お嬢様転生in宇宙世紀   作:加藤=アールパード・清正12世

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五話 赤い彗星はPa〇Payを使っている。

 研究所に送られてきたハマーンと面会している。

 原作でニュータイプと明言されている人間を被検体として受け入れられたのは僥倖だ。彼女の試験結果は今後のニュータイプ研究上での一つの指標になってくれるだろう。

「あ、クルルさま……おひさしぶりです」

「ごきげんよう、カーンさん。覚えていてくれて嬉しいわ」

 クルル家は当然家ぐるみでカーン家ともよしなにさせてもらっているために、ハマーンとも一応の面識はあった。てかロリ時代のハマーンさま可愛すぎんか? はにゃーん。

 このときわたくしが16歳なのに対し、ハマーンは10歳前後である。

「どうかしら、機関通いの生活は。困っていることはありませんこと?」

 NT能力のある身寄りのない子供を受け入れて半分孤児院と化しているサイド6の機関本部と違って、サイド3ズム・シティの支部は普通の研究所だ。なのでハマーンみたいなズム・シティ在住の子は、あくまで実家でお過ごしいただいて、学校が終わった放課後や休日に研究所に来てもらうことになっている。

「あの……いえ。大丈夫です。お気づかいありがとうございます」

 もじもじと礼をするハマーンだが、年頃の少女だからな。

 機関の資料に目を通してみれば、ハマーンのスカウトは彼女の父マハラジャ・カーンの意向もあってのことのようだ。さて、純粋にジオニズム的ニュータイプ論に賛同してのことか、あるいはクルル機関の表向きの目的であるニュータイプの政治利用に差し込んできた駒か。

 要観察、か? いや、取り込んでしまうのもアリか。10歳そこらの幼女を教化するなど、わけないことである――。

 

 そこまで考えて、わたくしは自分を自制した。政局を砂場にして遊ぶことと、子供を洗脳するのは別物だ。結局ガルマとの関係も文通友達くらいに抑えて、あまり支配的な関係にならないように気を付けたわけだしな。

 どうにも転生してからというもの、接する相手がどこもかしこも年上で、社会的立場も上の人間ばかりだから、わたくし自身の幼さを悪用した無理を押し通すことが多かった。そろそろ自重しないといけない。

 それに純朴な子供をロボットにする手段は、わたくしの好みじゃない。というかわたくしには根本、政治的理念というものがないのだ。ハマーンをわたくしの崇拝者にしても、使える手駒が一つ増えるだけ。手駒が崇拝者である意味はない。

 わたくしにも見たい景色というのはあるし、この人生でやりたいこともある。だがそれは一つの正義や政治思想に依拠するものではない。わたくしはジオン側について地球人類を虐殺することもできるし、今から地球連邦側についてコロニーの貧民を搾取し特権を享受することもできるのだ。だがそれはわたくしにとって手段に過ぎず、目的にはなりえない。

 

 そんなことを勘案しながらハマーンと当たり障りない歓談に興じていたのだが、ハマーン側からぶっこんできた。

「クルルさまは、軍人さんなのですよね。地球連邦と、わたしたちスペースノイド。とおからず起こるであろう、その戦争が……ただしいものとお思いですか?」

 齢10歳でそんな話をしてくるのか、という驚きが少しあった。けれどもすぐに考えを改める。

 昨今のズム・シティのテレビジョンでは地球連邦とコロニーの関係についての政治討論ばかりが流れてくる。学校のカリキュラムでは、その校風ごとに議論の偏りや中立性、色に違いこそあれど、アースノイドとスペースノイドについて論難する授業が設けられている。多感な子供なら関心を持つのは当然だろう。

「ふむ、カーンさんは非戦論者でいらっしゃるの?」

「いえ。わたしはいまの、地球とコロニーの……片務的な関係をただすのに軍事力をもちいる必要がある、そのことを否定はいたしません」

「……では?」

「名分の問題です。たとえば、連邦政府、そして宇宙移民政策がはじまったのは、地球の環境汚染がきっかけですよね」

 なるほど、面白い。それに賢い。ならばこう返してみよう。

「カーンさんの言う通り、わたくしは軍人です。ならばその責務は愛国的義務から来るものでしょう。いかがですか?」

「わたしには、クルルさまがそうした人には見えません。ザビ家の方々のような、強圧的な人ではないと……何を目指しているのかは、存じ上げませんが」

 

 わたくしは、その言葉に思わず一歩後ずさった。ハマーン・カーン……感じているのか?

