少し時間を遡る。
北米大陸、キャルフォルニアベースの長官室。とある動画の女性の音声が流れる部屋の中、執務机の上に積み重ねられた書類の山に忙殺されるガルマ少将に、数度の扉を叩く音が鳴り響く。ガルマは判子を押す手を一旦、止めて、副官のダロタ中尉に視線を送る。ダロタ中尉が扉を開ける傍ら、ガルマは机の中に忍ばせた拳銃に手を伸ばす。
しかし扉の先から姿を現す見慣れた仮面姿の男を見て、ガルマは口元を綻ばせて机の引き出しを戻した。
そしてダロタに視線だけで指示を出す。
「シャア、先に休んでからでも良かったのに」
「君に会えるのを楽しみに宇宙から地球に降りて来たのだ」
「君の事だ、休んでいる時間が勿体ないとかそう言った理由だろう?」
君が学生時代も人の二手、三手先を進んでいたからな。と彼は笑みを浮かべて、久方振りの友人に手を差し伸べる。
「これは、友人からの忠告だ。君は、もう少し人と歩幅を合わせる事を覚えた方が良い」
「はは、耳の痛い忠告には一考の余地がある。頭の片隅にでも置いておくよ」
シャアもまたガルマの手を受けて、固く握手を交わす。
「それで北米大陸の戦況に付いてなのだが⋯⋯」
次に出たシャアの言葉に、ガルマは小さく息を零し、
「まあ、君はそういう男だよ」と丁度良く、ワイングラスと氷の入ったワインボトルを盆に乗せて部屋に戻って来た副官に向けて、応接用の机に置くように視線を向ける。
「北米大陸は九割方、掌握している。南米侵攻作戦の準備も整えており、先日、新型機を二種、前線に送り出したばかりだ。君の為に残しておこうと思ったのだが、必要なさそうだったのでな」
「ほう?」
「ドムと、グフを現地改修したイフリートだよ。七月に現れた角付き⋯⋯ガンダム、だったかな? 先行量産したタイプの登場を機に、グフでは、性能が足りないとオデッサのギニアス大佐が頑張ってくれた」
結局、コストの問題で少数を改修するだけになりそうだがね。とガルマは付け加える。
「⋯⋯だが君が知りたいのは、そんな事ではないよな?」
ガルマが告げると丁度良く、ダロタが資料の山から何枚かの報告書を抜き出したものをシャアに手渡す。
「あの木馬、ホワイトベースが地上に降りた後で発生した戦闘データだ」
シャアが受け取った資料に目を通せば、それはほとんど公国軍の被害報告の書類である。
最初にザクを2小隊、計6機のザクを向かわせるも容易く撃退されており、ゲリラ討伐を目的に編成されたノイジー・フェアリー隊もまた決定打を与える事が出来ず、撤退を繰り返している。
ホワイトベース隊の戦力は現状、モビルスーツが7機。
ガンダムタイプが3機とガンキャノンが2機、ガンタンクが2機という大所帯。
「ガンダムタイプは1機だけだったはずだが?」
「北米ゲリラが合流したんだよ」
北米ゲリラ、開戦直後から抵抗を続ける連邦軍のゲリラ部隊。エネミーコードはピクシーとインプ、2匹の悪戯妖精に公国軍は翻弄されて、北米大陸における侵攻を3か月以上も遅らせる戦果を立てているという分析が出ている。
実際には、兵站の問題があるので侵攻速度自体は、そこまで変わっていなかったりもするが、しかし与え続けた被害は甚大である。
補給路に襲撃を受けた事で北米方面軍は現地人に無茶をさせざる得なくなり、ガルマの社交界からアースノイドを懐柔する計画にも支障が出てしまっていた。
それでも一人の女性を口説き落としているのは流石の人誑しである。
「双子の妖精と木馬部隊は現在、二機一組の戦術で行動している事が多い。先陣に立つ一機と背後に付いて支援する一機、誰が先陣に立つかに付いては臨機応変に対応しているようだ」
「黒い三連星を思い出すな」
「精度が極端に高いんだ。完全に連動した行動に加えて、本来、視えていない位置からの攻撃を躱す事もある」
「ほう?」
