NT劇薬娘。   作:にゃあたいぷ。

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7.ニアミス

 型式番号RRf-06「ザニー」

 ルウム戦役で鹵獲に成功したザクを分析、改修し、モビルスーツ開発のノウハウを獲得する為に組み立てた機体である。故に問題点も多く、基幹となる部品は同じであるにも関わらず、ザクと比較して大きく劣る機体となっている。その上、武装もまだ試作段階の代物で、頻繁に弾詰まりを起こすことが確認されている。

 正直、ないよりはまし、程度の機体である。

 

「修理用のパーツはあります?」

「基幹となる部品はないけど、一式、揃えてるわよ」

「うへえ、直ぐに使い切っちゃいそうだなあ。中身がザクならザクの部品と互換性があったりします?」

「とりあえず、組み立ててみただけの機体らしいから規格もOSもザクのものを流用してると聞いているわよ」

「はえ〜、ザクに立ち返るのは何時頃になるのかなあ?」

 

 ミデアから巨大トラックに詰め込まれる機械人形を前に私、メアリーは、敵の勢力下まで機械人形を運んでくれたマチルダ中尉と意見を交換する。

 ザニーの整備の仕方だとか、注意点などを幾つか聞いた後、マチルダ中尉は少し神妙な顔で問い掛ける。

 

「⋯⋯ところで他の士官は、どうしたのかしら? 貴方が最高階級って訳でもないのでしょう?」

 

 ああ、それは。と私は、結論から語る。

 

「此処以外のゲリラは全て、壊滅しちゃったからです。薄紫色のザクが執拗に潰して回っていますんで」

 

 事の顛末を掻い摘んで話す。

 なんやかんやで陥落したニューヤークから脱出した私は、とある上官の下でゲリラ活動を手伝う事になる。だけど、作戦行動は、ほとんどせず、部下が掻き集めた酒と食料を一番良い椅子で浪費し続ける姿に辟易し、義父の後ろ盾のある私以外の女に手を出し始めた頃合いで愛想を尽かす。

 なんか丁度良い頃合いで敵機の襲撃を予見したので、見張りと言ってまだ堕落していない数名を連れて拠点を離れた。

 薄紫色の機体を二度目に見たのはこの時になる。

 

 ちなみに拠点の位置がバレた原因は、隊長が可愛がっている側近の一人が娼婦を買ったからである。

 

 ゲリラとしての活動を本格的に始めたのは、必要に迫られた為だ。

 食料を始めとした物資が尽き始めていた事、直ぐ近くで公国軍が物資の調達をしてた事。そして、これが、一番重要なのだけど、私が、元のゲリラ部隊から連れ出したのは、まだ抵抗する気概のある人達である。

 此処で日和見を発揮しては、今度は私が見限られる。

 そして彼等は正義感が強かったので、民間人に手を出すのもNG。故に、私は近場の輸送隊を襲撃する必要があったのだ。

 私は、自分で動くのは苦手だが、人を動かすのは得意である。

 私の考えた作戦を実行してくれる優秀な皆の活躍があり、襲撃は成功。そこで食料の他に充実した装備を入手出来たのが大きかった。

 そしてまた次の作戦も成功し、また一人、また一人と噂を聞き付けた連邦兵が合流する。気付いた時には、総勢50名の大所帯。他の壊滅したゲリラ部隊からも合流している。

 だけどまあ、それ故の問題もある。

 

「正直、食料がカツカツなんですよね。そこでマチルダ中尉に、お願いがあるんですよ」

「掻い摘んで、という割には随分と濃密な内容だったわね。⋯⋯何かしら?」

「補給部隊には、うってつけの仕事です。まあ御義父様、コホン、ゴップ大将宛の荷物の配送です」

「物資の要請なら、何度も運び入れるのは難しいわよ」

「いえいえ、持ってって貰うだけで十分ですので」

 

 小首を傾げる彼女に、私は、手招きをし、少し離れた場所にある酒場まで案内する。窓から中を覗き込んでみると昼間から酒に酔い潰れる民間人の格好をする屈強な身体の男達が居た。

 

「流れ弾で死なれる前に回収して頂けませんか?」

「⋯⋯ええ、分かったわ」

「やったー! ⋯⋯あ、いや、えっと、いやあ良かった! これで食糧問題も穏便に解決できます!!」

 

 私が満面の笑顔を浮かべるとマチルダ中尉は、引き攣らせた笑みで私を見つめた。

 

 

 この日は、雨が降っていた。

 輸送隊護衛の任務に就いていたキリー・ギャレット中佐は、地球の不規則な天候に嫌気が差していた。地球に降りた直後は、コロニー落としの影響で荒れ狂った天候と地震、津波と天変地異のオンパレードで環境など気にする余裕もなかったが、天候が安定し、地球の環境に慣れて来れば、思い通りにならない天気に苛立ちも覚える。

