NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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29.月は出ているか?

 アルマは咆哮する、ヅダを駆り立て閃光になる。

 ブースターを全力で吹かしながら切り払われるヒートサーベルの熱刃をピクシーは構えたビームダガーで真正面から受け止める。しかしヅダの出力を抑え切る事は出来ず、アスファルトの地面を削りながら後方へと押し込まれた。

 ピクシーのパイロット、メアリーは運動神経の良い方ではない。

 クロエの様に戦闘センスに優れておらず、反射神経も人並み程度。ニュータイプ特有の超直感で劣った能力の穴埋めをしているだけで、赤い彗星の様に持ち前のセンスにニュータイプ能力を上乗せできている訳ではなかった。

 それでも一般兵からすれば、脅威ではある。

 しかし、ニュータイプ能力があれば、無双できるというのは幻想に過ぎない。人類の革新とも呼べる力は、そこまで万能と呼べる代物ではない事をメアリー自身が強く自覚している。

 ニュータイプの戦闘能力は副次的なものである。

 

 メアリーは、ピクシーの膂力に任せてヅダを強引に振り払った。

 しかしアルマは優れた戦闘センスにニュータイプ能力を上乗せする類の人間、直ぐ様、体勢を立て直してヒートサーベルを振り翳す。メアリーは歯を食い縛りながら背後を見ず、器用に障害物を躱しながら後退する。熱刃と光刃が交錯する度、二人は刻の世界へと誘われる。弾けるキラキラ、光の流星群の中で二人は互いを睨み付ける。交差する視線に込められる想いは最早、言葉にする必要はなかった。

 現実と虚構を行き来し、アルマは後方支援の二人を置き去りにする。

 

 戦争をしているのだ。互いに互いの言い分があり、己を正当化して戦っている。メアリーは言葉を不要だと考えており、アルマは今、自分の抱えている想いを正しく言葉にする事が出来なかった。

 

 アルマは自前の超直感で上官であるキリー中佐がまだ生きている事を確認している。しかし重傷だ、片腕一本が潰れている。感情を処理出来ないアルマは咆哮し、ヒートサーベルを叩き付けるように振り回す。それをメアリーがなんとかいなして躱し、押し込まれる。

 二種の刃を交える中、二人が大通りに辿り着いた時、メアリーは視界の端にクロエの陸戦型ガンダムが二機の敵に追い込まれてるのを見た。

 メアリーは咄嗟の判断で自分の方からビームダガーでヒートサーベルを弾く。

 瞬間、二人は刻の世界に放り込まれる。もう既に語る言葉のない二人は、数秒と保たず、元の世界に戻される事になる。故にアルマは、その時に備えた。しかし、今回、先程までよりも刻の世界にいる時間が長かった。刻の世界には、時間の概念がないので、正確には体感時間。しかし、何時もよりも長く感じる時間に疑問を抱いた時、世界は現実に引き戻される。

 ガンダムタイプの白い機体が、急に方向転換する。

 

 視線で追い掛け、その先に居る陸戦型ガンダムの姿を見て遅れながらもアルマはメアリーの意図に気付く。

 あの引き伸ばされた刻の世界での時間は、メアリーが状況を整理し、次の行動を考えるまでの時間だった。

 

 メアリーには、持ち前の戦闘センスはない。しかし思考速度はアルマとクロエを遥かに凌駕する。

 クロエもまたメアリーの存在に気付いた時、至近距離故に通信が繋がる。「スイッチ」の掛け声と共にクロエは反射で、背後から迫るメアリーのピクシーと身体を入れ替える。

 ヅダのヒートサーベルと陸戦型ガンダムのビームサーベルが交差するのを背にメアリーは、赤い彗星と青い巨星の前に立ちはだかる。シャアとラルは、反射でピクシーに襲い掛かろうとした。しかし、ピクシーが無防備に左手の人差し指で頭上を指で差す。

 雲で覆われた星一つない夜空、深い雲の中から唸りを上げて姿を現すのは巨大な飛行物体。ガルマの旗艦であるガウ級攻撃空母。

 

「バカな、早過ぎるッ!」

 

 シャアは驚愕し、此処ではない何処かでエース級のパイロットが撃破された事を悟る。ランバ・ラルも同様、そしてメアリーは通信機に囁きかける。

 応じたのは、既に戦力外の烙印を押された者。白いガンダムが頭部のバルカン砲を斉射する。

 正面装甲なら問題ない。

 グフの装甲も満足に貫く事も出来ず、牽制用の武器と考えても弾数が少な過ぎて使い勝手が悪い。赤いガンダムにも備わっているバルカン砲の存在を、シャアは頭の中から半ば消してしまっている程に貧弱な装備である。

 しかし、正面と比較して後部装甲は薄く、ましてや背中に担いだ熱核反応炉を狙われては話は別になる。

 

「ぐぬう……エンジンの出力低下だとっ!? ランドセルに傷が入れられたかッ!!」

 

