気付くと、拓馬のゲッターアークは見知らぬ都市の上空にいた。
近くにいるレイアースの中で
「ここは……東京!?」
「なにっ、東京だって?」
そこは拓馬がいた世界の東京よりも、だいぶ綺麗な街並みをしていた。
しかし近くには東京タワーも見える。
日本の首都・東京で間違いなかった。
「この世界の東京なのか……
だが何だ? 何も動いてないぞ」
そこでは人も、車も、何もかもが停止していた。
時間が止まった東京……
つい先程まではセフィーロで戦っていたはずなのに、突然こんな謎めいた場所に飛ばされてしまい、拓馬と
周囲を見ると、彼らの他にいるのはふたつの機体。
ひとつはザガートの
もうひとつは、異世界の国家『オートザム』の指揮官であるイーグル・ビジョンが搭乗する、FTOというロボットだった。
その場にいる全員が事態を把握しきれていない。
4人ともに共通した認識は、いきなり目の前にモコナが現れ、その口の中に吸い込まれたという事だけだ。
状況を整理するように、FTOに乗った線の細い
「どうやらここにいる4人は、セフィーロの聖獣の力で、ここへ転移させられたようですね」
その言葉に応えるように何者かの声が響く。
「そうだ、私が招喚した。汝ら4人の中から次の『柱』を決めるために」
「この声……モコナ……!?」
モコナがこれまでに喋ったことはない。
しかし喋らずとも意思の疎通ができていた
モコナの声は4人に、この空間が何であるかを説明する。
「ここは『柱の試練』の場。
ここから試練を越えてふたたびセフィーロに戻った者が、次の『柱』となる」
それに拓馬が疑問を投げる。
「次の『柱』の候補に選ばれたってワケかよ、光栄なこった。
だがよ、なんでこの4人なんだ」
「…………」
モコナは答えない。
そこで代わりにザガートが口を開く。
「セフィーロの『柱』となることを望む者は他にもいるはずだ。
ファーレンやチゼータの統治者は、なぜこの場にいない?」
ザガートの問いにモコナの声が答える。
「彼らの『柱』を求める気持ちは、『おのれのすべてをかけてかなえるもの』ではない。誰よりも『強い心』でセフィーロの新たな未来を築かんとする者だけが、『柱』としての資格を持つ」
「……セフィーロの未来よりも、自国の民に『心』が向いている……ということか」
「納得したぜ。心が強いだけならドライクロイツにいくらでもいる」
ドライクロイツの面々は“この世界の平和”という共通の目的を持って共に戦っているが、しかしそれとは別に、多くの者はそれぞれに果たすべき使命や目的を持つ。
そうした者たちはセフィーロの『柱』候補にはなり得ない、ということだった。
しかしそうすると別の疑問が生じる。
「拓馬は……拓馬もセフィーロの未来を、いちばんに思ってるのか?
別の世界から来たのに……?」
拓馬は少し考えて自分の気持ちを整理してから、頷いて答えた。
「おふくろの仇討ちは終わったからな。本当は戻ってエンペラーを何とかしなきゃならねえんだろうが……それよりも俺には今、我慢がならねえことがある」
カムイと母親を引き合わせた時も、今も、拓馬は変わらない。
目の前にある理不尽への怒り。
拓馬はその怒りの矛先を、聞こえてくる声に向けた。
「おい、モコナ! ずいぶん偉そうに語ってくれるが……お前は何なんだ?
まさかお前が元凶なんじゃねえだろうな!」
「…………」
その拓馬の呼びかけに……モコナは答えない。
これには
「モコナ……?」
「……おい? なんだ?
