Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第2話「心が全てを決める世界」

 万能戦闘母艦ドライストレーガー。

 そのブリッジの中では、かつてないほど緊迫した声が飛び交っていた。

 

ν(ニュー)ガンダム、大破しました! モビルスーツ隊……ぜ、全滅です!」

 

「アムロ大尉を回収してください!

 魔法騎士(マジックナイト)とサイバスターはモビルスーツ隊の代わりに右翼へ展開!」

 

「格納庫にモビルスーツの余剰パーツの確認を促します!」

 

 悲鳴のようなオペレーターの報告。

 怒鳴るように声を張り上げた指示。

 艦長を務めるミツバ・グレイヴァレー特務中佐の表情にも余裕がなく、切羽詰まった状況を示している。

 だがそれも無理からぬこと。

 現状、すでに部隊の7割以上の機体が撃墜されて、戦闘不能になっている。

 地球連邦軍独立遊撃部隊ドライクロイツは、その発足以来、最大の危機に直面していた。

 

 

 ――今からおよそ1時間ほど前。

 ドライクロイツは異世界『セフィーロ』へと突入し、セフィーロ&ジャロウデク王国連合軍との戦闘を開始した。

 この世界の地球は外宇宙勢力のみならず異世界の国々からも侵略を受けているが、今回の作戦はセフィーロ軍との最終決戦となる。

 

 セフィーロの軍は神官(ソル)ザガートが、ジャロウデクの軍は第二王子クリストバル・ハスロ・ジャロウデクが率いている。

 ただし本来、神官(ソル)ザガートはセフィーロを統括する人間ではない。

 セフィーロには『柱』と呼ばれる統治者が存在し、『柱』の祈りの力によって世界が支えられている。

 現在のセフィーロの『柱』の名は、エメロード。

 ザガートはクーデターを起こしてエメロード姫を捕らえ、セフィーロの実権を手中に収めた悪しき神官である。

 それに続けて彼はジャロウデク王国と同盟を結ぶと、次元を越えて地球へと侵攻を開始した。

 そんな異世界からの侵略者を、ドライクロイツを含めた地球連邦軍は幾度となく交戦し、撃退してきた。

 そしてついに今回、ドライクロイツの方からセフィーロへと乗り込み、決戦に臨んだのだった。

 

 戦闘開始からほどなく、ジャロウデク軍は壊滅。クリストバル王子は撤退した。

 しかし問題はザガートの腹心である精獣イノーバだった。

 イノーバが死の間際に放った広範囲への雷撃により、ドライクロイツの部隊は半壊。

 そこへ満を持して姿を現すザガート。

 彼は黒騎士のような姿をした魔神(マシン)に乗って現れた。

 ザガートが己の持てる力を注ぎ込んで創造(つく)りあげた魔神(マシン)は恐ろしいまでの強さで、ドライクロイツのロボット達は次々と撃破されていった……

 

 ザガートも決して無傷というわけではなかった。

 撃破された者達もそれぞれに一矢報いて、ザガートが駆る魔神(マシン)は甚大なダメージを(こうむ)っている。

 しかしそれで動きが鈍るどころか、むしろザガートの攻撃はさらに苛烈さを増し、その力はまるで底が知れない。

 

 そうして現在。

 常軌を逸した強さを発揮するザガートに対して、ドライクロイツの面々は必死に応戦。

 余談を許さない激戦が続いている――

 

 

「いっけぇーっ! アカシックバスター!!」

 

 サイバスターが宙に描いた六芒星から紅蓮の火の鳥が召喚され、ザガートの操る魔神(マシン)へ突き進んでいく。

 以前の戦いではサイバード形態に変形して火の鳥と重なって突撃していたが、今回は火の鳥だけを飛ばしている。

 

「…………」

 

 ザガートは真横に動いて回避する。

 彼方へと飛び去っていく火の鳥、それを――

 

「今だ、(ふう)!」

 

「はい……! 戒めの風!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 鳳凰寺風(ほうおうじふう)の乗る空神ウィンダムから風の束が伸び、火の鳥を捕獲。

 (ふう)は火の鳥を方向転換させると、ザガートの背中に向けて解き放つ!

