・レイアースに関しては基本的に漫画版の設定を採用していますが、アニメやゲームから取り入れている箇所もあります。
第1話「明心見性」
……グリーンアース教。
兄が作り、かつて俺が籍を置いていた新興宗教団体だ。
俺がいた世界では次々に現れる人類の敵との戦いで、地上は荒廃して、異常気象は頻発。環境汚染も進んで社会秩序がガタガタだった。
そんな中でグリーンアース教は「地球が泣いてる」というスローガンを掲げて多くの信者を獲得していた。全盛期には百数十万人もの大所帯になるほどに。
だが、それも教祖をしてた兄がいなくなるまでのこと。
俺の兄、タイールは……
そして出撃したゲッターは発射された核ミサイルを飲み込み、恐竜帝国の最終兵器をも喰らい尽くした後、火星へと消えていったという。
グリーンアース教はその後も存続したが……教祖がいなくなったことで、中身がまったくの別物になってしまった。
それはいい。仕方のないことだ。
いきなりいなくなった兄貴が悪いし、あっさり離れた俺も悪い。
そんなことより俺には、ひとつ納得できないことがあった。
……誰もが兄貴を凄いと分かっていた。
なのに誰も兄貴のことを理解できなかった。
メシア・タイールは偉人だ救世主ともてはやしながら、それじゃあ何がスゴイのかっていったら、誰も答えられない。
それは俺もだ。
俺も、兄貴が何を考えてたのか、いまだに分からない。
だから兄貴は誰にも理解されなかった。
兄貴は最初から最後まで、ずっと一人だったんだ。
俺はそれが許せない。
俺は学者連中みたいに、そこまで好奇心旺盛なわけじゃない。べつに何でもかんでも知りたいわけじゃないし、真理とやらんもさして興味はない。
……だが。
自分の大事なものを理解できずに、繋がりをなくす。
そういうのは、どうにも我慢ならねえんだ……俺には。
***
ドライストレーガー艦内の食堂にて。
早朝の
“二人の弁慶”というのは、この世界に元からいるゲッターチームの
どこか近寄りがたい空気を放つ竜馬や隼人と違って、どちらの弁慶も気が良く、まだ出会って日が浅い拓馬も気がねなく談笑している。
そこに今日はZガンダムのパイロットであるカミーユが加わるという、少し珍しい取り合わせだった。
大人の方の弁慶がカミーユに声をかける。
「今日はいきなり稽古に誘って悪かったな、カミーユ」
「いえ、僕も久しぶりに空手をやれて楽しかったです。昔は家に帰りたくなくて道場に通い詰めてたけど……何も考えずに体を動かすって、いいものですね」
カミーユ・ビダンという人物について、以前はだいぶ“ヤンチャ”をしていたと拓馬は聞かされていたが、こうして話してみると礼儀正しい好青年そのものだった。
「そうか、そんならよかった。どうも最近、若いもんに避けられてる気がしてなぁ」
そんな大人の弁慶の言葉に、若い方の弁慶が横から口を挟む。
「稽古じゃなくて特訓になるからなァ、竜馬さんか
拓馬もそれに
「マサキのやつ、弁慶の旦那を見た瞬間に逃げてったからな」
「うーむ……俺が若い頃には、あれくらいの特訓は普通だったんだがなぁ」
そうやって
「そういうトコじゃないんすか、避けられるのって。
だいたい、生まれた世界が違うんだから常識も変わってくるモンでしょ」
……そこから4人の話題はそれぞれの世界の話になった。
並行世界から来た拓馬と若い弁慶は、自分たちが生まれ育った世界のことを語る。
ひととおり話し終えたところで、若い弁慶が溜め息混じりに口を開いた。
「ホントに俺らが居た世界と全然違うんだなァ……拓馬がいた世界は」
そんな若い弁慶の言葉に、拓馬が返す。
「俺も驚きだぜ。
恐竜帝国も宇宙からの侵略者もない、そんな平和な世界があるなんてな」
