【Fate×呪術】もしも虎杖悠二と東堂葵がカルデアのマスターになったら... 作:矛盾ピエロ
遅くなってすいません
「――ュウ...キュー...フォウ...フォーウ...」
ごく最近、体験したばかりの頬を舐められる感触に意識の灯火が仄かに灯る。
「――ん...ぁい、せ...ぱい...ぃてください...」
ごく最近、聞き覚えのある少女の声が耳を打つ度に灯が明るさを増す。
「――れろ。ぃま、起こす」
そして――――
「起きろブラザー!!」
パァァァンッ!!
頬に走る衝撃と破裂音に似た響音で完全に意識が覚醒した。
バッ!!
最近、碌な目覚め方をしてないのでは...?という疑問が、覚醒後の覚束ない脳内を駆け巡る。
直後に視界のほとんどを占める赤に一瞬だけ呆け、それが炎によるものだと気づき...いつでも戦闘に入れるように気持ちを切り替えながら鮮烈な覚醒の元凶に目を向けた。
「おはようブラザー」
「おはようございます先輩」「フォウ!」
「東堂...とマシュとフォウさん...ここは?」
「気絶前のアナウンスから推測する限りレイシフトで転移したのだろう。俺たちも先程目を覚ましたばかりだからな、これから情報収集に向かう――が、その前に!」
東堂の話を聞きながら体をほぐし臨戦態勢を取る。
「お客様のお出ましだな」
目が覚めてから感じる呪霊にも似た気配...燃え盛る瓦礫の街並の隙間から這い出てきたのは武装した人骨だった。
「なんか...学校の理科室にありそうだな。人体模型っぽい」
思っていたよりも既視感のある見た目にポツリと呟く。
「より正確に言うなら骨格模型が正しいかと、マスター」
「マスター...?」
マシュの呼び方が変わったことに気づき目を向ける。というか、今更だけどさっきまでと様子が違う?服装も黒い...鎧?っぽいものになってるし、さっきまでと比べ物にならないぐらい強くなっている。
「マシュ、その格好...」
「詳しい話は後だ、ブラザー。今はスケルトンの撃破に集中しろ」
「...応!」
「はい!敵性生命体との戦闘開始します!先輩方、指示を――って、先輩!?」
「フォウッ!?」
ダッ!!
一番手近なやつにダッシュで近づくと骨側もこちらの接近に感づいているようで想像していたよりも機敏な動きで武器を構える。
窪んだ眼窩には当然ながら眼球はない。それでもしっかりとこちらを認識できているようで敵意混じりの視線がいくつも自分を射抜くのを感じ取る。
(まずは一発...どれぐらい強いか分かんねぇけど、とりあえず呪力は最低限で様子見)
見た感じの印象としてはそれほど硬そうには見えない。とはいえ、相手は武器を手にし、こちらの接近に際し機敏な動きを見せた。
カウンターにだけ気を付けて、いつでも回避に移れるように意識しつつ中身の無い
バキィッ!!
