NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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誤字報告、高評価、感想、お気に入り等々ありがとうございます。
Z時代の装備を出しちゃったので修正入れました。


4.グポォォーン⋯⋯

 アースノイドを目の敵にする我々が地球に関する情報収集を怠ると思っているのかね。

 まあサイド3の出身だと行動に制限が掛かるし、大した情報を持ち帰る事も出来ないがね。どうせ、我々は文献の中でしか地球を知らないのだ。何年も続けて来た机上の空論を重ねるよりも、行ける時に行って、講和会議の日程調整だとか猶予期間中に現地調査をする方が余程、身の為になるとは思わんかね?

 そうすれば、地球の7割が海だからと海を制すれば、地球を制したも同然と水陸両用MSの開発に注力する事もあるまい。尤も、我が国が誇る研究者にそのような狼藉者が居るとは思わんがね。

 仮に居るとすれば、地球の重要拠点が何処にあるのか考えて頂きたいものだ。

 

 水の中に基地はないのだよ。水陸両用MSを作ったとしても拠点を置くのは結局、地上なのだ。艦隊決戦の歴史? 戦艦が空を飛ぶ時代に何を言ってるのだ? ああ、いい、貴様は更迭だ。他の者の下で頑張ってくれたまえ。私は、君が要らないと判断した。

 

 兎も角、ジオン公国の戦艦の一部は、最初から大気圏突入を想定してある。

 実際に使うかどうかは兎も角、連邦に戦争を吹っかけるのに地球への侵攻手段がないでは話にならんからな。コロニーでジャブローを破壊しても地球へ降りる事が出来ませんでは、結べる講和も結べんよ。

 ⋯⋯勝負は、講和会議の日程調整に入るまで。それまでに防衛拠点を占拠する事ができれば、及第点と言える。

 

 MSの戦略的アドバンテージはいずれ、消え去る。

 しかし今はまだ、有効的だ。敵地で戦う地の不利を鑑みても、押し切れる。と私、マ・クベは見ている。天の利、人の利は、公国に味方している。中央アジア地域の資源、そして北米大陸の重要拠点。此処までが最低限、そして、此処までが、我が軍の限界である。

 血気盛んな連中は、無作為の占拠に戦線拡大を求めるだろうが、それは自殺行為にも等しい。彼のハンニバル・バルカも兵站には勝てなかった。

 宇宙と地球の間には、恐らく、アルプス山脈にも匹敵する兵站の壁がある事を我々は心に戒めねばならない。

 故に、限界は設定する。

 故に、降下作戦は突撃機動軍だけで行うのだ。

 

 私の駒に赤い彗星も黒い三連星も必要ない。軍人の本分は忠誠心、愛国心の話ではない。任務に殉じる者こそが軍人である。

 

 

 北アメリカ大陸上空、ニューヤーク攻略の為に編成された部隊が落下傘での降下作戦を実行する。

 大気圏突入後、高高度から地上に放り出される薄紫色の特徴的なザクのコックピットで「一文字大佐、ふっざけんなゴラァっ!!」と金髪の美人が中指を立てる。

 必要なので、実行する。

 確かにその通りだ。戦争とは、勝利した直後の方が重要なのも、その通りである。

 だが現場の人間としては、冗談ではない!

 

 初めての地球降下、初めての大気圏突入。公国の優秀な研究者殿が如何に数値上の安全を雄弁に語ったとしても、それは机上の空論に過ぎないのだ。先に降下したオデッサの懲罰部隊が実践出来たと言っても、その情報の分析はまだ終えていない訳である。というよりも懲罰部隊では、四機に一機が降下に失敗している。馬を二頭落として片方無事だから良しってそれ、中世でも許されませんから!

 

 戦争をしているのだ、遺書は認めている。しかし、戦わずして死ぬ事は許容出来ない。赤く染まるメインモニターを前にして、思い返すのは西暦時代のゲーム映像。とある諜報員が森林の奥地に高高度の航空機から降下し、低高度でパラシュートを開いて着陸する場面を思い出す。確か、世界初のHALO降下とでも言っていたか。冗談ではない、私はあの物語の主人公を心から称賛する!

 

 キリー・ギャレットが、コクピットの中で有りっ丈の悪態を吐き捨てている間に頭上で落下傘が花開く。彼女が、ホッと息を吐いたのも束の間、今度は急に機体が重くなるのを感じる。ズシンと来る感覚、押し付けられるのではなく引き寄せられる。機体が、引っ張られる!