「そこで思い出したよ、本国で行われているニュータイプ研究。正直、今でも半信半疑なのだが⋯⋯」
ガルマは、シャアを見据える。
「君ならば、と思ったよ」
「⋯⋯買い被り過ぎではないかな?」
「常に二手、三手先を読んでいる君の事だ、本当に未来でも視えてるんじゃないか疑ったこともある」
「重症だな」
「ああ、そうだね。僕もそう思うよ。本当に見えていたとすれば、君は、もっと上手く立ち回ることも出来たはずだからね」
だけど、とガルマは真剣な目で向ける。
「初めて乗った機体で君は操縦を熟した」
「⋯⋯⋯⋯」
「あの悪戯妖精の片割れもまた初めて乗った機体でザクを撃破したという話が残っている」
可能性を見い出すには、十分だと思う。とガルマは仮面を被るシャアを見つめる。
「⋯⋯それで君は、私に何を望むのだ?」
「勿論、ジオンの栄光を」
ピクリとシャアの指先が動いた。
「⋯⋯と言いたい所だが今は直近の問題解決が先だ。君には、木馬部隊の撃墜、出来れば拿捕。そこに加えて悪戯妖精の撃破も加えて欲しい」
「流石に求め過ぎではないかな?」
「勿論、一人で全てをやれとは言わないよ。母艦を宇宙に残して来てるんだ。君にも仲間が必要なはずだ」
ガルマは、ワインボトルの置かれた執務机に視線を向ける。
「今、こちらに向かわせている。それまで一杯、どうかな?」
「⋯⋯君は職務中に酒を飲むのかね?」
「どうせ、仕事を続けてもあの書類の山を切り崩す事なんて出来やしないんだ。緊急性の高いものはもう片付けてある。僕が休憩する口実になってくれないか?」
普段、休日返上で働いているんだ。親友を持て成していると言えば、納得する。とガルマはまだシャアの返事も聞かずにシュポッ、とワインボトルのコルクを開ける小気味良い音を響かせた。
「そこまで言われては断れないな」
「正直な話、これを楽しみに今日まで頑張って来たんだ。嫌でも付き合ってもらうぞ、シャア」
シャアは肩を竦めて、観念するように空のワイングラスを受け取った。
「……ところでなんだが、この音声はなんなのだ?」
彼のノートパソコンから発せられる女性の声、まだ再生が続けられている動画の音声に「ああ、切り忘れていたな」とガルマが答える。
「しかしシャア、本当に知らないのか?」
「どういう意味だ?」
「ぐまぐま☆アイナchだよ。地球降下作戦の直後、私もなんだが将兵の地球に関する知識不足が祟って随分と苦労をさせられたんだよ。まあ言ってしまえば、教育番組の内容だな。プロパガンダ的な意味合いも含まれているのだが……最近では、ネタがなくなったのかアイドル設定のはずなのに農家染みた事をやり始めている」
「農家だと?」
宇宙での食糧生産は全て機械化されているので農家という言葉は使われなくなっている。似たような職種として酪農家という言葉はあるが、それは種の保存という意味合いが強く、食糧生産という意味では一部の好事家に売られるだけに留められる。ガルマがノートパソコンの画面をシャアに見せると熊の耳に蝶ネクタイを付けた美人な女性が、オーバーオールの姿で農作物を採取する姿が映し出されていた。
「地球では、環境破壊を抑制する為、地球連邦軍では農地の縮小する政策が取られている」
しかしシャア、とガルマは良い笑顔で続ける。
「自然の恵みというものは、良いものだな!」
友人の純粋な性根にシャアは曖昧に笑う事しか出来なかった。
小一時間後、少し頬を赤らめたシャアの前では、半目で少し意識が虚ろになっている北米方面軍司令官の姿がある。あまり顔には出ていないが酔っているのは明白である。彼の副官であるダロタ中尉を見上げると「少し酔いつぶれて熟睡するくらいが良いのです。幸いにも今日、貴方と顔合わせをする人物は気心の知れた仲ではありますので」とガルマに一杯の冷たい水を差し出す。
