よし、モビルスーツ開発に手をだそう。
宇宙世紀の内政チートにありがちな統合整備計画の前倒しとか規格統一には手を出さない。ちょっと分野違いすぎて下手に触れそうにないからだ。コネを使ってドズルに提案しておくにとどめておく。つーかジオン上層部も規格統一しようと思ってできるならもうしてるか。行われていないのはそれに足るだけの事情があるのだろう。
わたくしが手を出すのはモビルスーツの継戦能力強化の提言だ。やることはエンジニア的な改良ではなく、ドクトリンの提唱に近い。
宇宙世紀ってのは端的に言ってモビルスーツ全盛期だ。特に一年戦争の緒戦、ルウム会戦なんかはモビルスーツがガンガン戦艦を落とす。そこでモビルスーツの制約となるのは、敵戦艦の対空機銃でも迎撃機でもない。単純にモビルスーツの継戦能力の低さである。
まぁそれは当たり前な話で、モビルスーツの運用ってのは母艦とのセットが前提である。母艦で補給を受けて、出撃して、また母艦に戻って補給を受ける。それは航空機運用の在り方に近い。それを改革する。つまりモビルスーツを補給なしで戦艦を何隻も落とせるような兵器にする。
モビルスーツが単騎で長時間宇宙を駆けまわれるようにとはいかない。だが会戦の間ぐらいはずっと戦闘空域で戦闘をやれるようなモビルスーツが欲しい。原作のモビルスーツで平気な顔して数隻の戦艦を沈めているエースパイロットたちに、十隻二十隻と戦艦を沈められるような機体を与えたいのだ。
これはいつか作りたいわたくし専用モビルスーツ開発のためでもある。それにエースパイロットの個人的戦果で数的劣勢を補うジオンには有用な施策だろう。
さて、モビルスーツの継戦能力の制約は大きくわけて二つある。一つは推進剤。モビルスーツのジェネレーターはミノフスキー型熱核反応炉であり半無限のエネルギー供給を担っているが、スラスターの推進には必ず推進剤が必要になる。特にモビルスーツ同士の高速戦闘では頻繁にスラスターを吹かして機動する必要があり、推進剤はゴリゴリと削られることになるだろう。これの原作での解決策はサブフライトシステム――いわゆるゲタだ。たぶんわたくしがやることも似たようなものになる。
もう一つは武装だ。単純に用いる銃の弾倉が足りなくなる。当たり前だ。実弾銃にしろビームライフルにしろバカスカ撃ってればいつか弾が尽きる。いかな強力なモビルスーツとて弾がなくなれば戦えない。そういう観点から言うとヒートホークは燃費が良さそうで……あれは使い捨てだったりするんだっけ? 調べないとな。あとよく謎兵器扱いされるガンダムハンマーは継戦の面から見ればめちゃくちゃ合理的な兵器だ。単純な質量兵器。コスパを考えれば、あれほどいい武器はないだろう。
というのを筋立てて、どうにかこうにか論文に仕立てて、ギレンくんに提案しに行った。
◆
用意周到にアポを取っただけあって、わたくしの内密の講演にはギレンとドズルの両名を招くことに成功した。それもクルル家のコネあってだが。ダイクン暗殺以来わたくしが跳梁したこともあって、クルル家の影響力はザビ家に次ぐほどになっている。我が父は分不相応な権力に翻弄されているようである。
「――以上で発表を終えさせていただきます。端的に纏めますと、モビルスーツにはハイエンド化が必要ですの。いずれ来る連邦と我がジオン共和国との戦争……数億人の命が行き交う大戦をたった数機のモビルスーツが支配する時代が来ますわ」
「……MS計画をどこで知った? 我が国の軍事機密だぞ」
わたくしの講演を押し黙って聞いていたギレンが最初に言ったのはそれである。大変不機嫌そうだ。そりゃそうか。
「クルル家の情報網を舐めないでくださいまし……と言いたいところですが、別の伝手からです。開発をダークコロニー内で完結させることで情報統制しようとしたようですが、無駄でしたわね。すでに連邦にもMS計画の概要は伝わっていますわよ」
これはガチだ。別にわたくしは原作知識でMS計画を知ったかぶりしたわけじゃない。クルル機関で繋がっているルオ商会から流れてきた情報だ。探ったところ、情報はジオニック→アナハイム→ルオ商会のルートで流れていた。もうね、アホかと。バカかと。
情報統制の責任者はドズルなので、ギレンはドズルをジロっと睨む。はは、おもしろ。他人事なので笑って見れる。
「情報の流出ルートは大まかな予想はつけてキシリアさまに提出しておりますので、ご安心くださいまし。それで、講演内容についての評価はいかがですの?」
ギレンとドズルは両名揃って難しい顔をする。なにせまだ試験運用中の兵器である。実戦で運用されたことは一度もない。本当に戦艦を落とせるのかすら怪しいとされているのだ。
ミノフスキー散布下での有視界戦闘における優位性。これが実現するのがどうか未だ判明しないなか、さらに一歩進んだ運用ドクトリンを提唱しているのがわたくしのやっていることである。まぁそういう反応をされるよな。
ふとギレンはいぶかしむ。
「昔、貴様が勧めてきた書籍があったな。宇宙戦艦すら落としうる新たな機動兵器の存在と、それに対抗するための対空機銃の運用についての本だったか。あれは貴様が書いたのか?」
「……ご冗談を。あれが出版された当時、わたくしは五歳でしたのよ。影響を受けていないとは言いませんが」
五歳児が書いたという可能性を排除しないのがギレンという男の恐ろしさか。……いや、今分かった。コイツの場合は「自分なら五歳のころにもあれくらい書けたわ」みたいな自負があるんだろうな。絶対そうだわ。ギレンがこれまでやたらとわたくしに友好的な理由がようやく理解できた。転生者ゆえに早熟だったわたくしを彼は同格認定していたのだ。
「俺はいいと思う。モビルスーツには戦艦を落としうる力があるのは確かだが、その明確な運用思想が足りていない。その青写真を描けるやつがいるなら任せるべきだろう。俺たちザビ家と親しいエウティミアがやってくれるというならこの上ない」
ドズルの言葉にギレンは納得したようだった。勢いよく立ち上がって手を振る。
「本プレゼンテーション内容をクルル・ドクトリンと名付ける。貴様は今幼年学校だったな。すぐに卒業して軍大学へ編入しろ。単位はすべて免除。以後モビルスーツ運用ドクトリンの策定に尽力せよ。ドズル、手続きは貴様がやっておけ。開発チーム、ジオニックとの仲介もだ」
「お、おう!」
「恐悦至極にございますわ」
うーん、このテキパキした指示ができる男ギレン、惚れちゃうね。
◆
我が世の春が来ましたわ~!! 夢のキャンパスライフですわ~!!
