己の音色を響かせて   作:匿名

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本日も読んで頂いて有難う御座います。
今回は二話投稿ですのでご注意下さい。

2025/03/18 誤字修正しました。報告有難う御座います。


第十話 春風と共に

四月になり新入生がやって来た。北宇治高校の周辺には桜が咲いており、ひらひらと舞い散る花びらに声を上げる者もいる。

 

今年から入学してきた新一年生が校門をくぐるのが廊下の窓から見える。

女子生徒の胸元には赤いスカーフが。良い思い出の無い物だがあそこまで性悪な人間は入ってきてはいないだろう。

 

俺達は二年生になりクラスも変わった。あの先生が担任だとはしゃぐ者、友達と離れたと肩を落とす者、でかでかと張られたクラス表の前にはそんな生徒が大勢いた。

 

「では、今年もよろしくお願いしますね」

「おう。今年も一緒か」

「はい。では、また何かあれば!」

 

今年も同じクラスになったので一言交わすと北川はすぐに去って行った。友達と楽しく話している。

 

「野上君、よろしく」

「おう、よろしく」

 

なんと鎧塚も同じクラスだった。これはちょっと嬉しい。

知っている人がクラスに居るのは心強い。

去年はゴタゴタしたが今年こそは良い一年にしたい。教室へ向かう足は心なしか軽く感じた。

 

 

 


 

 

 

 

「あれ~?君たちもしかして見学しに来てくれたのかな~?さ、入って入って!カモンジョイナス!」

 

放課後の部活動。全体の音合わせの前の時間。オーボエのメンテナンスをしながら考え事をしていた。後ろで誰かが何か言っているが気にしない。どうせ田中先輩だろう。

 

新入生歓迎の為に校門付近の階段に並んで吹奏楽部の一部メンバーは『暴れん坊将軍のテーマ』を演奏した。去年のコンクールよりは上手くできていたが、去年の俺達一年と二年生はその多くがあの環境に身を置いていた為にミスも見受けられた。音がバラバラだったり、ピッチ、リズム共に安定していないと、結構なお手前であった。新入生の一人があちゃーといった顔をしていたのを覚えている。

 

(今年の新入生、どうなるかね?)

 

リードチューブにグリスを塗る。その最中に指についてしまったが仕方ない。ジョイントコルクにも同じ処置を行い、組み立てる。

今の所、見学に来ている一年生は一人も居ない。入学してまなしだからか、それとも興味が無いのか。まぁうちは強豪と言う訳では無いから目を向けられないのも分かる。

 

「じゃあ、チューニングベーで」

 

掛け声でチューニングを開始する。

トロンボーン、ちゃんと狙って。ホルン、ズレてるよ。ちゃんと音聞いて。小笠原先輩の が優しく注意する。小笠原先輩は困った様な顔をしているが、ホルンの所は碌に練習していなかったからああもなるだろう。

 

そう思っていた時に後ろから「のえぇぇ~~~~!!」と声がした。何事かと振り向くと黒髪ロングの新入生が、いや後ろにも新入生が三人いるな……俺が気付かなかっただけか。

 

黒髪の方は入部希望の様だった。見学もせずにかと思ったが、元からそういう算段だったのか堂々としている。ここ以外考えてませんと言った所か。

 

ようこそ!吹奏楽部へ!梨子、早く入部届!」

「ええ!!今ですか!?」

 

当たり前でしょ、そう返す田中先輩に後藤も長瀬も呆れ気味だ。俺もあんな事言われたら同じ返しをするだろう。一年生も田中先輩も気が早いなと思っている内に、他の三人は音楽室から退散していた。今日の見学者はたったの四名だった。

 

 

 


 

 

 

あれからぽつぽつと一年生が見学に来ていた。何人かは俺が案内したが別の部活に流れていった。それでも結構な人数が入った。その数二十二名。

 

「では高校生らしい態度高校生らしい服装で今後も部活に励むように。以上だ!」

 