若い弁慶が暮らしていた世界では世界中を巻き込むような争いは80年近くも起きておらず、小さな犯罪こそあれ、少なくとも弁慶たちの周囲の暮らしは平和そのものだった。
「いきなり不進化体とかいう化物が現れたケド、ゲッターロボ1機で対処できる程度だったからな。平和っちゃ平和か。……つーか、オマエらの世界は世紀末すぎんだろ!?」
拓馬たちの世界では恐竜帝国や百鬼帝国、アンドロメダ流国など、人類を滅ぼそうとする勢力との戦いを長く続けてきた。
彼らが今いるこの世界はさらに混沌としている。ミケーネ帝国、インベーダー、機界31原種、キャンベル星人など様々な外敵の脅威を
他の並行世界から来た者たちに話を聞いても似たり寄ったりで、どこも平穏とは程遠い世界ばかりだ。
若い弁慶は食後のお茶を一気に飲み干すと、ため息をついて言った。
「こうして色んな世界の話を聞いてると、侵略者と戦ってるのが普通な気がしてくるぜ。俺たちの世界が平和だったのは、人の手で作られた世界だったから……なのかなァ……」
「だとしても、戦争がないのはいい事じゃないか?」
「そうだな。
それも竜馬が……いや、俺たちが世界ごと壊しちまったんだが」
「それは……」
それにはカミーユもかける言葉が見つからなかった。
彼ら若いゲッターチームは、「並行世界の地球で作られた仮想世界」の中で生まれた存在だ。
本来の彼らは、仮想世界の創造主により世界ごと消される運命にあった。
しかしその前に彼らは自分たちがいる世界を破壊して、仮想世界を飛び出し、現実世界へと乗り込むことを選択したのだった。
他に方法がなかったとはいえ80億人が住む世界を消滅させる引き金を引いたことに、弁慶は少なからず負い目を感じているようだった。
そうした湿っぽい空気を感じ取った大人の弁慶が話題を変える。
「お前らがどんな世界にいたのかは、だいたい分かった。
だが俺が一番知りたいのはな……」
と言って、大きく前のめりになって拓馬に問う。
「竜馬の嫁さんってのは、一体どんな人なんだ。ミチルさんとは違うんだろ?」
そう言う弁慶は興味津々といった感じだ。
あの竜馬が家庭を持つというのは、彼にとってはあまり想像しにくいことだ。
それに対する拓馬の回答は、ある意味では意外であり、ある意味では納得できる内容だった。
拓馬の母親の名は、
旧姓は
そして弁慶は「嫁さん」と言ったが、正確に言うと嫁ではない。
なぜなら彼女は竜馬と結婚していなかったからだ。
竜馬のもとへ押しかけ女房としてやって来て、無理やり住み込んだという。
しかし拓馬が彼女のお腹にいる時に竜馬は最後の戦いへと
そして幼い拓馬は、日本有数の柔道家だった母親から、柔道や
……こうした拓馬の話を聞いて、大人の弁慶は自分の記憶の中に引っかかるものを見つけた。
「
「おふくろのこと知ってるのか? てか、こっちの世界にもいるのかよ!?」
「多分な。俺が柔道に興味を持ったのは武蔵先輩に教わるようになってからなんで、あまり詳しくはないんだが……」
そう前置きして、彼はこの世界の人物について語った。
源りょうは日本で
しかし弁慶の知る限りでは、彼女と竜馬との接点は一切ない。
「やっぱり、こっちの世界とはだいぶ違うようだな。
うーん、しかし……そうなると、なぁ……」
なにやら言いにくそうにしている大人の弁慶に、拓馬は
「なんだよ弁慶の旦那。何か気になることでもあるってのか?」
「まあ、こっちの世界と制度が同じかどうかは分からんのだが……結婚はしてないんだよな?」
「ああ、おふくろはそう言ってた」
「だったら姓が変わってるのは、ちとおかしいぞ。
源拓馬になる。それが自然だ。
「な……! そ、そいつは……」
これまで考えもしなかった衝撃の疑惑を突きつけられ、困惑する拓馬。
しかし、しばらく考えた後で、拓馬はハッキリと言った。
