Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

12 / 30
第3話「心の光の先へ」

 アークチームは格納庫でセニアを捕まえると、次にクワトロの所へと向かった。

 そして事情を簡潔に説明し、手を貸して欲しいと頼む。

 拓馬の策はこうだ。

 獏が見た未来のビジョンを、ニュータイプの感応力で戦場の全員と共有する。

 そうすれば自然と全員が戦闘を止めるだろう。……という目算だ。

 クワトロは事情を把握するも、アークチームの提案には難色を示す。

 

「君たちは誤解している。

 ニュータイプは便利なエスパーではない。

 そんなに都合のいい代物ではないのだ」

 

 そんなクワトロの言葉を意外な人物が否定する。

 話を聞いて近付いてきたヨナ・バシュタ少尉だ。

 

「いえ、ニュータイプならできます」

 

 かつてジオン公国軍は地球にスペースコロニーを落下させた。

 ヨナはミシェル、リタという2人の幼馴染とともにその惨劇を予知し、数百名の人達を救うことに成功した。

 彼らの活躍はメディアに取りあげられ、“奇跡の子供たち”と呼ばれるようになった。

 これにより彼らはニュータイプ能力を認められ、長く研究施設に閉じ込められることになったのだが――

 

「君は……そうか。“奇跡の子供たち”の……」

 

「自分には経験があります。未来を見たニュータイプが、その光景を周囲の人間にも見せるのを。……大尉なら、できると思います」

 

 ヨナは確信のある口調で告げた。

 だがクワトロは納得しない。

 

「いや、しかし……それが過去にあったからといって、同じ事を今ここで再現できるとは……」

 

 そこへ獏が口を挟む。

 

「ドライストレーガーの機材を使えば再現できるはずだ。そうだろ、セニア?」

 

 アークチームに引っ張ってこられたセニアが、それに答える。

 

「そうね。サイコフレームのようなサイコミュ・システムを利用すれば、できると思うわ」

 

 人の意思を取り扱うシステムの開発は、ラ・ギアスでは地上よりもだいぶ研究が進んでいる。

 それに加えてセニアは以前、個人的にガンダムを調査・研究している。

 彼女が造った最高傑作『デュラクシール』はガンダムを参考にした魔装機だ。

 その装甲素材には、人の精神に感応する特性を持つ、オリハルコニウムが使用されている。

 

「少なくともゲッター線よりはサイコフレームの方が制御しやすいわね。

 でもあらかじめ言っておくけど、サイコフレームには未知の部分も多いわ。

 だから絶対に問題が起きないとは言えない」

 

 技術者の責任としてリスクを説明するセニア。

 しかしクワトロには分かった。彼女の目には強い自信が宿っていることを。

 それを理解してもなお、まだクワトロは首を縦に振らなかった。

 

「なるほど、確かに可能なのかもしれない。

 だが、たとえ成功したとしても……」

 

 その時だった。

 彼らの話し合いに新たな人物が参戦する。

 カミーユ・ビダンだ。

 

「大尉がやらないんだったら、俺がやりますよ」

 

「カミーユ……!」

 

 カミーユの登場に大きく動揺するクワトロ。

 彼ならニュータイプとしての力は申し分ない。

 むしろ、これ以上ない最適な人材とすら言える。

 そんなカミーユが自ら申し出るたのを受けて、クワトロは――

 

「……いや、私がやろう」

 

 そう(はら)をくくったように、低い声で告げた。

 

 

***

 

 

 大破したνガンダムと一緒にドライストレーガーに回収されたアムロ・レイは、格納庫の中で声を張り上げていた。

 

「νガンダムは破損が大きい、修理は後回しにしろ!

 損傷の少ないモビルスーツは!?

 なければナイトメアフレームでもいい!」

 

 普段の彼からは想像できないほどに強い語気で指示を出すアムロ。

 それにチーフメカニックのジークンが答える。

 

「すぐ使えるのは、片手がないガンブラスターくらいしか……」

 

「それでいい、手は他のモビルスーツと付け替えるか、最悪なくてもいい! おい、何をしているシャア!?」

 

 アムロは自分が口にした言葉に違和感を覚え、立ち止まる。

 

「……シャアだと?」

 

 彼が後ろを振り返ると――そこにはνガンダムのコクピットに乗り込もうとしているクワトロの姿があった。

 何をしていると問うてきたアムロに、クワトロが答える。

 

「なに、私もたまにはガンダムに乗ってみたくなってな」

 

戯言(ざれごと)を! こんな時に……」

 

