お嬢様転生in宇宙世紀   作:加藤=アールパード・清正12世

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十話 哨戒艦隊中央殴り込み艦隊(一隻)

 ミノフスキー粒子によって、地球圏のインターネット網は完全に寸断された。

 現在わたくしが駐留するサイド6は人口5億強を擁しているし、そのローカルネットは十二分に賑わってこそいる。一方で、サイド外の情報はまるで入ってこない。

 ……いや。実際には入ってきてはいるのだ。外部サイドの死に物狂いの光通信や、民間船で逃れてきた難民がもたらした情報。それらが伝える凄惨な現況。

 

 わたくしはグワジンの無重力ブロックをぷかぷかと浮かびながらローカルSNSを眺める。

 ブレイキングニュースの見出しとともに、いくつもの情報が流れてくる。戦争関連情報。株価の乱高下。政治家や当局の声明。そのなかでも最も衝撃的な見出しは、ジオン公国軍によるサイド1、2、4のスペースコロニーへの同時攻撃――コロニー潰しだ。

 とはいえ現段階ではその真偽はまるで不明。民間レベルの噂から始まったコロニー潰しの報道に対し、サイド6の公的機関や大手メディアは沈黙を保っている。コロニー潰しは事実なのか? デマなのではないか? あるいは政府や組織による陰謀か。実際に起こったとして、それは正しいだの間違っているだの……誰も彼もが根拠に基づかない意見発信と情報拡散を繰り返した混乱のるつぼ。

 はぁ、こうしてSNSみたいな場所を俯瞰してみてしまうと、人類は旧世紀から一歩も進歩できてないんじゃないかって思ってしまいますわね。自分からSNSを覗いてその醜悪さに絶望するなんて、鶏が鳥であると喝破して絶望しているようなものだというのにね? わたくしってばちょっと反省。

 

 顔をパチンと叩いてお嬢様モードに切り替えたわたくしは、高笑いしながら艦橋に入室する。

 グワジンは出航準備を終え、ノヴィス・ノアのドッキングベイから出るため、徐行運転に入っていた。

「おーっほっほっほっほー! ――艦長! 準備はよろしくて?」

「もちろんです。しかし奇妙なものですな。こうしてドッキングベイでは仲良しこよしで連邦の軍船と並んで、宙域から出たらドンパチしようって言うんでしょう?」

 そういって艦長は艦橋の窓から、ちょうど横に乗り付けているサラミスを睨みつける。

 こうして敵軍同士の軍艦が二つ並んで停泊とか軍事機密もあったもんじゃないとは思うのだが、サイド6の公式見解を借りるならば、ジオン軍も連邦宇宙軍も同じ地球連邦の軍隊であるのだから同じ場所に停泊させるのは道理……ということらしい。現場レベルでの精一杯の嫌がらせだろうね。ご苦労さまです。

「総員、戦闘配置。サイド6宙域を離脱すれば実戦だ。気を引き締めろ」

 艦長さんがクールに艦内通信を終える。さて、そろそろわたくしも出撃準備をしなくては。

 

 ◆

 

 ……さぁて。そろそろ、ぶっちゃけた話をしよう。

 このジオン=連邦間の戦争における、わたくしの最終目的の話だ。

 わたくしはジオン公国の高級士官であり、その勝利のために戦う軍人さんだ。そのことを否定するつもりはない。だが――ジオン公国に勝ってもらうつもりもない。

 正確に言えば、ジオンに大勝してもらっては困る。なぜか? ジオンが勝った未来にあるのはギレン・ザビによる独裁だからだ。この世界で地に足をつけて生きるわたくしの政治的信念は、それを受け入れられないのだ。

 一方で――地球連邦政府に勝ってもらうつもりもない。腐敗に満ちた官僚独裁など、目も当てられない。

 

 わたくしは……この世界に魅了された転生者として、あるいはこの世界に生きる一人の人間として、まだ見ぬ世界が見たい。それが人類一人一人の運動、ニュータイプによる革新であるか、大局のうねりによる政治的改革であるか、はたまたまったく別方向からのブレイクスルーか。いずれにせよ構わない。

 能うならば、それをわたくし自身の手でつかみ取りたい。そのために必要なのは――口にするまでもなく自明ではあるが――ジオン公国と地球連邦の共倒れだ。

 その先にある地球圏全体の混乱。それが人類の破局のトリガーとなるか、あるいは人類文明中興のための滋養となるか。どうあれ、その決定権は絶対にわたくしが握りこむ。わたくしにとってはそのための戦争であり、そのためのモビルスーツだ。