お前、さっきから俺だけ無視してないか?」
「…………」
沈黙。
それなりに長い静寂の後、その声はとても端的に回答した。
「……ゲッター線は、キライだ。ずうずうしい」
「あ……?」
予想外の答えに言葉を失う拓馬。
なんとも言えない気まずい空気が流れる。
そんな空気を洗い流すように、イーグルが口を開いた。
「しかし僕も気になっています。セフィーロに1体しかいないと言われる聖獣モコナ……あなたはいったい何者なのですか」
このイーグルの問いを受けて、モコナは自らの正体を明かす。
「私はこの『世界』を
その重大さに反して淡々と語られる衝撃の事実。
「地球も……!?」
「この宇宙の創造主ってワケか。こいつはとんだ大物だ」
その一方で、すでに壮大な宇宙戦争に巻き込まれている拓馬にとっては、そこまでの驚きはなかった。
行くところまで行き着いたゲッターにも同じような事はできそうだ……という気すらしている。
そんな彼らに向けてモコナの声は説明を続ける。
「私はまず『地球』を含む世界を創った。絶対的統率者のいない無秩序で混沌とした世界……しかし生きる者すべての『意志』が未来への道を
地球連邦、ジオン公国、ミケーネ帝国、キャンベル星人、機界31原種、ウルガル、ペンタゴナワールド、インベーダー……
確かにこの宇宙は、多種多様な人種・思想・星系の者たちが入り混じって、非常に混沌としている。
「しかしこの『宇宙』に住む者たちは日々争い、自らの住む『地』である『世界』そのものを破壊しつづけている。だから私は『セフィーロ』を含む新たな世界を創造した。一人の『意志』がすべてを決める『世界』を」
混沌としている世界は自由である反面、争いが絶えない。
今の世界の現状を見るに、それは否定しようがない事実であった。
そんなモコナの説明を受けてイーグルはひとまずの納得を得る。
「なるほど、よくわかりました。その流れで我々のオートザムやジャロウデクなどのある世界も創られたわけですね。
……それで、『試練』とは?
どうすればセフィーロの『柱』になれるのです?」
「『道』を通ってセフィーロに戻れるのは新たな『柱』のみ。それ以外の者は消滅する」
そのモコナの答えは『柱』になる方法をハッキリとは明言してはいない。
しかしこれはつまり――
「なんだそりゃ、シンプルすぎんだろ!」
「そうだ! モコナは私たちに殺し合いをしろっていうのか!?」
拓馬と
対して、イーグルは冷静に受け入れていた。
「しかし理に適っています。この空間はどうやら混じりけのない純粋なセフィーロと同じ……『心』が全てを決める世界のようですから」
そう言われても
「だからって、戦う必要なんてないよ! そうだろう!?」
「ああ。そのために獏が苦労して、お姫様を仮想世界に送ったんだ」
拓馬はザガートに説明する。
セフィーロでの戦いの裏で、何が起きていたのかを。
獏がエメロードを仮想世界に送り、セフィーロでは『柱』が不在になった。
なので、この場にいる4人の誰かが新しい『柱』になれば、エメロードは命を断つことなく『柱』の役割から解放される……ということ。
こうした拓馬の説明を引き継ぐように、
「それならザガート、あなたも戦う理由がない。
あなたはエメロード姫を守るために戦っていたんだろう?」
「そうか……」
ため息を吐くように、ザガートは声を漏らした。
一見、それは安堵したようであった。
しかし拓馬は感じ取っていた。
ザガートの
(そうだ……オカシイんじゃねえか。なんでここにザガートのやつがいる?)
拓馬はひとつの違和感を覚える。
なら、命をかけてセフィーロの未来を創ろうとする者だけが呼ばれる試練の場に、なぜザガートが来ているのか?
「……諦めていた可能性……これがゲッター線の……『MAGINE』の力か」
ザガートがそう呟くと、
「私がここに
この状況は私にとって千載一遇のチャンスだ」
「チャンス?」
彼がセフィーロの『柱』となるべき理由を。
「『柱』をやめたエメロードはどうやって生きていけばいい?」
「あ……!
