己の音色を響かせて   作:匿名

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これからも自分なりに書いていきたいと思っておりますので皆さまの期待に応えられる様頑張っていきます。応援ありがとうございます!

2025/03/25 誤字修正しました。ご報告有難う御座います


第十三話 無名の行進

「後藤、お前身長伸びてた?」

「2cm伸びたから…185だな」

「デケぇな。まだ伸びるのか……」

 

四月も半を過ぎたある日、身体測定も終わりサンフェスの衣装が配られるその待ち時間で後藤となんてことない会話を楽しんでいた。

 

「野上はどうだったんだ」

「俺は確か……179になってたな」

 

1年の頃は175だった筈なので順調に伸びている。こんなに伸びるとは思っていなかった。サンフェスで変に目立たないか心配だが後藤がいるからまあ、大丈夫だろう。

 

「滝野とかは変わって無さそうだけどな」

「滝野と瀧川は伸びなかったってへこんでた」

「瀧川……あ、あいつか。へー、そうなんだ。あ、そうだ。この間お前んとこの「はーい!衣装配るから順番で取りに来てー!」…お、来た来た」

 

話の途中、小笠原先輩がサンフェスの衣装を持ってきた。

パーカス、低音と続いて順番に受け取っていき全員に行き渡った。

 

「女子は音楽室で、男子は楽器室で着替えて下さい」

「今日は外で練習するから、試着が終わったらジャージに着替えてグラウンドに集合。分かった?」

『はい』

 

数の少ない男子はそそくさと移動を開始する。長居して変な目で見られたくは無いのだ。

 

 

 

 

試着を終えジャージに着替えグラウンドに集まる。今日は特に陽射しが強い。焼けるのが嫌なのか急いで日焼け止めクリームを塗っている女子も居る。

 

 

「今日は楽器を持たずに練習します。一年の初心者はステップ練習から、他は全員行進から始めます。足が揃って無いと演奏ミスより目立つから気合を入れるように!」

『はい!』

 

その言葉にステップ組と行進組とで分かれる。初心者が今から習得するのは北宇治名物謎ステップ。言葉にするのは難しいし、どういう動きかもよく分からないからその名が付いたとのこと。

こういう時ポンポンじゃなくて良かったと思う。覚えるの大変そうだし男がやっても気味悪いだけだしで良い事が無い。

 

行進の練習は順調に進んでいった。行進の歩幅間隔は21.6cmと決められており、この通りに歩かなければズレが生じるし、前後の人とぶつかるので体に染み込ませなければならない。歩幅のズレは演奏の音より目立つ。なので皆そこに意識を集中させる。

 

「歩幅ズレてるよー!」

「足伸ばして!背筋ピーンとだよー!」

 

部長、副部長の指導が飛んでくる。その都度リトライする。何度かやり直しを挟みつつも、隊列の動きは良くなっていき順調に前へ進んでいた。

 

練習の後、カラーガードの部員は招集を受けていた。

コンバス担当の一年もカラーガードに割り当てられたらしい。名を川島緑輝さふぁいあ

とんでもないキラキラネームの奴が来た。どう思って付けたんだろうな、これ。

 

「川島緑輝です!よろしくお願いします!」

「野上祐樹。お前と同じカラーガードだ。よろしく」

「はい!野上先輩!」

「一年の女子がカラーガードなんて珍しい。何か経験あんのか?」

「はい!聖女の頃にやってました!…でも久しぶりですから少し不安です」

 

へぇ、聖女って所はガードもやるんだな。名前からしてお嬢様学校って感じだ。

 

「では野上先輩、よろしくお願いします」

「おう。つっても俺も教わる側なんだが」

「そうなんですか?」

「去年は上級生がやる気なくて適当だったし、その記憶も朧気で万全とは言えねぇからな」

 

不思議そうに首をかしげる川島。こいつからすれば一年と一緒に指導受けてる上級生になるから、その疑問も当然だろう。去年もガードだったが喜多村先輩が覚えていた物を何とか形にしただけだし、今年も同じ振り付けとは思えない。サンフェスでは嘲笑された記憶だけが微かに残っていた。公衆の面前で恥なんて掻きたく無い。だから一からの指導を申し出た。

