初戦の大敗後、連邦軍は持久戦略に専念する。
作戦の立案、指揮を執ったのはティアンム中将。ブリティッシュ作戦でモビルスーツという新戦力の脅威を実感した彼は、早々に戦術的な勝利を諦める。
敵に出血を強いて、出来るだけ戦力を温存しながら後退する。
早々に早期決着の道筋に見切りを付けた事に、連邦政府からの反発もあったが、政府高官を相手に矢面に立ったのはレビル将軍である。彼が政府高官を相手にする事で、ティアンム中将は比較的、自由に動く事が出来た。
幸いにも連邦軍は、開戦後より公国軍に勝っている戦力がある。
それは航空戦力、初めて公国軍の航空戦力を見た連邦空軍、特に技術士官の人間は「宇宙人は、あんなものを浮かせて喜ぶのか! 変態どもがっ!」と憤慨し、TINコッドが至高の名機であると再認識する。
流体力学を踏襲した、流線型の機体。バーニアを吹かせて強引に飛ばすなど、人類史に対する冒涜も良いところである。
自身もTINコッドの逞しくも美しいボディラインに興奮する変態どもであることを棚上げし、変態どもと同じ道は歩めないと手前勝手に袂を分かつ。
勿論、AE社に対しても同様である。
コア・ブースターを開発する際にTINコッドを素にしたのは、褒めてやる。だが、しかし、それが、どうして、あんな寸胴な姿になるどいうのだ! なんだあのコックピットの突起物は! 皮の剥けたティ◯コかよ、TINコッドに対する当て付けかッ!? 赤い部分が更に厭らしい!! 先人に対する冒涜であるッ! 等と憤慨し、手前勝手に決別した。
AE社は「お前達の開発機体にデプロッグとかいうずんぐりデブの機体があるじゃねーか!」と反論した。無論、聞き届けられなかった。人とは、自分の都合の良い事しか耳に入らないのである。悲しいことだ。
そんな救いのない者達に救いの手を差し伸べたのが、仏のゴップである。
彼は慈愛の笑みを浮かべて、手を差し伸べる。そして俺達の考えた最強のモビルスーツを開発し、宇宙人どもを見返してやる計画がペイルライダー計画の全容である。
地球の変態どもは、さておいて、
連邦軍が公国軍よりも航空戦力で勝っていたのは事実であり、前時代的な、高度からの急降下爆撃(無誘導ミサイルによる爆撃)を以て、敵部隊に打撃を与えて遅滞戦術に貢献する。
流体力学の粋を極めた空力ブレーキがあっての芸当、ブースターで強引に姿勢制御をする公国軍の航空戦力で同じ真似は出来なかった。
そして公国軍は公国軍で空から槍の様に落下する地球の航空機を見て「あいつら命が惜しくないのかよっ!?」と恐怖する。また現代に蘇る木の葉落としの機動を見て「面妖な、変態パイロットどもめっ!」と言ったとか言わなかったとか。
兎も角、空を舞台に連邦空軍の将兵は大いに活躍する。
しかしそれも航空機が相手の話、モビルスーツ、それもザクが標準で装備しているマシンガンの存在が連邦軍のTINコッドを絶望のドン底に叩き落とす。
ザクマシンガンによる120mm口径の弾幕は、一発でも受けると大破は免れず、適当に斉射するだけでもパイロットを恐怖で震え上がらせる。
結局、TINコッドは火力不足もあり、モビルスーツに有効な兵器ではなかった。
特にアメリカ大陸のキューバ周辺、イアン・グレーデン中尉が率いる砲兵部隊の射程範囲内は、撃墜数を稼ぐ事を美味しく頂くと表現する事、そして有効射程が綺麗な円を画くことで「円卓」と呼ばれるようになる。
そして、大規模な配置換えである。
「即ち、円卓は解かれた。枷は外された」
メアリー大佐は、士気高揚のマスコットとして本作戦に参加する空軍パイロットの前で演説を強要されている。壇上で彼女は、声を張り上げず、むしろ低い声色で静かに伝える。
「諸君、我々の上官様は太っ腹だ。本作戦に弾薬の制限はなし、即ち、好きに暴れて良しとの御達しである。諸君達の任務は、囮である。派手に暴れれば暴れる程に効果的だ」
勇敢なる空の勇士達、とパイロットスーツを着た大佐が伝える。
「思い出せ、コロニーを落とされた日の事を。思い出せ、地図から姿を消した土地がある事を。思い出せ、コロニー落としの直後、頻発する天変地異に亡くなった市民の事を」
諸君、と連邦軍の空の獣達に呼び掛ける。
「今日までの鬱憤を晴らしたくはないか?」
開戦後、コロニーを落とされて故郷を滅茶苦茶にされた。作戦に必要な事だとしても遅滞しか出来ない現状に苦汁を舐めさせられて来た。
故に、北米の救世主の呼び掛けに応じない連邦空軍のパイロットは居ない。絶体絶命からの逆転劇に心が躍らない戦闘機乗りなど存在しないのだ。
連邦軍の高官が敵に察知されないかと不安になる程の歓声がジャブローの地下を揺るがせた。
◆
戦場の主役がモビルスーツに変わる過渡期、航空戦闘機は前時代の遺物として歴史に埋もれようとしていた時の話である。
開戦後、地球連邦軍が初めて反攻作戦を実行に移す。
目的は、キャリフォルニアベースの奪還。その為にジャブローに現存する大量の航空兵器が囮として、メキシコの空を飛んだ。
当時、カートランド軍事拠点にある通信の記録が残されている。