そ、それは……」
「エメロードがセフィーロの平穏を祈れなくなったために、多くの命が魔物たちに奪われた。そして私に挑んで敗れ死した者たちや、私に従って散った者……それらすべての犠牲を、エメロードは己が招いた『罪』と捉えるだろう」
それは拓馬も同様だ。
「くそっ……!」
精一杯やることをやって、なんとかしたと思ったのに、それでもまだ問題は解決していかった。
あまりにも複雑に折り重なった難問を前に、拓馬はすぐに答えを見いだせない。
反論が出ないことで、ザガートは続ける。
「『柱』をやめて命を繋いだとしても、エメロードは幸せになれない。姫が幸せになる方法はひとつ。彼女を含めた全ての者から記憶を奪い……その上で、他の世界と繋がりを断ち、完全に閉じた世界を創るしかない。『柱』ならそれができる。つまり――」
ザガートは
まるで忠義を誓う騎士のように。
「お前たちをこの場で倒し、私が『柱』になれば全ては解決する」
ただエメロードのために創りあげる世界。
それが彼の願うセフィーロの『未来』だった。
その悲壮な宣言に
「だめだ! セフィーロの人達も、エメロード姫もそんなことは望んでいない! 何より……それじゃエメロード姫と同じだよ! 背負う人がエメロード姫からあなたに移っただけだ……何も変わってない!」
それは真摯で、強い熱量のある訴えだった。
しかしザガートは
「それでいい。それが私の望みだ」
「だったら……!」
そして
「私があなたを止めてみせる! 勝負だ、ザガート!」
そんな彼女に声をかける拓馬。
「
「拓馬……私にやらせて欲しい。これは私がやらなきゃダメなんだ」
「……わかった。お前がそう言うなら、手出しはしねえ」
拓馬は
FTOに乗るイーグルも二人を静観する構えだ。
ザガートは戦いを始める前に、拓馬のアークに目を向けて
「いいのか、同時に来なくても」
「
そうして
この期に及んで出し惜しみなどしない。
開幕から光は自身が習得している2種類の魔法、『炎の矢』と『紅い稲妻』を立て続けに放つが、ザガートはそれを魔法で防ぐ。
しかし、それは接近するための布石。
ザガートが防御の魔法を唱えている間に
「たあああああぁぁぁっ!!」
鋭い
それをザガートは左手の盾で受け止め……右手の黒剣を薙ぎ払って反撃する。
前回の戦いでは盾ごとレイアースの腕を斬り飛ばしたザガートの剛剣。
しかしそれは今回、レイアースの盾で止められていた。
「……成程。以前とは違うということか」
ザガートは目の前の敵に対する認識を改める。
それと同時に彼の背筋に危機感が走った。
その一方で、
彼女には2種類の魔法しかない。
その2つはザガートの魔法に防がれ、剣も盾で止められた。
ザガートを倒すには、もっと強い魔法が必要だと感じていた。
(でも、どんな……?
私にできる魔法……ザガートの固い守りを突破できるくらいの……)
戦いの中で必死に思考を巡らせる
その頭の片隅で、ひとつのやりとりが思い出される。
それはマサキから聞いた話だ。
サイバスターと同格とされる炎の魔装機神は、剣に炎を
(胸の奥が熱い……言葉が、浮かんでくる……)
剣を構え、
「炎の……剣!!」
魔法の言葉とともに、剣の刀身から激しく炎が噴き上がる。
燃え盛る炎熱の剣は、まるで
炎の剣を手にしたレイアースはザガートの
「炎よ、切り裂けっ!!」
炎が薙ぐ。
レイアースが振るった剣は、黒い
(やった……!)
そう思った
目の前には猛然と接近するザガートの
そこで彼は自らの左腕を捨てる代わりに、反撃で一気に仕留めると決めたのだ。
……しかし白兵戦の間合いで使える魔法を
だからこれまで不得手な剣で応戦してきたのだ。
だが
ならば――
「――
黒い
ザガート当人も初めて唱えた魔法。
その魔法で変化させたドリルを、ザガートは体ごと突っ込むようにして、レイアースの胴部に突き入れた!
「あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
金属が削られる耳障りな異音を奏でて、レイアースの装甲が貫かれていく。
「ううぅぅっ……!」
レイアースはたまらず大きく後ろに下がり、ドリルから逃れる。
ドリルが当たる直前、すんでのところで体をひねったことで、
しかしその下の腹部が大きく削り取られて、ぽっかりと穴を開けている。
大破と言ってもいい甚大な損傷。
だが、それで終わらなかった。
ザガートはドリル状から元の形に戻った剣を上に向けて掲げた。
すると
それはドライストレーガーに放とうとして、カムイに止められた魔法。
「やられる……!?
だめだ、絶対に…絶対に負けるわけにはいかない!
けど、このままじゃ……」
迫り来る脅威を前に、光は打開する
走馬灯のように脳内を駆け巡る様々な思考。
その中で、不意に声が響いた。
『
知らない誰かの声。
それが誰なのかを疑問に思うよりも先に、
自分がその魔法を知っていることを。
それは獏が予知し、クワトロが共有した未来の記憶。
その中で自分が使用し、ザガートを倒した魔法の名前だった。
しかし、この魔法を使うには問題がある。
「だめだ……あの魔法は私ひとりじゃ使えない!
