NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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14.三敗目

 キラキラ夢時空で流れる時は、現実世界では一瞬にも満たない。

 メアリーの明確な拒絶を受けたアルマが流星群のトンネルから弾かれた時、意識はメインモニターが死んだ暗闇のコックピットに引き戻される。放心状態から操縦桿を握り締めるまで一秒未満、視える。とアルマは、装甲に阻まれるコックピットの外から放たれる明確な敵意を感じ取り、相手の攻撃を受け止める。

 だけに留まらず、熱刃を受け止めた時の感覚から互いの姿勢を掌握し、ヒートソードの刀身を器用に扱って相手のヒートレイピアを絡め取る。

 あのザクのパイロット、メアリー・スーは殺さずに捕らえるべきだ。

 

「話は、まだ終わってないッ!」

 

 直感にも似た衝動にも突き動かされて、機体の性能で劣っているにも関わらず、アルマはメアリーを相手に肉薄する。

 刻の世界、メアリーの素質に引っ張られて垣間見たニュータイプの真髄ともよべる空間に足を踏み入れたアルマは今、本人の素質以上に能力を開花させていた。息遣いを感じる。無意識に感じ取れるのは自分に向けられた思念だけだった、相手を注視する事で他に向けている思念をなんとなく読み取れる程度、だったはずなんだけど、アルマは今、仲間のミアとヘレナの息遣いすらも感じ取る事が出来た。

 視える、私にも視える。

 ニュータイプ能力とは本来、誰にでもある能力を引き上げたものだ。なんとなく空気を察する、視線を感じる。敵意を読み取る。そんな曖昧なものを確信を持てるほどに感じ取れる者がニュータイプと呼ばれる存在であり、感じ取れてしまうから同じ思念のようなものを相手に放つ事が出来るのもまたニュータイプ能力の延長線にあるものである。

 アルマは、感情の発露が苦手だった。

 溜め込んでしまう彼女にサイコミュ兵器を操作する才能はない。だけど、と彼女は手を伸ばす。それでも、と彼女は足を踏み込んだ。発射される相手の擲弾を、アルマは、熱刃の機能を切ったヒートソードの刀身で、信管を刺激しないように弾き飛ばし、距離を詰める。距離を詰めたのは、ミアとヘレナの援護射撃がメアリーの機体を捉える未来が視えたから、相手の機体が、バックステップを刻んで、距離を取りながらジャイアント・ガトリングで弾幕を張ろうとする相手の銃身をヒートソードの切っ先で掠める。

 銃は繊細な機械だ。メアリーが舌打ちを零すのを感じ取り、アルマはメアリーを捕縛する為に左腕で相手の機体に掴みかかろうとした。

 

 ──舐めるなぁッ!

 

 瞬間、彼女の白い機体が再三の超加速で体当たりを仕掛けて来た。

 突き飛ばされる機体にコックピットが、大きく揺れる。思わず、零れる悲鳴。機体が、仰向けに倒れる。「大丈夫ですか!?」と心配の声を上げる仲間の一人にアルマは、大丈夫、と端的に返す。

 ヘレナが狙撃用ライフルの照準をメアリーの機体に合わせる。

 

 ──げふっ、ごほッ! 動け、プロトライダー! 何故、動かない!?

 

 焦燥する声と共に操縦桿をガチャガチャと動かす焦げ茶色の女性。直感する光景にアルマは察する。あの急加速はパイロットの身体だけではなく、機体の限界も考慮していない。恐らく度重なる急加速に関節部がイカれてしまったのだ。

 今なら捕らえる事も容易い。

 アルマがヘレナを呼び止めるよりも早く、「私らの隊長から離れやがれ!」とヘレナは引き金を振り絞った。放たれる銃弾、着弾する、と直感したアルマの予想に反して、メアリーの機体が、膝から深く沈んでコックピットを狙った正確無比の一撃は、彼女の頭部を破壊した。

 

 ──貴女に、出来ることが私に出来ないと!

 

 メインモニターが死んだコックピットの中、周囲に張り巡らされる彼女の脳波が私の肌をピリピリと刺激した。プレッシャーにも似た圧力、萎縮し、強張る手が震え出す。感応値の高いアルマは、怨嗟にも似た声を真正面から浴びて身動きが取れない。ミアもまた唾を飲み込んで、ヘレナも背筋に冷や汗を流す。

 しかし彼女の意思に反して、機体は限界。折れた膝が再び地面を捉える事はなく、倒れ落ちる機体を、メアリーはアポジモーターで無理矢理姿勢を制御する。システムにはない挙動、故にメアリーは、感性のみを頼りに手動で機体を制御していた。

 

 ──ぐううう⋯⋯っ!!

 

 悔しげに唸る声、メアリーは敗北を予見していた。

 彼女から放たれる圧力に幾分か、狙いが甘くなったヘレナの狙撃が僅かに身を捩った彼女の機体の四肢を撃ち抜いた。右腕と左腕、そして左脚。流石に片足を失っては姿勢を制御出来なかったのか、今度こそ彼女の機体は地面に沈み込んだ。

 コックピットのハッチが開かれる。

 パイロットスーツも着ていない焦げ茶色の髪の小柄な女性、彼女は一度、私を睨み付けてまだ逃げ出そうと試みた。

 ヘレナが彼女の逃げ道を抑えようとした時、直感。

 

「ヘレナッ!!」

 

 私の叫び声にヘレナが微かに、振り返る。瞬間、ヘレナのザクⅡ[狙撃型]に装備された肩のシールドを何かが捉える。

 大きく弾かれるヘレナ、新たな敵の襲撃に操縦桿を握るアルマに弾幕が降り注がれる。援護しようとしたミアの機体に擲弾が着弾し、吹き飛ばされる。

 何が起きたのか分からない。

 分かるのは、北米のジャンヌ・ダルクを助ける為に敵の増援が来た事。額にV字の角を生やした機体からニュータイプ特有の強い思念は感じない。

 だけど詳細不明の機体から強い怒りを感じ取れ、拡声器から幼い声が発せられる。

 

『私の、機体! 私には、それしかないのにッ!!』

 

 その声にメアリーが、困惑しているのが読み取れた。

 彼女は、激しい憎悪とは裏腹に擲弾で白い機体を破壊、アルマ達が敵機の新型を爆破されて、動きを止めている隙に、新影は手早くメアリーを回収。そのまま撤退した。

 ヘレナが追撃を仕掛けようとするけども私は、彼女を制する。

 彼女の追撃を止めたのには、私情もあったのだけどメアリーとの戦闘で自分達は酷く疲弊してしまっている。特にアルマの機体は、彼女の機体性能に追い付く為に随分と無茶をさせてしまったので、関節部の一部が満足に動かなくなっている。

 前衛の私が動けず、残るは支援向けの機体が二機。追撃を仕掛けるのは、リスクが大き過ぎる。

 

 小さくなる機影に、アルマは大きく息を吐き出す。

 なんだかよく分かんないけど、自分が目指す方向性のようなものが少し分かった気がする。とりあえずキリー中佐に、今日の事を聞いてみよう。宇宙世紀憲章の事とか、ラプラス事件の事だとか。

 たぶん、自分はもっと、色んなことを知らなきゃいけない気がする。

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