 

「これが⋯⋯地球の重力というものか!」

 

 地球の気候を配慮していない粗悪な落下傘、キリーは懸命にバーニアを吹かして姿勢を制御する。第2陣となる北アメリカ大陸で先陣を切る降下部隊は精鋭が揃えられている。後続は戦艦に乗りながら悠々と地上に着陸するようだ。それまでにまだ抵抗する防衛設備の鎮圧が私達に与えられた任務である。対空砲を気にせず、相手の拠点に無条件で降下できる唯一無二の好機。理解はしている、だからといって、あの一文字を許すつもりはなかった。

 

『引っ張られ⋯⋯上が下!? 下が上!? 機体の制御不能! 制御不能! 中尉、中尉ッ!! うわああああ⋯⋯ザザ⋯⋯ザ⋯⋯⋯⋯』

 

 部隊の一機が、制御を失って地表に向けて真っ逆さまに落ちていった。その姿を見て、キリーは舌打ちを零す。幸い、彼が落ちて行ったのは防衛拠点の上空、最も背の高い建物の中心に落ちて行った。

 

『中尉、彼は⋯⋯』

「戦死だ!」

『え?』

「彼は先陣切って雄々しく戦って死んだのだ! 誇れ、2階級特進で手当ても付く! サイド3に遺した家族達も幾分か生活が楽になるでしょうよ!!」

『はっ! 彼は雄々しく戦って散りました!!』

 

 彼は、我が部隊で最も若く、士官学校では、優秀な成績を修めた者だった。後は実戦を残すだけだった。

 

「死ぬなよ、公国は戦前から慢性的な人材不足なのだからな!」

 

 降下中、それも重力に引っ張られる状況では、機体の制御で精一杯で指示の一つも出せやしない。しかし、我が部隊の連中は、力強く『了解!』と声を上げた。

 

 

 窓から見上げた空から破片の一部が此処、ニューヤークの軍事基地に着弾する光景を私はただ呆然と眺めていた。

 破片が私が居る建物に着弾し、強い衝撃と一緒に意識が飛んだ。真っ暗闇になる世界の中、その奥でキラリと光る流星群。刻が私の身体を翔け抜ける。

 四方八方がキラキラと輝く世界の中で、私は、何度も夢で見て来たはずの光景を想起する。

 

 箱の中に、寝かされる。

 横腹に突き刺さる金属の破片、息苦しくて、今にも寝ちゃいそうで、それでも眠りたくなくて朦朧とする意識の中、硝子越しに私を見つめる母親に手を伸ばす。

 母親は下唇を噛んで、そして、私に手を重ねた。パキパキという音が聞こえる。意識が凍る。寒い、寒いよ、お母さま。涙を流しながらも苦しそうに笑みを浮かべる顔が、私が長い眠りに尽く前の最後の光景。とても悲しい事件が起きた事だけは覚えている。

 母の衣服と頬が煤汚れていた事で、ああ、うん。と私達のお家が爆発した事を思い出した。

 

 刻が、視える。今なら、分かる。

 死の淵に居る今だから視える光景、本来、私は此処に辿り着いちゃいけない事もなんとなく分かった。

 だから戻らなきゃ、此処には、お母さまも、お父さまも居るけども、だけど、二人が、私が此処に留まり続ける事を望まないって知ってるから、じゃあ、またね。と二人に背を向けて歩み出す。

 暗闇の中へ、此処はまだ私には、早過ぎる場所だ。

 

「⋯⋯お母さま、わたし、生きてるよ」

 

 全身が痛みを訴えて来る。

 幸いにも骨が折れている感じはない。バカでかい銃声音、今、此処が戦場になっている事を直感的に理解する。連邦軍は、劣勢だ。次から次に声が消えていく。このまま倒れている訳には、いかなかった。

 私は、傷付く身体を押して、身体を起こす。

 

「私の名前は、メアリー。リカルド・マーセナスの娘、メアリー・マーセナス」

 

 今、自分の意識が無事か確認する為に自分の立場を繰り返す。

 

「そして、ゴップ御義父様の愛娘ッ!」

 

 意識は、大丈夫。足に力は入る、握力も失った訳ではない。だから走るのだ。生きる為に、私は、まだ死ぬ訳にはいかない。捕まる訳にもいかない。私は、生き残る為に戦うのだ。夢の中で見た刻の世界、あの綺羅星が私を導いてくれる。

 運命に、導かれるまま、私は、駆け出した。生き残る為の最適解、此処は三階。崩れた壁の向こう側に倒れる鉄の巨人を見た。ハッチが開いていた。落下の衝撃で開いたのか、はたまた大気圏突入の時にロックが緩んでしまったのか。分からない、分からないけど、コックピットの中に居るパイロットが気絶している事だけは直感で分かった。

 だから、私は、三階からポーンと跳んで、意味もないって分かってるけど、腕と手を振り回しながら懸命に距離を稼いでコックピットの中に滑り込んだ。

 中に入っていたパイロットを外へ引き摺り出して、シートに腰を下ろす。

 

「⋯⋯うへえ、よくわかんにゃい」

 

 操縦するには、機器が多過ぎる。

 だけど大丈夫だ。何故だか私には、その確信がある。この配置に意味があり、人の意志が関わっているのであれば、逆算する事も可能なはず、私は一度、大きく深呼吸をした後で手探りでスイッチを操作する。

 戦闘機の飛行訓練に参加させて貰った事がある。

 

「所詮は人を乗せる乗り物、操縦システムのちょっとした応用よ!」

 

 使わせて貰ったのは、シミュレーターですけど。

 

 ──グポォォーン。

 

 最後のボタンを押した時、鉄の巨人に命が吹き込まれた。

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