だが謎の声は言う。
『感じるんだ……3つの心は、すでに1つになっている……』
声に導かれて、
すると自分の中に、確かに感じた。
何より大切な仲間たちの想いを。
「しっかりしなさい、
「頑張ってください、
「……うん、感じるよ。
離れていても、いつも心は共にある。
――目を開ける。
見上げた先には、これまでに見たこともないほどの膨大な魔力が渦を巻き、その中心でこちらへ狙いを定める黒い
しかし今の
ただまっすぐに迷いなく、仲間を、そして自分を信じている。
大きく損壊して立ち尽くすレイアースに、ザガートはその魔法を落とす。
「終わりだ、
自らが持つ最大の魔法を繰り出したザガート。
その時、ザガートは見た。
炎神レイアースの後ろに立つ、海神セレスと空神ウィンダムの姿を。
「
レイアースの突き出した両手から、渦を巻く光が放たれる。
螺旋を描いて進む虹色の輝きは、迫り来る漆黒の波動を吹き飛ばして直進する。
その鮮やかで
そこには剣と盾を持つべき左右の腕を失った、黒い
ザガートは自分の持つ最大の魔法を破った敵を見る。
そこにいるのは炎神レイアースのみ。
他に見えていた2体は、瞬きをすれば消える幻に過ぎなかった。
しかし確かにそこにいた。そう彼は感じた。
ザガートは
「……なぜ当てなかった?」
ザガートの問いに
「ザガートにも生きていて欲しいんだ! あなたが死ねばエメロード姫が悲しむ。
ううん、エメロード姫だけじゃない。クレフや……きっとセフィーロの皆も」
その答えを聞いて、ザガートはそっと
ザガートは自分の『心』が敗北を受け入れたことを理解していた。
(
ザガートは思う。
本当は、もっと前に
しかし目を
このセフィーロにおいて、『柱』であるエメロードが望まない事を強要するのは不可能だ。
つまりエメロードは別世界に転移『させられた』のではない。
彼女自身の意志で『向かった』ということ。
(ああ――そういう事だ)
――そう。
勝敗は、その時に決していたのだ。
ザガートはゆっくりと
「この時を待っていたぞ!!」
ザガートの
「え……?」
目の前で起きたことが理解できず呆気にとられる
その
「あぁぁーーーーーーーっ!!」
「
墜落したレイアースの無事を確認している余裕はない。
突如として現れ、ザガートの
そして、その名を叫んだ。
「こいつは地獄大元帥……Dr.ヘルか!!」
拓馬はその姿を直に見たことがなかったが、ドライストレーガーの戦闘記録で知っていた。
そして
ザガートの背後に突如としてワープゲートが開き、その中から出てきた地獄大元帥が襲いかかったのだ。
地獄大元帥の鉤爪に貫かれたことで
……
誰が見ても分かる、完全な致命傷だ。
そこに響き渡るのは女性の絶叫。
「いやあああああああああああ!!! ザガート……ザガート!!」
別のワープゲートが開き、出現する白い
それに乗っているのはエメロード姫だ。
つい先程までの幼い少女の姿とは違う。
大人の女性の姿で、激しい憎悪を滾らせ、狂乱している。
「許さない! 許さない……絶対に!! 殺してやる……!」
「ふん、セフィーロの『柱』……いや、元『柱』か。
遅い。貴様はすべてが遅すぎる」
言うと、Dr.ヘルは地獄大元帥の鉤爪に引っ掛けた黒い
それを見たエメロードは反射的にザガートを追う。
「ザガート……!」
その先は『隣接次元』と呼ばれる領域。
あらゆる並行世界と接しており、しかし何処でもない異空間。
黒い
……その直前で拓馬は見た。
抱き合うようにして寄り添うザガートとエメロードの姿を。
心から幸せそうな……ほんの一瞬だったが、そんなふうに拓馬の目には見えた。
「…………くっ」
拓馬は伸ばしていた手を握り、自分の額に押し当てた。
こみ上げるものを抑えるように。
そんな拓馬の耳にDr.ヘルの声が届いてくる。
「死人を追って消えるか……戦うまでもないとは。
小娘のような
「Dr.ヘル!! てめえは……!」
しかしDr.ヘルはそんな拓馬には
「見ているのだろう、創造主よ!
今より、この私も『柱』を決める試練に参戦する!」
「なんだと!?」
とんでもない宣言に、拓馬のみならずイーグルも驚愕する。
「それはつまり……セフィーロの『柱』になる資格が自分にもある、と。
そういうことでしょうか?」
「無論だ! 私は誰よりも、セフィーロを創った創造主の気持ちが分かる。
多様な正義が混ざり合い、永遠に不毛な争いを続け、進歩しない人類を見限るのは当然のこと。新たな世界を創造する必要がある!
