Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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※早乙女號が女体化しています。これは、本作の挿絵を描かれているほいみんさん(https://x.com/frosted_hoim_in)の独自の設定にこちらも合わせているためです(ただし厳密に設定を合わせているわけではなく矛盾が発生する可能性はあります)。號が女体化している理由・当時の経緯を綴った小説(ほいみんさん作)はこちらになります。→https://syosetu.org/novel/315741/

・スーパーロボット大戦30内でのタイムライン上は「Heaven&World」終了後。ストーリー内でオラシオの出番が終了している状況です。
・飛竜戦艦ヴィーヴィルはエルのイカルガではなく、真ドラゴンとの直接対決で敗北したという設定です。
・オラシオの口調は基本的にゲーム内(アニメ版)を踏襲。その上で、キャラクターの内面は原作小説版を採用しています。


インターミッション2.5
「空と夢とゲッターと」


「クソッ!」

 

 ドン、と机を叩く音が薄暗い部屋に響く。

 オラシオ・コジャーソは荒れていた。

 原因は、先の戦いでの敗北。技術者として自らが設計し、絶対の自信を持って戦場に送り込んだ改良型飛空船(レビテートシップ)、“飛竜戦艦”ヴィーヴィルがドライクロイツに敗れた事だ。

 戦闘に負けた、それ自体はいい。もとより彼は戦争の勝ち負けになど興味はない。彼の唯一の夢は、大空を自由に飛び回ることだ。兵器開発はその夢のためにスポンサーから資金を得る手段に過ぎず、自らの設計した兵器が成果を出すのは嬉しいが、負ければ原因を分析して次に活かす――。その程度の事だ。

 だが、そんな彼の気持ちは今、かつてないほどにざわついていた。

 目を閉じれば、瞼の裏に浮かんでくる。

 ドライクロイツとの戦いにおいて相対した、あの機体の姿が。

 

「くそっ、許せねぇ……!

 ゲッター……ゲッターロボ! いや……真ドラゴンめぇッ!」

 

 オラシオはボサボサの髪を掻きむしって絶叫した。

 幸いなことに、この声を聞く者はいない。部屋の中は彼ひとり。ここはジャロウデクを勝手に離れた彼が、一時的な隠れ家に利用している地下室だ。

 人前では芝居がかった独特の振る舞いを見せる彼だが、一人の時にはこうしてストレートな感情を発露することもある。感情の浮き沈みと、態度の表裏の差が大きい男だった。

 しかしドライクロイツとの戦いから、もう数日は経つ。

 いまだに感情の収まりがつかないというのは、切り替えの早い彼にとっては珍しいことだった。

 それには理由がある。

 ドライクロイツに負けたのは、全体の戦力差や指揮官・騎操士(ナイトランナー)の力量差など様々な理由が考えられる。敵の兵器運用が優れていたということなら、技術者であるオラシオはさして気にならない。

 だが、真ドラゴンは違った。他のいわゆる人型をした“ロボット”とは違って、真ドラゴンはヴィーヴィルと同じ飛空船タイプ。いわば同じ土俵での戦いだ。

 それだけではない。大勢のゲッターロボが集まり、複数のパイロットが力を合わせる真ドラゴン。複数の幻晶騎士(シルエットナイト)騎操士(ナイトランナー)を内部に取り込み、ひとつの大きな力と成すヴィーヴィル。姿形だけでなく、この2体は根本となる設計思想が非常に似通っていた。

 

「俺の……ヴィーヴィルの設計思想が劣っていた……?

 いいや違う!

 あの資金と時間……何よりジャロウデクの冶金技術では限界があった!

 ゲッター合金……超合金Z……オリハルコニウム……

 こいつらを使えれば……俺ならこう! こうだッ!」

 

 机の上を勢いよくペンが走り、図面が引かれていく。

 恐ろしい速度で設計図を書き起こし、そしてより良い設計が思いつけば破り捨てる。それをオラシオは何度も何度も繰り返す。床の上に破れた紙が積み重なるたび、設計される機体の完成度が高まっていく。

 血走った目、とてつもない集中力。オラシオ・コジャーソは鬼気迫る形相で、一心不乱に書き続けた。

 

「違う、こうじゃない!