 深宇宙の深い闇に、わたくしの思考は溶けていく。

 

 ◆

 

「大尉殿。こんな時になんですが、衛生部から報告が」

「なんです、艦長。出撃30分前ですわよ……」

 ノヴィス・ノアを出航して半日。グワジンはサイド6宙域外縁に差し掛かっていた。

 開戦直前にどたばたと締結されたジオンとサイド6の条約には、サイド6宙域での戦闘行為を禁じる条項が含まれている。そしてサイド6は政治的影響力を駆使し同条項を連邦政府にも飲ませることで、この戦争における聖域を獲得するに至っている。

 そのためにもわたくしたちは連邦艦隊となかよく港を出航し、別方向へ離脱……宙域を脱出したらまたなかよく合流し、そこにきてようやくなかよく殺し合いができるわけだが。

 当然このだだっ広い宇宙のどこかに「ここから100メートル先、サイド6宙域外です」なんて白線が引かれているわけでもない。ミノフスキー粒子がまき散らされ始めている現在、自分たちの船がコロニーから相対距離でどこにいるかもわからない。よって、わたくしたちは今この瞬間にも連邦の軍艦と会敵、奇襲を受けるなんてこともありえなくはないのだ。

 ゆえにこそ、艦内の空気はピリピリとしている。そこに来ての艦長の報告に、わたくしはいぶかしんだ。

 

「それがですね。どうも乗組員から体調不良者がちらほら出てるというんです。頭が痛いとか、吐き気がするとか、はっきりしませんが」

「感染症の疑いは?」

「長らく連邦の船と並んでましたからな。ヤバい生物兵器の線なんかも含めて、検査しましたけど、シロだそうです。うちの連中は乗船歴も長いのが多いので、宇宙病とかはそう考えられませんが……気になる点が一点あります」

「ええ。お続けになって」

「ぶっ倒れたやつ曰く、『声がする』んだそうです。たくさんの人の苦しむ声とか、そういうのが。自分も上がってきた報告を聞いただけですから、よくわかりませんが」

「……艦長、あなたは?」

「自分ですか? 言われてみれば体調は良くないですが。この年齢になるといつもそうですから、気にしません。船暮らしは本当に身体にキます。はやく重力ブロックで布団に包まりたいですよ」

 そう言って艦長はハハハと笑う。

 

 ――声。

 声か。それも多くの人間の声。わたくしは意識を沈めて宇宙を眺めてみるが、なにも聞こえない。兵たちが聞いた声は、おそらくは――。

 

 常々思うことがある。わたくしは自分がニュータイプであると思っている。事実としてわたくしの脳波データを基にしたニュータイプ研究は進展しているし、数秒先の直観的予測は慣れたものだ。だというのに――わたくしは、この広い宇宙に生まれてこの方、他人というものを『感じた』ことがない。

 ……こんなことは、考えても仕方ない、か?

 

「総帥の訓示を兵たちも受けたのでしょう?」

「例の、スペースコロニーへの直接核攻撃についての訓示ですか。ノヴィス・ノアを出たあたりで広域回線で流れてきたやつ。むろん聞きました。ありゃ、なんとも――本当なので?」

「正面から事実を受け止めてしまえば、うなされる者もおりましょう。それに、戦争が始まったのですわ。人類が一世紀近く体験してこなかった正規戦。体調不良も仕方のないこと」

 艦長は歯切れを悪くして答える。

「現実感がありませんな。ですが、我らスペースノイドなんてのは、最初から命の価値なんてゴミに等しいものですし……宇宙世紀が始まって以来、地球の偉いさんを食べさせるために、同胞は死に続けてきたわけですから……いまさら何億と死んでも、変わらないことでしょう。公王と総帥を信じるしかありません。兵たちもそう考えておりますよ」

 艦長のその言葉は、ギレンとジオンを支持する自分への言い訳、ある種の防衛機制であると同時に――スペースノイドの本音でもあるのだろう。

 わたくしは思わず溜息をつきそうになる自分を抑える。貧困と格差にあえぐスペースノイドとこの社会の歪み、それにようやく応えた人間がギレン・ザビであり、彼が出した答えがコロニー潰しであったということ。

