NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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32.反攻作戦

 リカルド・マーセナスの名は、地球連邦政体を中心に据える地球主権の政体を決定付けた人物としてスペースノイドの間で目の敵にされている。

 というのも宇宙世紀憲章の文言には、宇宙コロニーを地球連邦政府の植民地として扱う内容が含まれており、この情報を掴んだ分離主義派、即ちが反対派の人間が、宇宙世紀憲章の公開前にテロ行為で爆破してしまった事が後の文献に残されている。

 しかし、抵抗虚しく地球連邦政府は分離主義者を断罪し、地球圏の掌握に成功する。

 

 以上が表向きのストーリー、マーセナス家に受け継がれる口伝とは異なる。

 

 リカルド・マーセナスは地球連邦政府の裏切り者である。

 本来、宇宙移民計画とは、民衆を方舟に押し込んで生殺与奪の権利を抑える事にある。方舟に押し込んだ民衆から労働力を永遠に搾取し続ける為の構図であり、多くの有力者が利権を求めて、地球連邦政府に多額の支援を約束する。

 謂わば、これは裏の公約であり、地球連邦政府は成り立ちからして腐敗してしまっていた。

 そんな時に初代首相として選ばれたのが、民衆からの人気があるという理由だけで選出されたリカルド・マーセナスである。

 

 政治家の家系ではない彼を傀儡化する事は、容易いと考えていたのだが、しかし、彼の能力を多くの者が見誤っていた。

 リカルド・マーセナスは、地球連邦政府の表向きの政策を全力で取り組んだ。

 成り立ちは歪でも、人類史初となる統一国家が誕生した意味と真剣に向き合った彼は、裏で確約されていた利権を無視して、完全なる民主主義への道を歩み出す事になる。

 

 宇宙ステーション「ラプラス」に首相官邸を置いたのは、地球主権から脱却を目的とした一手。政治の舞台が地球から宇宙に移行している事を民衆に示す為のものである。

 

 故に彼は殺される。

 マーセナス家のカリスマを二度と利用する事が出来ないように彼の息子であるジョルジュと約束を交わし、父親殺しを実行させる。

 彼を慕う情熱を持った議員、後援者もまた当日、発表する予定だった宇宙世紀憲章の刻まれた石碑諸共、爆発の巻き添えで死亡する。

 そして、ジョルジュは有力者の後見を得て、彼は三代目首相に任じられる。

 

 石碑は書き換えられる。

 人民の、人民による、人民の為の政治を目指した彼は、独裁者として名を残す事になり、政権奪取の後、ジョルジュは、負うべきだった汚名をリカルドに押し付けて、復讐を理由に悠々と分離主義者の排除へと乗り出した。

 リメンバー・ラプラス、を合言葉に。

 地球圏を掌握した後も彼は、テロ対策の為の政策を打ち出して、徹底的に民衆を支配下に収める。

 

 つまりは、ラプラスの箱というのは、地球連邦政府の汚点。宇宙世紀に入って以後、政権を握る与党の恥部である。全ての悪行を初代首相に押し続けて来たツケであり、連邦政府与党がラプラスの箱を所有するビスト財団の言いなりになる理由でもあった。

 

 旧姓はマーキス。ラプラス事件の当時、現在のサイアム・ビストは年若く、若者特有の正義感と無鉄砲、そして報酬を目当てにテロリストに加担する事になる。

 地球連邦政府の宇宙移民政策による社会の歪み、伴う貧困が自身の行動を正当化させる。

 貧すれば鈍するとは、よく言ったものであり、リカルド・マーセナスが地球と宇宙の垣根を超えた地球圏民の成立。即ち、宇宙移民に寄り添う側の人間だった事に気付けず、逆に地球連邦政府が地球主権を決定付ける最後の一押しをしてしまった事を知ったのは政財界に名を売り込んだ後の話になる。

 リカルドの真意に気付いた後も彼は暫く、止まる事が出来なかった。

 結局、自分も支配者側に回りたいだけの人間であり、若い野心の赴くままに悪逆非道なる地球連邦政府に制裁を加える意味も込めて、存分に強請り続けて来た事実を受け入れるまでに数年の歳月を必要とする。