 苛立ちを(あら)わにするアムロを無視して、クワトロはコクピットハッチを閉じた。

 クワトロがシートに腰を下ろすと、外にいるセニアから通信が入る。

 

「こっちの準備はOK、いつでもいけるわ。

 でも無理はしないで。少しでも異常があれば、こっちから接続を切るから」

 

「頼もしいサポートだ。これは私が下手を打つわけにはいかんな」

 

 この先の手順は、すでに打ち合わせ済みだ。

 まず外にいる獏が予知した未来を頭に思い描き、測定機で脳波を読み取る。

 そのイメージをセニアがノイズ除去して発信。

 νガンダムのシートの後ろにあるサイコミュ受信パックでそれを受信し、クワトロがニュータイプの精神感応によって周囲に発信する……という流れになる。

 サイコフレームは増幅器の役割だ。

 コクピット周辺に埋め込まれたサイコフレームは、自動的にクワトロの思念を増大させる。

 しかしこれには、思考の逆流という危険が伴う。

 

「問題ない。年寄りの役目は、若者に未来の席を残すことだ」

 

 これまでに何人ものニュータイプや強化人間がニュータイプの力を制御しきれず、自他の境をなくして“戻れなく”なってしまった。

 そうした状態からカミーユは奇跡的に回復したばかりだ。

 カミーユに再びそんなリスクを負ってほしくない……そう思って、クワトロは覚悟を決めた。

 

「しかし、本当に出来るものかな。

 ニュータイプのなり損ないと言われた、この私に……」

 

 クワトロは深く息を吐くと、目を閉じた。

 はっきりと自分に「できる」と言ったヨナを思い出す。

 ヨナだけではない。アークチーム、セニア、そしてカミーユ。

 誰も「クワトロ・バジーナに可能なのか」を争点としなかった。

 

「眩しいものだな、若者たちの期待は。なら、私もやってみる……いや」

 

 クワトロは思い直す。

 自分の卑屈さを、この場にいる誰も望んでいない。

 だから言い直した。

 

「やってみせようじゃないか」

 

 クワトロは外のセニアに合図を送る。

 すると、すぐに山岸獏の思念を感じた。

 その感覚に彼は覚えがあった。

 温かい。かつて発動したサイコフレームの力が小惑星アクシズを押し返した時に感じた、心の光と似ていた。

 だが獏から感じるのはそれだけではない。

 内に向けた静かな憤怒と、どこか冷たさすら覚える頑なさ。それらが奇妙に同居していた。

 

「山岸獏……そうか、君は……」

 

 その感覚はクワトロの中で徐々に濃密さを増していき……それが獏の感情なのか、それとも自分の感情なのかの区別が曖昧になっていく。

 続いて、入ってくる。獏が見た予知のイメージが。

 ザガートを倒す魔法騎士(マジックナイト)たち。

 憎悪のままに襲いかかるエメロード姫。

 そして、救うべきはずの相手に剣を突き立てる魔法騎士(マジックナイト)

 

「これは……なんということだ……!」

 

 思春期の少女たちが背負うにはあまりに過酷な結末を目の当たりにして、衝撃を受けるクワトロ。

 サイコミュを介した意識の共有は、単なる映像記録とは違って、まるで自分がその場にいる当事者であるかのような錯覚を与える。

 胸が引き裂かれるような少女たちの嘆き……

 心を深く(えぐ)る罪の意識……

 クワトロの意識は大きく揺さぶられた。

 今の自分がνガンダムのパイロットシートに座っていることも忘れるほどに。

 自分を見失いかけた彼の口から、言葉が漏れる。

 

「ラ……」

 

 その言葉を、噛み殺した。

 ここは何処なのか。

 自分が誰なのか。

 思考は曖昧模糊(あいまいもこ)で判然としないまま……それでも彼は、思う。

 

 ――そうではない。

 

 誰かに助けを求めるのではない。

 今、誰かを助けるのは私なのだから。

 

 この私……

 

 クワトロ・バジーナが――

 シャア・アズナブルが――

 エドワウ・マスが――

 キャスバル・レム・ダイクンが――

 

 ……私がやるのだ。

 

 そうして、彼ははっきりと自分を取り戻した。

 クワトロは強く念じ、獏から受け取ったこの記憶を一気に外へと放射する。

 加減など分からない。

 ただ思いきり強く、外へ。

 

「……行けっ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その瞬間、νガンダムから光が放たれた。

 眩い光は一瞬で格納庫を隅々まで満たし、艦の外へと飛び出し、瞬く間に戦場のすべてを覆い尽くした。

 

