NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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23.とっておきのサラダ、作っとくからね!

 一人で防衛に出たクロエが満面の笑顔で格納庫に帰って来た。

 とっておきの甘いものとせがむ彼女に対して、私、メアリーは呆れながらも「ジャブローに帰ったらパインサラダでも作ってあげる」と言えば「サラダは嫌」と返されてしまった。「ならパインケーキは?」と返せば「なんでパイン縛りなの?」って問い返される。なんでだろうね、私にも分からない。

 兎も角、彼女は無事に帰還した。

 仲間の支援があったとはいえ、公国の魔女部隊に加えて、赤い彗星までも退却に追い込んでみせたのである。

 とりあえず、私は、彼女をギュッと抱き締めて、頭を撫でる。

 

 なんだなんだで何ヶ月も戦場を共にした仲である。あの連中に勝てた事もだけど、ちゃんと生きて帰って来てくれたのが嬉しかった。

 

 それから一週間、公国軍の襲撃が鳴りを潜める。

 日に何度も合った襲撃は一度きり、途端に波を引いたのを機にホワイトベースは大きく西に舵を切る。まるで嵐の前の静けさのような妙に居心地が悪い。公国軍の拠点であるラスベガスの南を素通りし、逆に薄気味悪さを感じた頃になる。

 急に感じた敵意の思念に「あ、終わった」と思わず、声を零す。

 

「先輩、何があったんです?」

 

 ブライト後輩の言葉に、私は引き攣った笑みを浮かべて問い返す。

 

「一個大隊を相手に敵に大打撃を与えられるけど絶対負ける戦いをするのと、北米オールスターを相手にするのとどっちが良い?」

「⋯⋯先輩の中では、大隊よりもエース部隊の方が評価が高いので?」

「いやだってほら、三国志で例えるなら五虎将軍が肩を並べて待ち構える感じだよ?」

 

 あはは、ブライトは乾いた笑い声を零す。

 

「先輩、今の御時世に一騎当千だとか、万夫不当だとか流行りませんよ」

「今の御時世だからだね。戦闘機が戦場に現れて、戦いの部隊が陸から空まで広がった時、個が戦場を圧倒する多くの英雄が生まれた。科学が進歩し、環境が煮詰まれば、個々人の差は限りなく小さくなる。だけどミノフスキー粒子が齎した新しい環境は、英雄が生まれるのにうってつけの舞台。文明が未熟だから英雄が生まれるんじゃない、環境が未熟だから英雄が生まれる。個の武勇が戦況を左右する時代が再び来たんだね」

 

 赤い彗星然り、青い巨星然り、先日のクロエ然り、嘗てのナチスは負けたけど、ルーデル閣下の戦果が戦況に影響を与えなかったとは誰も言わないはずだ。個人の武勇は、環境によっては戦況を左右する。

 

「しかし、やはり、数の暴力には勝てないですよ」

 

 どうして、と問う私に彼は答える。

 

「だって先輩は、一個大隊を相手に絶対負けると言いました」

 

 ああ、と私は頷き、そして、続ける。

 

「確かに砲火が一人に集中しちゃうと難しいけど、ワンマンアーミーって訳でもないし、戦力って話だけで考えると正面突破は出来ちゃう気がする」

「では、どうして絶対に負けると?」

「弾薬と燃料、あと疲労の蓄積」

 

 今度はブライトが、ああ、と呟いて、いやしかし、と続ける。

 

「弾薬が問題なら全ての機体にハンマーを持たせれば良いのでは?」

 

 私は、後輩の目の下に拵える隈に、可哀想な子を見る目で見つめながら答える。

 

「ブライト君、頭大丈夫? 酸素欠乏症にでもなった?」

 

 重火器がある時代に、あんな鈍重な装備が合理的とか有り得る訳ねーですよ。

 バグパイプを片手にロングボウで突撃するジャック・チャーチルじゃねーんですわ。

 頭英国紳士はパンジャンドラムでも転がしとけ、理論上コスパ最強の兵器でゲスよ。

 

 

「⋯⋯むっ?」

 

 何処かで呟かれた英国紳士の単語に、連邦軍の英国紳士ことグリーン・ワイアット中将が積み重なる書類を前に反応を示す。

 彼は、今日も何処かで囁かれる英国紳士に由来する魂の言葉に笑みを深めて一杯の紅茶を啜る。

 人生とは紅茶を啜る事から始まる(no tea no life.)、英国紳士の言葉である。

 おそらく英国紳士の誰か一人は言っているはずなので、英国紳士の言葉である。なんなら今、ワイアットが思い描いたので結果的に英国紳士の言葉である。

 兎も角、彼が今、紅茶を脳を染み渡らせて休息を取ることになっているのは、とある計画案に頭を悩ませているからである。

 

 それは予算案、公国軍に対抗する為のモビルスーツ生産に費やす資金である。

 結局、戦争とは数と質である。万夫不当の存在を認めはしても、勝利を生み出すだけでは戦争には勝てない。質がなければ勝利が出来ず、数が居なければ維持が出来ない。戦争を陣取りゲームだと認識する時、相手の領土を奪い取るだけでは意味がないのだ。

 戦争は数である、質で劣っているのであれば猶更だ。

 この質というのは人の事である。連邦軍には、モビルスーツを運用した士官も居なければ、モビルスーツ戦を経験したパイロットも居ない。故に数でカバーするしかないのだが、公国軍のモビルスーツの数に対抗する為だけの数を、どうしても揃え切る事が出来ない。生産ラインの問題もある。

