NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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25.ロサンゼルス決戦

 夜間迷彩用のシートが闇夜にはためく中、二体の青い機体がビルの屋上から飛び立った。

 陸戦型ガンダムを駆るクロエ・クローチェは、ある程度の高さまで降下した後、背中を高層ビルに押し付ける。それは、落下速度を調節し、相手の予測を外す為、そして、高度の優位を維持しながら眼下に見下ろす敵機に有りっ丈の火力を叩き込む為だ。

 鉄筋コンクリートを削り、硝子片が飛び散る。操縦席にまで伝わる振動、振れる照準を懸命に操作しながら今、放てる全武装を解放する。

 

「先手必勝ですッ!」

 

 右腕にロケットランチャー、左腕に100mmマシンガン。バルカン砲は頭部の他に左胸部。ランダムに補正を効かせて、ばら撒くように弾幕の雨を降らす。

 

「むうッ!?」

 

 先に地面に着地したニムバスが足を止めて、両手に握り締めたヒートサーベルで防御を固める横で青い巨星が前に駆ける。

 

「見た目は派手だがなあッ!」

 

 警戒すべきはロケットランチャーの弾頭だけ、シールドで胴体部の防御を固めてバーニアを吹かす。

 モビルスーツ戦は、一発の被弾が致命傷になる人と人との戦いではないのだ。

 多少の被弾は覚悟の上、活路を見出すのは窮地の中、意識の外から攻撃する発想はゲリラ屋特有の思考。背中に頼れる相方が居るから取れる強行策だ。

 

「弾幕の中をッ!?」

「たわけっ! だからこそなのだよッ!!」

 

 背中をビルに押しつけている都合上、回避は不可能。しかし攻撃する一瞬、相手は、構えたシールドを外す筈だ。その一瞬の隙を突いて、左胸部のバルカン砲の下に取り付けられたマルチランチャーを解放する。装填されている弾は照明弾、相手の視界を奪って一気に攻勢に出る策をクロエは立てた。

 しかし、グフはシールドによる防御を外す事をせず、より一層、バーニアを出力を上げる。

 

「北米のジャンヌ・ダルクから教えて貰わなかったようだな!?」

 

 ランバ・ラルが戦場に吠える。

 

「ゲリラ屋は情報が命ッ! 既に戦場に出ている機体の情報を、この青い巨星が知らぬとでも思っているのか青二才めッ!!」

 

 シールドを構えたまま、青い巨星は、その巨体ごと機体を敵機に叩き付けた。

 鉄筋コンクリートにめり込む二体のモビルスーツ、当然、ビルは耐え兼ねて倒壊する。崩れ落ちる中、軽く脳震盪を起こすクロエの視界に、瓦礫と共に落下する光景の中、橙色の熱刃がモニターに映り込んだ。

 故にクロエは脚部のビームサーベルに手を伸ばす。

 

「バカめッ! 目の良さが命取りだなッ!!」

 

 グフは右手にヒートソードを構えたまま、左腕のシールドから手を放し、自由になった左手を敵機に突き出す。

 左手首から放たれる鞭のような何か。

 クロエは胴体部の損傷を避ける為、左腕で弾こうとした。しかし鞭のような何かは左腕に絡み付いて、一時的に陸戦型ガンダムとグフが結ばれる。

 

 瞬間、ゾッとする嫌な感覚にクロエは咄嗟に判断でビームサーベルで鞭を切り離そうとした。

 

「ほう、鼻は利くか。さしずめ猟犬と云った所か、だが悪戯妖精の片翼と呼ぶには程遠いッ!!」

 

 陸戦型ガンダムが脚部からビームサーベルを引き抜いて切断する必要があるのに対して、グフはボタンひとつを押し込むだけ。鞭を伝って電撃が迸る。左腕から伝わる電撃に計器類が弾けて、モニターにノイズが走った。そして僅かな電気がクロエの身体にも伝わる。

 

