七話 壊れたヅダおじさんに壊れないヅダを与えると正気に戻る
サイド6『リーア』、その1バンチ――通称『ノヴィス・ノア』。全32基あるサイド6の首都コロニー。政治経済の中心地である。
「クルルさま。いつぞやとは逆の立場ですな。サイド6をあげて歓迎いたします」
「おーっほっほっほっほ! お久しぶりですわね、ランク閣下。ギレン・ザビ名代としてご挨拶申し上げますわ」
ノヴィス・ノアにグワジンで乗り付けたわたくしを出迎えるのはランク・キプロードン。彼はリーア32基のうち26基が正式加盟する地域組織『多様性と包摂性を持つ貿易海域』の事務総長であり、実質的なサイド6の首長である。
時は宇宙世紀0078年12月。クルル・ドクトリン策定の功で特務大尉まで昇進したわたくしは、ついでに駐在武官にねじ込まれギレンより直々にグワジンを受領。迫る戦争を間近に、各サイドを飛び回って外交官の真似事をしていた。
外交なら外務大臣がやれよとは思いますけどね。ジオンは純然たる軍事国家。ギレンは権力掌握のために軍部の権限を肥大化させ、その派閥を親衛隊化させた。対外的にも軍人さんが出張るのは平常運転です。
「前にお会いしたときは、クルルさまはまだジュニアスクールでしたな。サイド3を訪問した私に、ムンゾの学生団代表として詩を献じてくれた……」
「ええ、覚えております。ムンゾとリーアの経済協力会議の時でしたわね。お互いのサイドの利益に資する会談ができるものと期待します」
にこやかに政治向きの笑顔を作ったわたくしたちは握手を交わす。追従していた記者団たちはパシャパシャと写真を撮った。
ギレン・ザビの懐刀と認識されているわたくしを、リーアの国家元首たるランク事務総長がわざわざ宇宙港に出向いて出迎えた構図が持つ意味。それも政治、これも政治というわけである。
◆
記者たちを払った密室会談。ランクは苦虫をつぶしたような顔を隠さなかった。
「――関税協定の見直し、これはよいでしょう。前向きに検討いたします。軍隊の駐留権の承認、こちらもかまいません。サイド3の法的な位置づけには苦心するでしょうが、荒立てることなく通して見せましょう。ですが……」
ギレンの親書をトントンと指で叩きながら、沈黙が続く。
「お受けになっていただけないと?」
「到底、難しい話ですな。これは実質的に――」
「ジオンが連邦にとってかわる、ということですわ」
直截なわたくしの言葉に、ランクは苦しそうに息を吐きだした。立ち会っている官僚たちも沈痛な面持ちである。
12月8日、本日。ギレン・ザビが各コロニーへ送った外交要求。そのもっとも枢要な条項は『各コロニー市民の居住・移動の権利の委譲』である。
現在の地球連邦政府は宇宙移民政策完遂のために、基本的人権の一要素たる居住・移動権を際限なく制限する権利を持っている。それをジオンによこせ、ということだ。
これすなわち、もっとも挑発的な方法で、ジオン公国を新たな宗主国と仰げと言っているのである。
密室とはいえ仮にも外交の場でありながら、ランクは目を閉じて天を仰ぐ。
ランク・キプロードン。たしか出身自体はサイド1で、スペースノイド三世だったか。貧しい身ながらスクラップ事業で身を粉にして働き、30代で起業。サイド6の建設事業に関与することで事業を大きく拡大し、十数年でリーテの代表にまで上り詰めた成功者だ。その経歴はまさに宇宙世紀をその身で体現しているといえる。
「当初の条項をお飲みいただけないのであれば――こちらは?」
わたくしはもう一つの外交文書に目をやる。さきほどまでの文書は、成否はともあれ世間一般に公開される予定の文書だ。だがこちらは秘密協定として、表に出る予定はない。
そこには数々の要求が記載されている。連邦法が定めるところの再輸出規制品目の融通。差し押さえた連邦資産のロンダリング。そして――サイド6建設の際に使用され、残存している核パルス・エンジンの接収。
「これらの条項が飲まれた暁には、ギレン総帥はサイド6の中立を容認するでしょうね」
「……仮に中立が認められなければ、ギレン殿はなにをするおつもりか」
「あら。ずいぶん直接的にお聞きになるんですのね? 意外です。そうですわね……ランク閣下の誠実さにこたえて、わたくしも政治家的なやり方ではなく軍人としてお答えいたしましょう。『軍機につきお答えできません』。これが返答ですわ」
ランクは観念したようだった。