「……いや、戸籍がどうこうよりも、本人がどう思ってるかが大事なんじぇねえかな。だから戸籍にどう書いてあろうと、俺は流拓馬だ。そう思ってる」
「ああ……そうだな。それでいい――」
「俺は拓馬が正しいと思うぜ!」
頷く大人の弁慶の横から、若い方の弁慶が食い気味に声をあげた。
「俺も戸籍上は別の名前だが、車弁慶で間違いねェからな! ……ただ……」
そうして若い弁慶は、隣にいる大人の弁慶をちらりと見て、
「こうなるのかァ……」
「おうコラ! 文句があんならハッキリ言いやがれ!」
若い弁慶の悲鳴。それから、拓馬やカミーユの笑い声が食堂に響き渡った。
***
ドライストレーガーの第二格納庫。
モビルスーツやナイトメアフレームが立ち並ぶ格納庫の
クワトロ・バジーナ大尉である。
「クワトロ大尉」
そんな彼のもとに現れ、声をかけるのはカムイだ。
「また君か」
そう言うクワトロの声には若干の呆れが混じっている。
彼が呆れるのも無理はない。
カムイはもう3日続けて、こうしてクワトロのもとを訪れている。
そして毎回、同じことを問うのだ。
「なぜ、あなたは自らの行いを後悔している?」
――と。
今はクワトロ・バジーナと名乗っているが、彼の最もよく知られた名は「シャア・アズナブル」だ。
今から約1年ほど前のこと。
新生ネオ・ジオンの総帥シャア・アズナブルは、星間戦役による動乱のさなか、多くのスペースノイドを率いて地球連邦へと反旗を
そして彼は、小惑星を落とすという手段をもって地球に人類が住めない環境にして、強制的に全人類を宇宙に上げる『地球寒冷化作戦』を決行した。
しかしその
……はずだったのだが。
彼は自らの行いを悔やみ、かつて裏切ったはずの地球連邦軍へと再び籍を戻して、今ここにいる。
そんな彼からカムイが聞きたいのは
「自らの信念のもとに地球人類と敵対した者が、なぜ後悔しているのか?」
という事だ。
――しかし当然と言うべきか。
カムイが何度尋ねたところで、クワトロは答えをはぐらかすだけだった。
(……このままではラチが明かないな)
そう考えたカムイは、意を決して踏み込む。
「人の話を聞こうというのに自らの事を隠したままでは、やはり礼儀に欠けるな。まずはこちらの話を聞いてもらいたい」
そう前置きして、カムイは自身の置かれた状況を語った。
未来で見た、全宇宙の生命を根絶やしにしようとするゲッターエンペラーの存在。
そしてカムイはそれを阻止するため、元の世界に戻ったら地球人類を滅ぼすつもりだということを。
これにはクワトロも驚き、サングラスの内側で目を見開く。
それからしばらく躊躇した後、彼は諦めたように口を開いた。
「……そこまで
そうしてクワトロは自らの胸の内を語る。
「君の言う通り、私は後悔している。あの時は他に道はないと思ったが……やるべきではなかったのだ。地球寒冷化作戦など」
「それは、失敗したから?」
上手くいかなかったことを後悔しているのか。
それでは逆に、作戦が成功していたならば――?
その問いにクワトロは若干の思案をしてから答えた。
「……いや、違うな。たとえ成功していたとしても、きっと私は……」
「なぜです。自分の信念に従ったのならば、仮に失ったものへの自責の念はあっても、自らの行いそのものには後悔はないはず」
「そうだな、君の言う通りだろう。つまるところ、私には信念がなかった。
……というより、信じきれなかったと言うべきか。自らの掲げた大義を」
「大義……」
カムイはクワトロに話を聞きに行くにあたって、あらかじめシャア・アズナブルに関してひととおり調べていた。
その中でカムイは、当然と言うべきひとつの疑問に突き当たった。
――なぜシャアは地球人類を大量虐殺してまで、すべての人類を宇宙に上げようとしたのか?