 AE社の役員待遇を受け、野心を満たす。当時専務だった娘と結婚し、家族を得た。家庭を享受し、精神的にも落ち着いて来て漸く、彼は、自分のした事と向き合う事が出来たのである。

 ふと夢に思い出す焦げ茶色の少女。

 リカルドの娘として当時、何度か話題に上がっていた彼女の事を、家庭で幸福を実感する度に思い出す。

 自分は、なんて罪深い事をしてしまったのだろうかと。

 

 懺悔をする毎日、悪夢に魘される日々を送り、そして彼の安寧が約束されるのは冷凍睡眠装置で夢なき刻を過ごしている間だけだった。

 いずれ、ラプラスの箱を開放する必要がある。誰かに託す必要がある。

 サイド3が地球連邦政府に反乱を起こした今、箱を開放するのは自分の役割ではなくなった。

 テロを実行した結果。地球と宇宙の軋轢は決定的となり、コロニー落としにまで発展した。

 何も行動を起こさなかった結果である。

 

 勝手に死ぬ事は出来ない、自分はリカルドを悪党に仕立て上げた。故に自分もまた悪党として歴史に名を遺す事を望んだ。

 そうしなくては許されないと思った為だ。

 サイアムは贖罪する機会を求めている。出来ることであれば、復讐で殺されたいとすら考えていた。

 それこそが彼にとっての救いである。

 

 開戦による失意の中、少し眠ろうかと重くなった瞼を閉じる。満足な眠りは得られない。冷凍睡眠装置が恋しいが、しかし、今の戦争が終結するまで、自らと凍結しないと心に決めていた。

 その時、ポンとネットワークに新たな情報が入る。

 

「北米の魔女、もしくは救世主……? 名は、メアリー……っ!」

 

 なんとなく面影の残る顔写真に、いや、まさか、と思いながらもコンソールを操作して情報を収集する。

 

「経歴は、全て偽造されたもの……義父は、ゴップ大将……あの狸男か。親戚筋というのは、十中八九で嘘なのだろうな」

 

 サイアムは、コンソールを叩く手を早めた。

 

 

 ジャブローに帰還した翌週の事、私は再び北米の地に足を踏み入れる。

 軍服の襟には、二本の横線に菱形の星が三つ。大佐を意味する階級章を首に付けた私は、御義父様が用意してくれた新型モビルスーツと共にキャリフォルニア上空を駆けるミデアから飛び降りた。

 開戦以後、初めてとなる大規模の反攻作戦。作戦の立案は私、実行もまた私である。

 

 事の発端は一週間前の話になる。

 五階級も昇進する事になり、大佐になった私に与えられた最初の任務は北米大陸の奪還である。ジャンヌ・ダルクの伝承に重ねているのか、そんな簡単に奪還出来る訳がない。実際、連邦軍も本気で奪還出来るとは考えておらず、士気高揚の旗頭にでもなれば良いと考えている様だった。

 任じられた時は、砲兵でも固めて配置すれば良いんじゃないですかね? と思った私だが、程なくして北米の公国軍に大規模な軍の動きが見せる。

 

 ガルマの死後、整然と拠点を守り続けていたにも関わらず、今になっての大規模な配置換え。北米方面軍総指揮官、代理の第一席は青い巨星ことランバ・ラルだ。

 開戦初期から侵略した北米大陸を最前線で守り続けて来たイアン・グレーデン中尉が後方に移された事で、確信する。

 ランバ・ラルは更迭を受けた。

 恐らく、ガルマが戦死した責任を取らされる形で総指揮官の席を追われる事になったのだと考えられる。

 

 中東から北米に援軍が入ったという話もあるので、マ少将の子飼いの部下辺りが北米大陸に着任したのだと思われる。

 

 そこまで考えて、「あっ、今ですね」と言葉を零す。

 