「表向きの要求は……居住移動権を除いて、前向きに持ち帰らせていただきます。秘密議定書についてはわたしの権限で即日有効とします。これで、よろしいか」
「大変結構です。ジオンはサイド6をよき友としてその中立を保証しますわ。ふふ……おーっほっほっほっほ!」
外交の場で急に悪い高笑いをしたわたくしにランクはビクッとビビる。ごめんて。てか心証悪いねこの笑い。
◆
数日後。もろもろの外交儀礼を終えてグワジンに戻ったわたくしは、改めてお忍びでノヴィス・ノアに降りることにした。
「大尉! ……デュバル大尉!」
グワジンの格納庫に声が響く。
「はっ! ジャン・リュック・デュバル、ここにおります!」
さて、転生してこの方わたくしは崇拝者というものを作らないようにしてきた。ガルマしかりハマーンしかり、幼い人間に付け込めば教化するのはたやすい。でなくとも、成人して確固たる意志を持つ人間でも洗脳するというのはとても簡単なことなのだ。
その手段を選ばなかった理由はいろいろあるが、端的に言えば、そんなことしなくても人心掌握や人間関係の折衝に困りはしないというだけである。
困りはしない、んだけどなぁ。なんか意図せずにわたくしの崇拝者ができちゃったんだよね。
……ヅダを改修しちゃったから。
無重力のなか器用に四肢を動かし、言わずと知れたヅダ狂い、ジオン宇宙軍技術大尉ジャン・リュック・デュバルがふわりと着地し、ビシッと気合の入った軍人らしい敬礼を取る。
「ご用件を伺います」
「あー……楽にしてかまいませんわ。それよりも……大尉は外出申請をしていませんわね? 街に降ります。供回りとしてわたくしに付き添いなさい」
「はっ。公務ではなく、プライベートということでしょうか。その、自分でよろしいので?」
部下をプライベートで引き回すのはどうなんと自分でも思わなくもないが、彼は構うまい。勤務時間外はヅダをいじる以外は艦内ジムで筋トレ・自室or共用室で勉強しかやってないような男だからな。
「ほかの若い兵卒をわたくしの私用に付き合わせるわけにもいきませんので。暇なのが大尉ぐらいなのです。それにわたくし、一応要人ですし」
「それならば、謹んで護衛の任に付きます」
そそくさとメンテ用の作業着を脱ぎ捨ててジオンの軍服に袖を通そうとする彼を制する。私用で降りるっちゅーねん。というかわたくしが私服来てるんだから私服に合わせんかい。
◆
「ふぅ、寒いですわね。ですが暦に合わせて気候を調節するコロニーは好ましく思います」
「えー……その通りですな」
銀の長髪をまとめ上げ、軽い色合いのベレー帽とケープコートで象られたシルエット。キルトスカートに少々武骨な黒ブーツで重めに印象を引き締めたファッションで、わたくしはノヴィス・ノアの街並みに降り立つ。
宇宙世紀の、それも地球圏有数の経済規模を持つ1バンチだ。ファッショントレンドの発信地でもあるし、ちょっと浮くかな? 前世の感覚でファッションを組んでるのでかなりクラシカル趣味に映るかもだが。
対するデュバルくんはと言えば、青ジーンズに筋肉でパッツパツの白シャツ。なにそのファッション舐めとるんか。てか寒くないんか。
その辺の服屋に放り込もうかと思ったが、なんでこのヅダ狂いとボーイミーツガールみたいなイベントせなあかんねんと思ったのでそのまま連れまわすことに。
「クルル特務大尉殿? そちらの方向は郊外……いえ、スラムの方向では……」
「階級はおよしになって、デュバルさま。今日のサイド6において……この宇宙において、ジオンの立ち位置は少々微妙なようですから」
「……はっ」
つい先日までのこと。多くのスペースノイドたちはサイド3ジオン公国に対して好意的な意見を持っていた。
いつも自分たちを搾取し、地球で豪勢に暮らしている地球連邦政府に対して、思うことをやってくれる。生意気な連邦官僚たちを打ちのめし、スペースノイドの権利を確立してくれる。ジオンのギレン・ザビは英雄である、と。
そしてさる12月8日。ついにジオン公国は地球連邦政府に対して独立を正式に要求。これは実質的な最後通牒であると受け止められ、スペースノイドたちの興奮は頂点に達していた。
しかし同日同刻、わたくしがランクに叩きつけたものと同じ条項、すなわちジオン公国への移動・居住権の委譲を求めた条約が各サイド政府に突き付けられていたことが明らかになると、徐々に暗い混乱が地球圏に広がり始める。
――ギレン・ザビは連邦にとってかわるだけの独裁者ではないのか?