その疑問を解くためカムイは調べた。
まず、ジオンと名のつく組織および国家には、『ジオニズム』という共通する思想がある。
これは「地球は神聖不可侵であり人類は宇宙に移り住むべき」という『エレズム』と呼ばれる思想と、「各コロニー国家は自治権を持ち、経済的・政治的に自立すべき」という『コントリズム』の思想を合わせたもので、シャアの実父であるジオン・ズム・ダイクンにより提唱された。
そしてこれとは別にジオン・ダイクンは『ニュータイプ理論』を唱えている。
宇宙に上がった人類は広大な宇宙空間に適応するため、高い洞察力と状況認識力を獲得する。これによって人々は意思疎通がより円滑になり、誤解のないコミュニケーションが可能になる……という主張だ。
ジオニズムとニュータイプ理論。
父ジオン・ダイクンが提唱したこの両者を実践することで
「全人類が宇宙に上がれば全員がニュータイプとなり、次のステージへと上がった人類は無益な争いをやめる」
……そう信じてシャア・アズナブルは地球寒冷化作戦を行ったのだと、カムイは理解していた。
クワトロは呟くように言う。
「そうだ。私は信じきれなかった。自分が何をするべきなのか、ずっと迷っていた。
……だからなのかもしれないな。私が本気で、勝利に徹しきれなかったのは」
「それは、アムロ・レイにサイコフレームを渡したことを?」
「よく調べているな。そうさ、ネオ・ジオン総帥には不要なセンチメンタルだよ。宿敵との決着をつけたいなどというのは」
シャアは地球寒冷化作戦の最中、裏で手を回してロンド・ベル隊にサイコフレームを横流ししていた。モビルスーツの性能差をなくして、アムロ・レイとの完全なる決着をつけるために。
これはネオ・ジオン総帥にあるまじき、明確な利敵行為だ。
カムイの目から見ても、シャア・アズナブルおよびクワトロ・バジーナという男の行動には、まるで一貫性が見られない。
その人生は余人が考える以上に、ずっと深い迷いの中にあったのかもしれない……そんな印象をカムイは受けた。
考えるカムイの前でクワトロは話を続ける。
「新生ネオ・ジオンの設立……地球寒冷化作戦。本当は、私もやる気はなかった。……しかしチャンスが失われつつあるのを目にして、私は……自分を止められなかったのだ」
「チャンス?」
「Dr.ヘルや異星人の襲来、それによる混迷のことさ。
この機を逃せば、地球のスーパーロボット達の防備を
およそ10年間続いた戦乱の時代は新宇宙正暦90年から始まったが、その中でシャアが第二次ネオ・ジオン抗争を起こしたのは、新宇宙正暦99年。戦乱が終結する直前のことだ。
「すべての人類を宇宙に上げるチャンスは、この先は二度と訪れないと思ったのだ。少なくとも、私が生きているうちには」
「それは……」
同じだ、とカムイは思った。
セニアから聞いたフェイルロードの話。
そして、今の自分自身とも。
そう思った瞬間、クワトロの後悔もカムイは
同時に、ひとつの確信を得た。
やはり今のように迷いを抱えたままでは、自分は必ず後悔することになるのだろう、と。
しかし、だとすると……
「では、後悔しないためには、どうすれば」
カムイの知りたい事はそれだ。
そしてその結論は、すでにカムイも分かっている。
答えは「迷わないこと」だ。
しかし自分自身に「迷うな」と言い聞かせたところで、意味はない。
人の心はそんな単純に出来てはいない。
迷わずに進むためには、具体的に、何をどうしたらいいのか――?
その問いに対してクワトロは苦笑しながら答えた。
「それが分かるようなら、こんな油くさい場所でランチを
もっともな話だった。
しかし――と間に言葉を挟んで、クワトロは続ける。
「――ケジメだけはつけるつもりだ。この、自らの後悔をそそぐために」
「ケジメ……大尉は何をしようと?」
クワトロ・バジーナ――あるいはシャア・アズナブル――は、自らのケジメをつけるために何をしようとしているのか。
しかし彼は口を開かなかった。
もうこれ以上は話すつもりがないと悟ったカムイは、頭を下げてその場を離れた。
格納庫を出て、通路を歩きながらカムイは考える。
……クワトロのケジメのつけ方を聞く必要はない。
“ケジメ”とは、自らの気持ちにピリオドを打つ行為だ。その方法は自分で考えるしかない。
これはカムイ自身の気持ちの問題なのだ。
カムイは人類に滅ぼされる宇宙の生命を救いたい、と考えている。
かといって人類と敵対することも望んでいない。
できることなら共存の道を探りたい。
だがカムイは理解している。
自分は、共存などという淡い希望を理由もなく信じられるような者ではない、ということを。
そしてここに大きな問題がある。
ゲッターエンペラーが誕生するのは遥か未来の話であり、カムイは見届けることができない。
つまりカムイは、
「ゲッターエンペラーの誕生を物理的に阻止した」
あるいは
「このままいけば人類とその他の生命との共存が進んでゲッターエンペラーによる虐殺は起きなくなると確信した」
といった状態になる必要がある。
現実的に考えて後者はほぼ不可能だ。
であれば、前者を目指す他ない。
……が、カムイが目指したいと考えているのは後者だ。
このジレンマがカムイの問題の核。
一体どのように考えれば、失敗しても後悔することなく、共存の道を目指せるのか――?
