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5月初旬、戦線が膠着し始める現状。
公国の北米方面軍は、神出鬼没の活躍を見せるゲリラ部隊に悪戦苦闘を続けている。この事は、北米を任されるガルマ准将の立場も危うくしており、所詮は七光りの坊ちゃん将軍と現場を知らない宇宙軍の将兵から揶揄を受けるようになっていた。この現状に頭を悩ませたガルマは、自身の名誉よりも現状の打破を優先。兄であるドズル中将と姉のキシリア少将に援軍を要請する。
しかし南極条約の締結時、レビル大将が演説で「ジオンに兵なし」と語ったように公国軍は徐々に戦況が苦しくなりつつある。故に予備戦力は既に底を着き始めており、戦線から兵力を引き抜くことは以ての外である。
故に、ドズルとキシリアは現在、戦力として数えられていない者を援軍として、北米大陸に送り込んだ。
「……確かに、キラー・ハーピーの報告書にあったように、相手は此方の行動が読めているようだ」
砂漠化が進んで、荒地が増えた北米大陸で公国軍の軍服を着た中年太りの男性が双眼鏡を片手に告げる。
彼が実際に地球へと派遣されたのは、4月中旬の話。ドズル中将の説得もあり、渋々と地球に降り立った彼は、対ゲリラ鎮圧部隊の隊長に任じられる。外様であるはずの自分に対して、ガルマから存外の待遇を受けた彼は、受けた恩くらいは返す、と宇宙に居た時よりも乗り気で戦争に参加している。
そして、もう一人、キシリア派閥から派遣された者が自分の部下として今回の任務に就いている。
暫くして、男は最新鋭のモビルスーツで伏していた彼の部隊の下に駆け寄り、コックピットから姿を見せた。
「大尉殿、相手の退路を塞ぐつもりで回り込んでみたが、駄目だな」
男は金髪で、自尊心の高そうで、自信の垣間見える立ち姿をしている。
「読みではない、あれはこちらが見えているとしか思えないな」
「そうか。……特殊な状況とはいえ、大尉が二人では、やはりややこしいな」
「では隊長殿だ、ランバ・ラル隊長。階級は同じだが部隊の中では貴殿が上だ。同じ目的を志す者同士、派閥も関係ない。遠慮せずに命令してくれ給え」
「貴殿の心遣いに感謝するよ、ニムバス大尉」
ニムバスの堅苦しい態度が少し窮屈に思えるも、変に拗れるよりも余程ましだと考えてラルは敢えて彼の若い騎士道に触れずにいる。
「あれを仕留めるには、策が必要だな」
「策があるのか?」
ニムバスの言葉にラルは髭を撫で、今から考えると素直に告げる。
「……隊長殿、相手の思念が読み取れる人間が居る。という話を聞いて、貴殿は信じるか?」
ニムバスの唐突な言葉にラルは小首を傾げる。
「それは勘が良いとか、そういった意味ではなく?」
「私は、此処に異動する前、少しの間だがフラナガン機関と呼ばれる研究所の関連施設に所属していた事がある」
「フラナガン機関?」
「早い話、超能力者の研究だ。新人類という意味でのニュータイプを解明する事を目的としていた」
「胡散臭い、滅亡末期の国家のする事だな。そんな事を本国ではしているのか?」
「私も、最初はそう考えた」
しかし、とニムバスは話を続ける。
「これがバカに出来ないのだ。私は、とある少女と出会った。彼女には、刻が視えた。人の心を覗き込む事もあれば、自分に向けられた感情にも似た思念を感知する事も出来る。今は、ニュータイプ特有の思念の波を読み解いて、機械を動かす仕組みを開発していたのだったかな?」
「まるで安いSF小説だな」
「私が施設で出会った少女、マリオン・ウェルチ。彼女は施設で過酷な研究の対象になっている。私は、彼女を施設から解放する事を条件に、今回、地球に降り立っているのだ」
到底、信じられるような話ではない。
しかしニムバスが謀略を得意としない真っ直ぐな性根の持ち主である事を短い付き合いでラルは感じていた。
謀略を弄するにせよ、彼は、人情に反する事が出来る人間ではない。
「しかし、この最新鋭のザク。素晴らしい性能だな、本当に私が使って良かったのか?」