 

「それに、一年より出来の悪い二年にはなりたく無くてな。カッコ悪い所を見せるが我慢してくれ」

「カッコ悪いなんてとんでもない!一緒に頑張りましょう!」

「そう言ってくれると助かる。何とかモノにして見せるぞ」

「はい!」

 

 

 

 

「じゃあまず右手で旗を構えて」

 

フルートの二年、井上が目の前で手本を見せる。

 

「両手じゃなくて良いのか?」

「うん。今からやるのは技みたいな物だから。行進する時に両手で構えれば良いからね」

 

そう言い右手だけで旗を一回転、二回転させていく。片手でこうも回せるとは。

 

「右手を前に出して手首を内側から外側に弧を描くように捻る。そしたら手の平が外側に向くでしょ?そこで旗を握り直す。そうすると右手親指が下を向くから、そのまま右に旗を払うの。やってみて」

 

簡単そうに聞こえるが実際にやるとなると難しい。

 

「……ん?」

 

捻るまでは上手くいった。そこから先がどうも難しい。捻る速度を遅くすると旗が落ちてしまうし、早くすると旗がバサバサしてうるさくなる。

隣では川島がもうマスターしていた。流石経験者、飲み込みが早い。

 

「そこ躓くよね。コツは旗の棒に親指を添わせるイメージかな」

「やってみる」

 

再び挑戦する。右手を弧を描くように回転させる、手の平が外側に向いたタイミングで…

 

(握り直す!)

 

「……出来た」

「おめでとうございます!」

「やるじゃん!その感覚忘れないでね」

「おう。でもこれ本番じゃあ……」

「歩きながらだよ?当然」

「だよなぁ」

 

先が思いやられる。何とかクリアはしたが、次はコレを行進しながらだ。当然難易度が上がる。歩幅と旗を意識しながらの行進は難儀だろう。

 

(どうにかしてクリアせんとな)

 

なんとしてでも習得する。静かに決意を固めた。

 

 

 

 

 

練習を重ねていく内に、旗を回す手の動きは少しずつ、だが着実に上達していった。

だが行進しながらとなると話は別で

 

「……またズレたな」

 

上達してきているとはいえ、行進しながらとなると旗に意識が行く事が多く歩幅をしっかり注視出来ていない事が増えて来た。

 

「そうですね。緑もまだ歩きながらは難しいです」

 

川島の方も苦戦している様だ。だが俺と比べれば川島の方がズレは少ない。リズムがズレれば歩幅もずれる。あれからも練習を重ね、静止した状態ならばしっかりと旗を回せるのだが、行進になると途端にミスがでる。歩幅も旗も完璧に出来れば本番では満足いく物が出来る筈。

 

「まずは歩幅から合わせてみよっか」

「……こう、か?」

「そうそう、そんな感じ。二人共出来てるよ」

「後はここに旗を加えて完成ですね!」

「それが曲者なんだよな」

 

今の課題は旗の動きと歩幅を合わせる事。本番までに完成させなければならない。グラウンドが使える間にどれだけ煮詰められるかが勝負だ。

 

「じゃあこれからは合わせてやってみようか」

「おう、頼む」

「お願いします!」

 

面倒を見てくれる井上に感謝しつつ今日の練習を振り返る。旗は上手く行く様になったが歩きながらはまだ難しい。サンフェスまである程度日数があるとはいえ、悠長にはしてられない。去年が本当に形だけだったのを思い知った。

 

 

 


 

 

 

数日が経過し、ガードの練習も少しずつだが形になって来た。歩幅と旗の動きが嚙み合ってきたのだ。徐々に徐々にと歩幅と噛み合う距離が伸びていくのを実感していた。歩幅だけに関してはもうほとんど意識せずとも合う様になった。最初の方は旗が必要以上にバタつき注意される事もしばしばあったが、歩幅がある程度の練度になったおかげでそちらに集中出来る様になった。

 

演奏する組は滝先生や松本先生、各パートリーダーを中心にそれぞれ仕上げに入っている。足踏みしながらの音合わせ、楽器を担ぎながらの行進、練習方法はバラバラだがそれでも皆やる気に溢れている。