 幼き日に出会ったキャスバルもこうはいかなかった。あるいは。

 

 ◆

 

 そんなめぐり合い宇宙があった翌日。ガルマっちから電話が来た。ジオン軍士官学校の居留地からの光通信である。

 

『キャスバルが! 生きてたんだよ! 聞いてるのかい、ティミャ!』

 

 アッハイ。とりあえず黙ってくれ。

 即座に口を閉じさせ、クルル家の政治特権で秘密警察にも監視されてない秘密回線に切り替え。

 ……そりゃそうなるよな~~~! だって幼少のガルマとキャスバルを引き合わせたの、わたくしだもん。三人で一緒に遊んだし、桃園の誓いもしたし(してない)……。

 と・い・う・か、だ。キャスバルのほうもガルマに遭遇すれば正体がバレると分かったうえで士官学校入りしたな?

 ……ど、どうしよう? とりあえず、会う、か……?

 

「久しいですわね。キャスバルさま……いえ、シャア・アズナブル」

「ああ、そちらの呼び方のほうが助かる、エウティミア。世を忍ぶ身分なのでな」

「……なんだなんだ! ティミャ、シャア! およそ十年ぶりの挨拶がそれか!? ボクがシャアに気が付いたとき、どれだけ飛び上がったか!」

 ジオン軍士官学校は軍系とはいえ一応学校。サイド3の8バンチ、多くの教育機関が詰め込まれた学園都市コロニー『マドラサ』の郊外に位置する。

 ハイソなコーヒーショップの個室を借りて、ガルマとシャアとわたくし三人は密会していた。

 しかしキャスバルか。わたくしは今世での幼年期に思いを馳せる。転生者ながら、この二人とは童心に帰って本気で遊んだものだ。

 だからこそというべきか。わたくしはこの男を測りかねている。原作知識という尺度があってなお、否、原作知識があるからだろうか。幼なじみにして宇宙世紀における台風の目。このキャスバル・レム・ダイクン、シャア・アズナブルという男がなにをしでかすのかがわからない。

「……なんのために戻ってきましたの?」

「復讐、と言ったら?」

 シャアがサングラス越しにその視線を鋭くする。ガルマは一気に顔を青ざめさせたようだった。

「……ガルマ! ガルマ・ザビ! わたしが……いや、俺が父と母の仇を討つために——ザビ家一党を壊滅させるために帰ってきたと言えばどうする?」

「っ!? ま、待てシャア、いやキャスバル! ザビ家が、父さんたちが君の父……ジオン・ダイクンを暗殺したって噂があることは知っている! だがそれは根も葉もない陰謀論だ! そんな曖昧なものに与して、君と敵対するつもりはないぞ! ティミャものんきにコーヒーを飲んでないでなにか言ってやってくれ!」

 と言われましてもねぇ。ずずず……コーヒーうま。最近はインスタントばっかだったからなぁ。いや宇宙世紀の技術はすごいからインスタントもめっちゃおいしいんだけどね。

 ちなみにだが、彼の母であるアストライアは表向き死亡したことになっている。実際にはわたしが辺境コロニーで匿っているのだが、ここでシャアにそれを教えてしまうのも面白くない。手札は然るべき時に切らないとな。

 わたくしはたっぷり時間をかけてコーヒーを啜り、それから口を開く。

「たとえキャスバルさまが復讐を考えておらずとも……ギレンさまやキシリアさまはダイクンの遺児が生きていることをよしとしないでしょうね。ザビ家統治の正統性が揺らぎますから。シャア・アズナブルという男がキャスバル・レム・ダイクンとして背負った責務を果たそうとするならば、ザビ家とは必ずどこかで対立します。そのとき旗色をどうするか、というお話でしょう?」