本当に良いのか。と思いながら冷たい水を嚥下する友人を見つめていると扉を叩く音が鳴った。
「ああ、もう来たのか」とガルマは少し残念がるように呟いて、視線だけで扉を開けるようにダロタに促す。
ダロタが扉を開けると先ず一人の美人な女性。そして三人の少女が続けて部屋に入って来る。葡萄酒の少し甘い香りにキリー中佐は顔を顰めるが、しかし、ガルマの初めて見せる警戒を解いた姿に、彼女は見て見ぬふりをすることを決める。アルマは直ぐに勘付いたが同じ部隊のヘレナ曹長に「ジュースだよ、葡萄のな」と言われたので、それ以上、言及する事は出来なかった。ミアだけは、二人の男の机に広げられている代物の問題性にピンと来ていなかった。
部下の手前、中佐は規律を保つ為に見て見ぬふりを続けることも出来ず、軽く言及する。
「本日はプライベートのお誘いでしたか?」
「いや、任務だが?」
「次はありませんよ」
「ああ、いや、そうだな。気を付けよう、部下三人も連れて来るとは思っていなかった」
「赤い彗星と会える機会は、そうありませんので」
ガルマは水を一息に飲んで、立ち上がり、襟を正して四人に向き直る。
「敵新兵器の拿捕、及び破壊の任務。ノイジー・フェアリー隊の諸君には彼、シャア・アズナブル中佐と一緒に当たって貰いたい」
「なるほど、妖精部隊。君達の活躍は、宇宙に居る我々の耳にも届いている」
シャア・アズナブルだ。と彼はキリー中佐と握手を交わした後、少女三人にも手を差し伸べる。
三人の中心に立っていた部隊の隊長であるアルマが彼の手を受け取った瞬間、何か直感のようなものが二人の脳裏に閃いた。シャアにとっては違和感、しかしアルマにとっては確信。何かに勘付かれた事しか分からなかったシャアに対して、アルマが得た情報量は余りにも大きかった。
あのメアリー・マーセナスと心を交わして以降、アルマは以前にも増して人の心が手に取るように分かる。
「えっ? ザビ家への復讐って、え、あれ? 名前が、違……あれ?」
彼女自身、まだ彼の複雑な感情を言語化出来た訳ではない。
しかしニュータイプの可能性を信じる者が此処には一人、キリー中佐は躊躇なくアルマの肩を掴んで自分の背中に回す。突然の事にシャアは呆気に取られていた。周囲を見渡した後、シャアは「面白い事をいう、お嬢さんだ」と誤魔化す様に笑うしかない。シャアには確信があった、少なくともガルマは自分を信じてくれる。そして自分が何もせずとも庇ってくれるはずだ。
ガルマもまたシャアを心から信じており、ノートパソコンを執務机に戻すついでに机の椅子に腰を下ろす。
「キリー中佐、もう少し部下の躾はした方が良い」
有無を言わせないガルマの言葉に、キリーは即座に胸を張って「申し訳ありません!」と返す。
未だ動揺するアルマ。ヘレンは胡乱な目でシャアを睨んでおり、ミアは困惑してアワアワと周りの人間の顔色を見渡している。
ガチャリ、と部屋の扉に鍵が掛けられる。ガルマの副官であるダロタ中尉によるものだ。
「アルマ少尉、僕とシャアは学生時代からの付き合いだ。友人として彼は信頼できると心から断言しよう」
ガルマの叱責とも取れる言葉にアルマは視線を落とし、シャアは誰も気付かれないように安堵の息を零す。
「この一件、僕、いや、私は、公国の一軍を担う者として一切、君達を追求する事をしないと誓う」
一見すると寛大な処置に「ありがとうございます」とキリー中佐が頭を下げて、部屋を退出しようとした時だ。
だが、とガルマは言葉を続ける。
「私は北米方面軍の司令官として、アルマ少尉の今日までの活躍が信頼できるものだと知っている。更には、私はザビ家の男である」
ガルマは両手を机の上に乗せたまま、シャアを見据える。
「……ザビ家の復讐、ダイクン派の信奉者。しかしダイクンの信奉者は当時、彼の言葉に魅せられた者に多く、今の時代、僕達の世代でダイクン派の信奉者は……居ないとは言わないが、復讐の為に軍内部まで潜り込む程の執念があるとすれば……考えられる者は自然と限定されていく……」