 

「では今日も本番を想定して1からやります。演奏、ポンポン、カラーガード、それぞれの役割をこなして下さい。本番の太陽公園は1キロ近くあります。グラウンドはそれ程広くありませんので、何周もする事になるので覚悟しておいて下さい!」

『はい!』

 

田中先輩の号令がグラウンドに響き渡る。今日はグラウンドが使える最終日。それを理解しているからか先輩も声もいつもより鋭く聞こえる。周りも先輩の本気が伝わったのか真剣な眼差しで前を見つめていた。

 

「では、行きますよ。1、2、3、4」

 

滝先生が合図を出す。右足の太ももから脚を上げて前に出す。歩幅を意識して、背筋はピーンと真っ直ぐに。行進しながら旗を掲げてタイミングを待つ。

 

(……今!)

 

手首を回して…捻る!

 

(よし、成功!)

 

上手く行った事に安堵と喜びが心を支配する。散々練習してきた甲斐があった。だがまだ行進は終わっていない。技も一回だけでは無い、ここからも気は抜けない。最前列に位置する俺達カラーガードがもたつけば後ろ全員のズレに繋がる。プレッシャーは半端ないが、あれだけやったのに出来ませんでしたで終わりたくない。行進も佳境に入る

 

(何としても…やり切る!)

 

グラウンドを使用する最後の練習を理解してか皆真剣だ。本気でサンフェスを成功させようとしている。一分一秒も無駄には出来ない。今日の練習時間はすべてこの行進に使用された。

 

 

 

日も落ちた夕暮れ時、その日の練習終わりにはもう腕がクタクタだった。何回も何回も旗を回したからか手首が痛くてヒリヒリする。だがその甲斐あってか、完璧と言って良い完成度にはなってきた。最後の行進練習の後、田中先輩が笛を鳴らし部員を集合させる。

 

「かなり良くなったね!最後の一本の感じを忘れないように!来週の本番まで時間が無いから、明日からの練習も集中するように!」

『はい!』

 

練習はこれにて終了。後は片付けのみというタイミングでサックスの先輩が待ったをかけた。

聞けばもう少し練習して合わせておいた方が良いのでは?と言う意見だった。俺もこれには賛成だ。いくら上手く行っていたからといって、これでハイ終了では不安が勝る。手首も足もクタクタだがやっておいた方が良い、そう思った。

 

此方はまだやる気充分。田中先輩もそう思ったのか滝先生に判断を委ねた。

 

「…では後三十分程延長します。ただし、帰らなけらばならない人は無理をせずに帰って下さい。残って練習する人は携帯の使用を許可しますので、必ず家か親の携帯に連絡する事。分かりましたか?」

『はい!』

 

部員の熱意が伝わったのか練習のおかわりが決定した。三十分と長いようで短い時間にどれだけ詰められるかが鍵となるだろう。

 

塾や予定、門限がある生徒は帰り少なくなった人数で隊列を組み再開する。延長分が終わる頃にはもう夜になっていた。

 

 

 


 

 

 

やって来たサンフェス当日。朝の早い時間だからかひんやりとした空気が漂っている。朝の内に楽器を運び込まなければならないので、今日は部員全員が早起きしている。フルートの様な携帯が楽な物は個人で、ドラムやらスーザフォンと言った重たい楽器はトラックに積み込む。こういう重労働を率先してやらないといけないのが楽器運搬係の辛い所だ。

 

「ナックル先輩。バスドラムのバチみたいなの、どこ置いといたら良いですか?」

 

少し離れた運搬用トラック、その付近での会話が耳に入る。見れば一年生が手元の荷物を困惑しながら見ていた。

 

「バチじゃねぇ、マレットな!……パーカスの荷物はそこにまとめてあるから、置いててくれ」

「了解です!」

 

一年生は返事をするとトラックの中に入っていった。

 

(へー、あれマレットってんだ、知らなかった)

 

その会話を内心感心しながら、心の中で少し頷いた。

パーカスなんてほとんど関わって無いから知らなかった。バチでは無くマレットね。

 