 

「む……!」

 

 ザガートもそれは予想していなかった。

 しかし素早く左手を伸ばして火の鳥の頭を掴み、唱える。

 

精獣戻界(スレイヤ)

 

 すると火の鳥はザガートが右手に持つ剣の中へと吸い込まれていった。

 想定外の事態にマサキは驚愕の声をあげる。

 

「なにっ!?」

 

 そしてザガートは剣の切っ先を空神ウィンダムに向けた。

 

「――精獣招喚(クレフト)

 

 剣の先から漆黒の火の鳥が飛び出し、ウィンダムに襲いかかる!

 

「きゃあぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

 (ふう)の悲鳴とともにウィンダムが火の鳥に呑まれる。

 火の鳥が通り過ぎた後、そこには全身の装甲が溶かされ、無惨な姿となったウィンダムがあった。

 伝説の魔神(マシン)が、ただの一撃で戦闘不能に。

 もはや戦えない彼女に向かって、ザガートは狙いを定めた。

 

魔法騎士(マジックナイト)よ……ここで息の根を止める……!」

 

 それを阻んだのは二人の魔法騎士(マジックナイト)だった。

 

(ふう)ちゃん!」

 

「やらせないわ!」

 

 獅堂光(しどうひかる)が操る炎神レイアースと、龍咲海(りゅうざきうみ)の海神セレス。

 2本の剣がザガートの魔神(マシン)に迫る。

 ザガートは振り返ると漆黒の剣で彼女たちの剣を受け止めた。

 (ひかる)(うみ)の二人は息の合った連携を見せて、ザガートに反撃の隙を与えない。

 (うみ)は二年生にしてフェンシング部の代表として全国大会に出場するほどの腕前であり、(ひかる)に至っては幼稚園児の頃に剣道家である父を負かしたほどの天才だ。

 対するザガートは神官である。

 彼は剣の扱いを得意としていない。

 だが――

 

(ひかる)(うみ)! 近付きすぎだ!」

 

 マサキの声に二人が反応するよりも先に、ザガートの剣が(ひるがえ)る。

 その太刀筋は洗練されているとは言えなかったが……恐るべき速度と圧倒的なパワーで、2体の魔神(マシン)を同時に斬り捨てた。

 

「ああああぁーーーーーーっ!!」

 

「くぅぅっ……!」

 

 海神セレスは胴をほぼ両断されて大破。

 炎神レイアースは盾で防いだものの、ザガートの剣はまるでバターを切るように軽々と盾を裂き、レイアースの左腕を斬り飛ばした。

 魔法騎士(マジックナイト)たちの命を確実に奪わんとするザガートは、さらに追撃する。

 そこへ疾風が通り過ぎた。

 通り過ぎざまにディスカッターの一撃を加えた、サイバスターだ。

 

「下がれ、(ひかる)!」

 

 マサキの指示。

 それに続いて母艦のミツバ艦長から通信が入る。

 

(ひかる)さん、ウィンダムとセレスを回収して帰艦してください!」

 

 (ひかる)は指示に従い、傷ついた仲間を担いで戦線を離脱した。

 その間、マサキのサイバスターがザガートの足を止める。

 

「マサキ! この距離は危険だニャ!」

 

「分かってる! 要は止まらなきゃいいんだろ!」

 

 サイバスターは速度を緩めることなく、ザガートの周囲を高速で旋回しながら斬撃を放ち続ける。

 その繰り返される連撃は、神隼人(じんはやと)のゲッターライガーによる音速を越えた連続攻撃と似ていた。

 しかしマサキのそれは、荒々しい中にも確かな剣の理合(りあい)があった。

 カウンターで合わせようとしたザガートの剣はいなされて空を切り、逆により強い斬撃で返される。

 

「捉えられん……だが、そう長く続けられるはずはあるまい」

 

 ザガートは守りを固めてサイバスターが止まるのを待つ。

 ……が、止まらない。

 その速度は際限なく上がっていき、ついには人の目で追えない領域にまで到達する。

 

「これは……」

 

 荒れ狂う暴風の中、自らを竜巻と化した風の魔装機神に対して、ザガートは呟きの声を漏らす。

 

「この力……そうか、お前もか」

 

