Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第2話「拓馬とマサキ」

「サイバスター!!」

 

「やっぱりセニアか!

 ノルスっぽいのが見えたから、まさかとは思ったが」

 

 魔装機神サイバスターの操者マサキ=アンドーは、セニアとはよく見知った仲だ。ラ・ギアスの平和のために数々の戦場を共に戦った、最も信頼する仲間の一人と言える。

 

「お前もこの世界に来るとはな。

 ま、積もる話は後だ。まずはクエスターズの奴らを片付ける!」

 

「気をつけてマサキ! そいつら強いわよ!」

 

「大丈夫だ。こいつらとは、何度もやり合ってるからな」

 

 セニアにそう返したマサキは、5機のオルクスーラと交戦に入る。

 それを(けわ)しい顔で見上げるのは、墜落したカーン号から這いずり出した獏だ。

 

「あの白いの1機で、本当に大丈夫なのか?」

 

 周囲に他の味方機の姿はない。サイバスターは単機でここに来たようだった。

 獏の不安も当然だ。

 しかしそれに対してセニアは、自信を持って答える。

 

「マサキがああ言ったんだもの、大丈夫よ」

 

 セニアの信頼に応えるように、サイバスターは飛ぶ。

 縦横無尽に蒼穹(そうきゅう)を翔けて、たった1機でオルクスーラの一団と渡り合う。

 そのサイバスターの戦いぶりを目にした獏は、敵機を圧倒する速度に驚いた。

 しかしただ速いだけではない。

 ゲッターロボによく見られる物理法則に挑戦するかのような急制動とは違って、サイバスターのそれは慣性に従い加速と旋回を繰り返しながら、紙一重で危険を避けて飛び続ける。

 

「おお……すげえ」

 

 その姿はまるで風に乗って空を自由に翔ける鳥のようだった。

 致命的な破壊と死が行き交う戦場には似つかわしくない「美しい」という感想を、獏の胸に抱かせる。

 

 その一方で、カムイはマサキの技量に感嘆していた。

 敵機の砲撃を避ける回避能力もさることながら、敵の移動力と射程を把握したヒット&アウェイによって、確実に1機ずつ仕留める勝利へのプラン。それでいて単調にならず、隙を見れば連続で攻撃を繰り出して仕留めにかかる勝負勘。

 そのバランスの良い戦いぶりから、高いセンスと豊富な戦闘経験の同居をカムイは感じ取った。

 

「強い……!」

 

 思わず唸るカムイ。

 そして――

 

「こいつで最後だな。サイバード、チェンジ!」

 

 いつしか空に浮かんだオルクスーラは残り1体。

 サイバスターは飛行機形態に変形すると、不死鳥の形を模したエネルギーをその身に(まと)い、まっすぐに敵機へと突撃する!

 それは、これまでの流麗な戦いとは一転した、荒々しく勢いに任せた攻撃だった。

 

「行けぇっ! アァァカシックバスタァァァァッ!!」

 

 サイバスター必殺の体当たりをその身に受けた敵機は、通常の攻撃で受ける破壊とは異なり、触れた先から消滅していく。

 ……後には何も残らず。空には飛行機形態から人型に戻ったサイバスターが、悠然と佇んでいる。

 疾風のごとく現れ、熱風を巻き起こして、戦場を翔けるその勇姿。

 

「…………」

 

 アーク号に乗って空を飛ぶ拓馬は、その姿を誰よりも近くで目に焼き付けた。

 

 

***

 

 

 戦いを終えた一同は通信で連絡を取り合うと、墜落したカーン号の近くに降りて落ち合うことにした。

 そのカーン号に向けて今、ノルス・レイの背面にある翼状のジェネレーターから、白い光が散布されている。するとカーン号の損傷が見る間に修復されていった。

 光が収まった後、ノルス・レイの胴部が開いてコクピットからセニアが顔を出した。

 

「ひとまず応急処置しといたから!

 後でちゃんと見る必要があるけど、合体するくらいなら大丈夫なはずよ!」

 

「ほんとか! ありがてえ、助かったぜ!」

 

 セニアの言葉を受けて、喜びをあらわにする獏。

 そして同時に、ノルス・レイの戦闘力の低さにも納得していた。

 

「なるほどなぁ。支援機だったか」

 

 それにコクピットから地上に降りてきたセニアが答える。

 

「そ。有機ナノマシンを散布して、機体の情報を読み取りながら自動で修復するの」

 

「まじかよ! スゴイ技術だな!」

 

 ロボットやコンピュータの知識のある獏は、その科学力の高さに驚愕する。

 そんな獏に得意満面で説明するセニア。

 

「ふふっ、そうでしょ?