何時使うか分からん知識が増えたな、なんて思いながら楽器室から運んできた楽器をトラックに詰め込む。後ろからもどんどん楽器がトラック前に集められていく。サンフェス本番はもうすぐだ。緊張が高まる中、準備は着々と進んで行った。

 

 

積み込みが終わり点呼しながらバスに乗る。俺の席は後方の窓際だ。席に座り近づいてくる本番にソワソワしていると、隣の空席に鎧塚が座って来た。

全員が乗り込んだのを確認したのか太陽公園へ向かうバスはゆっくりと発進した。

 

「もうすぐ本番だな」

「うん。ドキドキする」

「準備は大丈夫か?」

「大丈夫。…一応、酔い止めも飲んできた」

 

そう言いながら鞄の中から本を取り出し、栞が挟んであるページから読み進めていく……大丈夫そうだな。

 

窓に頭をくっつけながらぼんやりと外の景色を見る。犬の散歩をしている老人、急いでチャリを漕いでいる少年ガキ、スーツ姿で電話を片手にペコペコしている会社員…大変そうだな、アンタ。

 

景色より人に意識が向いて人間観察になっていたが、それも飽きて来た。ポケットからスマホを、鞄からイヤホンを取り出しダウンロードした曲を再生する。朝からと言うか、いつでもそうだがテンションを上げるには気に入った曲を聴くのが手っ取り早い。

 

何度も再生して聞きなれたメロディーに気分を上げつつ目を閉じる。曲に聞き入っていると、トントンと肩を叩かれた。

 

「……ん、何だ?」

「それ、何聞いてるの?」

「気になるか?ほれ」

 

右耳のイヤホンを外し渡す。こっちなら耳の形に合うし聞きやすいだろ。

 

「……この曲、野上君好きそう。何て言うの?」

「『儚くも永久のカナシ』って言う曲。好きなんだよこれ」

「…ふうん」

 

お互い静かにイヤホンから流れるメロディーに耳を傾ける。

一番のサビが終わった辺りで鎧塚がイヤホンを返してきた。

 

「……ありがとう」

 

それを受け取り耳に戻す。

 

「……それ、アニメの曲?」

「ああ、ガンダム00ダブルオーって作品のな」

「そう。何か意外」

「ガンダム知らない人はこの曲と結びつかなそうだもんな。これ」

「そう」

 

興味無さそうに適当な相槌を打ちながら本に目を通している鎧塚。まぁ、アニメとか見無さそうだよなぁ。見てもジブリ位だろうな。

 

「今度、お前にウケそうなの見繕っておく」

「うん。お願い」

「あら意外。興味あんのか?」

 

『別に』とか、『いらない』と返されると思ってきたが、思いの外乗り気だったようで面食らってしまう。

 

「アニメはそんなに。でも……野上君が勧めてくれる物は、気になる」

「嬉しい事言うじゃねぇか。なら、気に入りそうなの選んでおこう」

「うん。楽しみにしてる」

 

思いもよらぬ言葉に驚いたが、こっちにも興味を持ってくれたのは素直に嬉しい。頭の中で気に入りそうな物を探す。退屈だったバス移動の時間が少し楽くなった。

 

 

 


 

 

 

 

衣装に着替えた俺達はすぐさま楽器を乗せたトラック前に集まる。去年と変わらぬ運搬作業、部員にそれぞれの担当楽器を渡していき最後にポンポンと旗を配る。

 

太陽公園は観客と奏者で一杯になっておりとても盛況していた。色とりどりの衣装を着た各校の生徒が一堂に集まっている。これは見応えあるだろうなと感じた。

 

「良いか!今日は本番だ!手を抜いたら承知しないからな!」

『はい!』

「練習通りにやれば出来る!」

『はい!』

「気合を入れろ!声が小さい!

はい!