自身を理性的だと信じたい自称進歩的知識人たちは、その暗雲に警鐘を鳴らした。だがそれでもスペースノイドの大半はジオンとギレンを支持し続ける。
事態が動いたのは、最後通牒から三日後。同月11日。連邦政府がジオン公国の独立要求を拒否。そして――サイド3を除く全サイドおよび月面都市群の予備役に対し、動員令を発令したのである。
民衆の多くは、この動員令でようやく戦火が自分たちを焼くのではないかと理解し始めた。宇宙のどこか、画面の向こう側でジオンと連邦が殴り合うショーが見られると興奮していた彼らは、旧世紀に置いてきた戦争という汚泥が自分たちの足を飲み込んでいると知ったのだ。
そして同月12日。今日の正午のこと。月面都市群およびサイド諸国は連名で動員令を拒否。そして連邦‐サイド3間の緊張に対して中立を表明した。
現状、これに対し連邦・ジオンともに中立声明へのコメントはない。それすなわち、中立はありえないということである。
……まあ、サイド6だけは「政治的配慮」だとかなんとかで両陣営から中立が承認、動員令も解除されたのだが。これが政治というやつだ。
そんなわけで、今の地球圏はどこもかしこも大混乱である。連邦は気に食わない。だがジオンも信用ならないのではないか。戦争はやるべきだ。だが徴兵など以てのほかだ。本当に戦争が始まるのか。自分たちのコロニーは巻き込まれないか。どちらが正しい。どちらが勝つ。頼むから、自分たちとは関係ないところで戦ってくれ……。
「わたしには彼らの気持ちも慮るところですが」
「あら? 案外冷静ですのね、デュバルさま。わたくしたちの同僚たちはみな、ああした態度を無責任と侮蔑していますけれど」
「たしかに、戦争は支持するが自分たちだけは犠牲を払いたくないという世論は無責任そのものです。ですがこうした道徳的堕落はもともと連邦が生み出した構造に帰結するものですし、世論は総体にすぎません。戦争というのは、それを支持する者にも反対する者にも、平等に容赦なく降り注ぐものですからな」
わたくしはおくびにも出さないけれど、ほとんど呆気にとられていた。
づ、ヅダおじさんが壊れちゃった……。発言がいちいち正気すぎるだろ!?
というかこの男、うちの工場に来て空中分解しないヅダを完成させてからというもの、めっきり毒気が抜けてしまったんよな。ザクとかジオニックへの敵愾心もすっかり表に出さなくなって、今はただヅダが大好きなだけの良識的で真面目な頼れるおじさんです。
原作知識持ちとしては、正気のヅダおじさんってヅダおじさんなんか?と思ってしまうのだが、現実に目の前に一人の人間として彼が在る以上それは認めるしかないのだろう。
――壊れちゃったヅダおじさんは、壊れないヅダを与えると正気に戻る。
こうして宇宙にまた一つトリビアが生まれた。
(副官ポジに)選ばれたのは、ヅダおじさんでした。
オリ主ちゃんの身長に関するアンケート置いときます。設定が作中に活かされるかはわかりませんが、アンケート内容をそのまま採用予定です。3月末くらいまで投票可能にしとくのでよろしくお願いします。
オリ主ちゃんの身長、どれくらいがいい?
-
155cm以下! 小さいはかわいい!
-
155~160cm前後 女性の平均くらい
-
161~165cm前後 低くも高くもなく
-
166~170cm前後 軍人らしい身長
-
170cm以上! デカいはかわいい!