 

***

 

 

 光が収まった後。

 あれだけ騒がしく怒号が飛び交っていたドライストレーガーの格納庫だが、今は誰もが手を止めて立ち尽くしている。

 そして時間の経過とともに次々と漏れだす、戸惑いと嗚咽(おえつ)の声。

 光の中で垣間見た悲劇の記憶は、まるで自分自身が体験したかのような現実感を伴い、すべての人々に大きな衝撃を与えていた。

 中でもとりわけ強いショックを受けているのは、魔法騎士(マジックナイト)の3人だった。

 少女たちの大きな慟哭(どうこく)が響き渡る。

 

「嘘だ……こんな……こんなのってないよ!!!」

 

 

***

 

 

 一方、ドライストレーガーのブリッジ。

 こちらも指示を出す声は止まっており、代わりに聞こえるのはオペレーターたちの押し殺したすすり泣きだった。

 

「うっ……ああぁっ……そんな……こんなことって……!」

 

 艦長のミツバも呆然としている。

 ブリッジにいる人間は先に拓馬から話を聞いていたのだが、言葉で聞かされるのと、意識を共有するのとでは、まったく違っていた。

 湧き上がる激しい感情を抑えるのに必死なミツバ。

 そんな彼女の耳に、副長の声が届く。

 

「艦長! しっかりしてください!」

 

「あ……副長?」

 

 レイノルドの声でミツバは立ち直る。

 そして、これは拓馬たちアークチームが起こした現象だとミツバは察した。

 続けて、彼女は戦況の把握を開始する。

 スピーカーからは戦場にいるパイロットたちの動揺する声が聞こえてくる。

 中にはうめくような、涙をこらえる声も。

 戦闘は止まっていた。が……

 

「――雷衝撃射(クロノス)!!」

 

「……! 回避行動を! 総員、対衝撃体勢!」

 

 ザガートの魔神(マシン)から放たれる、いくつもの光の(おび)

 それらは雨のようにドライストレーガーへ降りそそぐ。

 着弾の衝撃でブリッジ内が大きく揺れる。

 

「くっ……オペレーター、被害の報告を!」

 

「は……はい!

 右舷に被弾、連装重粒子衝撃砲の1門が破壊されました!」

 

 ドライストレーガーは直撃こそ避けたものの、少なくない損傷を受ける。

 ザガートは戦闘の中断を隙と見て、一気に戦いを終わらせようと旗艦を狙ってきたのだった。

 そんなザガートに2本のトマホークが迫る!

 ザガートは手にした剣でそれを打ち落とし、戦斧を投擲してきた機体に向き直った。

 

「ゲッターロボ……! もう動き出すか!」

 

「やらせるかよ!!」

 

 戦場にいる面々の多くがショックから立ち直れずにいる中で、いち早く動いたのは流竜馬のゲッターチームだった。

 彼らの闘志は、いささかも衰えてはいない。

 

 ……それはザガートも同じ。

 自らが望まぬ結末を見せられて、それでもなお剣を()って戦う。

 当然だ。

 彼は真実、覚悟をもってここにいる。

 あらゆる最悪の未来を想定した上で、それでもエメロード姫を守ると決めたのだ。

 

 弾かれたトマホーク。それを真ゲッタードラゴンは空中で掴み、今度は直接ザガートへ振り下ろさんと距離を詰める。

 ――こうして戦闘は再開された。

 

 

***

 

 

 νガンダムのコクピットの中で。

 

「……やはり、そうなるか」

 

 そうクワトロは呟いた。

 この結果は予想できていた。

 誤解なく理解し合えるはずのニュータイプ同士ですら、争い合ってきたのだ。

 双方の事情や心情を理解したからといって、必ずしも争いがなくなるわけではない。

 それを見てきたからこそ、彼は父が提唱したジオニズムやニュータイプ理論を信じきれなかった。

 

「争いは止められない。それでは、どうする……?」

 

 νガンダムのコックピットハッチを開いた彼は見た。

「だったら次だ」と言わんばかりに、まっすぐ駆け出していくアークチームの姿を。

 

 

***

 

 

 激戦を繰り広げる真ゲッタードラゴンとザガート。

 その両者の間に、突如として2体のロボットが立ちはだかった。

 1機はゲッターアーク。

 もう1機はゲッターD2だ。

 アークには拓馬が乗り込み、D2のシートにはカムイが座っている。

 拓馬は双方に戦闘の中止を呼びかける。

 

「やめろ! さっきのを見ただろ、お前らも――うおおっ!?」

 