 でも装甲や駆動系の修復ならいいけど、エンジンや動力炉みたいに複雑だったり、特殊な部品が必要な箇所を直すのは難しいから、気をつけてね」

 

「なるほどな。過信は禁物ってわけだ」

 

「そうそう。

 だからね、もっと解析できれば修復も細かくできると思うの。

 それでゲッターロボの中身を、ちょ~っと見せてもらいたいなーって……」

 

 建前を得て、ここぞとばかりに好奇心を満たそうとするセニア。

 その後ろから呆れたような声がかかる。

 

「ったく、相変わらずだな。

 機械のことになると話が止まらなくなるのは」

 

 サイバスターから降りてきたマサキだ。

 そのマサキに獏は問う。

 

「なあ、ここはいつの時代なんだ?

 お前らはゲッターを知ってるようだが、俺たちはお前らの乗ってるようなロボットを見たことがない。さっきの敵もだ」

 

「そうか、違う時代に来たと思ってるんだな。

 結論から言うと、そうじゃない。お前らは……いや、俺もそうか。

 俺たちは別の世界に来たんだ」

 

「別の世界だって!?」

 

「さっきも言ってたわね、別の世界って。

 それって……地上とラ・ギアスみたいな話じゃないわよね?

 つまり……並行世界ってこと?」

 

「よく分かるな、お前……まあ、そういう事だ。

 詳しい話は、あいつらと一緒にな」

 

 マサキが後ろを親指で指すと、そこから拓馬とカムイが歩いてくる。

 そうして合流した5人はそれぞれに軽い挨拶と自己紹介をする。

 ……が、ひとつ問題があった。カムイがヘルメットをつけたままなのである。

 

「そっちの2号機パイロットは、どうかしたのか?」

 

 マサキも意図が分からず困惑気味に()く。

 それに素早く反応したのは質問されたカムイ本人ではなく、拓馬だった。

 

「まあまあ、いいじゃねーか!

 こいつはシャイなんだよ! こう見えてな!」

 

 明らかに何かを隠した、拓馬の苦しいフォロー。

 そんな拓馬をカムイ自身が制する。

 

「……いや、やはり助けられておいて顔を隠すのは失礼だろう」

 

 そう言ってカムイは自らのヘルメットを頭から取る。

 そうして出てきたカムイの顔は、やや緑がかった肌で、眉間・頬・顎の部分に爬虫類のような鱗がついている、異様な容貌(ようぼう)だった。

 

「えっ……」

 

「な……!」

 

 これにはマサキとセニアも面食らって、言葉に詰まる。

 そんな二人に代わって、別の人物が反応する。いや、それは人間ではなかった。その声の発生源はマサキの足元から。

 

「珍しい顔だニャ。そういう種族のいる世界ニャのか?」

 

「シロ、あんまりジロジロ見ニャいの。失礼でしょ?」

 

 それは白猫と黒猫。人の言葉を喋る2匹の猫だ。

 今度は拓馬たちアークチームが愕然とする番だった。

 

「喋るネコだと!?」

 

「こいつはたまげたぜ。ロボットとかじゃなくて、本物のネコなのか?」

 

「ロボットじゃニャいけど……本物のネコってわけでもニャいわね」

 

「オイラたちはマサキの無意識から作られた使い魔だからニャ」

 

「まあ、その辺の説明は後でいいだろ。

 まずはこの世界について、俺の知ってることを教えるぜ」

 

 そうしてマサキはこの世界や、彼らの状況について伝えた。

 まず、この世界ではDBD(次元境界線歪曲現象)と呼ばれる現象が世界中で頻発しており、そのとき(まれ)にロボットやパイロットが並行世界から転移してくるケースがある事。

 また、先ほど襲ってきたのは《クエスターズ》と名乗る謎の組織の所属機で、その目的は不明だが、地球人類とは敵対関係にある事。

 その他にも、この世界の地球は銀河の彼方から到来した複数の勢力による侵略を受けている事。

 さらには地球圏の中でも様々な火種があり、長く争いが続いている事。

 地球にはゲッターロボをはじめとして多数のスーパーロボットが作られていが、彼らの力をもってしても平和には程遠い状態である事。

 そしてゲッターロボについては、10年前に起きた『早乙女博士の反乱』の後に研究所が閉鎖され、現在ではゲッター線の研究が途絶えている事。

 これらの話をマサキは語った。

 

「なんだそりゃ。

 アンドロメダ流国みたいなのが、いくつもあるってのか? 世も末だな」

 

「しかもそんな切羽詰まってんのに、地球人同士でも争ってんだろ?