「変わらんな、キミは。超然とした態度で語りたがる。ではどうするのかな?」

 シャアとわたくしの視線が交差する。

「わたくしはあなた方と同じく、軍人でしてよ? 命令があれば実行し、命令がなければなにもしないのが道理というものでしょう」

「楽な生き方を見つけたものだな」

「子供のころからの夢だったものでして」

 シャアはまんじりとこちらを睨んで動かない。腹を割って話すまでは帰さないつもりか? やれやれ。

「……そもそもです。わたくしはスペースノイドの自治問題……コロニーと連邦政府間の問題解決について、非戦論者です。その意味ではザビ家のやり方を支持しないと言えるでしょうね」

「む?」

「え?」

 驚かれるか。まあ一回も口に出したことないしな。幼いころから軍人になるだの抜かしてた女がハト派だったらそりゃ驚かれる。というか今のスペースノイドの空気は本当にこんな感じだ。富める者貧しい者を問わず、連邦との開戦はやむなしであると。

「正気か、ティミャ!? 連邦軍が今までなにをしてきたか、ボクらは見てきたはずだろ!? 独立のデモがあればあいつらは平気で民衆に発砲するし、空気税が払えない市民は採掘基地に島流しだ! デギン父様とギレン兄様が立ち上がらなくちゃ、サイド3だって何十万、いや何百万人が島流しになったか……それとも非暴力不服従とでも言うつもりか!?」

「落ち着きなさいな、ガルマさま。あなたが今言ったことが示していてよ。暴力が介在すると、問題の所在がつかめなくなる……戦争が起きれば道義的責任は開戦事由や戦争犯罪に転嫁され、その追及に終始します。理想論だと思われますか?」

「ああ。理想論にすぎないね。ボクらスペースノイドは元より貧民だ。多くの人が地球に戻りたいと思っている。……それでも人類の文明は地球から巣立つことを決めた。それがラプラス採択と宇宙世紀憲章だ! だが現在の連邦政府は不法に地球に残留し、スペースノイドから富を収奪し、自分たち高官と政治家だけは富み、さらに地球に残っている邪魔な貧民を宇宙に棄民することだけは続けている! そのうえ彼らは巨大な宇宙軍を維持し、この構造を壊しがたいものにした! サイド3が立ち上がるのは搾取構造を破壊する正当な武力の行使だ! 自由を勝ち取るための闘争のはずだ!」

 うん、演説ありがとう。わたくしもそういうやり方があることを否定はしない。むしろ選択肢の一つだとすら思っている。権利獲得の闘争は色々なやり方があるというだけだ。長く苦しく、成功の見込みがあるかもわからない、先の見えない平和的手段。苛烈で、直接的な犠牲を多く伴う、やはり負ける可能性もある暴力的な手段。

 その正誤を決めるのは歴史のみ……なんて言うつもりも当然ない。「正しいかどうかは後世の人間が決める」なんてのは無責任な考えだ。正しさや倫理にかなった価値基準とは、今を生きる人々が、つらくとも、自らの手で決めなくてはいけないことだから。

 ゆえにこそ、わたくしはにっこりと笑って、ガルマの演説へのアンサーを目の前のグラサン男に求めた。

「これが現在のサイド3、ジオン公国の世論です。シャア・アズナブル……キャスバル・レム・ダイクン。どちらでも構いませんが……あなたさまが復讐しなければならないザビ家は、今やスペースノイドの時代精神を投影した偶像であること、おわかりになって?」

「キミというやつは……政治家になったほうが向いているな」

「おーっほっほっほ。わたくしの生き方、羨ましいでしょう?」

「まったくだ……有意義な会話だった。帰るぞ、ガルマ」

「……はっ? おいシャア、ティミャ、今のでなにか結論が出たのか……?」

 スマホからコーヒー代をわたくしに送金してシャアとガルマは学生寮に帰っていった。赤い彗星もPa〇Pay使ってるんだ。おもろ。

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