お嬢様転生in宇宙世紀   作:加藤=アールパード・清正12世

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九話 クリスマスまでには帰れると祈りながら銃をとる人々

「メリークリスマース!」

 パンッ、と安っぽいクラッカーが鳴る。こういうのは西暦も宇宙世紀も変わらんね。

 

 グワジンの大食堂。そこに無機質な軍艦の食堂らしさというものはまるでない。

 広々とした食堂には豪勢なシャンデリア、建築はまさに旧世紀の貴族趣味といった絢爛さ……全部VRですけど。いや、VRじゃなくてパノラマビュー? イマーシブスペース? 今世だとこういう技術が当たり前すぎてなんて言葉を当てればいいのか逆にわからん。

 普通の軍艦はコストカットのためにこの手の技術も導入されてないんだけど、グワジン級はこういう居住性にじゃぶじゃぶ金使ってるのよね。元々そういうコンセプトの船だし。細かいところにこの船のアメニティを感じます。

 ちなみにこのグワジン、正式名称の艦名も一応あるんだけど、兵たちはグレート・デキンに倣い、指揮官であるわたくしの名をとって『グレート・エウティミア』と呼んでいる。わたくしもかなり自惚れ屋さんなとこはあるけど、ちょっと恥ずかしい。兵たちの前で顔には出さんけど。慕われてる証拠だろうし。

「あら、デュバル大尉。こんなクリスマスパーティーに出るなんて珍しいですわね」

「はい。いえ、整備士連中に無理やり連れだされまして」

 整備士やパイロット仲間の酒飲み連中に引きずられていくデュバルをわたくしはカラカラと笑いながら眺める。

 このグレート・エウティミアの艦載MSは現在、機関で特注したヅダが3機、ザクがⅠ型とⅡ型合わせて9機の合計12機運用だ。デュバルくんは当初、ザクを搭載してることにあまりいい顔はしていなかったようなのだが、ヅダが主力でザクがその補佐みたいな扱いを見て、むしろキラキラしている。

 というかちゃんと仲のいいパイロット仲間がいるんですね。ヅダ狂いで孤立したりしてないようで感心感心。

 

 わたくしもわたくしで、艦長以下士官や兵卒らともコミュニケーションは欠かせない。

「楽しんでいらっしゃいますか? ……ああ、楽にしてかまいません。無礼講です」

「はい、クルル大尉。この艦に配属されたのはあたり(・・・)ですな。とくに食堂が重力ブロック内というのがいい。自分は昔、民間の貨物船乗りだったのですが、これがひどくて!」

 なんていうかな、社内パーティーには管理職の悲哀がある。上司との飲み会とかBBQとかさ。部下としては上司が鬱陶しいんだけど、上司としては人間関係把握のためにやらざるを得ないんよねっていう。参加者の可処分時間を犠牲に社内政治の飛び道具を錬成してんねん。

「昔いた船は無重力のくせして、配給される飯は重力圏用でしてね。これが下手な食べ方をすると食べカスが散らかって、機器を壊すんですな。それに風呂もなければ寝室もタコ部屋てなもんで——」

「おいっ! 若いクルル閣下に見苦しい苦労話なんて聞かせるもんじゃない。申し訳ありません、我ら船乗り上がりはコロニーの市民権も持たない賎民なもので」

「いえ、いえ……。どうか、そのように卑下なさらないで。そうした格差を是正するためのジオン軍なのですからね」

 こんな風に軍人一人取っても出自は多様だ。みな一様に苦労話を持ってる貧困出身なのがスペースノイドの悲哀か。

 ちな、わたくしってば19歳の夢見るきんきら乙女ですからね。グワジン級に配属されてるのはいい歳したおじさまおばさまばっかなので、部下がほぼ年上です。ぴえん。今世ではいつものことだけど。

 

 時は宇宙世紀0078年12月24日。ジオン連邦間の緊張は、嵐の前の静けさのように静寂を保っていた。現場レベルでの外交官は最後の戦争回避の努力やら調整やらを頑張っているんでしょうけど、わたくしには特になんの話も回ってきていない。サイド6は中立が承認されたからってのもあるんでしょうけどね。

 この二週間ほど、うちの部隊はサイド6にずっと駐留して休暇みたいなもんでした。というかこの艦は開戦してもしばらくはサイド6に駐留予定です。

 ……わたくしが今後もこの宇宙でやっていくためには、軍歴をコロニー潰しやコロニー落としで汚すわけにはいかないんだ。地球圏人類の過半数を虐殺する罪業、それが起きると知りながらも傍観し、あまつさえ誰かに擦り付けるのは、虐殺の実行犯や命令者と同じぐらいに罪深いかもしれない。だがこうした道義的責任を裁く者は自分自身、あるいは神以外ありえないのだからな。