 巧遅よりも拙速である。

 一転攻勢の好機に私の言葉にゴップは、武闘派の士官を焚き付けて反攻作戦を計画。絶体絶命からの逆転劇、耐えて耐えて耐え忍んだ九ヶ月が過ぎた今、布石の一手を打ち込んだ。

 勝利に次ぐ勝利、小競り合いで敗北する事は多々あっても戦局に響く程の敗北はない。ガルマが戦死したとて、まだ占領地を奪還された訳ではないのだ。

 連戦連勝に慣れ切った公国軍に初となる敗北を刻む事には、大きな意味がある。

 

 そして、何よりも開戦後、連邦軍にとって初となる勝利の中心に、自分が居る事が重要なのだ。

 

 平時であれば、戦争を望むような真似をしない。だけど戦時中の今、既に起きてしまっている戦争であれば、利用できるだけ利用してやれば良かった。

 

 キャルフォルニアベースへの奇襲は、驚くほどに鮮やかに決まった。

 魔女部隊の他に、青い巨星、赤い彗星と相手取って来た事に加えて、御義父様が用意してくれた新型のモビルスーツがある。

 負けるはずがない。

 

 

 キャルフォルニアベース掃討戦。

 ノイジー・フェアリー隊が拠点にする北米の屋敷、ティルナノーグから救援要請を受けてキャルフォルニアベースに辿り着いた時、既に拠点は陥落してしまっている。

 相当数のモビルスーツが配備されていたはずだった。

 その尽くが撃滅されており、残骸の中で佇むモビルスーツの影が三機。ガンダムタイプではない。白と黒と赤、内一機の白い機体が私達を見て、右腕に持った巨大な銃を変形させる。展開した姿は、まるでクロスボウ。アルマのニュータイプとしての超直感が仲間達に散開を指示を下す。

 数秒後、メガ粒子の光線がノイジー・フェアリー隊の三機に襲い掛かる。

 

 急なビーム兵器の発射に、妖精部隊の面々が錯乱状態に陥る。今、彼女達には、精神的支柱に成り得る統率者の存在が居ない。しかしアルマはキャルフォルニアベースの同胞達が逃げる時間を少しでも稼ぐ為に三機の足止めをする必要があった。

 ヅダとザクをニコイチした歪な機体で、彼女は分の悪い勝負に臨まざる得なかった。

 

 

 どうして、こんな窮地に追い込まれる事になってしまったのか、少し時間を遡る。

 

 

 ガルマ少将が戦死した後、国葬が放映された直後の話になる。

 ラル大佐はガルマ戦死の責任を取る為にサイド3に更迭し、傷心中のシャアもまた南アジアへと飛ばされる。またキリー中佐も重傷の為、本国に送還された。

 指揮官が不在の中、マ少将の子飼いの部下だと思われる人物がキャリフォルニアベースに足を踏み入れる。

 

 彼は北米方面軍の総指揮官の椅子に座り、北米戦線は大規模な配置換えが行われる事になった。

 

 北米大陸に残されたエースパイロットは少なく、妖精部隊を除いてはガルマ子飼いのマルコシアス隊、そしてイアン中尉だけであるが、マルコシアス隊は解隊し、イアン中尉が率いる砲兵部隊は後方に配置転換されている。

 統率者不在のノイジー・フェアリー隊もまた解散の危機に追いやられている。

 ガルマ少将の影響力を削いで、徹底的に管理をする方針なのだとか、なんだとか。妖精部隊は別々の部隊への配属予定となっており、残されたノイジー・フェアリー隊は、なんとか部隊を存続させる為に頭を捻らせる。

 そんな折に入った連邦軍の襲撃、キャリフォルニアベースへの奇襲の報告を受けた妖精部隊の面々は、それはそれ、これはこれ、と屋敷を飛び出して救援に駆け付ける。

 そして、拠点に辿り着いた時にはもうキャリフォルニアベースは壊滅状態にまで追い込まれていた。

 

 大量の航空勢力を引き連れた三機の新型機、公国軍は開戦後、連邦軍を相手に航空戦力の正面衝突で優勢を取れた事など一度もなかった。

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