より知的で、存在するに値する世界を! そうだろう?」
「…………」
モコナは否定しない。
それを肯定と受け取って、Dr.ヘルは続ける。
「『柱』となる条件は誰よりも強い心でセフィーロの未来を創造する意志!
ゆえに、私には資格がある」
「何をぬかしてやがる! そんなバカな話があるか!」
Dr.ヘルの主張を否定する拓馬。
しかし……
「……認める。汝には『柱』となる資格がある」
「な……!」
資格あり。
それがモコナの判定だった。
この場ではモコナこそがルール。
不服を申し立てたところで覆らないことは、拓馬にも分かっていた。
だから、やることはひとつだった。
「だったら、叩きのめしてやらあ!
こちとらハラワタが煮えくり返ってんだ!」
「できるか? 貴様に」
「おおおっ!!」
拓馬の気勢とともに、ゲッターアークの背面で9本の翼が展開する。
「サンダァァ! ボンバァァァァァァッ!!」
翼から発生した9つの電流が1つに重なり、雷鳴を轟かせながら地獄大元帥へ突き進む。
それに対して地獄大元帥は、頭部の角から電撃を放った。
「ヘルサンダー!!」
正面からぶつかり合う稲妻。
アークが持つ最大の攻撃を相殺された拓馬。
しかしそれで怯むことなく、即座に次の攻撃を始めている。
「ダブルトマホォゥク! ブゥゥゥメラン!!」
両肩から素早く抜いた2本のトマホークを投擲。
弧を描いて迫るそれらに対して、Dr.ヘルの地獄大元帥は、右腕の鉤爪を大きく振り上げる。
「無駄よ! ビームブーメラン!!」
×を描くように左右へ二度。
鉤爪を振ると細長い光の帯が射出され、左右から来る2本のトマホークを弾き落とした。
アークの武装へ鮮やかに対応するDr.ヘル。
しかしトマホークを弾いた地獄大元帥の眼前には、既にアークが迫っている。
拓馬は手斧を投擲すると同時に突撃していたのだ。
唸りをあげるアークの拳。
「もらったぜ! バトルショット! カッタァァァッ!!」
完全に間合いに入っており、今からでは回避できない。
アークの腕から飛び出た刃が地獄大元帥の顔面を切り裂く……はずだった。
地獄大元帥は下がらず、前に出た。
それと同時に自らの腕をひねりながら体の前で回し、突き出されたアークの腕を内側から外へと弾き出す。
「う……!?」
拓馬は目を疑った。
これは空手技だ。
空手の中段受けだった。
そして空手の受け技は、敵の体勢を崩すと同時に、自らの攻撃の初動作も兼ねる。
正拳突きと同じ動作で繰り出される右の鉤爪――
(――ヤベえ!!)
これを受けたら終わり、そう拓馬は直感した。
一撃必殺。
その思想を体現するよう突き出される鉤爪を、拓馬は咄嗟に頭を下げて回避した。
すんでのところで難を逃れた拓馬。
だが代償は大きかった。
正拳突きに続けて地獄大元帥の両耳から飛ばされた緑色の溶解弾が、アークの背面にある翼に当たっていたのだ。
直撃ではなく、弾の一部が引っかかっただけ。
だというのに9本の翼は、ほぼ全てがどろどろに溶解されてしまった。
「おい、嘘だろ!?
合成鋼Gが、こんな簡単に溶けるのかよ!?」
その威力に戦慄すると同時に、サンダーボンバーを使用不能にされたことに衝撃を受ける拓馬。
その隙をDr.ヘルは逃さない。
一気に距離を詰めてくると、手刀、蹴り、貫手と、怒涛の格闘戦を仕掛けてくる。
それは確かに空手の動きだったが、拓馬の知るどの流派とも違っていた。
まるで機械のように正確に急所だけを狙ってくる、強烈な殺意に満ちた連撃に、拓馬は後手に回らざるを得ない。
「なんだ、その程度か!
「やかましいぜ!