 コロニー潰しに参加しないために、わざわざ直接ギレンから自由裁量権をもぎ取っておいたのだ。せいぜい息苦しい自由を謳歌させてもらうとしよう。

 

 ◆

 

 戦争前の最後の仕上げと言わんばかりに、わたくしはパイロット連中を招集してシミュレーション戦闘に明け暮れていた。行う訓練はMS同士の遭遇戦。究極的な仮想敵は言うまでもなく――RX-78、すなわちガンダムだ。

 兵たちが「連邦軍はいまだにMSを保有してないのに、なぜ対MS戦訓練を?」と思っていることは知っている。だがそれでも戦争が間近であることは覚悟しているのだろう。訓練には真剣に取り組んでくれた。

 わたくし自身、ザクの習熟訓練を初めて三年ほど。それからヅダに乗り換えて一年ほど乗り倒してきた。手ずからモビルスーツの運用ドクトリンをこねくり回してきたのだ。この手の才能が自分にあるとは思わないのだが、さすがに自分の手足のように自由に動かせるようにはなっている。デュバル含め、パイロット連中に編隊を組ませて一体多のMS戦闘訓練しても勝てる程度の技量もある。慢心ではないだろう。

 あ、ちなみに一年ほど前に例の赤い人とザクでシミュレーション戦闘する機会があったんですけど、勝敗は6:4といったところだった。わたくしが6ね。なお赤い人はそのときMS操縦歴半年とかだったらしい。……数年の経験差があって勝敗6:4ってどゆこと? そして白い天パの人はこれ以上のバケモンってマジなのですか?

 ちぇっ。まあいいさ。どうせ戦争序盤の主敵は艦船だ。そしてミノフスキー粒子登場以前のドクトリンに頼った連邦の対空システムなど、ミノフスキー散布下ならば豆鉄砲もいいところなのだ。明日のことは明日考えよう。前向きなわたくしも素敵です(自画自賛)

 

 訓練後、ノヴィス・ノアで注文していた資材が届いたのでわたくしは格納庫に向かった。それは宇宙船用の塗料である。

「えー……本当にやるのですか?」

「なにか問題が?」

「い、いえ。機体性能に支障はありませんが……」

「では、お願いしますわ。モビルスーツとは単なる一兵器ではなく、この時代の象徴たらねばならぬ体系ですから」

 わたくしの専用機たるヅダが、整備士たちの手で塗装されていく――金色に。

 ギラッギラに光沢を出す塗料だから、もうギラッギラのクラックラである(?)。だって専用機は専用カラーじゃないと締まらないでしょ? 理想は百式。

「おお……お、おー……?」

 あっ。塗装作業を見ていたヅダおじさんがぽかーんと名状しがたい表情をしている。ヅダおじさんのセンス的に金色のヅダが嬉しいのか嫌なのか、彼自身わかってないんだね。きっと実際に宇宙を飛んでいるのを見れば格好良さがわかるよ。そのうちね。

「このわたくしにふさわしい、なんとも豪奢な色合いですわー! おーっほっほっほっほ!」

 あっ。兵たちからこの人はこういう人なんだなぁって目で見られてる。そんな目で見るなーっ!

 

 ◆

 

 宇宙世紀0078年、12月末。

 多くの人々の不安に反して安穏に終わったクリスマス、その翌日。

 地球連邦宇宙艦隊は各サイドへ進駐。動員を拒否し、中立を宣言していたサイド政府は戒厳令のもとその政府機能を停止された。そして選抜徴兵法に基づき、予備役だったスペースノイドは宇宙軍に動員されたそうである。

 

 そして新年。0079年1月1日、0時0分。

 ギレン・ザビはその名をもって連邦への独立要求と、各サイドへの居住・移動の権利要求を行った。その内容は先月送ったものとまったく同じである。

 回答期限は1月2日の23時59分。通常の外交儀礼から大きく逸脱した回答期限の短さは、その真意をまるで隠していなかった。

 

 そして翌1月3日、0時0分。

 

 ――我らジオン公国は、スペースノイドの権利獲得のため……地球連邦政府に対し宣戦を布告する!

 

 ジオン公国総帥ギレン・ザビは大仰に演説する。

 ……戦争が始まったのである。




三月のスプリングセールでAC6をついに買ったんですが、ギラッギラの金色光沢マシマシ塗装でルビコンを蹂躙しました。
オマバズがずっと一緒にいてくれたわが師、導きのバズーカでした。楽しかったです。
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