(……ケジメ……か)
カムイはクワトロの話を思い出す。
クワトロはケジメをつけることで、自らの後悔から抜け出そうともがいている。
そんな彼にカムイは共感していた。
ならば、とカムイは考える。
決断を行う前に、あらかじめケジメをつける方法を決めておいてはどうか?
(そうだ。失敗した場合に自らが責任を取る方法を、あらかじめ仲間に伝えておく。それで仲間が納得するのなら……それならきっと、俺は前に進める。失敗しても悔やまずにいられるはずだ)
カムイは自分に必要なものをようやく掴んだ気がした。
クワトロの話は大いに参考になった。
後は、共存できる世界を作ることに失敗した場合、どうやってケジメをつけるのかを考えればいい。
(そう……いや、しかし……)
カムイは心のどこかにしこりが残るのを感じていた。
まだ、何かが足りないような気がしている。それが何なのか――
「おっと」
考え事をしながら歩いていたカムイは、通路の曲がり角から現れた男とぶつかりそうになった。
相手はヒュッケバイン30thのパイロット、エッジ・セインクラウスだ。
カムイは自分の不注意を謝罪する。
「すまない、考え事をしていた」
「いや、こっちこそ……」
とエッジもテンション低めに通り過ぎようとする。
が、彼は何かを思い直してカムイに声をかけた。
「あんた、確かカムイっていったよな。ゲッターアークの」
「ああ、そうだが。……何か?」
「特に用があるわけじゃないが……お前さん、何か悩みがあるんじゃないか?」
「む……」
エッジの言う通り。
とはいえカムイも、初対面の男に対して己の悩みを語るつもりはない。
「やっぱりな。いや、なにも悩みを言えってわけじゃない。
ただ……そんなお前さんにいい言葉があるぜ」
「いい言葉……?」
聞き返すカムイに、エッジはにやりと笑って言う。
「それはな。『できることを精一杯』だ。どうだ、いい言葉だろ?」
確かにエッジの言う通り、いい言葉だとカムイは思った。
特にこの艦を操舵する
悩んだり迷ったりする余裕もなく、それぞれが自分にできることを精一杯こなすことで、苦境を乗り切ってきたのだろう。
それに比べれば、こうして思い悩む暇のある自分は幸運なのだ……そうカムイは考える。
しかし……
「その言葉、拓馬と獏にも同じ事を言っていただろう。まさか艦に乗る全員に言っているのか?」
「うっ……! お、お前、見てたのかよ……!」
図星を突かれて
カムイの呆れたような溜め息が、ドライストレーガー通路に流れたのだった。
***
ドライストレーガーの第一格納庫。
比較的小さな機体が収められている第二格納庫とは異なり、こちらでは主に体の大きなロボット達が鎮座している。
こうした居並ぶ巨大ロボットよりもさらに大きな輸送艦が、格納庫の奥にあった。
その輸送艦の前に4人の人影がある。
まず獏とセニア。あとはドライストレーガーのメカニックであるカンナ・クランチェット。それからナラティブガンダムのパイロットを務めるヨナ・バシュタだ。
獏は他の3人へ向かって大きく声を張り上げる。
「これがゲッター炉心を搭載したメカニック艦……その名も『クジラ』だ!」
「すごいわねぇ~、ドライクロイツの整備班は! もう出来ちゃうなんて」
「みんな頑張ったからね! 今回は
と言ってカンナは誇らしげに胸を張る。
彼女はドライストレーガーの初陣の時から部隊を支えてきたメカニックの一人であり、笑顔が明るいムードメーカーだ。
彼女たちは揃って目の前の艦を見上げる。
それはまさしくクジラの名にふさわしい、ずんぐりとした楕円形の艦だった。