 すごいことになってんだな、この世界の地球は」

 

「そして、その混乱の一因が早乙女博士か。

 俺が研究所に来た時には、すでに(じん)さんが所長になっていたが……」

 

 拓馬、獏、カムイ、それぞれに感想を述べる。

 その中に知った名前の話が出たので、マサキはついでに教える。

 

神隼人(じんはやと)なら、こっちの世界にもいるぜ。

 まあ他の世界の神隼人も含めて、二人いるんだけどな」

 

「な、なに!? 神さんが二人いるだと!?」

 

「……まあ、そういう反応になるよな」

 

 これまで澄ました態度を保っていたカムイですら取り乱すのを見て、心中を察するマサキ。

 神隼人を知る者ならば、誰もが恐ろしくて想像したくないであろう。

 その恐怖に一人だけピンと来ていないセニアが、普通に話を続ける。

 

「それより3人とも、別の世界に来たっていうのに、そんなに驚いてないのね? あたしが言うのもなんだけど」

 

「ああ……俺らは俺らで、とんでもない所から来たもんでな」

 

 今度は拓馬たちアークチームが、自分たちの事情を説明する。

 拓馬たちの世界の地球では、《恐竜帝国》や《百鬼帝国》といった人類の敵との戦いが繰り返されていた。

 人類がそれらを退けたのも束の間、遥か遠い未来の勢力である《アンドロメダ流国》から攻撃を受ける。地球存亡の危機の前に、人類は不倶戴天の敵同士であった爬虫人類たち……すなわち恐竜帝国と手を組んだ。

 恐竜帝国の科学力によるサポートを受け、アークチームは地球最後の戦力として時空を越えて敵地へと向かう。

 そこで起きていたのは超未来の大戦争。無数のゲッターロボ軍団が人類の敵と戦っていた。

 数十世紀も過去の兵器であるアークは戦力にはならなかったが、拓馬たちと同じように過去から未来へ来た人間を倒すという役割があった。ゲッター軍団が敵基地を破壊する裏で拓馬たちは自らの役割を果たすが、敵は最後の悪あがきとして基地ごと自爆を敢行。急いで時空間装置にエネルギーを送って亜空間に飛び込んだところ、この世界へと辿り着いた。

 ……というのが、拓馬たちアークチームのいきさつだ。

 その中で、拓馬たちは意図してひとつの事実を隠した。申し合わせたわけではないが、3人ともに今は話さない方がいいと思ったからだ。

 

「恐竜帝国……爬虫人類……それじゃあカムイは……」

 

「そういうことだ。

 とはいえ俺は純粋な爬虫人類ではなく、人類との合いの子だがな」

 

「合いの子……ハーフってことか。

 それじゃあ純粋な爬虫人類ってのは、もっと爬虫類っぽい感じなのか?」

 

「ああ、見ればすぐに分かる。

 ザウルスチームも近くにいたから……

 もしかしたら奴らも転移して来ているかもしれん」

 

 そう言ってわずかに目を伏せるカムイ。

 

「そうか。しかし……どこの世界もすごいことになってんな」

 

「ホントね。実はあたし達の世界って、平和な方だったのかしら?」

 

 あまりにハードな世界の話を聞いて、思わず神妙な顔になるマサキとセニア。

 そんな二人に獏が尋ねる。

 

「お前らは同じ世界から来たんだよな?」

 

「それはどうかしら?

 もし並行世界が無限に存在するとしたら、まったく同じ世界から来る可能性は低そうだけど」

 

「そのあたりのすり合わせも兼ねて、俺らのことも話していくか」

 

 そうしてマサキとセニアは、彼らのいた世界について語る。

 まず地球に様々なロボットがいて、色々な争いの火種があるのは、この世界と同じ。

 大きな違いは、地球の内側に地底世界《ラ・ギアス》が存在することだ。そこでは科学に代わって『錬金学』を土台にした独自の文明が発達している。

 マサキやセニアが乗る『魔装機』も錬金学で造られたものである。

 セニアはそのラ・ギアスの出身だ。一方のマサキは地上で生まれ育ったが、15歳の時にラ・ギアスを救う戦士として召喚された。それ以来マサキは、高位精霊と契約した特別な魔装機である『魔装機神』サイバスターの操者として、世界の脅威と戦い続けている。

 ……この話を聞いた獏は、興奮気味に反応する。

 

「すげえな!