「秘剣! ディスカッター乱舞の太刀!!」

 

 サイバスターが最高速度に到達した瞬間、その斬撃の威力も最高潮に達する。

 最後に横薙ぎの一閃をもって神速の剣舞は幕を下ろした。

 乱舞の太刀――無窮流の奥義を自らのセンスで模した、マサキの奥の手である。

 しかしそれでも、ザガートの魔神(マシン)には小さな傷が増えただけだった。

 

「これでも駄目だと!? どうなっていやがる!?」

 

「マサキ、来るニャ!」

 

 驚愕するマサキにザガートが迫る。

 必殺の乱舞でプラーナと魔力を大きく消耗したマサキは、回避が遅れる。

 

「くっ……!」

 

 ザガートの黒い剣がサイバスターの白い装甲を貫こうとする、その直前、

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 

 横あいから振り上げられた分厚い戦斧が、黒い切っ先を弾いた。

 流竜馬(ながれりょうま)が操る真ゲッタードラゴンだ。

 そのまま真ゲッタードラゴンとザガートの魔神(マシン)との、激しい打ち合いが始まる。

 中空で火花を散らす剣戟。

 今やザガートの絶大な力に真っ向から対抗できるのは、この戦場では真ゲッタードラゴンだけだった。

 だが、それも分が悪い。

 理不尽とも思えるザガートの魔神(マシン)の出力に、真ゲッタードラゴンすら押され始める。

 マサキはすかさず真ゲッタードラゴンの援護に回る。

 

「そこだ! カロリックミサイル!」

 

 サイバスターから発射された熱素の光弾がザガートを直撃。

 しかしそれは、ほんのわずかにザガートの動きを鈍らせることしかできない。

 

「全然ダメージ受けてないニャ!」

 

「もうコスモノヴァくらいじゃニャいと……」

 

 手傷を負うたび、攻撃の威力も守りの硬さも増していくザガートの魔神(マシン)

 今のザガートにサイバスターが決定的な打撃を与えるには、コスモノヴァしかない。

 だがコスモノヴァは1発しか詰めない。

 そして、その1発はすでにザガートに対して使用している。

 母艦に戻って補給したいところだが、この切羽詰まった状況では、そんな余裕もない。

 

「ないものねだりしたってしょうがねえ!

 ゲッターチームを援護するぞ!」

 

 サイバスターと真ゲッタードラゴンは互いに連携をとって、ザガートの魔神(マシン)に立ち向かっていった。

 

 ……そんなドライクロイツの戦士たちを迎え撃つザガート。

 彼は視界の中に真ゲッタードラゴンとサイバスターを収めつつ、誰に向けるでもなく呟いた。

 

「ないものねだりは無意味……その通りだ。

 もしMAGINEがあれば、私にも運命を変えられたかもしれん。だが……」

 

 その瞳に満ちるは、決意。

 鋼のごとき揺らがぬ意志がそこにあった。

 

「もはや戦うのみだ」

 

 

***

 

 

 作戦直前で獏が倒れたことにより、拓馬、カムイ、獏のアークチームは、今回の作戦では出撃禁止を言い渡されていた。

 そのため彼ら3人はメカニックの手伝いをしていた。

 が、今のドライストレーガーの格納庫内は、まさに修羅場といった様相を呈していた。

 次々と運び込まれてくる壊れたロボットたち。

 本来なら第一格納庫と第二格納庫で扱う機体の種類が区分けされるはずだが、そんな余裕もなく、大小さまざまな機体でごった返している。

 あらゆる場所から怒号が飛び交い、整備班が汗を拭く間もなく駆け回っている。

 そんな格納庫の様子に、アークチームの3人も戦線の危機的状況を感じ取っていた。

 

「おいおい、まずいんじゃねえのか」

 

「ああ。恐竜帝国で戦ってた時を思い出すな」

 

「いったい状況がどうなっているのか……」

 

 そんな彼らの近くで、モビルスーツを降りてきたクワトロがヘルメットを取る。

 カムイはクワトロに今の状況を尋ねた。

 クワトロはザガートが暴れまわる戦場の様子を伝える。

 それから、自らの意見を補足した。

 