獏がいた世界には『クジラ2005D』という機体があり、ゲッターロボを修理しながら移動できる大型輸送機として運用されていた。
こちらの世界でも似たようなものが開発されていて、かつてのインベーダーとの戦いにおいて活躍した。
動力となるゲッター炉心は、先日のバグとの戦いの後、早乙女研究所内で
セニアは艦の装甲をポンポンと叩きながら語る。
「この子を造るのはミツバや副長のレイノルドさんも乗り気だったものね。あたしのノルスや
「ああ。とはいえ、メカニック艦としては未完成なんだよな。
このドライクロイツって部隊には互換性のないワンオフ機が多すぎる」
腕を組みながら言う獏にカンナが答える。
「そりゃそうよ。ドライストレーガーの充実した設備があっても、出撃のたびに色んな機体の修理で毎回てんてこ舞いなんだから」
カンナが言うように、ロボットの種類の多さはメカニック達が頭を抱える問題だった。
モビルスーツやナイトメアフレームといった規格がはっきりした機体だけでなく、マジンガーZ、コン・バトラーVなどの重特機に加え、さらには
それら全てを修理できる設備をクジラに積むことは難しかった。
「しょうがないわね。
「改めて、とんでもねえ部隊だな。こりゃ戦術を考えるのも難儀するわな」
実際、クジラの前線での具体的な運用についてはまだ定められておらず、現在のところ実戦投入の時期は未定となっている。
「そんなことより、あたしのデュカキスⅡよ! もう中にあるんでしょ?」
言うが早いか、セニアは目を輝かせてクジラの開いた口から中に入っていった。
クジラの中には、セニアがこの世界に来てから新たに造ったスーパーコンピュータが設置されている。
セニアはデュカキス製造について艦長たちと交渉を重ねたが、ドライストレーガーの設備内に超高機能のスーパーコンピュータを置くことには、副長のレイノルドが強く反対した。
そのため最終的に、ドライストレーガーと直接繋がっていないクジラの中になら……という形で製造の了承を得たのだった。
クジラの中でセニアは歓声をあげる。
「いいわね! ロボットをいじるスペースは充分!
そのぶん被弾面積も大きいけど……そこはデュカキスでカバーね」
デュカキスⅡに敵機の攻撃予測プログラムを組み込むことで、小回りがきかないクジラの弱点を補う想定をしている。
その上で、ケイのパープルツーやルルーシュの
「それで……」
と、ここまで無言でついてきていたヨナが口を開いた。
「脳波測定機は、このマシンに繋げばいいのか?」
それにセニアが答える。
「ええ、お願い。繋げて動作確認と調整ができたら、教えてちょうだい」
「分かった」
ヨナは頷くと、手際よくサイコミュ受信機の設置に取りかかる。
これから彼らはこのクジラの中で、ひとつの実験を行う。
獏の予知能力を実戦で活用するための実験だ。
獏の予知能力は現状、自分の意志で扱うことができない。
これを任意で使えるようにできれば、大きな戦力になるのは間違いない。
今回の実験の流れを簡単にまとめると、まずゲッター炉心から少量のゲッター線を取り出し、獏に照射。そのゲッター線量のコントロールや、獏の能力発動の補助・補正を、デュカキスⅡに入れたプログラムでリアルタイムに行っていく。
ヨナは機材を操作していた手を止めると、自分の頭につけていたヘルメット型の脳波測定器を外す。
「……よし、こっちは終わった。これで問題なく使えるはずだ」
仕事を終えたヨナにカンナが
「ありがとうございます、ヨナ少尉!
