お嬢様転生in宇宙世紀   作:加藤=アールパード・清正12世

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三話 「刻」ってなにさ? それ「時」じゃ駄目だったん? なして?

 ラル家の粛清を皮切りに、ズム・シティ議会はザビ家一色に染まった。今や民衆はジーク・ジオンの号令とともにザビ家万歳を叫んでいる。

 サイド3の各コロニーも続々とザビ家へ忠誠を誓い、ムンゾ自治共和国はジオン共和国と名を改め、ズム・シティを中心とした中央集権国家へと変貌しつつある。

 若き英才、ギレン・ザビはジオン共和国の実質的な指導者となり、その天才的な行政能力を遺憾なく発揮。コロニー間の物流問題や規格統一と言った課題を次々と解決し、ジオンの国力は日々増大している。

 そーんな感じで忙しそうなので、わたくしと遊んでくれなくなって不貞腐れですわ。ぷんぷん。

 

 とはいえわたくしもそろそろ執筆とかで遊び惚けている時期ではなくなってきた。ジオン共和国の発足に伴い、あくまで自衛軍として海賊対策程度しかやってこなかった国軍が本格的に軍拡を始めたのだ。兵器生産ラインの確保、軍制の再編、人材育成と急ピッチであらゆる物事が進んでいる。この大事業を取りまとめているのはドズル・ザビだ。未だ弱冠20歳ちょいだというのにこんな大仕事を任せられて大変そうですわね。

 ザビ家への権力集中の結果、こういった大臣クラスの要職に親族をねじ込んで処理しているのがザビ家統治の実態だ。キシリアに至っては未成年だというのにハイスクールを中退して秘密警察の組織や親衛隊の運営をやらされている。最終学歴高校中退かよ。かわいそす。

 問題らしい問題があるとすれば、ザビ家の子供たちはそうした膨大な仕事を処理できるだけの能力を若くして身に着けてしまっていたことだろうか。もし彼らのうち一人でも泣き言を言えばザビ家内で完結した政務にほころびができ、他の政治家たちが入り込む機会もあったろうに。優秀すぎる弊害というかなんというか。

 

 さてわたくし個人のお話。現在12歳のわたくしは幼年士官学校へ入学することになった。かねてよりお父様には軍人になりますと言ってたからね。二つ返事で了承を貰った。

 幼年学校と一言でいっても同期で入隊した子たちの年齢はバラッバラ。下は10歳、上は15歳もしくは16歳とまぁ酷い年齢差である。授業内容はハイスクール相当レベルらしいので下の子たちはついて来れるのかしら? と思ったけど受験内容が結構高度で足切りしてるらしい。にしたってそんなに広く入学年齢のレンジを取る意味がよくわからんが。急速な軍拡についてでた歪みだろう。

 幼年学校は3年制。その上の士官学校は4年制で晴れて軍人になるまで計7年の計算だ。そのときはわたくし19歳。一年戦争勃発のちょうど一年前……ジオンの年度は4月に変わるので(日本かよ)正確には戦争から8カ月前に卒業予定ってことかしらね。

 さあて……戦争が現実味を帯びて目の前に見えてきた。わたくしはそれが恐ろしいやら、悲しいやら。しかし胸の内には確かな高揚があった。不謹慎ながら、楽しんでいるのかもしれない。

 『戦争に高揚する人間には知性がないが、戦争に高揚しない人間には情熱がない。』なんてね。うむ。将来出版する予定の自伝語録集にこの名言を付け加えておこう。

 

 ◆

 

 幼年学校の課程は地獄だった。軍人舐めてたわ。

 宇宙世紀における戦争とは精密兵器の運用が前提だ。兵卒一人一人ですらエンジニアとしてやっていけるだけの技術を叩きこまれるものであり、となれば士官はその周辺の知識を網羅していることが大前提である。

 普通校でもやるような科目の勉強に加えて、とにかく高度な数学・物理学・プログラミング・工学のお勉強をこれでもかとやらされる。

 あと体力養成もある。水筒の詰まったリュック背負ってランニングはきつすぎますわ~~~!! これでも年齢と性別ごとに持たされる重りの量は違って、12歳で女のわたくしはかなり楽なほうだ。でもきつい。ぜぇぜぇ。

 ド文系かつド文弱なわたくしにはちょっときつすぎる。たちけてー。しぬぅ。ひぎぃ。ぴえん。でもモビルスーツ乗りたいんですのよ~~~!! と意気込んで頑張った。

 あー、今頃ドズルはモビルスーツの開発に着手し始めたりしているのだろうか。まだモビルワーカーとかがズシンズシン走り回ってるレベルだろうが。

 あー、ザク乗りてぇ。ですわ。ぱたんきゅー。

 

 ◆

 

