遊戯王世界で遊戯王するわけないだろ!! 作:アステリアス
アトリエの奥にある広々とした作業スペースで、ハイネは真剣な表情で布地を広げていた。光沢のあるダークブルーの生地が机の上に広がり、その上に彼女の細長い指が滑らかに動いていく。布地に触れるたび、指先がそっと押し込むように柔らかく動き、その繊細な動きが布の美しさを際立たせていた。
「これでいいかしら……でも、もう少し肩のラインを強調したほうがいいかも」
彼女は独り言をつぶやきながら、丁寧に寸法を測り、生地を裁断していく。その手つきは熟練した職人そのものだ。薄いメジャーが彼女の手に巻き付けられ、軽やかに布の表面を這う様子は、彼女の手に宿る経験と技術の証だった。
「ハイネ、何してるんだ?」
増田が部屋に入ってきて声をかけると、ハイネは少し驚いた様子で顔を上げた。明るい窓辺からの光が彼女の髪に反射し、柔らかな輪郭を描き出していた。
「あ、マスター。ちょうどいいところに来てくれた。実はあなたに贈り物を作っていまして」
「贈り物?」
増田が首をかしげると、ハイネは優しく微笑んで答えた。微笑みには少しの誇らしさが滲んでいる。
「マスターにぴったりのジャケットを。転移してきてから、服の調達に困ってるって言ってたから。だから私が作ってあげようと思って」
増田は驚きながらも、少し照れくさそうに笑った。
「そうだったか。ありがとう、ハイネ。でも、俺にそんな手間をかけなくてもよかったのに」
「手間なんて思ってない。それに、マスターには私の作品を着てもらいたいの」
そう言うと、ハイネはメジャーを手に取り、増田の方に歩み寄った。その姿勢は、自信に満ちた職人のものだった。
「じゃあ、採寸するね。じっとしてて」
ハイネは丁寧に増田の肩幅や腕の長さを測り始めた。彼女の手が肩に触れるたびに、増田は少し緊張したような表情を見せる。肩越しに近くから感じる彼女の気配が、どうにも落ち着かない。
「こうしてちゃんと採寸するのが、服作りには大事なのよ。適当なサイズじゃ、せっかくのデザインも台無しになるの」
「そ、そうだよな……」
増田はぎこちなく答えながら、目線をどこにやればいいのか迷っている様子だった。ハイネの真剣な表情が近くで見えるたびに、心臓が少し早くなる。
「はい、次は腕を測るわね。腕を伸ばして。」
言われるがままに腕を伸ばす増田だが、ハイネの手が軽く触れるたびに、どうにも落ち着かない。その手は驚くほど冷たく柔らかく、触れるたびに妙な意識をしてしまう。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。私はただ採寸してるだけなんだから」
ハイネはくすっと笑いながら、増田の腕をそっと伸ばし直した。その仕草は柔らかく、それでいてどこか親しみが感じられるものだった。
「……なんだか、これってちょっと恥ずかしいな。」
増田がぽつりと漏らすと、ハイネは少しだけ顔を赤らめながらも微笑んだ。頬にかかる髪を耳にかける仕草が、彼女の優しさをさらに引き立てる。
「私だって、マスターにこんなに近づくのは少し緊張してるのよ」
その言葉に増田はさらに照れてしまい、ますます動きがぎこちなくなる。そんな彼の様子を見て、ハイネは小さく肩をすくめた。
「これで大体の採寸は終わったわ。あとは私に任せて」
数日後、ハイネは完成したジャケットを増田に手渡した。それは彼の体型にぴったり合うように仕立てられており、シンプルながらも洗練されたデザインだった。ダークブルーの生地には細かな刺繍が施され、控えめながらも品のある仕上がりになっている。
増田が感動したような声を上げると、ハイネは満足そうに微笑んだ。彼女の顔には少しの緊張が見えるが、それ以上に達成感が表れている。
「ええ、試着してみて。サイズが合わなかったら、すぐに直すわ。」
増田はジャケットを着てみると、その着心地の良さに驚いた。軽く、しなやかで、体にぴったりと馴染む感覚が新鮮だった。
「すごい……こんなにぴったりな服、着たことないよ」
「当然でしょ? 私が心を込めて作ったんだから」
ハイネの言葉に、増田は静かに頷き、感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、ハイネ。本当に素晴らしいよ」
彼の言葉に、ハイネの顔が少し赤く染まる。それでも彼女は嬉しそうに微笑み、軽く頭を下げた。
こうして、ハイネ特製のジャケットは増田の新たな日常を彩る一着となったのであった。