脳波測定器の調整が上手な少尉がいてくれて助かりました!」
いきなり間近に迫られたヨナは、思わずたじろぎ視線をそらす。
「あ、ああ。脳波の測定は、飽きるほどしてきたから……。
それじゃあ山岸、これを」
「獏でいいっすよ少尉」
獏はヨナからヘルメット型の測定器を受け取り、自分の頭に被せた。
そして実験を開始する。
「じゃ、始めるわよ」
セニアがゲッター炉心を起動。ごく少量のゲッター線を獏に照射していく……
それを見てヨナは疑問を口にする。
「ゲッター線のことは知らないんだが……危険じゃないのか?」
この世界では早乙女博士が人類に反乱を起こしたこともあり、ゲッター線の危険性は広く周知されている。
ヨナが不安視するのも当然だ。それにカンナが答える。
「もともとゲッター線は、宇宙から地球へ常に降り
微量なら害がないものなので、そこはセニアがしっかりコントロールしてます」
「なるほど」
カンナの説明を聞いてヨナが納得したその時だった。
獏の口から違和感を訴える声が漏れる。
「ん……お……おお……?」
「獏、どうしたの? 大丈夫?」
「おお、ビンビン来てるぞ! だがこれは……うっ!」
その瞬間、獏が大量の鼻血を吹き出す!
そして、その巨体がぐらりと揺れ……鉄の床の上に倒れる。
「獏!?」
すぐさま機械を停止させるセニア。
カンナやヨナが駆け寄るが、獏はすぐに起き上がる。
当人は問題ないと言い、実際にピンピンした様子ではあったが、念のため医務室で検査を受けることにした。
検査の結果、どこにも問題なし。
付き添った3人は安堵に胸をなでおろす。
そんな彼らに向かって獏が言うには、
「いや……どうもマサキにプラーナの使い方を教わってから、自分の能力がビンビンになってる感じがしてな。多分そのせいだと思う。まだ慣れない感じがして、俺も戸惑ってるんだ」
とのこと。
獏は「ちょっと神経過敏になってるだけだから問題ない」と実験の続きをするよう要求。
しかし「ダメよ」とセニアは実験の中止を言い渡した。
理由は、獏が鼻血を吹いて倒れた事実は無視できない事。
それと合わせて、ゲッター炉心に不可解な動きが見られた事だ。
「ゲッター線は扱いが難しすぎるわ。
まるでそれ自体が意思を持つかのような、おかしな挙動をすることがある。
早乙女博士はどうやってこんなのを実用化したのかしら……」
人の精神を媒介する技術については、ラ・ギアスは地上よりも研究が進んでいる。
しかしラ・ギアスの錬金学士の中でもとびきり優秀なセニアの知識と経験をもってしても、ゲッター線の性質を掴むのは簡単ではなかった。
「そういうわけだから、ゲッター線の研究がもっと進むまで実験はひとまず凍結。
いいわね、獏?」
「ウーム……」
「えっ、まだやる気なの!?」
「意外と引かない奴だな、山岸……」
――そんな話を、彼らが医務室でしている時だった。
部隊の全員に向けた艦内アナウンスが流れる。
それはドライストレーガーのオペレーターのひとり、イレーヌ・ベクレールの涼やかに透き通る声によって。
「総員、持ち場についてください。これより本艦は異世界『セフィーロ』に入ります」
【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・タイトルの「明心見性」は仏教用語。みずからの根本的な性質を明らかにすること。
・カミーユはハイスクールでは空手部に所属していた。腕前のほどは不明。
・カミーユの一人称は「僕」「俺」どちらも同じくらい使っている。主に目上の人には「僕」で、幼馴染のファに対する時や戦闘中などの感情が激しくなるような時は「俺」になる傾向。
・弁慶は元々、野球部員。「やじり」専門の部員だった、という設定がある。(試合には出ずに敵チームにヤジを飛ばすだけの役割)
・スパロボ30の男性主人公であるエッジは、ドライストレーガー艦長であるミツバの座右の銘「できることを精一杯」を頻繁に布教する。
・OVA『真ゲッターロボ 世界最後の日』に出てきた飛行空母「クジラ」は、漫画版『ゲッターロボ號』4巻でも出てくる。漫画版では「日本企業が作ったハイテク搭載の移動メカニック機 クジラ2005D」と紹介されており、ゲッター炉心が使われているという話はない。
・『逆襲のシャア』作中ではアムロ・レイ自身がヘルメットを被ってνガンダムのサイコミュ・システムの調整をしている。
・レイアース漫画版では、強調すべき箇所や特殊な用語のほぼ全てに二重鉤括弧『』がつけられている。