魔法騎士(マジックナイト)の少女たちによると、異世界セフィーロでは心が全てを決めるらしい。損傷を受けるたびに高まるザガートの力は、そのせいだろう。……しかし『全てを決める』は言い過ぎだな」

 

 今回の作戦が始まる前に、ドライクロイツの面々は魔法騎士(マジックナイト)の3人からセフィーロ内における特殊な法則についての説明を受けていた。

 それによると、セフィーロは本当に文字通り『心が全てを決める』場所なのだという。

 攻撃が通ると思えば通るし、矢が命中すると信じたなら必ず当たる……そういった世界である、とのことだった。

 

「聞いていた話と違うと?」

 

「ああ。おそらくこちらの世界と融合している影響だろう。

 とはいえ、パイロットの精神状態が機体性能に影響を与えているのは確かだ。

 私の百式も普段と比べて反応がひどく鈍い。

 ……今の私では役に立てそうもないな」

 

 そんなふうに自虐を混ぜつつ、クワトロは今回の戦闘の特異性を語った。

 クワトロが話したように、今のセフィーロはこちらの世界と半ば融合しており、両者の境が曖昧になっている状態だった。

 

 アークチームはクワトロの話で状況を理解する。

 魔法騎士(マジックナイト)が操る3体の魔神(マシン)が格納庫に入ってきたのは、そんな時だった。

 海神セレスと空神ウィンダムは完全に破壊されており、(うみ)(ふう)を格納庫の中に降ろすと、2体の魔神(マシン)は光に包まれてその姿を消した。

 魔神(マシン)は普段、専用の異空間で待機している。

 姿を現すのは戦う時だけだ。

 まだ戦いが続いているのに異空間に姿を消したということは、すなわち戦闘の続行が不可能であることを意味していた。

 拓馬は魔法騎士(マジックナイト)たちに駆け寄る。

 

「大丈夫か、お前ら!」

 

 彼女たちはひどく憔悴した様子だった。

 しかし鳳凰寺風(ほうおうじふう)は毅然とした顔で、格納庫の中に立つ炎神レイアースを見上げた。

 

「ウィンダムはもう戦えません。ですから(ひかる)さん、わたくしたちの分も……」

 

 (ふう)は魔法の言葉を唱える。

 

「癒しの風……!」

 

 少女を中心として柔らかな風が巻き上がり、それは炎神レイアースを包み込んでいく。

 すると瞬く間にレイアースの欠けた左腕と盾が再生した。

 その驚異的な修理速度にアークチームの3人は目を見張る。

 だが……

 

(ふう)ちゃん!」

 

 レイアースの修理を終えた(ふう)は崩れ落ちるようにその場に倒れた。

 そんな(ふう)(うみ)が抱える。

 心配そうに顔を覗き込む(ひかる)(うみ)に向けて、(ふう)は苦しさを隠しきれない様子で口を開く。

 

「大丈夫ですわ……少し心の力を使いすぎただけです。少し休めば……」

 

 セフィーロの人間や魔法騎士(マジックナイト)たちは超常の力である『魔法』を使用できるが、魔法を使うには心の力を消費し、使いすぎれば意識を失ってしまう。

 (ひかる)も初めて魔法を使った時には、意識が朦朧として自分の足で立てなくなるほどだった。

 (ひかる)(ふう)(うみ)に任せて立ち上がると、力強く宣言する。

 

(ふう)ちゃん、(うみ)ちゃん……私、やるよ!

 二人のぶんまで戦って……絶対にザガートを倒してみせる!」

 

 そう言って(ひかる)は再び炎神レイアースに向かおうとする。

 しかしそれを獏が制止した。

 

「ちょっと待った、(ひかる)

 お前さんの“気”は今、相当弱くなってるぜ。

 そんな疲れきった心じゃ、ろくに魔法を使えないはずだ」

 

「でも……!」

 

 そう言われても(はや)る気持ちを抑えられない(ひかる)

 そんな(ひかる)を強い言葉で止めたのは、(うみ)だ。

 

「ダメよ、(ひかる)!」

 

(うみ)ちゃん……」

 

「焦っては駄目。呼吸を整えなさい。

 気持ちが乱れたままでは戦いには勝てない……あなたなら分かるわよね?」

 