 振り下ろされた黒い剣を拓馬はトマホークの刃で受け流した。

 ザガートは拓馬の呼びかけにも答えず、戦いを止めない。

 そしてそれは真ゲッタードラゴンに乗る初代ゲッターチームも同様だ。

 

「邪魔するんじゃねえ、ひよっこども!」

 

 巨大な戦斧を構えてザガートに向き直る真ゲッタードラゴン。

 どちらも説得は通じない。

 だが、そう来ることは拓馬たちにも分かっていた。

 

「分からず屋のバカタレどもが! いいなカムイ、やるぞ!」

 

「ああ……仕方あるまい」

 

 彼らは言葉を交わすと、臨戦態勢をとる。

 拓馬のゲッターアークは真ゲッタードラゴンに。

 カムイのゲッターD2はザガートの魔神(マシン)へと向けて。

 1対1の戦いが、2ヶ所で同時に始まった。

 

 この展開には周囲にいる他の者たちも戸惑う。

 適者進化態(てきしゃしんかたい)と呼ばれる並行世界のゲッターロボの中で、若いゲッターチームが声をあげる。

 

「おいおい、どういうコトだよ!」

 

「おそらく、さっきの光はアークチームの仕業だろうな……それでもザガートが止まらないのを見て、なら実力で止めようというワケだ」

 

「じゃあ俺らもアークに加勢すりゃいいんじゃねェか?」

 

 そんな弁慶の提案を隼人は否定する。

 

「駄目だ。あのザガートを殺さずに止めるなど不可能だ。

 忘れるなよ、俺たちには生きて為さねばならん使命がある。

 無謀な戦いには付き合えん」

 

「でもよ! だからって……!」

 

 言い争いを始める彼らを、戦闘中の4機から離れてきたマサキが止める。

 

「落ち着け、お前ら。

 そんな気持ちがフラついた状態じゃ、間に入っても返り討ちに遭うのがオチだ」

 

 そう言うマサキのサイバスターは右腕を除いた四肢が失われており、大破寸前だ。

 マサキは、通信を繋げて母艦に指示を仰ぐ。

 

「ミツバ、俺たちにどうして欲しい?」

 

 

***

 

 

 ドライストレーガーのブリッジ内。

 マサキからの問いかけに対して、ミツバは答える。

 

「全機、引いてください。修理と補給を行い、立て直します」

 

 それはアークチームと真ゲッタードラゴン以外の全員が母艦に戻れという命令だった。

 このミツバの指示に副長のレイノルドが疑問を浮かべる。

 

「アークチームを支援しなくていいのですか?」

 

「残念ですが、彼らへの支援は不可能です」

 

「支援が不可能……?」

 

「例の光の影響によって、味方機の大半は戦える精神状態ではありません」

 

 そう言われてレイノルドは得心(とくしん)した。

 ここは心が全てを決める世界、セフィーロ。士気が下がったまま戦うのは、“危険”を通り越した“自殺行為”だ。

 機体の修理や補給だけでなく、パイロットの精神的な立て直しも必要だった。

 そのための時間をアークチームに稼いでもらわなくてはならない。

 

「……個人的には、神官ザガートとエメロード姫を救いたいという彼らの気持ちには賛同します」

 

 ミツバはわずかに視線を下げて呟く。

 しかし次の瞬間には強く戦場を見据えて言う。

 

「ですがザガートが戦いをやめない以上は、こちらも応戦せざるを得ません」

 

 その決意の籠もった言葉にレイノルドも頷く。

 

「ええ、その通りです艦長。それでは準備が整った者から発進させますか?」

 

「いえ……アークチームは、まだ諦めていません。自分たちで何とかしようとしています。ですから、彼らが戦場で立っている間は手出し無用です。アークかD2のどちらかが戦闘不能になれば、その瞬間に立て直した戦力で再攻勢をかけます」

 

 アークチームの気持ちを汲み、かつ戦術的にも効果的な方策。

 的確なミツバの指示に副長は感服する。

 ……が、それにはひとつ大きな問題が残されていた。

 

「しかし艦長。立て直しまでの時間を稼ぐにしても、あのザガートを相手にゲッターD2だけでは――」




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・ガンダムNTでは、リタのニュータイプ能力によってヨナとミシェルはコロニー落としの未来を共有された。その結果、リタのニュータイプ能力はヨナとミシェルにも伝染し、3人の誰が本当にニュータイプなのか実験をしても判別できなくなってしまった。

・TV版のZガンダムで、クワトロは短い時間だがガンダムMk-Ⅱに乗っている。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。