NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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6.中間報告

 公国軍の拙速とも呼べる降下作戦は、概ね成功を収めたと言っても良い。

 ブリティッシュ作戦の直後で指揮系統が麻痺した連邦軍では、宇宙から降りて来る鉄巨人の軍勢に対空砲火すらも儘ならず、抵抗らしい抵抗もないままに地球の一大資源地帯オデッサ周辺と北米大陸の二大防衛拠点を手中に収める。

 地表に巨大な質量をぶつけた影響で地球上は異常気象と度重なる地震、津波が発生した事でコロニーの徹底管理された環境しか知らない公国軍の将兵は大いに苦しめられる事になるのだが、まあ、それは地球での生活に慣れた連邦軍にとっても同じ事。反攻作戦を取れるはずもなく、公国軍は短いながらも猶予を得る。

 オデッサ基地の司令官に就任したマ・クベ少将は、放棄出来なかった工業設備を再稼働し、北米のキャルフォルニアとニューヤークに存在する防衛拠点は、地球侵攻作戦の橋頭堡として使える程度には改修が進められる。

 元々、モビルスーツは、巨大人型重機として売り出していた代物。その頃の名残がまだ残るザク系列の機体にとっては、拠点構築なんてお手の物。連邦軍が驚く程の速度で体勢を立て直したと云える。

 逆に云えば、そこまでだった。

 ニューヤークの拠点を落としたキリー・ギャレット中佐とイアン・グレーデン中尉は残党のゲリラ化を防ぐ為に掃討作戦を上申したが、当時の作戦責任者であるマ・クベ少将はこれを受け入れなかった。

 地球降下作戦は、講和会議による猶予期間を考慮に含めた無茶のある作戦だ。

 此処で戦線拡大の暴挙をマ・クベ少将は、犯したくなかった。そして建前上は北米方面軍の総司令官であるガルマ准将もまた引き継ぎ作業に忙殺されているので異議を唱える事が出来なかった。

 連邦軍の残党が、後に大きな脅威になると分かっていながら二人は傍観する他にない。

 

 南極で行われた講和会議は、既定路線の通り、連邦軍と公国軍の同意を以て戦争の継続が決定する。

 知らなかったのは政治屋の高官だけで、地球連邦政府は我が身の可愛さで真っ先に降伏しようとしたし、デギン公王もまたスペースノイドの独立を認めてもらえるのであれば、停戦を受け入れる腹積もりである。

 というよりもデギン公王には、コロニー群の経済的自立さえ成し遂げれば、地球を孤立させる新しい経済圏を確立する算段があったのだ。事実、これは実現可能な話である。誰かが言った、地球はもう持たん時が来ているのだ、と。時間が掛かるという点を除けば、地球を除いたスペースノイドによるスペースノイドの為の経済圏の確立は、最も平和的な征服手段と云える。

 唯一の欠点は、経済圏の確立には時間が掛かる事。

 公国の舵取りをするギレン総帥は、経済圏を確立するまで地球連邦政府が大人しくしていると信じられる程、お人好しではなかった。

 

 丸くなった背中を見て「老いたな、父も」と悲観も込めて、ギレンは小さく呟く。それは思考力や判断力の低下というよりも長い時を掛ける事を厭わない価値観の変化に対してのものである。

 啜る珈琲が苦いと感じたのは、久し振りだった。

 最早、父は後事を託す事を考えて、己で事を成そうとする気概を失くされてしまった。サイド3の為に駆け回り、連邦を相手に喧嘩腰で立ち向かう父の背中を見て育ったギレンには、その事実が無性に悲しかったのである。

 

 一方で地球連邦軍、継戦を決断するも反攻作戦には時間が掛かる。

 すっかりと気概を失ったゴップ大将を尻目に連邦の武闘派は、反攻作戦の準備に取り掛かる。V作戦は、その一環。南極条約の一件で中将から大将に昇進したレビルから回された案件も、ゴップ大将はモビルスーツの分析、開発は急務である事は必要だと理解していた為、二つ返事で判子を押す。

 ゴップは日和見である。

 彼に己で何かを成し遂げる気概はない。しかし自分の代わりに考えて行動してくれる者に対しては寛容だ。是々非々で事に臨む彼の美点は、利権と派閥に左右されない所にある。

 軍の改革案に対して、次から次に判子を押すゴップの姿を見て武闘派の連中も評価を変えざる得なかった。書類に紛れ込ませた己の事しか考えていない案件は、即決で弾く所に好感が持てる。

 武闘派の連中は、実力主義である。

 己の出した提案を正しく採決するゴップは、腐敗した連邦の中では後光が差して見えたに違いない。仏のゴップの面目躍如である。

 今が戦時中なので判子を押す手が軽くなっているだけで、平時の彼は保守寄りの思考である点は無視する。

 そもそも彼は大将なのに作戦を一つも立案していないのだ。

 

 余談になるが、彼は盤上遊戯では、定跡を覚えた後の愛娘に勝てた事が一度もない。

 

 連邦軍と公国軍が体勢を整える中、空白期間とも呼べる時が流れで3月の事。ジャブローから秘密裏に発進したミデアが北米ゲリラと接触する。

 これには、目的がある。

 先ず最初に北米ゲリラとは、即ち地球降下作戦で公国軍に敗れた連邦軍の残党である。そしてV作戦は、秘密裏に遂行中。連邦軍の研究者が欲したのは、モビルスーツ戦の実戦経験。鹵獲したザクを改修した機体を北米ゲリラに送り込んで、戦闘データの収集をさせる事を考えた。

 連邦軍は、北米ゲリラの内情を知らない。軍部の高官がゲリラを率いていると信じていた。

 それだけ北米でのゲリラの動きは洗練されていたのだ。

 

 今回の強行作戦を任されたマチルダ中尉は、鉄道の破壊に工業設備への強襲。資源回収の為に輸送部隊を奇襲し、敵の侵攻を遅らせる為の遅滞戦術と多岐に渡る活躍を見せる者の正体が誰なのか気になっていた。

 軍内部でも称賛される切れ者、戦乱の時代に生まれた英雄である。しかし、合流地点に設定された、とある廃墟で彼女を出迎えたのは、まだ若い女性の士官であった。

 

「初めまして、マチルダ中尉。私は地球連邦軍ニューヤークベース所属、メアリー・スー少尉になります」

 

 彼女は、ゲリラの中で北米のジャンヌ・ダルクと呼ばれていた。しかし、この言葉を耳にすると彼女は、渋い顔をして「最後は火炙りですかね?」と不満げに零すのだった。

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