「ガルマ、私を疑っているのか?」
「僕は疑っていない、君を信じている。だから僕は安心してザビ家の男として君を追い詰める事が出来るんだよ、シャア」
ガルマは坊ちゃんである。ザビ家の血を引いた、スペースノイドの中では名門中の名門の血を引いた坊ちゃんである。彼を教育したのは、デギンであり、キシリアであり、ドズルであり、そしてギレン。彼は、親の七光りどころか、家族の七光りを心に宿している。
「一度だけ、キシリア姉様の寝室で写真を見た事がある。次、部屋に入った時にはなくなってたけどね」
ガルマは前髪を弄りながら古い記憶を漁る、色褪せた記憶。まるでセピア調の映像を潜り続ける。
「だけど、あれは確かにキャスバル・レム・ダイクンの写真だった。同じ年の子だったからね、印象に残っている」
記憶の中にある写真も朧気で色褪せている。だけど一ヶ所だけ、強い色彩を放っていた。
「綺麗な青色の瞳をしていたのが印象的だった」
「…………ガルマ」
「君の仮面は、先天的な色素異常が理由だったはずだ」
ガルマは一度、大きく息を吐いて、そしてシャアを見据える。
「今、此処で仮面を脱いでくれないか?」
「……此処は、人が多い」
「僕にだけ、見えるようにで良い」
シャア、と呼び掛けたガルマは初めて机の下に手を入れる。
「僕に拳銃の銃口を友人に向けさせないでくれ」
ガルマは、真っ直ぐにシャアを見据える。
純粋な瞳をしていた。彼は幼少期の自分の瞳を美しいと称したが、シャアは今の自分に彼が再び美しいと言わしめる自信がない。故に微かな希望を見出した彼は、他の者には見えないように仮面を外す。ガルマは、シャアの瞳を見て一度、目を伏せて、そうか、と短く告げる。……見られてしまっては、バレることはすぐに分かっていた。希望なんて仮面を脱ぐ為の言い訳に過ぎない。シャアは観念しただけだった。彼は、復讐の為に生きて来た。だけど彼を殺す為の計画は立てておらず、機会があれば、等と中途半端な気持ちで復讐するつもりでいた。つまるところ、シャアとガルマの間に築かれていた友情は本物だった、彼を殺す策を考えると脳が拒絶する。故に彼は、天運に委ねる他に手がなかったのだ。
復讐は終わった、彼との間に築かれた情がシャアの復讐を頓挫させる。
何時の間にかシャアの中で復讐を成し遂げるのに最も困難な壁がガルマになっていた。でもまあ、これで良かったのだと思う気持ちも少なからずあった。他の四人であれば、機会があれば躊躇なく殺す決断をする。
ガルマは首を横に振り、そしてシャアに仮面を被り直すように指示を出す。
「シャア、僕はまだ死ぬ訳にはいかない」
大人しく仮面を被るシャアに、ガルマは続けながら机の引き出しにある拳銃を取り出す。
「だから復讐は戦争が終わってからにしてくれないか? それまでこの拳銃は預けておく」
言ってガルマは自衛用の拳銃をシャアに放り投げる。
彫刻の掘られた気障な拳銃、ガルマらしい。と考える頭とは別に何故、これを手渡したのかシャアには理解が出来なかった。彼の副官であるダロタ中尉とキリー中佐がシャアを取り抑える為に駆け出すも「待て!」とガルマが声を荒げて制止した。
一瞬、これを口実に捕縛される事もシャアは考えたが、罠という訳でもないらしい。
念の為、弾倉を覗いてみると実弾が装填されていた。
「シャア、僕を殺すのは良い。だけどこれは取引……いや、男同士の約束だ」
ガルマの話はまだ続くようだ。
最早、シャアは何も考える事が出来ず、ただ友人の言葉に耳を傾ける。