「フラナガン、進捗はどうなっていますの? わたくしが不在の間のデータをここに」

「かしこまりました」

 学校の長期休み中、わたくしはサイド6に設立されたジオンの研究所、ニタ研を訪れていた。ダミーカンパニーなどは噛ませていないちゃんとした公的機関なので、表札には「ニュータイプ研究所」とおもっきし書かれてる。おもろ。

 さて、ギレンにニタ研は政治目的だと嘯いて設立させたが、その実態はガッチガチのオカルト研究機関であり、わたくしの箱庭だ。本国からの予算だけだとぶっちゃけ火の車だったので、研究で上がってきたデータをアナハイムやルオ商会に片っ端から売りつけた。アナハイムからは疑われて門前払いされたが、ルオ商会はこぞって出資の約束を取り付けてくれた。おかげで機関の財務状況はウハウハである。

「お嬢様がおっしゃられた通り脳波を中心にデータ測定を進めております。やはりチルドレンと目された子供には有意な差がありますな」

 わたくしがかっこつけてファーストチルドレンを名乗っていたら、ニタ研が攫い……もとい保護したニュータイプの素質のある子供もチルドレンと呼ばれるようになってしまった。ウケる。

「ふむ。しかしわたくしが求めた水準に達してはいませんわね」

「ええ。第六感が敏感程度と言えますが、お嬢様ほどの結果を出したものはおりません」

「結構。では強化筋肉の動物実験に進展はありまして?」

「こちらは上々です。元より既知の技術ではありますからな。外部の民間とも提携してマウス、豚での実験で成果をあげました。また強化臓器にも近々着手する予定です」

 これは強化人間技術のための下準備だ。作るかどうかはともかく、技術を手に入れておいて損はないからな。リスクのない範囲なら自分にも強化を施すかもしれないし。

 夢広がりんぐに思いをはせていると、フラナガンが口角をあげて一つの提案をしてくる。

「我らの組織の名前を新たなものにしたいと思っておりまして……ニュータイプ研究所では味気ない。お嬢様の家名を頂いて、クルル機関と名付けるのはいかがでしょうか」

「ほお。へぇ。いいではありませんか。クルル機関。うん。いいですわね。ふふ、はは、おーっほっほっほっほ!」

 悪い顔をして高笑いした。クルル機関。実にいい。この機関にはわたくしの手足になってもらおう。遠からずモビルスーツ技術が普及したら開発製造にも手を出させるか? ルオ商会の工場との提携が現実的だな。

 しかしこのままだとわたくし一人では組織運営に手が回らない。フラナガンは信頼できる人材だが、根っからの研究者だ。信頼できる人材を探さねばなるまい。士官学校で見つけるのが手っ取り早いか? いや、一年戦争が始まるまで組織の規模を拡大させる気もないし、急がなくてもいいか。

 ああ、笑いが止まらない。

 

 ◆

 

 ニタ研がクルル機関として正式に再編成されて数年。わたくしは15歳、幼年士官学校では三年生になっていた。

 クルル機関はサイド6に本部を置き、ジオンのお膝元たるズム・シティに支部を置く形で運営している。この日、わたくしは機関支部で自分の脳波を測るテストをしていた。

「ファーストチルドレン……これほどとは! 今までのサンプルとは桁が違う。これが本物のニュータイプだというのか!」

 研究者たちはわたくしの脳波に恐れおののく。

 今の今までわたくしは自分の脳波データを研究者たちには公開してこなかったのだが、これを機会に公のものにすることにした。クルル機関の再編成に伴って組織内権力をわたくしが完全に掌握できたからだ。これでまかり間違っても機関員が暴走してわたくしを研究素体やモルモットにすることはないだろうという確信があってのデータ公開である。

 

 わたくしは座禅を組んで深い瞑想状態に入る。薬物投与や電気ショックなんぞナンセンス。オーガニックで有機的な昔ながらのゼン・スタイルこそ至高なり。禅ね、禅。

 脳波スコアは高い数値を叩き出す。数秒先の未来予知などは慣れたものだ。だがわたくしはこの試験結果に不満を感じていた。

 

 ――刻が、見えない。

 

 どれほど深く瞑想してもララァ・スンが到達したであろうその境地にたどり着けない。無論そう簡単に行ける場所ではないことはわかっている。だが――。

 なにが足りていない? わたくしの素質か? 環境か? ニュータイプ同士の感応、一人ではたどり着けないというのか? いや……わたくしがどうしようもなくオールドタイプ的ということだろうか。笑えるな。

 わたくしは休憩室でジュースを啜りながら目を伏せて考える。確かミノフスキー粒子にはサイコウェーブを伝搬させるような気質があったか。あるいは戦争が始まればなにか変わるか? ニュータイプとは常に戦争から立ち現れてきた。

 思考がまどろみの渦へとおちていく。わたくしはこの宇宙世紀に何を成せるか。何を成すか。ニュータイプ、地球連邦、ジオニズム……。

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