 頭を抱えるワイアットに突如、英国紳士の頭脳が何かの電波を感じ取った。

 

「……パンジャンドラム? なるほど、そうか」

 

 彼は脳裏に過ぎる英国紳士の魂をそのままに図面を引く。

 キーワードはコストパフォーマンス、ティアンムは艦艇の改修に目を付けて、モビルスーツに拘らないアイデアで連邦軍の戦力向上を考えた。そうなのだ、あえて、モビルスーツに拘る必要ないのだ。機動力は必要ない、必要なのは火力。モビルスーツの適性のない者も乗せられるように操縦系統も単純化する。それで人的資源の節約にもなる。

 想像力の思うがまま、彼が引いた図面は、ボール型ポッドの頭に砲を取り付けたシンプルな機体を生み出す。

 こうして(連邦軍の兵士にとって)悪魔の兵器が誕生した。

 

 ちなみに6月時点でプロトタイプとも呼べる兵器が既にあり、その為、認可されてからの生産までの流れが非常に早かった。

 何処の世界にも同じ事を考える人間は居るものである。

 

 

 決戦前夜の話、キャリフォルニアベースにて。

 

「これが私の考えた究極のモビルスーツです!!」

 

 ゲルマン人に魂を売った少女ことミア・ブリンクマン技術少尉がオリジナルMSの改造案が書かれた御手製のノートを部隊の皆に見せ付ける。

 そこに赤い彗星の姿もあるのは御愛嬌、女三人揃えば姦しく、陽キャが三人揃えばパリピである。アルマは偽装陽キャだが、細かい事はどうでも良く、如何に赤い彗星と云えども女三人の攻勢には抗えなかった。

 ちなみに妖精部隊の面々にとって、赤い彗星は戦友。即ちマブダチであり、異性的な感情は欠片も持ち合わせていない。

 

 キャーキャー言って、ノート中身を見せ付けるミアの開いたページには、ドムの姿があった。ドムの背中には、第二次世界大戦の遺物、アハト・アハトが搭載されている。

 

「⋯⋯お前、これって」とヘレナが引き気味に零す。

「はい、乙女の魂です!」

「近頃の乙女は、魂を砲弾にして飛ばすのか」

「中佐、此奴だけだと思いますよ」

 

 ヘレナのジトっとした目から放たれる辛辣な言葉、アルマもまた困った風に笑っている。

 どうしてこんな事になっているのかといえば、大破したアルマに代わりの機体を用意する必要が出たからである。そこでミアは最新型にとっておきの改修案を加えた機体をアルマに奨めたのが現状、アルマは前線に出る役目を担っているので「機動力が落ちる機体は困るかな」と丁重にお断りした。

 がっくしと肩を落とすミアに「まあドムが余っているのかも怪しいからな」とシャアが慰めにもならない言葉を掛ける。

 

「もう少し時間があれば、イフリートを用意してやれたんだがな」

 

 姦しい空間に男が一人、ガルマは自然とシャアと隣に並び立つ。

 親友の姿にシャアは自然と口元を綻ばせて、ガルマもまた親友を見て目を細める。

 そんな二人の姿に妖精三人娘は、そそくさと二人から距離を取る。

 薔薇の間に挟まる女は存在してはならないのである。

 勿論、シャアとガルマにその気はなく、三人娘が勝手にキャーキャー言ってるだけである。

 実際問題、二人は絵になるから仕方ない。

 

「急だったからな。高機動型と言われて、用意出来る機体はこれしかなかった」

 

 ガルマは言いながら、少し申し訳なさそうにタブレットを渡す。

 

「え、これって……」

 

 アルマは驚愕し、ヘレナは憤りを感じる。

 しかしミアだけはキラリと目を輝かせた。

 

「型式番号EMS-10、ヅダ! ピーキーな性能の機体は安全性に欠けると選考に落ちて、生産は少数に留められるツィマット社のプレミア機体、そのリニューアル!!」

 

 パンと両手を合わせて満面の笑顔を見せるミアに対し、コホンとガルマは咳払いをする。

 

「ヅダを地上用に改修する際にアルマ専用にチューンアップしてある。君達のメカニックは随分と優秀なのだな。安全面を徹底し、その上でリミッターを解除する機能も備えている」

「リミッターの解除?」

「ヅダは一定以上まで出力を上げ続けると暴走する問題を抱えている。その為、リミッターが備えられているのだが、あの悪戯妖精達と対抗する為に暴走を制御する機能を備えたらしい」

 

 そのメカニックが云うには、とガルマが指を一本立てる。

 

「1分、それで勝負を決めろ。という事らしい」

「1分……」

 

 アルマはタブレットに映し出された薄紫色のヅダを見つめて、そして力強く頷く。

 

「もう負けません!」

 

 その言葉にガルマもまた頷き返す。

 

「今回は悪戯妖精に完封した実績を持っている青い巨星も招集してある。流石に防衛の要であるイアン中尉は動かせなかったがな。正真正銘、僕が今、招集出来る全ての戦力を結集した」

 

 ガルマは右手を前に翳し、この場に居る四名を一瞥した後に告げる。

 

「勝つぞ、この勝負!」

 

 ガルマの言葉に、四人は四者四様の言葉で応じる。

 決戦の地は、ロサンゼルス。市街戦である。




ガンダムがないとジムが量産されないのであれば、
ジムの量産が決定した時期ってあの映画的に何時の想定なのだろうか、と少し思ったりする今日この頃です。
憶測の話ですが。
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