今日は部活動の本格稼働日。言葉の圧に負けた先輩が無言でスカートを直している。松本先生のありがた~い言葉が終わり音楽室から去っていく。ピンと張りつめていた空気が緩み皆一息付いている。途中で松本先生が言っていた滝先生とやらは明日くるらしい。

 

小笠原先輩が手を叩いて前にでる。早速楽器の振り分けに入るようだ。楽器の説明は各パートリーダーが行うがダブルリードはファゴットとオーボエの二つを纏めたパートだからか、パートリーダーになった喜多村先輩に俺にも説明をとお願いされてしまった。

 

 

『……俺がオーボエの説明するんですか?』

『お願いしたんだけど、良いかな?』

『みぞれちゃんはそんな喋んないし、アタシらは触ったこと無いしで、アンタしかいないのよ』

『そういう事!あとは私のパートリーダー権限です!』

『………よろしく』

クソ……分かりました。やればいいんでしょう!』

 

 

引き受けるんじゃなかったな。そんな後悔をしている内に楽器の紹介は進んでいく。とうとう出番がやって来た。

 

「ダブルリードパートリーダーの喜多村来南です。うちのパートではファゴットとオーボエと言う二つの楽器を担当しています。ファゴットは重たい楽器で低い音が特徴です。」

 

そのタイミングでファゴットを持ち上げ周りに見える様に掲げる。

 

「ただ、学校にある予備が無いので募集はしていません。ごめんなさい。では次に…」

「ダブルリードパート、オーボエ担当、野上祐樹です。オーボエとは高い音を出す楽器です」

 

手元のオーボエを見せながら一拍置いてから続ける。

 

「難しい楽器ですが、魅力的な音を出すので是非来て下さい。此方は予備が一つしかないので募集は一人になりますが、持っている方がいるならその方もプラスで受け入れますので興味があれば是非どうぞ」

 

パチパチと拍手をもらう。スピーチなんて授業位しかやってこなかったが上手く行った様だ。

その後もスピーチは続きサックスパートまで終えた。

 

「では、次」

「はい!はい!」

 

サックスの次は低音のようだ。田中先輩が声を張り上げている。

 

「低音パートリーダー兼副部長の田中あすかです。楽器はユーフォです!」

 

田中先輩、やけに張り切ってるな……ん?この流れ去年も…不味い!

 

「ユーフォニアムと言うのはピストンバルブの装備された変口調のチューバの事を指します。この楽器の起源は――――」

 

出た!田中先輩の詠唱!何で忘れてたんだ!これ長いんだよなぁ~~早く終わってくれ~!!

 

「――――サクソルン属の中の、ピストン式バスの菅を広げて「ストーップ!」…?」

「その話、どの位続くの?」

 

見かねた小笠原先輩が待ったをかける。コピー用紙の束を自信満々に見せている田中先輩だったがキリが無いと判断され終了させられていた。良かった、止まった。まだ触りだと抗議する田中先輩を放置して楽器紹介は再開した。

 

楽器紹介は終わりあとは各自興味のあるパートへ移動するタイミングでコントラバス希望の一年が出て来た。中学の頃担当していたらしい。聖女とやらの出身らしく周りが少しざわついた。有名なのか小笠原先輩も驚いていた。コントラバスは低音パートなので田中先輩はガッツポーズ。さっきの不機嫌さはどこへやら、すっかり元気になっていた。

 

小笠原先輩の号令で希望の所へ並び始める。さて、今年は誰が来るのやら。

 

 

 


 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

俺と鎧塚は無言だった。それもそうだろう。十分程経つが誰も来ない。先輩達はあまり気にしていないのか世間話をしている。

 

「来ないな………」

「うん。来ない」

 

一年生は皆色んな所を回っているがピンポイントでここには来ない。難しい楽器なんて言わない方が良かったか?