 そしてそれ以外の答えはすべてが失敗に終わり、スペースノイドは、スペースノイドを虐殺した張本人であるギレン・ザビを強烈に、熱狂的に支持することになっていくのだろう。

 

 だが、わたくしは嘆いたりはしない。事ここに至って、嘆きは甘い堕落だ。現状とそれを構成するすべてを悪魔化させ自分を正当化するばかりで、現状を変える力を持ちえない。今は行動の時である。

 それにわたくしは、虐殺そのものを非難はしまい。わたくしは倫理や正義の擁護者ではなく、活動家ではないのだから。むしろ、ジオン軍士官であるわたくしはこの虐殺に加担すらしているのだ。

 わたくしは自分が戦うべき敵を見定める。わたくしが倒さなくてはならないのは、この地球圏の道徳的堕落そのもの。虐殺に対し「仕方がなかった」「必要なことだった」「大義のためだった」と目を背ける人心の荒廃、スペースノイドの絶望と諦観こそが敵なのだ。

 

 ◆

 

『距離2000。連邦艦を偵察が目視しました。マゼラン2、サラミス10、その他補助艦12……ひー、哨戒艦隊のフルセットですよ、これ……』

 うちの船には珍しい、若い男性オペレーターが身を縮こまらせながら声を上げる。まあ編成自体はサイド6で確認済みだったから驚きはないけどね。

『対するこっちはグワジン一隻。無理ですってこれぇ……』

「はいはい。あんまり軽口が過ぎると士気に関わります。口をお閉じなさい。そして、この程度の艦隊を相手にできずなにがモビルスーツですか」

 さて、オペレーターの子が言う通り、こちらはマジでグワジン一隻なんだよな。補助艦なし。補給艦とかもついてない。この艦の売りは航行能力と継戦能力だから、補助艦がいると足かせになるから当然ではあるのだが。

 そしてこちらの搭載機はヅダF型が三機。ザクⅠ型が三機。ザクⅡ型が六機。宇宙用の偵察爆撃機が十二機。あとついでにモビルスーツ用のサブフライトシステムが十二機。

 いくらグワジンが殴り合いに強い船とはいえ、艦隊に一隻で殴りこむわけにはいかない。なので主戦力は艦載モビルスーツ十二機ということになる。

 ――そして今からこの少数精鋭で、連邦の哨戒艦隊に殴り込みにいくのだ。

 

 兵たちは不安を抱えている。

 天才的指導者であるギレン・ザビ肝いりの兵器、モビルスーツ。ミノフスキー粒子は索敵技術をないものにし、戦争を変えると言われている。だとしても、だとしてもだ。連邦の絶対性を象徴し、スペースノイドを搾取構造に追いやってきた最大の原因、連邦宇宙軍は戦艦マゼラン。足並みが乱れるのも仕方あるまい。

 そんな兵たちの不安を前に、わたくしは陣頭演説をする。

 

「――あなたたちはこう思っています。『連邦に本当に勝てるのか?』『俺たちは無謀な指揮官の命令で、ふらふらと断崖に向かって歩かされているんじゃないのか?』と。ですがわたくしは断言しましょう。――勝てます。勝てるのです。モビルスーツという優位性を信じ、指揮官たるわたくしを信じなさい」

 わたくしの演説の締めの言葉にパイロットたちは敬礼で応える。各々が準備を終え、モビルスーツに乗り込んでいく。

 

『確認します。モビルスーツ部隊の射出から2分後、ミノフスキー粒子拡散弾頭を載せたミサイルが迂回軌道で敵艦隊に発射されます。このなかには旧来の誘導ミサイルも混じっていますから、気を付けてくださいね』

「ふふ、この広い宇宙で味方からのミサイルに当たるやつがいるものですか。それより、よろしくて?」

『はい。全パイロット、出撃準備完了とのことです。……このグレート・エウティミアは最初のミサイル発射後、そのまま離脱します。艦隊援護はないということです。ミノフスキー妨害によって通信もできません。待機座標で、再びお会いできることを祈っています』

 心配そうにおろおろとするオペレーターを笑いながら、わたくしは火の入った愛機をゆっくりと動かし始める。

 サブフライトに脚部を固定。出撃前の最終確認工程が行われ、艦長から出撃許可が下りる――。

 

「――おーっほっほっほっほ! ……エウティミア・クルル。ヅダF、出ますわ!」

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