。

 

 彼女達が地球に降りたのは、本国の政争とフラナガン機関の影響力から逃げる意味合いも込められている。

 事実、北米に降り立ったアルマ少尉は、キリー中佐の見立てた通りの目覚ましい活躍を見せる。初戦で、型落ちだが二機のザク相手に撃破数を稼いだ彼女は、森の中に伏した相手を、先手を打ってザクマシンガンで一蹴してのける。彼女は、生まれ育った環境から自分の能力をある程度、コントロールする事が出来た。他人の思念を感じ取る事に特化した彼女の能力は、戦場では、無類の強さを発揮する。

 彼女が拝領した陸戦高機動型ザクとの相性も良かった。

 そんな彼女が得意とするのは、一撃離脱戦法。ニュータイプ特有の嗅覚にものを言わせて突撃し、相手の体勢を崩した後、後方に控える狙撃と砲撃に長けた二機が追撃を仕掛ける。

 公国軍の戦闘教本には、まだ掲載されていないMAV戦術の骨子である。

 

 彼女の機体の前任者であるニムバス大尉向けの調整が、彼女の特性にピタリと合致した形にもなっている。

 戦場を自在に駆る彼女の姿は、無邪気な妖精の如し。誰が呼んだかティターニア。彼女は戦場を支配する。

 

 彼女が妖精の女王に例えられる事には、理由がある。

 北米でジャンヌ・ダルクと称される公国軍の脅威とされる存在。大層な名前を付けてしまっては、公国軍の士気に関わると正式にコードネームが付けられる。

 エネミーコード、ピクシー。

 北米のジャンヌ・ダルクは、公国軍では、悪戯妖精の名で知れ渡っていた。

 

 公国軍の懐事情を荒らす、小憎たらしい妖精。彼女が、北米方面軍に与えた被害は決して、悪戯等という可愛らしいものではない。

 

 ある補給隊の護衛に付いていた日の事。

 同じ部隊の仲間であるミア技術少尉(ザクハーフキャノン)とヘレナ曹長(ザクⅡ[狙撃型])を引き連れて「この辺りも落ち着いて来たね」とモビルスーツに乗って談笑をしながら歩いていた時の事。出撃前に隊長のキリー中佐から聞かされた、北米に潜んでいる悪戯妖精の話を交わす。

「もしも出会ったならば、無理をせず撤退するように」と言い付けられている。

 部隊の副隊長を務めるハハリ中尉からも話を聞けば、ピクシーという可愛らしい名前とは裏腹に伝説的な偉業が次から次へと飛び出す。キリー中佐もまた彼女に敗北した経験がある事を知る。

 だけど、最終的には、青い巨星のランバ・ラル大佐が討ち取り、パイロットの捕縛に成功する。

 

「それは、間違いだって話だよ」とハハリ中尉のデータベース上の話に異を唱えたのは、整備班長のイルメラ軍曹。褐色肌にドレッドヘアの彼女は、北米ゲリラ内での悪戯妖精の呼び名を聞かされる。

 

「北米のジャンヌ・ダルク。捕縛したパイロットは、男だってのにおかしな話だろう?」

 

 結局、悪戯妖精の消息は真偽不明。分かっているのは、ラル大佐が悪戯妖精を捕縛したのを境に北米ゲリラの活動が消沈した事だけである。

 輸送隊の護衛任務に就きながらアルマは想起する。

 まだフラナガン機関に居た頃、戦闘シミュレーターをゲーム感覚で遊んでいた時の事だ。何時の間にか自分の後ろに立っていた、あの時はまだ名前も知らなかった金髪の女性が「この子なら、あのザクのパイロットにも」と呟いていたのを思い出す。

 あのザクのパイロット、もしかして、悪戯妖精と同一人物なのだろうか。

 

 考えても仕方ない事に思考を費やしていたその時、ふと不思議な気配を遠方より感じ取る。

 

「⋯⋯ニュータイプ?」

『えっ?』

『あんだって?』

 

 私の呟いた声に回線を開いていた仲間の二人が同時に問い返す。

 

 ──人の心に、土足で踏み込んで!

 

 今まで聞いた事もないような、はっきりとした思念。殺意にも似た敵意を感じ取り、ヒュッと血の気の引いた私は操縦桿を握り締めながら仲間達に叫んだ。

 

「敵襲! 九時の方角ッ!!」

 

 たぶん、あれは!

 

「敵機は、悪戯妖精(ピクシー)! 北米のジャンヌ・ダルク、ゲリラ戦の申し子! そして────!!」

 

 高低差のある荒れ地の向こう側から見たこともない白い機体がブースターを吹かして突撃してくる。

 

「あのザクのパイロットッ!!」

 

 

 プロトライダー、次世代型MS試作0号機。現在、AE社が開発中の量産機とは、根本から設計思想が違っている。

 というのもペイルライダー計画は、AE社に戦後の主導権を握らせない為に生み出された企画であり、技術研究用の教材という意味合いが強い。故にペイルライダー計画の原点に当たるプロトライダーには、挑戦的な試みが数多く取り入れられており、中でも、特徴的なのが複合型特殊武装という新概念。陸軍の突撃銃の銃身に、擲弾発射器を取り付ける装備から着想を得たもので、MSには、エネルギーの限界はあっても疲弊しない事から銃身を一体化させている。

 銃身を一体化させるメリットとしては、擲弾の装填数を増やせる事。あのザクのパイロットと呼ばれたゲリラ兵は、シュポンという独特な音と一緒に三体のモビルスーツを目掛けて弾頭を放った。

 爆発する、と察した二人が身構えるのに対して、アルマは逆に前へと駆け出す。

 

 擲弾発射器の弾の種類は、自由に選ぶ事が出来る。

 地面に着弾した弾頭がボフッと煙が放たれる。三発目まで、装填していたのは煙幕弾。有視界戦闘が主流の現在において、視界を奪う事の重要性を新型機のパイロットは理解していた。

 しかし目に頼らない者が一人、支援機である二人を守る為に駆け出している。

 特別に受領したヒートソードを片手に、ニュータイプとしての勘だけを頼りに煙幕の中を突き進んだ。

 

 プロトライダーには、挑戦的な試みが数多く取り入れられている。

 

 ビーム兵器を想定したエネルギーの貯蓄量。現状の武装では、活かし切る事の出来ない余剰分のエネルギーを用いて、プロトライダーの設計者は、とある機能を組み込んだ。

 ブースターの出力を瞬間的に引き上げる超加速装置、パイロットの肉体的な負担は勿論、三半規管を一撃で粉砕する一種の自爆装置。

 煙の中、アルマは、ザクの装甲すらも貫通する何かの爆発的な破裂音にビクリと身を強張らせた。何事か、と考えるよりも早く、想定外の加速力で自分の直ぐ隣まで距離を詰める連邦の白い影。文字通り、爆発して加速する装置の名は、クイックブースト。パイロットが乗る事を想定していないとし、直ぐに廃止された一機限りの初見殺し。

 

 ニュータイプを殺すのに、複雑な策を弄する必要はない。脳の死角、即ち相手の発想にない装備と戦術を駆使すれば良い。結局、戦闘で最後にモノを言うのは、想像力。想像力を欠如した者が、戦場で敗れていくのだ。

 

「アルマ!」

「アルマさん!?」

 

 二人の悲鳴、プロトライダーが握り締めたヒートレイピアが、陸戦高機動型ザクの頭部。モノアイを貫いた。

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