年寄りは年寄りらしく、エンガワで茶でもすすっていやがれ!」
守勢に回ってもらちがあかない。
拓馬は覚悟を決めると、胴部のコクピットを狙った鉤爪の突きをあえて避けずに、両腕を交差してブロックする。
アークの右腕、左腕が鉤爪に貫かれ、千切れ飛ぶ。
だが胸部装甲までは貫かれない。
普通に拳で突かれた時のように、アークは大きく突き飛ばされることになった。
両腕は犠牲になったが、拓馬は距離を稼ぐことに成功する。
必殺の一撃を溜め、放つための距離を。
Dr.ヘルは、ゲッターアークの額に緑色の光が集まっていくのを見た。
「むう!?」
拓馬は全ての力をこの一撃に込める。
サンダーボンバーが使えないとなれば、これしかない。
ゲッターロボの代名詞。
その名を叫ぶ。
「ゲッタァァァァァ! ビィィィィィィムッ!!」
解き放たれるゲッター線の力。
眼前の敵へとまっすぐ突き進んでいく、力強い新緑の輝き。
それは地獄大元帥の胴体へと直撃したが、しかし……
「くく……
アークのゲッタービームを受けながら、Dr.ヘルは余裕の笑みを浮かべていた。
「くっ……!」
拓馬は返す言葉がない。
あの3人は特別だ、と。
拓馬は思う。
……自分たちは、あんなふうにはなれない。
生まれも、育ちも、目的も、考え方も。
何もかもが違いすぎている。
「……だからどうした! おおおおおおおおぉぉっ!!」
全身から力を振り絞り、拓馬はさらにゲッタービームの出力を上げる。
フルパワーのゲッタービームを体に浴び、それでもなおDr.ヘルは拓馬を
「ハーッハッハッハッ! それで全力か!
やはり3人揃わぬゲッターロボなど、恐るるに足らず!」
――その時だ。
「なら俺が2人目になるぜ!」
声とともに空間が割れる。
まるで窓ガラスが叩き割られたように、中空に大きな穴が空いた。
そこから現れたのは、
「マジかよ! やれるもんだな!」
「仮想世界を破壊した経験が役に立つとはな……」
その中に搭乗している年若い弁慶と隼人は、自分たちの起こした出来事に驚いている。
彼ら3人は仮想世界で生まれたが、自分たちの手で世界を壊し、現実世界へと乗り込んできた……という経緯を持っている。
世界を破壊する
地獄大元帥に向けてビームを放つアークの隣に、適者進化態が並ぶ。
そして若い竜馬は拓馬に向けて言った。
「お前、いいな。スレちまってる大人の俺なんかより、よっぽど主人公だぜ」
「竜馬……」
適者進化態の両肩の蓋が開いて、砲門が出現する。
「コイツも食らいやがれッ!
ゲッタァーービィィーーームッ!!」
両肩の砲門から発射される、いくつもの細い光の束。
うねるように伸びていく何十もの緑色の光は、アークのゲッタービームと合流し、地獄大元帥へと降り注いでいく。
ゲッターロボ2体によるゲッタービームを受け、Dr.ヘルの地獄大元帥は……
「ぬるい……ぬるいわ!
この程度のゲッター線で、この私を倒せると思うなよ!!」
装甲を灼かれながら、なおも余裕を保ち続けるDr.ヘル。
竜馬は舌打ちする。
「くそッ! 年寄りどもが厄介すぎるぜ」
――まるで、その悪態を待っていたかのように、それは来た。
「舐めるんじゃねえぞガキども!」
適者進化態が開けた空間の裂け目から現れた、3体目のゲッターロボ。
真ゲッタードラゴンだ。
「好き勝手ぬかしやがって……聞こえてんだよ!」
「げっ」
ぎろりと睨んで圧をかける大人の竜馬に、自らの失言に気付いて顔を青くする若い竜馬。
「ジジイとガキに教えてやろうじゃねえか。ゲッターの本当の恐ろしさをな!」
そう言うと真ゲッタードラゴンは、ビームを撃ち続けるアークと適者進化態に合わせるように、その横に並んだ。
そして地獄大元帥へと向き、放つ。
「ゲッタァァァァァァビィィィィィィィィィム!!」
真ゲッタードラゴンの額から噴き出す、荒々しい緑の奔流。
その猛る力は周囲の空間をも破壊しながら突き進み、2つの光線と合わさった。
3体のゲッターロボが並び、3つのゲッタービームが重なる。
地獄大元帥の全身を覆う緑の光。
それは地獄大元帥の外装を一枚ずつめくるように、破壊し、崩壊させていく。
この圧倒的なゲッター線量に耐えられる物質は、この世に存在しない。
だというのに、その男は――
「ぬおおおおおぉぉっ!!