 異世界に召喚されて世界を救うために戦うって……

 まるで物語の勇者様じゃねえか!」

 

「そんな大層なもんじゃねえよ。

 俺は自分がやるべきだと思う事をやってるだけだ。

 お前らゲッターチームだってそうだろ?」

 

「うーん、言われてみればそうか。違いねえ」

 

 獏が納得したところで、マサキはセニアに向けて言う。

 

「しかし軽く話しただけだと、違いが分からねえな。やっぱり同じ世界か?」

 

「そうかもね。

 後で細かくすり合わせてもいいけど……あんまり気にしなくてよさそう。

 マサキはどこに行ってもマサキだろうしね」

 

「なんだそりゃ。俺が単純ってことか?」

 

「あら、自覚あるんじゃない」

 

「ちっ。俺だっていろいろ考えてるんだぜ」

 

 いたずらっぽく笑うセニアに対して、仏頂面で頭を()くマサキ。

 とはいえ決して剣呑な空気はない。気安く軽口を言い合える仲だというのが、二人の様子からは見てとれる。

 

「それで、この世界でも世界を救うために戦ってるのか?」

 

「……そうだな。どこにいようが、魔装機神操者の義務は変わらねえ。

 だが、一人でいるわけじゃないぜ。

 今はドライクロイツってところで厄介になってる」

 

 マサキはドライクロイツのことを話す。

 ドライクロイツは長引く戦火で疲弊している地球連邦軍に代わって、地球圏の脅威に対抗する独立部隊。

 万能戦艦ドライストレーガーを旗艦とし、この世界の強力なロボットと、そのパイロット達を率いて戦っている。

 それと同時に別世界からの来訪者の保護と、彼らを元の世界へと返す方法の調査も行っている。

 

「元の世界に戻る方法はないのか。

 まあ、見つかるまでは俺たちもそのドライナントカを頼るのが無難か。

 その部隊は近くに来てるのか?」

 

「いや……近くにはいない、な。たぶん」

 

「? なんだそりゃ?」

 

 妙に言葉を濁すマサキの様子から何かを察したセニアは、呆れたように、じとっとした目を向ける。

 

「マサキ……また?」

 

「ま、まあいいじゃねえか。

 そのうち連絡もつくだろ。近くに来たらすぐ分かるしな。

 なにせ全長2キロメートルの超巨大戦艦だ」

 

「2キロだと!? そんなのもう、ちょっとした街じゃねえか!」

 

「ああ、すごいぜドライストレーガーは。

 格納庫にはゲッタークラスの大きさのロボットが何体も収まってるからな。

 単体の戦力としても大したもんだし、何よりAOSってシステムのおかげで、艦の近くにいれば的確な支援が飛んでくるし、ロボットもパイロットもどんどん強化されてる」

 

 マサキの口から未知のシステムの話が出て、いちはやく反応したのはセニアだ。

 

「エーオス?

 そういえばマサキの戦い方がいつもと違ってたけど、そのせい?

 あんな器用に攻撃と離脱を繰り返すこと、なかったわよね?」

 

「よく分かったな。

 艦載機の戦闘データをAIが分析して、効率のいい訓練メニューを作ってくれるからな。おかげで色々できるようになったぜ」

 

「へえ、面白いわね。

 でもマサキ、修行するの嫌いじゃなかった?」

 

「そうなんだが……ドライクロイツには、人に特訓させたがる奴が多くてな……」

 

 何を思い出しているのか、マサキは苦しそうな表情で遠くを見ている。

 そこに口を挟んでくるのは拓馬だ。

 

「AIが何でもやってくれるってか?

 戦いってのは、そんな甘いもんじゃねえだろう。

 いざとなったら殴り合いでも何でもしてやる! そういう気概だろうよ、勝負を決めるのは」

 

「おいおい、どうした拓馬」

 

 言いがかりとも言えるような、拓馬の強引な難癖。

 その意図を理解したマサキは、あえて挑発するように返す。

 

「なんだ?

 まさか俺が魔装機に乗ってなきゃ戦えないとでも思ってんのか?」

 

「違うのかよ?」

 

「へっ、面白え。やってやろうじゃねえか」

 

 そんな突然の流れに慌てるのはセニアだ。

 

「ちょっと!