 青い巨星のパワーが一時的に低下、瞬間、クロエの陸戦型ガンダムがヅダを蹴り飛ばして反転、青い巨星を抑え込む為に飛び出す。

 同時にピクシーもまた赤い彗星と青い巨星の間を強行突破しようと試みる。

 左腕が捥れようともガンダムはガンダム。MAXモードも併用した突撃に、如何に青い巨星と云えども手一杯にならざる得なかった。

 

「行かせんよッ!!」

 

 しかし、そうなると当然、立ちはだかるのは赤い彗星。シャア・アズナブル中佐である。赤いガンダムに乗っていた彼は、ガンダムに乗っているからこそメアリーの目的に勘付いた。

 同じガンダムタイプなら、あるいは。ならば、此処から先に通す訳にはいかなかった。

 立ち塞がる絶望を前に、メアリーは分の悪い賭けに身を投じる覚悟を決める。次の瞬間、絶望は横殴りの不意打ちを受けて吹き飛んだ。

 

 ジャラリと鳴る鎖の音、棘付きの鉄球がメアリーの瞳に映る。

 

「……あら? かつてない程にスカッとしたわね」

 

 セイラが、妙に晴れやなか気分を味わう横で「ア、アルテイシアだとッ!? 何故、モビルスーツに乗っているッ!」と赤い彗星が情けない声を上げる。

 そして、メアリーは辿り着く。

 地面に落ちる白いガンダムのビームライフルの元に、拾い上げて、振り向き様にビームライフルを構える。

 

 ピクシーは、テム・レイ技術大尉が設計し、自ら手掛けたガンダムと同種の機体である。ガンダムの名を冠していないのは、設計当時はまだ、ガンダムの名は特別ではなかった為だ。

 大切なのは、名前ではない。中身である。

 ガンダムで得た知見を元に設計した、謂わば、完全版ガンダムとでも呼ぶべき代物。ならば、当然、ビーム兵器を搭載する機能は備わっている。

 

 間に合わなかったのは、火器管制システム。しかしメアリーは構わず、モニターに映る有視界の景色のみで照準を合わせる。

 メアリーには、戦闘センスがない。それは、想像と同じ様に身体を動かす事が出来ない為だ。士官学校時代、頭の中で展開する理論を肉体に反映する事が出来ず、彼女は自滅する形で敗北を積み重ねている。

 しかしモビルスーツの操縦系統には、入力を受け付けてから反映されるまでに誤差がある。

 クロエ、シャアの二人は、搭乗者の反射神経に機体の性能が追い付かない事に歯痒く感じている。

 だが、時間にして一秒未満の誤差、等しく誰もに訪れる先行入力とも呼べる猶予。その僅かな時間がメアリーにとっては有り難く、そして時間に余裕があれば、アポジモーターだけで姿勢制御をする超絶技巧が合わさって、最早、敵なしである。

 

「ッ!?」

 

 直感、アルマは身に襲う脅威に機体を半身に捩る。直後、光の閃光がヅダの半身を飲み込んで、背後にあるビル群に大穴を空ける。

 

「誤差修正良し、次弾まで残り……十分過ぎる」

 

 メアリーはビームライフルを頭上に構える。

 赤いガンダムには、まだビームライフルが搭載されていない。何故ならば、サイド7で鹵獲した時、搭載していた武器は頭部バルカンとビームサーベルだけだった為だ。ホワイトベースに搬入されていた備品の中にビームライフルが含まれている。

 しかし、その威力は知っている。

 ビームライフルの威力は、戦艦に搭載されているビーム砲と同等。故にライフルの名の通り、遠距離狙撃が出来るだけの威力がある。

 だが、しかして、月明かりもなければ、星も見えない雲に覆われた夜空。完全手動で的確に照準を付けられるであろうか。否、否である。如何にメアリーが超人的な技巧の持ち主であったとしても見えないものを撃ち落とす事は出来ない。少なくともシステムによる補佐は必要だ。

 故に猶予がある。

 シャアは、友の危機に妹への未練を振り切って、頭上に構えるガンダムタイプの妨害をせんと気力を振り絞った。

 

「月は、出ているようね」

 

 メアリーの呟きが、覚醒の兆しを見せるシャアの耳にも届けられる。

 ガルマの不幸は、雲を掻き分けて降りた背後に、眩い程に輝く月があった事。月の光を背に受けて、地上に降下するガウ級攻撃空母は格好の的であった。

 その全てを察した時、シャアの頭脳を覆い尽くすのは、絶望の二文字である。

 

「ガルマ! 退け、退くんだ!! いや、間に合わんッ! 回頭せよッ!!」

 

 レーザー通信で頭上の攻撃空母に通信を繋げる。キョトンとした顔を浮かべるガルマにシャアは必死で声を荒げる。

 

「北米のジャンヌ・ダルクが狙っているぞッ!!」

「……ッ!? か、回と…………」

 

 その瞬間、光の粒子が、降下するガウ級攻撃空母の艦橋を、的確に撃ち抜いた。




次回辺りで北米編もおしまいです。
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