「良し、私からは以上だ」

 

松本先生の激励?を受けて皆気が引き締まる。その後少し遅れて滝先生が到着した。案外方向音痴なのかもしれない。全体にあっさりとした一言送るとすぐに調整の時間が始まった。

 

あちらこちらでチューニングの音が聞こえる。高かったり低かったり苦戦していそうだ。

俺も旗の動きの最終確認に入る。もう問題は無いと思うが念の為に井上にも確認してもらった。

 

「うんバッチリ。頑張った甲斐あったね」

「ああ。後は本番のみか」

「頑張ろうね!」

「おう。川島は?」

「友達の所にいるみたい。ほら、あれ」

 

指をさされた方を見れば低音パートに混ざっている川島の姿が。他校の様子をジッと見てる辺り結構余裕がありそうだ。一年なのに中々肝が据わった奴。

 

「あいつは大丈夫だな」

「旗は問題無かったしね」

 

川島は経験者という事もあってか元よりミスは少なかった。それは練習を重ねる度に少なくなっていったので奴は自分の実力を疑っていないのだろう。

 

全体放送で集合が掛かる。もうそろそろ本番が始まるのだ。

 

「じゃあ、頑張ろうぜ」

「うん!頑張りましょー!」

 

 

 

 

俺達の前、立華高校の出番も終わり遂に本番がやって来た。皆緊張していたが途中高坂が待機場所で音を出すトラブルを起こした。だが、それが皆の不安を吹き飛ばした。本人は気にして無さそうだったが、あれを狙ってやっていたならかなりの達者だ。

 

『続きまして、北宇治高校吹奏楽部の皆さんです』

 

「音楽とは、ライバルに己の実力を見せつける為にあるのではありません。ですが他校の皆さんは『今の北宇治』の力を知りません。今日は皆さんの努力、そして力を見せる良い機会であると、先生は思います。さぁ、北宇治の実力、見せつけてきなさい!」

『はい!』

 

普段涼しい顔で嫌味やら正論を飛ばす先生がこんな事言うなんて珍しい。でもそんな先生が真っ直ぐな激励を飛ばしてくれたからか、皆の顔に笑顔が灯る。先生の言葉は全員の心に響いた様で部員の気持ちは一つに纏まった。俺もやる気充分だ……さぁ、やるぞ!

 

 

 

ピー!ピッ!ピッ!と後方で田中先輩のホイッスルが鳴る。シンバルの音が微かに聞こえる。何拍か後にトランペットの高音、ユーフォ、トロンボーンの音が鳴り響く。ザッ、と隊列の足並みが綺麗に揃う。行進が開始された。

 

最前列の中央に位置する俺は周りに合わせて旗を回す。練習通りにしっかりと出来ている。クラリネットもパーカスも、皆しっかりと音を出せている。

 

『ライディーン』今回サンフェスで演奏している曲は非常に俺好みで聞いてて楽しい曲だ。吹奏楽用の編曲がなされているが調べた所、どうやら元楽曲はテクノポップとして製作されており、シンセサイザーらしき電子音がベースになっていた。

 

後ろから聞こえる元気いっぱいなメロディーに耳を傾けつつ旗を構える。音も足並みも揃っている。周りからも歓声が聞こえる。今までと違う北宇治の姿に周りの観客も驚いている様だ。人によっては自分の知らない強豪と勘違いしている者までいるので自然と笑顔が出た。

 

ドラムとシンバルがリズム良く響き鉄琴の軽やかな音が奏でられる。ライディーンは循環進行が基調だからかある程度演奏するとまた最初の盛り上がる部分に帰ってくる。コンサートの様に座って全部が聞ける状態ではないこのイベントにはうってつけの曲だ。

 

全部練習通りに出来ている。あれだけやった、人によっては泣いていた、その成果が出ていた。

滝先生の鋭い言葉、松本先生の激しい叱咤、日が傾くまで行われた練習、その報酬がこの歓声と輝く様な周りの視線。

行進も演奏もバッチリだ。ミスもトラブルも無い絶好調。北宇治は今ノリにノッている、この調子で進みたい。去年鬱屈としていたからか今年は楽しく感じられた。

 

終点が見えて来た。もうあと暫くすればゴールにたどり着くだろう。最後の最後まで気を抜かず、旗を掲げ続けた。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

全身を疲労が駆け巡る。だが心は達成感で満ちていた。誰もかれもが満足そうにやり切った顔をしている。額を汗が伝う、ここまでやった苦労が報われた。

今年のサンフェスは、文句無しに大成功だった。

 

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