 (うみ)の眼差しは厳しくも真摯で、(ひかる)は自然と足を止めていた。

 そんな彼女たちを見たアークチームの3人は互いに目を合わせると、無言で頷く。

 

「行くぞ!」

 

 3人は一斉に駆け出した。

 格納庫の一角で鎮座するゲッターアークのもとへ。

 彼らは出撃禁止の命令を無視してゲッターアークへ乗り込もうとする。

 ――その直前だった。

 

「うっ……!?」

 

 アークの目の前で獏が立ち止まり、自らの額に手をあてる。

 

「どうした、獏!?」

 

 そんな拓馬の声も耳に入らない。

 今、獏の目には、見えるはずのないものが見えている。

 それは今より未来に起きる出来事。

 

////////////////////////////////////////

 

 ザガートの魔神(マシン)と対峙する、レイアース、セレス、ウィンダム。

 魔法騎士(マジックナイト)の3人は心の力を合わせて合体魔法『閃光(ひかり)の螺旋』を発動。

 悪しき神官(ソル)ザガートを倒すことに成功する。

 ……しかし魔法騎士(マジックナイト)たちに、今度はエメロード姫が襲いかかった。

 困惑する魔法騎士(マジックナイト)たち。

 そして衝撃の真相が明かされる。

 エメロード姫とザガートは互いを愛していた。

 だがそれはセフィーロを治める『柱』には許されないことだった。

 エメロードはザガートを強く想うあまり、世界の平穏を祈れなくなってしまったのだ。

 このままではセフィーロは崩壊してしまう。

 代わりとなる新たな『柱』が必要だ。

 しかし、『柱』は自らの意思で辞めることができない。

 『柱』が代替わりするのは現在の『柱』が死亡した場合のみ。

 だがセフィーロの人間が『柱』を傷つけることはできず、『柱』は自害することもできない。

 そこでエメロードはセフィーロ以外の人間に自分を殺してもらうために、魔法騎士(マジックナイト)となる3人の少女を招喚したのだった。

 

 ……これが、この世界に隠された真実。

 愛するザガートの死により憎悪で心が埋め尽くされたエメロードは、その殺意を魔法騎士(マジックナイト)たちに向ける。

 そんなエメロードを魔法騎士(マジックナイト)たちは討たざるを得なかった。

 世界を守るためとはいえ、ただ愛し合うことだけを望んだ二人の男女を、自分たちの手で殺めてしまった(ひかる)(うみ)(ふう)

 彼女たちの心には大きな傷が刻まれるのだった――

 

 そしてその後、3人の少女は再びセフィーロに呼び出され、新たな『柱』を決める戦いへとその身を投じていく……

 

////////////////////////////////////////

 

「――獏! どうしたんだ、何が見えてる!?」

 

 拓馬の声で獏はハッと現実に戻ってくる。

 今度はカムイにも獏に何があったのか理解できた。

 

「未来が()えたのか」

 

「……ああ」

 

 長話をしている暇はない。

 獏は自分が見た悲劇的な結末を、なるべくかいつまんで拓馬とカムイに話した。

 

 

***

 

 

 ドライストレーガーで艦長が指揮をとるブリッジの中。

 獏から話を聞いた拓馬はすぐさまブリッジへと直行し、今すぐ戦闘を止めるよう艦長のミツバに直談判した。

 しかしそれを副長のレイノルドが強く否定する。

 

「駄目だ、認められない。今は激しい戦闘の真っ最中だ。

 下手に戦闘停止を部隊に命じれば、止まった味方機が敵に落とされてしまう」

 

 その副長の意見に、艦長のミツバも頷く。

 

「事情は分かりました……ですが、副長の言う通りです」

 

「副長サンが正しいのは俺だって分かる!