 これじゃあ、あいつに……真ドラゴンには及ばない……!

 俺が真ドラゴンを作るなら……真ドラゴンを超えるには……!

 真ドラゴンッ………真……ドラゴン……」

 

 オラシオは食事も忘れ、溢れ出る情動のままに、不眠不休で作業に没頭した。そうして――

 

「…………………あ? ここは……?」

 

 気付くと、コクピットの中にいた。

 ゲッターロボのコクピットの中にいて、操縦桿を握っている。

 乗っているのは真ドラゴンだ。真ドラゴンに乗って、空を飛んでいる。

 そこで、声が聞こえた。

 

「オラシオ……」

 

 声が聞こえると同時に、その声を発した者の姿も見える。相手はコクピット内にいるわけでも、モニターに映っているわけでもないのに、オラシオにはその姿が見えた。

 

「ンン~? アナタはぁ……早乙女號、ですかぁ?」

 

「……………」

 

 號は答えない。

 

「その沈黙は肯定と解釈しますよぉ? ……ですが、なぜ女性の姿なのです?」

 

「そんなことはどうでもいい」

 

「た~しかにぃ!

 言われてみれば、どうでもいいですねぇ!」

 

 オラシオは號の言葉に同意する。オラシオ・コジャーソは柔軟な男だった。

 だが続く號の言葉に、オラシオは驚く。

 

「……()ばないのか?」

 

「な……にを……

 翔ぶ……? 私が、この……真ドラゴンで……?」

 

「翔びたくないのか?」

 

 翔びたい。

 この瞬間、それがオラシオ・コジャーソの素直な気持ちだった。

 自然と手に力が入り、操縦桿を握りしめていた。緊張にも似た期待感が足元から湧き上がり、自らの全身に駆け巡っていくのを、オラシオは感じていた。

 そうしてオラシオは真ドラゴンを動かす。

 

「うおっ……おっ………おおおおっ……!」

 

 恐ろしいまでの急加速!

 制御など不可能と言わんばかりの異常な急制動。

 運動神経が欠如したオラシオでは絶対にコントロールしきれぬはずの推進力。だというのにオラシオは今、その機体制御を完全にものにしていた。

 

「ははっ……はははははっ!!

 素晴らしい! 素晴らしいですねぇ、これは!!」

 

 全長数百メートルという巨体では有り得るはずのない、まるで物理法則を無視したかのような軌道を描いて、オラシオを乗せた真ドラゴンは自在に大空を駆け巡る。

 そこにはあらゆる常識から解き放たれた、本当の自由があった。

 

「この加速! この動き! まさに自由自在!!

 しか~し! 一体なぜ、私の体で耐えられるのでしょう!?」

 

 オラシオの言う通り。ゲッターロボの常軌を逸した加速に、通常の人間は耐えられない。オラシオは肉体をまったく鍛えていない。そんな彼がゲッターを動かせば、最初の加速で内臓を潰され、続けて体内のあらゆる臓物を口から吐き出してしまうことだろう。

 その疑問に、號はあっさりと答えた。

 

「それは、これが夢だからだ」

 

「なるほどぉ! 夢、サイコーですねぇ!」

 

 一瞬で納得するオラシオ。オラシオの貧弱な肉体が耐えられるのも、気付くと真ドラゴンの中にいたのも、モニターに映っていない號の姿が見えているのも、まるで自分自身が真ドラゴンになったかのように全身で風を感じているのも、夢というのなら全てに説明がつく。

 そんな事より、今のオラシオにとっては全力で空を楽しむ事の方が重要だ。

 いつしかオラシオの手は操縦桿から離れ、全身で風を受け止め、滑空するかのごとく両腕を水平に伸ばしていた。それでも真ドラゴンは様々な軌道を描いて、オラシオの望むままに空を翔ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ――これが、空。

   何者にも邪魔をされない……

   俺が夢見た、自由な空……!