 

「野上君の目、睨んでるみたい」

「そうは言われてもな、デフォだぞこれ」

 

それだけでは無いだろ。でも、考えてみたら先輩しかいないパートに入りたい奴もそう居ないか。俺は入りたくないね、その楽器に興味が無ければ絶対に。

 

そうこうしている内に無情にも時は過ぎていく。収穫ゼロ、こんなものかとぼけっとしていると

 

♪ー♪♪♪ー♪♪♪ー♪♪ー♪ー

 

トランペットの音が高らかに響いた。一瞬音楽室が静まり返る。

見ればあの時の黒髪ロングが吹いていた。中世古先輩もその音色に呆けている様に見える。

 

(上手いな…音の高さ、安定、伸び。中々居ないぞ、このレベルは)

 

成程、これだけの技量があれば堂々ともしていられる。見学もせずに入部を決めたのは、自分への絶対の自信故か。あいつは一年の中で、いや、トランペットの中でもトップだろう。そう感じた。

 

これで良いですか、なんて事ないように返す黒髪ロングに吉川は顔をムッとさせていた。

あれは吉川よりも上手い。一吹きしただけで分かるあの技量、冷静では居られんだろう。それだけの音を後輩が出したなら猶更だ。

 

「上手いね、あの子」

「ああ、吉川は苦しくなるな、コレ」

 

珍しく鎧塚も褒めている。それに頷きながらこれから先に期待した。

今年のトランペットは過酷だな、そう思いながら。

 

 

 


 

 

 

翌日の部活動。今日は滝先生が来るという事で、皆どこかソワソワしている。それもそうろう。どんな人が分からないのだから。

音楽室の机を廊下に出し終えたタイミングでかの滝先生は姿を現した。

 

「初めまして、滝昇です。今年度から吹奏楽部の顧問を任されました。顧問の経験は無いのですが、未熟なりに頑張っていきますのでどうかよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』

 

滝先生は身長は高く、スラリとしていて爽やかなイケメン。とても落ち着いていて、顔に浮かべた微笑は柔らかなイメージが湧く。これは女子から人気が出るだろう、そんな先生だった。

 

「では部活を始めるに当たって、最初に私から話があります」

 

ツカツカと黒板に近づく先生。そのままチョークで黒板に文字を書いていく。

 

「私は生徒の自主性をモットーにしています。今年の目標を皆さんで決めて欲しいのです」

 

書かれたのは『全国大会出場』の文字。単なるスローガンのような物を何故書くのか分かりかねていた。

此方の反応が乏しかったのか先生はその文字に大きく×を付けた。

 

「では、皆さんで決めて下さい。私はそれに従います」

 

滝先生はそんな事を言い出した。今まで目標は顧問が大まかな筋を決めていたからか、小笠原先輩は戸惑っていた。滝先生は続ける。

 

「皆さんが全国を目指すのであれば厳しくします。逆に楽しい思い出を作るのであれば、それなりの物になります。私はどちらでも良いと考えていますので、自分達で決めて下さい」

 

先生は手の平を生徒に向けてそう言い放った。

言う事は分かる。先生は赴任して間も無い為、生徒のモチベーションも分からない。ユルユルが良いのか、ガッチリハードが好みなのか、どのレベルで満足するのかが分からない。故に生徒自身にどうするかを委ねる。理解出来るが随分と思い切った事をするな、この先生。

 

その場は多数決で決める事となった。全国大会出場か楽しくやるかを。その時傘木達の顔が脳裏にチラついた。真に目指していた奴らが居ないのに、こんな物で決めて良いのかと。色々考えた末俺は全国出場に手を挙げたが、鎧塚は手を挙げなかった。どちらにもだ。

一人だけ楽しくやる方に挙げていたが、圧倒的数の差で全国大会出場に決まった。

 

滝先生は語る。目標は自分自身で決めた事。私も手を尽くすが努力するのは皆さん自身。

そりゃそうだろう。自分達で目標を決めておきながら、そうならなかった時に責任を問われては、滝先生だって腹が立つ筈。

 

「では皆さん、今年はこの方針で行きます。分かりましたか?」

「はい」

 

返事はしたが声が少ない…あれ、違ったか?

 

パン!

「もう一度言います。分かりましたか?」

『はい!』

 

手を叩き、さっきよりも大きな声で返事を促す。全国へ向けた取り組みはもう始まっている様だ。

 

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