 なんでそんなことでケンカになるのよ!?」

 

「止めるなよセニア。

 こういう奴には、これが一番手っ取り早いんだ」

 

「別に止めはしないけど。

 ……はぁ、地上の男って、皆こうなのかしら?」

 

 セニアは早々に止めるのを諦め、近くの岩に腰をかけるとため息をつく。

 その呟きをカムイが聞き咎める。

 

「あいつと同じだと思わないでもらいたいな」

 

 拓馬と一緒にするな。

 そのカムイの言葉に、思わぬところから反論が来る。

 それはすぐ横にいる獏からだ。

 

「そうは言うがカムイ。お前も初対面の拓馬と殴り合いかましてただろ」

 

「う……」

 

 言葉に詰まるカムイ。さらにはセニアからの視線も感じて、カムイは気まずげに顔をそらした。

 ……そうしている間に、拓馬とマサキは構えをとって対峙していた。

 どちらも空手の構えだった。両手を顎の高さまで上げて、やや前傾姿勢のマサキ。対する拓馬は手を腰のあたりまで下げて重心を低くした、どっしりとした構えをとる。

 

「……!」

 

 拓馬の立ち姿を目にしたマサキは即座に空手の構えを解き、ボクシング・スタイルに切り替えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そうして数秒の睨み合いの後、拓馬が仕掛ける。

 

「――ふッ!」

 

 鋭い呼気とともに剛腕が唸る。

 マサキはそれを避けると、素早く2発のジャブを返す。

 パンチを当てたマサキは、すぐに間合いの外へ。羽のように軽やかなステップワークだった。

 

「へ……なかなかすばしっこいじゃねえか」

 

「そんな正直な突きが当たると思うなよ。これでも国体出場経験があるんだぜ?」

 

 そう言ってマサキはにやりと笑う。

 そんな2人のやりとりを見て、カムイは嘆息した。

 

「マサキという男、少しはやるようだが……あの程度ではな。

 まともな人間では拓馬の相手にはならん」

 

 それは実際に拓馬と何度も殴り合いを繰り広げたカムイの実体験によるものだった。

 爬虫人類とのハーフであるカムイは、地上の人類とは比較にならない強靭さを持つ。そのカムイと正面から殴り合っても決着がつかないのが拓馬だ。

 マサキの身体能力はスポーツ選手としては優秀だが、あくまでそれは人間の常識の中での話。人類の常識外にある拓馬とでは、肉体性能の時点で同じ土俵に立っていない。

 だというのに、そこから続く2人の戦いは、カムイの予想と大きく異なっていた。

 

「どうした? ハエが止まるぜ、そんなんじゃ!」

 

「……ちぃっ!」

 

 拓馬の放つ突き、蹴り、ことごとくが当たらない。

 フェイントを織り交ぜてみても、タックルから強引に掴みかかろうとしても、その全てをすかされてしまう。

 その間にもマサキの拳は幾度となく拓馬の顔面を打ち()えていく。

 それを見て当惑の声をあげたのは、予知能力者である獏だ。

 

「なんだあ?

 まさか……あいつも“()えてる”のか?」

 

 驚いているのはカムイも同じだ。

 

「……拓馬はただの力自慢の馬鹿じゃない。

 やつの体には、武術の動きが骨の髄まで染み付いている」

 

 拓馬とカムイの喧嘩に決着がつかないのは、それが理由だ。

 いかに人間離れしている拓馬といえど、爬虫人類の血が流れるカムイの身体能力には及ばない。しかし物心ついた時かより武芸百般を母から叩き込まれた拓馬は、格闘の理合に精通している。直情的な性格と粗野な外見にそぐわず、達人と言っても過言ではない技術を拓馬は身につけているのだ。

 だからこそ、拓馬の構えを見たマサキが空手スタイルをやめたのだと、カムイは考えていた。空手という土俵で拓馬と競っては勝ち目がないことを察したのだと。

 そのカムイの洞察は間違いではなかった。空手家としての腕前では間違いなく拓馬に軍配が上がる。

 しかしボクシングにスタイルを変えたからといって、ここまで一方的な展開になるというのは、さすがに不可解だった。

 

「なんだ? これは……どうなっている……?」

 

 獏やカムイも驚いているが、この展開に最も困惑しているのは、戦っている拓馬当人だった。

 拓馬はただのフェイントだけでなく、重心移動をずらして惑わしたり、初動の動きを極力なくした無拍子の打撃を繰り出すなどして、随所で動きを読まれぬ工夫を凝らしている。しかし、そうした武術で培った技法の一切が通用しない。

 

(どうなってやがる!? こんな事があんのか……!?