「⋯⋯ッ!?」

 

 命には、別状がない電撃量。しかし、クロエの身体はビクンと跳ねて、意識が一瞬、現世から跳んだ。弛緩する身体、機体が地面に叩き付けられる衝撃。取り戻す意識にクロエが感じたのは、下腹部に感じる尿が零れる感覚。まだ雑音交じりのモニターに、青い巨星の巨体が熱刃の切っ先を自分の操縦席に突き立てる姿が映り込んでいた。

 

「その機体、中佐の赤い機体とも互換性があるならば、腕を貰い受けるぞッ!!」

「うあああああああっ!!」

 

 クロエが吠える、全身に有りっ丈の力を振り絞り、仰向けの状態から全開出力でバーニアを吹かす。

 膀胱に溜まっていた尿が一気に噴き出し、鼻先にアンモニア臭を感じてもクロエは止まらなかった。

 先程、使用できなかった照明弾が今、放たれる。

 

「ぐっ!? まだ動くというのかッ!?」

 

 クロエの乗る陸戦型ガンダムは、アムロとシャアが乗るガンダムと比較して性能が幾分か落ちる。

 しかし彼女の乗る機体には、英国紳士の愛が詰め込まれていた。

 部品には、開発後期に生産されたもの。そして規格落ち部品の中でも良品質なものを選別されている。

 

 その僅かな性能の違いが、陸戦型ガンダムのシステムを落とさなかった。

 

「連邦のモビルスーツは、公国のモビルスーツとは、違うんです!!」

 

 頭の片隅に過る戦闘後の羞恥、想像以上に溢れ出した尿が操縦席に水溜りを作る。朱に染めた頬に、涙を溜め込んだ目。彼女の着ているパイロットスーツは黎明期時代の物、まだ排泄機能が付いていなかった。クロエは、その全てを怒りに変換し、MAXモードを起動したバーニアの推進力で、先程、敵機がやった様に全身全霊で敵機を押し込んだ。

 

「漏らした訳ではないッ!!」

 

 感情が溢れただけだとクロエは、まだ膀胱に僅かに残っていた尿と一緒に持てる力を振り絞った。

 

 

 一方で、二機のガンダムがビームサーベルを振り被る。

 赤いガンダムはまだ本調子という訳ではない。切断された右腕は、辛うじて繋げる事が出来たという程度、戦闘に耐え得るものではない。故にシャアは慣れない左腕での戦闘を強いられており、まだ経験の浅いパイロットと互角に切り結ぶ事を強いられる。

 仮にも修羅場を潜り抜けて来たパイロットを相手に、片腕で対抗している事実が凄まじいのだが、しかしシャアは、もどかしさよりも憤りを感じている。

 

「ええい! ザクよりましではあるのだがなッ!!」

 

 少し距離を取り、頭部バルカンを斉射する。しかしガンダリウム合金の装甲を前には、豆鉄砲も同然。嫌がらせ程度の効果にしかならず、大したダメージにならない事に気付いた敵パイロットは弾幕の中を構わず駆け寄って来る。

 また頭も回るようだ。左腕一本で戦っている事にも気付かれており、赤いガンダムの右側へ、左腕を前に出して半身になれば、逆に背中側に回り込んで来ようとする。

 

「鬱陶しい奴めっ!」

 

 振り払う様に薙ぐ、ビームサーベルに相手は一歩、後退し、間合いを見切るように避ける。

 

「チィッ! 癪に触る躱し方を!」

 

 本来であれば、シャアは後一歩分の間合いを詰める。

 しかし右腕が満足に使えない以上、どうしても前に出る選択は博打の要素が強くなる。右腕が使えない事は相手に悟られている。ならば、逆手に取るまでの話。シャアは右腕で肩に差してある二本目のビームサーベルを引き抜いた。

 赤いガンダムの行動に、白いガンダムのパイロット、アムロは一瞬、動揺する。

 しかし、赤いガンダムの右腕は先日、クロエ少尉が切断したばかり、奪われたのは、あのガンダムだけでまだ予備パーツの準備も出来ていないはずだ。

 何よりも、相手の方が自分よりも格上である。

 此処まで隠し通す意味がないッ!