ギレンとドズル認可の下、開発初期のモビルスーツを好き放題口出しできるようになった。わたくしは工学畑ではないので直接弄ったりはできないが、エンジニアに「こういうのが欲しいんですの~!」というと「技術的には可能ですねェ」と返答されるお仕事を貰えたのである。ははっ(乾いた笑い)
あとドズルの尻を蹴飛ばして、本格的なモビルスーツの開発が始まる前に規格統一はマジでやっとけとどやしておいた。というか規格統一に向けた会合のためにジオニックやツィマッドの役員に挨拶周りしてアポ取ったりの手伝いまでやった。わたくしが有力な政治家の娘でちったぁ名も知れてて軍人だから畜生!
ぺこぺこぺこぺこ頭を下げて企業行脚である。ひ~ん。
さて、モビルスーツ運用思想……クルル・ドクトリンとか名付けられたそれを完成させるにあたってはやっぱりモビルスーツ用の母艦もどないかせんといかん。けどこれって既存の権益に口出す仕事になるからやりたくないんだよなぁ。
ことモビルスーツの開発にあれこれ口出しするのは別にいいんだ。完全なる新兵器であり、そこに利権構造や既得権益というのがまだない。けど母艦周りの開発はジオン宇宙軍の前身たる宇宙港警備隊、宇宙軍艦を製造する造船業者といった既得権益があるわけで、そこに介入しなくてはならない。つまりわたくしの得意分野ってことですわね(一転攻勢)
既得権益への切り込み、そこで起きる人間関係の折衝、組織同士の利害調整。そういった『政治』はわたくしが最も得意とすることだ。前世譲りなんかね。前世とか覚えてないから知らんけど。
まずは菓子折り攻撃である。とりあえずこういうのは顔が知られてればいいねん。で、とにかく人と仲良くなる。物事の無理を通すときに「あの人の頼みだし手伝ってやるかぁ」という風に周囲の人間を動かすのだ。クルル家の長女として幼い日に色んな社交パーティーに出まくった成果が今日という日に実っているぞ!
「コンスコンおじさま! お久しゅうございます。わたくしを覚えておられますか?」
「おお、クルル嬢。無論覚えているとも。ギレンさま直属で動いているそうだが、要件は?」
と言った具合にコネをフル活用である。
理想はルウム会戦までにドロス作ることかな~。無理かな~。わたくしはロマンの女なのででっけぇ空母が好きなのです。趣味全開で兵器開発に口だしちゃってごめ~ん。
あとは自分に不満が向かないようにするためのヘイト管理だな。いきなり勝手知ったる他人の家とメスガキがやってきて、あれこれ要件を付けてきてもうっとおしがられるのは当たり前。なので、わたくしはあくまで連絡係で、上との板挟みなんですみたいな顔をして当局を訪問するのだ。あのぉ……うちの上司のギレンとかドズルってやつがこういうの欲しいらしくてぇ……。あっ難しいですよねぇでもちょっとこうしないと上から予算が降りなくてェ……なんとかなりませんかねェ……。ヘイトは全部ザビ家が受ける。ヨシ!
わたくしが直々に基盤弄ってモビルスーツ作ったり船の図面描いたりしてるわけじゃないのだが、それでもちょっと忙しすぎる。
我が世の春とか言ったやつ誰だよ。バチコリ忙殺されそうなんだが? なんか、こう、そろそろ副官ポジが欲しい。
そうしてザクⅠをロールアウトしたりヅダをリジェクトしたり陸戦仕様に文句つけたりしていると、時は無情にも過ぎていく。
そんな折、歴にしてユニバーサルセンチュリー0077。サイド3支部のクルル機関にとある少女がスカウトされてきた。
少女の名は、ハマーン・カーン。
副官・ヒロイン役に悩み中。
オリキャラを出すかハマーン様あたりをチョイスするか……。