「て、敵襲! 連邦の戦闘機ですッ!」
「慌てるな、偵察機かなんかなのだろう? 何機か分かるか?」
「……が七です」
「七機か? 数が多いな、機種は?」
「違います! 敵の数は不明ッ! 敵が七分で青が三分ですッ!!」
「な、なにを馬鹿な……ッ!!」
実際に、それだけの数が空を飛んでいたかどうかは不明である。
しかし今まで公国軍が経験した事もない夥しい数の戦闘機が空を飛んでいた事だけは、彼の通信だけで克明に分かる。
実際、売れ残り機体のバーゲンセールだと言わんばかりの戦闘機が、カートランド軍事拠点を強襲したのである。損切りによる戦力温存はティアンム中将のお庭芸。陸上兵器が貧弱なので奪還までには至らないが、しかし航空火力による打撃力は健在。防衛設備は半壊まで追い込んだ。
その隙にメアリー率いる本命の部隊が、キャリフォルニアベースを強襲し、奪還。連邦軍で初となる戦略的勝利には、AE社のモビルスーツではなく、連邦軍自前のモビルスーツの名が刻まれる。
嘗て、機械化が進んで戦車が戦争の主役となる時代に、騎兵で勝利を収めた国がある。
時代遅れの兵器と呼ばれようとも運用次第では勝利を掴む事もある。
そして奇しくもオルレアンの乙女と呼ばれた少女の得意戦術もまた兵器の集中運用である。
後に、この戦いについてティアンム中将は「あれは幾つもの条件が重なった、たった一度きりの奇策のようなもので参考にすべきものは何一つない」と残している。事実、以後の歴史において、戦闘機が作戦の中核となって活躍する事はなくなる。
しかし最後に打ち上げた花火は苛烈で鮮烈、大量のミサイル爆撃に晒されたカートランド軍事拠点は二度と機能を完全に回復する事はなかった。
◆
北米のジャンヌ・ダルクは、元になったオルレアンの乙女と同様に馬車馬の如く駆けずり回る。
本作戦は、速度が重要である。
太平洋側より、航空機の護衛を受けたミデアが北上する。ミデアの内部には、三機の新型モビルスーツ。白と赤と黒、全てがペイルライダー計画の試作型である。
型式番号RX-80WR、白を基調とした機体の名はホワイトライダー。AE社とは別に独自開発した火器管制システム、その試験用に組み立てられた機体になる。
搭乗者は、メアリー・スー大佐。
彼女の階級が大佐にまで跳ね上がったのには、戦時中という特例と士官の死亡多数。そして、モビルスーツ部隊を率いた経験を持つ者として大尉や少佐程度では、階級が足りなかった為である。
というのもモビルスーツのパイロットというのは、階級が高い者が多いのだ。
彼女は、連邦軍がAE社と共同で開発した新型の量産モビルスーツ部隊を率いる隊長として、暫定的に大佐の階級が与えられている。
型式番号RX-80RR、白を基調に赤を加えた機体の名はレッドライダー。機体が搭乗者に与える負荷を検証する為に開発しており、搭乗者が乗る事を想定していない機体でもある。
開発者は、プロトライダーにクイックブーストを搭載した、あの彼である。
勿論、本機は検証用であるので搭乗者を乗せる事は本当に想定しておらず、操縦はAIに一任し、人形を乗せたり、パイロットスーツの性能向上に役立てる想定でもあった。
そんな自殺志願者用機体の搭乗者に志願した者が居る。
彼女の名は、リリス・エイデン少尉。
コロニー落としで故郷と家族を失った彼女は、目の前にある好機を見逃す事など出来なかった。
種類別名称準チョコレート菓子、黒を基調とした菓子の名はブラックサンダー。圧倒的なザクザク感で子供達の舌を満たす彼の菓子の愛食者は、クロエ・クローチェ中尉。
以上、三名が新生のモビルスーツ部隊である。
空軍のバックアップを得て、メアリーの部隊はキャルフォルニアベースに駐屯する防衛部隊を、千切っては投げ、千切っては投げの活躍を見せる。中でも一番の戦果を上げたのは、リリス・エイデン少尉。メアリーとクロエが引くほど、敵モビルスーツを執拗に撃滅していた。
キャリフォルニアベースを奪還し、連邦軍で初となる戦略的勝利には、AE社のモビルスーツではなく、連邦軍自前のモビルスーツの名が刻まれる。
今回の戦闘でメアリー・スー大佐の名は、公国軍、連邦軍共々大きく知れ渡る事になる。連邦軍からは若い女性の三人組の部隊という事で、妖精部隊の名で呼び親しまれるようになり、公国軍からはジャンヌ・ダルクの逸話から魔女部隊と呼び恐れられる。
余談になるが、クロエ中尉が駆る機体の型式番号はRX-80BR。黒を基調とした機体の名は、ブラックライダーでモビルスーツの新しい可能性を模索した挑戦的な機体となっている。
特殊な兵装を搭載した代わりにビーム兵器を装備する事ができず、結局、実用化する事は難しいという結論に達した機体である。
◆
公国の妖精部隊の面々は、辛うじてキャルフォルニアベース防衛戦を逃げ延びる。
拠点の屋敷が見つかるのも時間の問題という事で彼女達は拠点を放棄、一先ず、北米の二大拠点のひとつ、ニューヤークを目指す事になる。
それは、彼女達にとって長く過酷な逃亡劇の始まりであった。
連邦と公国の妖精で立場が入れ替わった瞬間でもある。