それなりの硬さも覚悟して突き出した拳は胸骨を容易く砕き割り、勢いを緩めることなくそのまま背骨さえ粉砕した。
「あれ?」
一瞬、辺りが静寂に満ちる。殴った...あー、スケルトンだっけ?は許容量を超えたダメージによって粉と消え、思った以上に手応えの無い感触に絶妙な気持ち悪さを感じ...それを振り払うように次の敵を見据える。
「どんな事情があるかは分かんねぇけど...せめて安らかに眠ってくれ」
スケルトンについて詳しいことは分からないが、東堂が何も言わないという事は呪霊のように祓うのに呪力が必須というわけでもないのだろう。
何があるか分からない現状では可能な限り呪力は抑えておきたい。鉄筋のコンクリよりも脆い相手に呪力は必要ないと判断して天性の暴力で湧き出たスケルトンを蹂躙した。
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「...驚きました。まさか、先輩がサーヴァントに比肩するほどの身体能力の持ち主だったなんて...夢ではないですよね?すいませんフォウさん、少し私の頬を摘まんでみてください」
「フォーウ...」
もう三回目だよ...と呆れたような声音でマシュの願い通りに器用にその頬を引っ張るフォウさん。あの後の戦闘に特に語るようなものはなく...辺り一帯のスケルトンを祓ったことで静かになったその場を後にした一行はささやかな休息を取っていた。
「俺としてはマシュの格好の方がびっくりしたけどな。なんか強くなってるし」
「念のためお聞きしておきますが、お怪我はありませんか先輩方。腹痛やその他の異常は?」
「
サムズアップと共に明るい声で告げた返答にマシュは安心したように笑顔をこぼした。
「俺たちは大丈夫だ。マシュの方こそ怪我は無いな?」
「はい東堂先輩。こちらも異常ありません」
「結局、あの後どうなったんだ?」
「それについては――pipipi...pipipi...――ナイスタイミングだな」
言葉を遮るようになった電子音はマシュの手首から鳴り響いており、それはドクターが身に付けていたハイテク時計に似ていた。
『ん?――あぁ!やっと繋がったか...!もしもし、こちらカルデア管制室だ!聞こえるかい?』
「ドクター...!こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。現在、レイシフト実験の目標地点、特異点Fと思われる場所にシフト完了した状態です」
マシュの言葉にホログラムに映ったドクターは嬉しさ半分、困り顔半分の複雑な表情を作っていた。
『マシュ!無事でなによりだ!そして...イタドリくん、ともう一人トウドウくんだね。やっぱり二人ともレイシフトに巻き込まれてしまっていたか...いや、コフィンなしでの意味消失によく耐えてくれた。今はそれを喜ぶべきだろうね』
「色々と状況の説明が欲しいところだが...その前にDr.ロマン一つ教えて欲しい」
『どうしたんだい?トウドウくん』
「爆発に巻き込まれた俺たち以外のマスター候補者と現場にいたスタッフはどうなった?」
『...』
歪められた顔と痛い程の沈黙が東堂の問いに関する答えを語らずして物語っていた。それでも、何かを期待するかのように東堂は静かに答えを待つ。
『...正直に言おう。他のマスター候補者はかなり危険な状態にある。何とか一命を取り留めてはいるが、重軽傷問わず未だに誰一人として意識が戻っていない。“所長を含めた”スタッフも同じ状況だ』
「そうか...」
答えを聞いた東堂はそう言うと、静かに目を閉じて何かを考えこむような仕草を取った。動かなくなった東堂の様子を見て、ドクターは話題を変えた。
『...ところでマシュ、その格好は一体...?ボクは君をそんな破廉恥な恰好をする娘に育ては覚えはないんだけど...』
「私もこのように育てられた覚えはありません。ただ、私の身に何が起こったのかは私のバイタルをチェックしていただければ分かるかと」
『バイタルチェック...?まぁ、たしかに大事なことだからね。今確認するよ...君の、身体状況...を...お?おおぉぉぉおお!?な、なんだいこれ?!』
「どうかしたのか?ドクター」
あまりのドクターの驚き様になにか大変なことが起きたのではないかと心配になり声をかけずにはいられなかった。
『身体能力、魔力回路、すべてが向上している!これじゃ人間というより――』
「はい、サーヴァントそのものです。詳細は覚えていませんが、レイシフトの直前あるいはその最中に私はサーヴァントと融合することで一命を取り留めたようです」
『まさか今更になってデミ・サーヴァント実験が成功するなんて...おめでとうマシュ!これは凄いことだ!』