 だがよ……こんな理不尽、あっていいはずねえだろ!」

 

 食い下がる拓馬。

 そんな熱くて強い気持ちを真正面からぶつけられ、ミツバの瞳が揺らぐ。

 だが彼女は大勢の命を預かる部隊の長として、鉄の意志をもって返す。

 

「流拓馬さん、あなたの提案は認められません。

 今の話を神官ザガートにしても、彼が戦いを止める保証はありません。

 ――戦闘は止めない。

 これはドライクロイツの指揮官としての決定事項です」

 

 有無を言わさぬ結論としてミツバは告げる。

 拓馬はその言葉を受け止めると……静かに背を向けた。

 諦めたか、と副長のレイノルドが安堵した時、拓馬が口を開く。

 

「ミツバ艦長。あんた俺らがこの艦に乗った時、こう言ったよな。

 命令に従うかどうかは、こっちの好きにしていい……って」

 

 その言わんとするところを察したレイノルドが慌てる。

 

「まさか……!」

 

「だったら好きにやらせてもらうぜ!」

 

 きっぱりと宣言し、拓馬はブリッジを出る。

 扉の前ではカムイと獏が待っていた。

 

「やっぱりこうなったか。まあ当然だろうな」

 

「時間が惜しい。格納庫に向かいながら話すぞ」

 

 言って、走り出すカムイ。

 それに拓馬と獏も続いて、ブリッジまで来た道を逆戻りする。

 

「おい! お前は止めるんじゃないのかよ、カムイ!」

 

「……どうせ止めても無駄だろう」

 

「へっ、分かってきたじゃねえか!」

 

 などと答えたものの、カムイには拓馬を止めるつもりは毛頭なかった。

 以前、母と触れ合うことを許されないカムイの境遇を知った拓馬は、一計を案じてカムイ親子を引き合わせた。

 ……それは引き離されていた長い期間からすると、ほんの短い時間だった。

 だが、それで救われたのだ。カムイの心は。

 拓馬は世の理不尽に対して憤りの心を向ける。

 それを止める理由は、カムイには何もない。

 

「それで、どうするんだ拓馬?」

 

「任せろ、俺に考えがある!」

 

 そうしてアークチームの3人は、格納庫に向けて全速力で通路を駆け抜けた。




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・スパロボ30のイノーバはMAP兵器を持っている。

・昔のアカシックバスターは火の鳥を飛ばすだけの技だった。その頃のアカシックバスターは射程もかなり長く、移動後使用不可の攻撃だった。

・レイアース原作で風は光と海を移動させるために戒めの風を使用している。

・レイアース原作のザガートは精獣戻界や精獣招喚といった魔法を使用していない。これらを使ったのはクレフとアルシオーネ。「クレフの弟子であるアルシオーネが使えるのなら、同じくクレフの弟子でありアルシオーネより格上のザガートは使えても不思議はないはず」という考えから、本作ではザガートに使用させている。これ以外の魔法についても同じ。

・レイアース原作の描写では、海のフェンシングの腕前がどの程度なのかはハッキリとしない。国技館で大会があるらしいが、少し調べたところ国技館で中学フェンシングの大会が行われることはなさそうなので、詳細が不明。おそらく国技館は全国大会をイメージしているのだろう、という想定で本作では海の剣の技量を描写している。

・スパロボ30のザガートは底力レベル9。HPが減るとダメージが全然入らなくなる。

・αシリーズから来たと思われるスパロボ30のマサキは、この時点で乱舞の太刀を修得していない可能性があるが、今回のマサキはSFC『魔装機神LOE』終了後をイメージしているので、普通に使えることにしていく。

・カロリックミサイルは昔のサイバスターには搭載されていたのに、いつの間にかなくなっていた武装。近年の作品では復活していることもあり、昔はただのミサイルを飛ばしていたが、今では光弾を飛ばす技に変わっている。

・ザガートの弟であるランティスは魔法剣士なので剣も得意。

・スパロボ30では「MAGINE」という言葉が要所で言及され、「世界の理を変える存在」だと言われる。主に光子力、ゲッター線、サイコフレームを指すことが多いが、セフィーロの魔神やグリッドマン等もMAGINEとされる。

・風の一人称は漫画版では「私(わたし)」でアニメ・ゲームでは「わたくし」。本作では基本的に漫画版を踏襲しているが、小説という媒体ではキャラクターの一人称を差別化した方が読みやすいので、風の一人称は後者を採用している。

・スパロボ30ゲーム中に並行世界組がドライクロイツに加入するイベントでは、基本的にミツバは「命令に従う必要はない」と伝えている。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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