 

 目的もなく。行き先もなく。

 すべてを忘れ、ただ空を翔ける。

 充足、満喫、感動……そんな有り体な言葉では、とても言い表せない。これまで生きてきた中で、最も心踊る時間を今のオラシオは味わっている。

 だが、それで終わりではなかった。

 歓喜の最高潮にあるオラシオの耳に、號の声が届く。

 

「叫べ、オラシオ」

 

「……叫ぶ? なぜ?」

 

 さすがのオラシオも意味が分からず疑問を返す。

 その問いに対する號の答えは、いたってシンプルだった。

 

「叫べば、もっと楽しい」

 

「もっと……楽しい……? 今よりも……?」

 

 戦慄。

 オラシオ・コジャーソの全身に生えた産毛が総毛立ち、ごくりと喉が鳴る。

 そんなオラシオの驚愕と期待を知ってか知らずか、號はこくりと頷いた。

 そして叫ぶ。

 

「さあ、いくぞオラシオ!

 ゲッタァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 天を貫くような、四方世界のすべてに響きわたる號の絶叫。

 それに呼応するかのように、オラシオの胸に何かが湧き上がる。

 オラシオは號の叫びに導かれ、胸の内から噴き出そうとする熱い迸りを抑えることなく、力の限り解き放つ。

 

「ゲッタ―――

 

 ごとん。

 と、椅子からずり落ち、オラシオは目が覚めた。

 

「……………あぁ?」

 

 薄暗い地下室。見上げれば木製の机と、コンクリートの天井。

 

「…………………………………」

 

 なんとも、なんとも言い表せない気持ちで、目覚めたままの口を半開きにしたまま、しばしオラシオは灰色の天井を見上げ続けた。

 そんな彼の背後で、突如として声があがる。

 

「やあやあ、お邪魔するよ。

 オラシオ・コジャーソ君、きみの空への情念は素晴らしい!

 その熱い想いを活かせる依頼があるのだが、引き受けてもらえるかな?」

 

 床の上に転がったままのオラシオが顔を向けると、そこには奇妙な……実に奇妙としか言いようのない、頭部が青白く燃えている、黒ずくめの人物が立っていた。

 その異様な侵入者に対してオラシオは取り乱すことなく、ずれた眼鏡の位置を直すこともなく、心の底から気だるそうに告げた。

 

「……誰ですかぁ? アナタ」




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・ゲーム(アニメ)版のオラシオは「自分の兵器が空の支配者になる」ことに強い執着を抱いているが、原作小説のオラシオは「自由に空を飛びたいから戦争は早く終わって欲しい」と思っている。

・ゲーム(アニメ)版のオラシオは貴族っぽい服をきっちり着込んでいたが、原作小説のオラシオはよれよれの服を着崩している。身だしなみに無頓着な、典型的学者キャラ。

・アニメ版では一人称「私」(一度だけ「僕」)だったが、原作では基本的に「俺」で、雇用主と話す時だけ「私」になる。

・アニメ版では異様で独特なハイテンションだったが、原作小説では基本的にテンション低めのやる気がない態度で、雇用主と話す時には不自然なほどへりくだった慇懃な口調になる。

・オラシオの飛竜戦艦ヴィーヴィルは内部に多数の幻晶騎士を取り込んで、それらに攻撃と防御を行わせている。ただしこれは時間がないので苦肉の策としてオラシオが提案したもの。ヴィーヴィルはエルのイカルガに対抗するため、間に合わせの突貫工事で作られた機体だった。

・本来の真ドラゴンは全長6000メートル程度の超巨大サイズになるが、スパロボ30ではそれよりサイズが小さく調整されている。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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