 故にアムロは、若者特有の思い切りの良さで一歩、大きく踏み込んだ。

 

 シャアは相手に右腕の存在をチラ付かせながら左腕を振り被る。そのわざとらし過ぎる仕草に釣られず、アムロは両手で握り締めたビームサーベルで、相手のビームサーベルを打ち払った。片手打ちよりも両手持ちの方が威力が高い、道理であるッ! 大きく隙を晒した相手の懐を目掛けて、アムロは勢いのまま、ビームサーベルを振り落とすッ!!

 

「若いな、ガンダムのパイロット。青い巨星なら、こんな陳腐な仕掛けに掛からなかった」

 

 右腕で打ち合う事は出来ない、本気で振り回す事も出来ない。真実だ、しかしビームサーベルを起動するだけならば、問題ない。多少、腕を動かす程度の事は可能だ。

 問題なのは、戦闘行動。日常的な動作なら問題なく動かせるッ!

 完全に不意を突かれたアムロの眼前に広がるビームサーベルの粒子、光刃の切っ先が白いガンダムのコックピットを抉る。

 

「チィッ! 右腕の反応が遅いッ!!」

 

 アムロは、辛うじて、消し炭にならずに済んだ。

 赤いガンダムの右腕の反応がシャアの予想よりも遅く、目測が外れて間一髪、白いガンダムのメインモニターを根刮ぎ抉るだけに留まった。肌が焼ける程の熱気の後、吹き抜ける冷たい空気。アムロは一瞬、頭の中が真っ白になった。

 しかし抉られた装甲の先に、あの時に奪われた赤いガンダムの姿を見たからアムロは、恐怖するよりも先に怒りで頭の中を埋め尽くす。

 

「うわああああああああッ!!」

 

 それは防衛本能でもあった。稚拙に振り回されるビームサーベルを赤いガンダムは必要以上に後退して距離を取る。

 

「子供だと⋯⋯?」

 

 ほんの数秒の僅か時間、シャアは戦いの中で戦いを忘れてしまった。

 迫り来る白いガンダムにシャアは今、自分が立っている場所が戦場である事を思い出す。紅白のガンダムが同時にビームサーベルを振り被って、交差する直前、視界の端に映るビルの中から二機のモビルスーツが現れる。

 ガンダムタイプとグフ、突然の乱入者にアムロとシャアは咄嗟に距離を取った。

 

 

 紅白のガンダムがビームサーベルで切り結んでいる間、ガンタンクに乗るハヤトは援護する事もままならず時間を持て余す。

 とりあえず何時でも援護が出来る距離で待機していると紅白のガンダムはビームサーベルで切り結んだまま、何処か遠くへと行ってしまったのだ。「ガンタンクで、ガンダムに付いていけるかよ」とハヤトは大きく溜息を零し、キュラキュラとロサンゼルスの街を徘徊する。

 そんな折、ハヤトの眼前をボコボコのスクラップ化した機体が、交差点の右から左へと吹き飛ばされるのを見た。

 

「こ、これって⋯⋯」

 

 ハヤトは生唾を飲み込んで、交差点の角からボコボコのザクが吹き飛んで来た方角を覗き見る。

 

「やってやる、やってやる♪ やってやるぜ♪ イヤなアイツをボコボコに♪」

 

 そこには鎖の付いたハンマーを振り回しながら複数の敵機を圧倒する軽キャノンの姿があった。中に入っているパイロットは半ば、自棄になりながら子供向け番組で流されてそうな歌を高らかに歌って、棘付きの鉄球を打ち据える。

 後にハヤトは語る。それは連邦の白い悪魔と呼び恐れられる彼女の、序章に過ぎなかったのだと。

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