 公国軍が抱える気象予測士は当てにならず、何日も続く雨だとか、極度に凍える寒気だとか、虫だとか、なんだとか、早くサイド3に帰りたくて仕方なかった。

 しかし、彼女は、持ち前の強靭な精神力で己を律し、ゲリラ殲滅に尽力する。

 

 今回、公国軍が誇るエースパイロットの一人であるキリー中佐が、輸送隊護衛の任務に従事するのには理由がある。

 輸送用トラックには、地上用に特化したザクの試作機が積み込まれている。現状で公国軍が出し得る地上専用機であり、つまりは公国軍の知見と技術が詰め込まれた軍事機密の塊となっていた。

 現行武装の調整と防塵性の強化が今回の試作機の目玉となっている。

 

 最新鋭のモビルスーツが積み荷となれば、必ず、あのザクのパイロットが来ると、キリー中佐は女の勘で確信していた。

 

 彼女は、ニューヤーク攻略時に出会ったパイロットの事が忘れられないでいる。

 機体そのものは、イアン中尉(当時は、少尉)の砲兵部隊による面攻撃で破壊してある。だが、あのザクのパイロットが簡単に死ぬとは考えられない。事実、コックピットから死体が発見されていなかった。

 最後の瞬間、砲火に晒されるザクは、まるで運命を受け入れるかのように無防備で砲撃の雨に沈んだ。

 恐らく、あの時にはもうザクのパイロットはコックピットから脱出し、ザクを壁にして一斉砲火の面攻撃を生き延びたに違いない。

 そんな彼女の勘をイアン中尉も同意している。

 

 支援用MS部隊を率いるイアン中尉は、専ら防衛を主戦場にしている。

 拠点に縛られる彼は、外征に出る訳にはいかない。彼が遊撃に出られない分、ニューヤーク攻略の功績で少佐から中佐に昇格したキリーは、あのザクのパイロットを追ってゲリラ殲滅に明け暮れる。

 この数ヶ月、あのザクのパイロットは、見つけられずにいる。

 しかし生きていると確信している。結構な数の残党を掃討したにも関わらず、ゲリラによる被害は一向に減らないのである。ゲリラ活動をする連邦残党を尋問しても情報は出ず、だけど、他のゲリラ部隊と連携を取らず、独自に動いている部隊が存在する事は公国の北米方面軍の中でも周知の事実となっている。

 そして、そのゲリラの中に、あのザクのパイロットが居るとキリーは、女の勘で確信しているのである。

 

 ニューヤーク攻略から二ヶ月近くが過ぎる。

 執念にも似た想いで追いかけ続けて、未だに捕まらない宿敵。連邦軍がモビルスーツを開発する前に絶対に殺しておかなきゃいけない相手。地球降下作戦の後も精力的にゲリラを殲滅する彼女は今、ゲリラ殲滅の戦果で大佐への道も考慮されている。

 しかし彼女は、あのザクのパイロットの命が欲しかった。

 

 誰が呼んだかキラー・ハーピー。狙った獲物は逃さない。

 

 彼女の女の勘が今日、再びあのザクのパイロットが現れると確信を抱いている。

 

『中佐、報告です! モ、モビルスーツです! 連邦のモビルスーツが現れました!!』

「⋯⋯分かった、方角を」

 

 やはり来たか、キリー中佐の操縦桿を握る手に力が込められる。

 

『あ、いえ、此処ではなく、食料を運んでいた輸送隊が襲撃を受けました』

 

 ──バンッ!

 

 キリーは、台パンした。

 

『ち、中佐⋯⋯?』

 

 ──バン、バンッ!!

 

 キリーは、続けて二度、台パンした。

 

『あ、あの、如何なされましたでしょうか?』

「もうやだ! 私、宇宙に帰る!」

『は、はあ!? 中佐殿!? 本当に如何なされたのです!?』

「お風呂はないし、シャワーも3日に一度も浴びれたら良い方! 埃っぽいし、なんか臭いし! 天気予報は当てになんないし、どれだけ対策しても虫が部屋に入り込んでくるし!! もうやだ、帰る!!」

『中佐がご乱心なされたぞ! 中佐、中佐ァーっ!!』

「許してなるものか、あのザクのパイロットッ!!」

 

 一方で、あのザクのパイロットは、特大の敵意にブルリと身を震わせる。

 公国軍が宇宙から地上に送り込んだ食料をトラックに詰め込みながら、強大な意志を感じる方角を見て、やっぱり行かなくて良かったと胸を撫で下ろす。

 キリー中佐が、標的に出会えないのは、その執念の強さにあるのかも知れない。

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