貴様らこそ舐めるなよ、このDr.ヘルを!! この地獄大元帥を!!」
装甲が溶かされ、弾け飛び、全身のあらゆる箇所から爆破音を鳴らしながら、それでもなおDr.ヘルは引かなかった。
雄叫びをあげて押し返そうと前に進む。
――が、そんな地獄大元帥の体躯に、不意に影が差す。
上から注ぐ太陽の光を遮る何かが、ある。
Dr.ヘルは見上げた。
そして絶句する。
一体どこから現れたというのか。
並んだ3体のゲッターロボの、その後ろ。
そこには戦艦よりも遥かに巨大な、ずんぐりとした龍のような異形のゲッターロボの姿があった。
真ドラゴンである。
その搭乗者である
「Dr.ヘル、ここはお前の出る幕ではない!」
……そうして、龍の首がもたげる。
開いた口の中には緑色に輝く、膨大な量のゲッター線が――
「や、やめろ……」
「ゲッタァァァァ!! ビィィィィィィィィィィィィィム!!!」
それは濁流のような光だった。
4つのゲッタービームは巨大な荒れ狂う大河となって、地獄大元帥を呑み込んだ。
「おのれ、やはり当初の予定通りゴラーゴ――」
その言葉は最後まで言い終えることなく。
Dr.ヘルは、この世界から消滅した。
ゲッターアークが落ちていく。
すべての力を使い果たした拓馬は、もはや目を開けることすら
今にも気を失う直前、その視界の端に映る。
空へと飛び立ち、イーグルとの最後の戦いへと臨む、レイアースの姿が。
適者進化態の乱入により、すでに「次の『柱』しか戻れない」というルールは無効化されている。
あとは戦って、勝つだけだ。
拓馬は
「
「うん!」
迷いのない答え。
それを聞いて拓馬は口元を綻ばせつつ、意識を手放した。
【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・レイアース漫画版では時が止まった東京で『柱』を決める試練が行われる。アニメ版ではそもそも『柱』の決め方が異なっており、モコナの正体も最後まで明かされない。
・炎の魔装機神グランヴェールの最大の攻撃は、炎の剣で敵を斬る「火風青雲剣」。『魔装機神LOE』で初めて出た時にはサイバスターの「乱舞の太刀」とほぼ同じ攻撃モーションをしていたが、後に差別化された。
・光の「炎の剣」という魔法は原作には存在しない。スパロボTではシナリオの途中で新たに習得し、スパロボ30では最初から使える。
・地穿錐突(トリビュート)などという魔法は原作にもゲームにも存在しない。マツダが2011年まで販売していた乗用車の車種名からとった、本作のオリジナル魔法。tributeは称賛・敬意などを意味する言葉。
・スパロボ30では合体攻撃に必要なユニットが近くにいなくても、戦場に出撃していなくても合体攻撃を使用できるというシステムになっている。(ただし正しく配置された方が威力は高くなる)
・闇爆殺襲(ストラトス)はアニメおよびゲーム版と、漫画版で演出が異なる。アニメ/ゲーム版では周囲をぐるぐる回った黒い魔力が上から落とされ、漫画版では螺旋状のビームをまっすぐ前方に放つ。
・Dr.ヘルの一人称は、ほとんどの作品では「わし」だが、『INFINITY』では「私」で、スパロボ30では「我」。
・スパロボ30の作中では地獄大元帥による戦闘は行われない。
・地獄大元帥の溶解弾はマジンガーZの超合金Zを容易く溶かした。
・永井豪氏による漫画『バイオレンスジャック』にはDr.ヘルを元にしたキャラクター「独田地獄斎」が登場し、「機械道空手」を使用する。また、『真マジンガーZERO』でもDr.ヘルは機械道空手を使ってマジンガーと戦っている。
・適者進化態は設定上、体の小さなゲッターエンペラーとなる。
・「主人公」は『ゲッターロボ DEVOLUTION』作中の竜馬が口癖のように何度も繰り返す言葉。おそらく『DEVOLUTION』における流竜馬に設定されたテーマなのだと思われる。
・『マジンガーZ/INFINITY』およびスパロボ30では、Dr.ヘルは「ゴラーゴン」という技術を用いて世界を望むままに作り変えようとしていた。
【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。