彼が駆るモビルスーツの名称は、陸戦高機動型ザク。現在開発中のグフのデータを流用し、キャリフォルニアべースで開発した機体である。彼の機体には、特別にまだ試作段階のヒート・サーベルが装備されている。ガルマも必死なのが伝わって来る。部隊の壊滅もあるがザクが数機、既に完全な形で鹵獲されている事からも彼は追い詰められている。
「ああ、儂は部隊の指揮を執るのが仕事だからな。最前線を張って貰う以上、一番良いモビルスーツに乗るのは当然だ」
「心遣い感謝する」
「感謝するのは此方の方だよ」
彼は敬礼し、そしてコックピットの中に戻る。
ラルもまたコックピットに戻り、ザクもどきを駆る連邦のパイロットの事を思いながら母艦であるギャロップを目指す。本当は機動力を考えて、航空能力のある母艦の方が良かったがガルマ准将に「こんなものしか渡せないが」と申し訳なさそうに言われてしまっては受け入れるしかなかった。
補給が切れる心配をしなくても済むというだけでも公国内では、破格の条件である。
「ガルマ坊ちゃんはあまい、あまい男だが、ああいうあまさは嫌いにはなれないな」
コックピットの中でラルは一人、呟いた。
ドズルは武人でザビ家の中ではまだまともだが、どうせ命を張るなら武人よりも坊ちゃんの方が数倍、やりがいがある。
◆
……動きが変わった?
何時ものように兵站部隊に奇襲を仕掛けていた私、メアリー・スーは敵の気配が微妙に変わった事を敏感に感じ取る。しかし相手の指揮官が変わるなんてのは、珍しい事ではない。なんだか観察されているようで嫌な感じはするけども、あの薄紫色のモビルスーツから感じていた強い執念のようなものは感じられなかった。
なので今はまだ頭の片隅に置いておくだけで良いかな、と軽い気持ちで臨んだ。
ザニーは、受領した後でも改修を続けている。
完全な形で鹵獲したザクは、研究用にジャブローまで送って貰ったけど(どうせ乗れる人が居ないし、私もよく分かんないまま乗ってるし)、壊れたザクから部品を拝借し、貧弱なマニピュレーターはザクと同様の腕に付け替えている。おかげで今は二振りのヒートホークを振り回している。
武装も基本は、ザクからの流用品。連邦の装備はまだ洗練されていないのでザクの装備を奪った方が性能が良いし、輸送隊を襲って補給する事が出来るので使い回しが良かった。
120mm低反動キャノン砲だけは、大切に使わせて貰っている。
以上が4月末の話、開戦から4ヶ月も過ぎれば、部隊の皆も一端の顔になっている。
私よりも階級が上の兵士も何名か居るのだけど、階級とか関係なしに部隊を率いるのは私の役目、上官様には部隊の維持と管理に注力して貰っている。
そして5月に入る。
何時ものように補給がてらに輸送隊を襲撃していた時の事、数週間前から感じていた、舐めるように見つめる気配が消えている。逆に強い意思で私を追い込もうとする男の気配を感じ取り、追い立てる彼から逃げるように私は距離を取る。
待ち伏せをされている気配を感じる。
これは待ち構えられていたようだ、と私は早々に撤退の指示を出し、逃げる方角を決めて撤退を開始する。
なんだか仕事がやり難くなったなあ、と思ったその時、岩陰から青色のモビルスーツがヒートホークを片手に襲い掛かって来た。
「読み取れなかった!? ……いや、巧妙に隠されていたんだ!!」
強い気配が一機、待ち伏せする大量の気配が一処。
息を潜めて、心を隠す。私を狙い討った奇襲にヒュッと息が零れる。
兎も角、応戦する必要がある。
足元の装甲車を用いた機械化部隊を踏み潰さないように一歩、前に歩み出してヒートホークを振り抜いた。
しかし焦りもあってか、青いザクは一撃で私の手から武器を弾き飛ばした。
──若いな、ザクもどきのパイロット。公国の為とは言わん、一介のゲリラ屋として貴様を葬ってくれる!
それまで、どうやって気配を押し殺して来たのか。
強大な意思の力が、まるで巨星のように私の前に立ち塞がった。
薄紫色のモビルスーツが相手の時も感じなかった、明確な格の違いが其処にはある。