急にはしゃぎ出したドクターの様子から察するに悪いことではなさそうだが...何が何やら。分からないままにしておくのは良くないだろうと口を挟む。
「あの...サーヴァントって、なに?」
「...うん、そうだねイタドリくんたちは今日来たばかりの一般人枠だ、知らないのも無理はないか。あはは...はしゃいじゃってちょっと恥ずかしいな」
コホン、と一つ咳ばらいをするとドクターはサーヴァントについて分かりやすい説明をしてくれた。
「そうだな...イタドリくんたちにとっては未知の分野だし“深い”情報で語っても理解に苦しむ部分も多いだろうから、ざっくりとこんな存在だよという風に捉えて欲しい」
「なんとなくイメージできればいいの?」
「うん。最も単純に評するならサーヴァントとは魔術師にとっての使い魔を指す言葉だ。ただ、その存在は一般的にイメージされる使い魔のイメージ...例えば魔女にとっての黒猫だったり、吸血鬼にとっての
「ほぅほぅ」
「サーヴァントの多くが人の姿を取っているのは、人類史に名を刻んだ過去の偉人や伝説として語り継がれている存在がモデルとなっているからだ」
「織田信長みたいな...?」
「そうだね。詳しく説明すると全く時間が足りないから今はそれぐらいの認識で大丈夫だろう。サーヴァントに関するお勉強はみんなが無事に帰ってきてからだ」
「応!...結局、マシュは有名人の力を手に入れてパワーアップしたってことでいいのか?」
「えっと...手に入れた、というと違うかもしれません。どちらかというと“託された”の方が正しいかと」
「託された?」
「はい、今回のレイシフト実験、特異点Fへの調査・解決のために元々カルデアでは事前にサーヴァントを用意していたんです。ただ、爆発によってサーヴァントはマスターとの繋がりが消え、消滅する運命にありました」
「消滅って...」
「あっ、消滅と言ってもサーヴァントは死後に精霊へと昇格した存在なので、えっと...ホームとでも言いましょうか。消滅しても“座”に還ってしまうだけで悪影響は無いはずです」
「そうなんだな」
それを聞いて少しだけ安堵する。
「はい、それで消滅の直前に彼は私に対して契約を持ちかけてきました。英霊としての能力と宝具を渡す代わりに、特異点Fの原因を排除して欲しい、と。残念ながら契約を承諾すると同時に彼は消滅してしまいましたが」
「むぅ...それは少々マズいな」
それまで静かに話を聞いていた東堂がふと漏らした言葉に思わず反応する。ただ、それと同時に僅かな違和感も感じたが...いや、今は気にしなくてもいいか。
「何がマズいんだ?東堂」
「マシュに力を託した英霊の正体が分からないままだと、その力を十全に発揮できない可能性が高い。バットとグローブを渡されても野球を知らなければ道具の正しい使い道が分からないのと一緒だ」
「すげー分かりやすい説明だな...それは確かにちょいマズいかもしれないか」
『まぁまぁ、それでも現状だと不幸中の幸いというやつさ。召喚したサーヴァントが友好的とは限らないし、その点マシュなら安心して君たちの安全を任せられる!ボクたちはマシュを全面的に信頼しているからね!』
「善処します。まぁ、先輩方は私がいなくても十分戦えそうですが...」
『え?それはどういう...おっと、マズい!実はカルデアの電気系統は予備電源に切り替えたばかりでね、通信がまだ安定してないんだ。
詳しい話はまた後で聞かせてくれ!そこから約2㎞移動した先に霊脈の強いポイントがある。なんとかそこまでたどり着いてくれれば通信も安定するはずだ!』
「了解しました、ドクター」
『いいかい!くれぐれも無茶な行動は控えるように。こっちもできる限り早――』
pii...pii...
「通信が切れてしまいました...とにかく、ドクターがおっしゃっていたように霊脈を探すために移動するという事でよろしいでしょうか?」
「分かった。東堂もそれでいいか?」
「問題ない...が、どの方角に2㎞なのか分からないのが痛手だな」
『あっ...』
東堂の言葉に二人同時に固まってしまう。顔を見合わせると、マシュはため息を吐きながら愚痴をこぼした。
「...えぇ、まぁ、はい。ドクターですからね。いつもここぞという所で頼りになりません」
「しゃーないか。2㎞ぐらいならしらみ潰しで歩き回っても大丈夫だろ」
「では敵対生物との遭遇に注意して進みましょう、先輩」
右も左も分からない異郷の地で燃え盛る街並を目にしても不安はない。一人ではない、というただそれだけの事で前を向いて歩ける。
たとえこの先何が待ち受けていようとも、三人なら乗り越えられると確かな自信が背中を押していた。
慌てて投稿したので誤字脱字等あるかもしれません。感想と一緒に報告していただけると幸いです