「僕は、地球に降りる前までは大義の為ならブリティッシュ作戦も仕方ないと思っていたんだ。だけど地球に降りた後、コロニーの与えた甚大な被害を見て少し考えを改めた。僕は、兄さんや姉さんがやっている事を信じる事が出来なくなった。父さんも高齢だ、長くない。ドズル兄さんは作戦の指揮を執っていた。だから、だけど、僕はザビ家の人間だ、サイド3を裏切る事は出来ない。矛盾してることは分かっている。だけど、それでも、僕は、ジオニズムでも、コントリズムでもない、エレズムに立ち返り、地球再興を目指して、地球の社交界に協力を求めている」
一軍を担う方面軍としては失格、本人もその事は強く自覚していた。
故に彼は、軍を放棄することも考えた。
愛する人と共に隠居する事も選択肢のひとつに入れている。
苦悩する一人の男の独白に、この場に居る誰もが声を掛ける事が出来なかった。
この場には、ギレンにも、キシリアにも、信奉する人間が居なかった。
「僕は君の復讐に関与しない」
そう宣言した後、彼は、男の約束を突き付ける。
「だけど、もし君がザビ家に対する復讐を成し遂げたなら、ジオン・ズム・ダイクンの遺児としてサイド3……いいや、スペースノイドを導いて欲しい」
「冗談ではないッ!!」
シャアは弾倉を抜いた拳銃を地面に叩き付けた。
「そんなものを私一人に押し付けるなッ! やるなら二人だ! 二人で世界を変えるんだ、そうだろう!? 私達は親友ではなかったのかっ!? 親友なら私の隣に立って支えるんだ! 今は亡き父と貴様の父がやっていたようにだッ!! 貴様の父は、あの作戦に反対していたのだろうッ!!?」
「だ、だが、ザビ家の汚名はもう、濯ぐ事は……」
「濯がなくても良い! 貴様の父の若い頃は毒を食らえば皿までと清濁併せ呑む人物だったではないか!!」
シャアは机に座るガルマに歩みより、その胸倉を掴んで引き寄せた。
息が吹き掛かる距離、当たった額の衝撃で被せただけで固定していなかった仮面が地面に落ちる。
だけど、シャアは青い瞳でガルマを睨み付ける。
「私は貴様の兄と姉が好かん! ドズルもだ! 武人面して毒ガスによる虐殺を許容し、コロニーを地球に落としたのだからな!! だが、私も同類だ。知って見て見ぬふりをした!! 復讐の為だ! 反対しては信用されないからな!! 貴様だけだ、貴様だけなんだ! あの時、何も知らず、政治の舞台にすら上がっていない公国の権力者は貴様だけなのだ、ガルマ!! 親の七光りが謙虚に生きるな! もっと図々しく生きれば良いのだよ!!」
激励しているのか、貶しているのか。よく分からない親友の言葉にガルマは苦笑する。
シャアは、ガルマの襟首を離して、フンと鼻息を立てる。
唖然とするガルマの副官と妖精部隊の面々を見て、彼は地面に落とした仮面を被り直し、そして執務机に寄り掛かって太々しく笑みを浮かべる。
「見て分からんかね? 私はシャア・アズナブル。御覧の通り、ガルマの親友だよ」
余りにもあんまりな開き直り方に周りの人間は何も言えなかった。
シャア自身も無理があるのは分かっていたが最早、こうなっては勢いで押し切るしかない。
そして事の発端になったアルマが無言で、精一杯の主張としてビシッと手を上げる。
「……アルマ少尉、なんだ?」
空気の読めないアルマの行動に周りが押し黙る中、ガルマが問い掛ける。
「はい! ……宇宙世紀憲章というものを御存じでしょうか?」
その言葉を聞いただけで、この場に居た面々はニュータイプでなくても更なる地雷が待ち受けている事を察してしまった。アルマも空気が読めていない訳ではない。だけど話すなら今、この時しかないと彼女なりに考えた決断である。
「宇宙世紀憲章第七章第十五条、未来。えっと、将来、宇宙に適した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする。であってたかな?」
数十年後だと火薬の湿った不発弾。だけど戦時中の現在では、特大級の地雷だ。