 見切られてるとか、そんなハナシじゃねえ……こっちの心を読まれてるとしか思えねえ)

 

 途中から拓馬は打撃だけでなく掴みに行く動きも混ぜているが、それも不発に終わっている。

 打撃を受ける覚悟をしたタックルですら相手の体に触れられないのは、明らかに異常だ。

 何より不可解なのは、速度でも拓馬がマサキを上回っている事だ。

 それでなぜ触れられないのか、拓馬にも、戦いを見ている者にも理由が分からない。

 

 しかしながら、この状況で最も焦っているのは、一度も攻撃を受けていないマサキだった。

 

(なんだこの感触!? 人間を殴ってる気がしねえ……!

 こっちはカムイと違って普通の人間のはずだろ!?)

 

 相手はゲッターチーム。

 そして名前には(ながれ)の姓。

 この時点で警戒するべきだったとマサキは後悔する。

 マサキはすでに20を超えるパンチを拓馬の顔に入れているが、傷ついているのは表面の皮膚だけだった。ダメージと言えるものは一切ない。

 

(イチかバチか、勝負を仕掛けるしかねえ。長引いたら終わりだ)

 

 このままでは、いずれスタミナが尽きて拓馬に捉まるのは明白。そのことを理解したマサキは即座に覚悟を決め、行動に移った。

 まず、スタミナが切れて動きが鈍ったふりをして、あえて拓馬の攻撃を受ける。

 

(ここで裏に回って……来る! 裏拳か!)

 

 マサキは拓馬の身体から発せられる生体エネルギー“プラーナ”を察知する。

 攻撃してくる相手のプラーナを読めば、攻撃の軌道を事前に知ることができる。いわば攻撃の予告をされているようなもので、マサキが拓馬の攻撃を避け続けていたのは、これが理由だ。

 しかし今回はあえて避けずに受ける。拓馬の隙を誘うためだ。

 もちろん受けるのはガードの上で、だったが……

 

「っ……!」

 

 当てることを優先して腰が入っていない裏拳だったにもかかわらず、マサキはガードした腕から伝わる衝撃と重さに戦慄する。

 演技する必要もなく、マサキは体勢を崩して足が止まる。拓馬にしてみれば、ようやく訪れた千載一遇の好機。追撃のため、大きく踏み込む拓馬。

 チャンスと見て踏み込んできた拓馬が全力で攻撃してきた時、そこへカウンターの一撃を叩き込む。それがマサキの描いた唯一の勝ち筋だった。

 ……しかしそれは拓馬にも分かっていた。

 このまま続ければ相手のスタミナ切れで勝てるという事も。相手が自分の大振りを誘ってカウンターを狙っている事も。

 分かっていて、それでも全力で踏み込んだ。

 理由はない。あえて言うなら、それが流拓馬という男だった。

 

「おおおぉっ!!」

 

「――っ!」

 

 岩をも粉砕する拓馬の鉄拳。マサキはそこに躊躇なく飛び込んだ。

 閃くように交差する2つの拳。

 結果……見事にマサキのカウンターは決まっていた。

 一瞬の安堵。だが次の瞬間、マサキの顔は驚愕に変わる。自分の拳の先で、にやりと釣り上がる拓馬の口の端が見えたからだ。

 そして、その時には既に、拓馬のもう一方の拳が振り上げられている。

 

「クロス……カウンターだぁっ!」

 

 クロスカウンターではない。ただパンチを正面から受けて、足が止まった相手に殴り返すだけである。

 しかし勝負を決めるつもりで深く踏み込んでいたマサキには、その拳を避けることなどできなかった。ついに拓馬の拳がマサキの顔面に突き刺さる。

 吹き飛び、仰向けに倒れるマサキ。そしてそのまま動かない。完全なノックアウトだ。まともな人間が拓馬の剛拳を一度でも受ければ、こうなるのは必然だった。

 

「よっしゃあ! 俺の勝ちだ!」

 

 拳を上げて勝ち名乗りをあげる拓馬。

 そして後ろで見ていた仲間へと振り返る。

 

「どうよ、見たかお前ら!

 俺の完璧なクロスカウンタ……あ……? お? おお?」

 

 振り返ろうとした拓馬は突如ふらつき、まるで酔っ払ったようにたたらを踏んで、ばったりと倒れた。

 その姿にカムイは呆れたように言う。

 

「……脳震盪だな。

 バカめ、避けようともせずに真正面からくらうやつがあるか」

 

 仲間が倒れても冷静なカムイだったが、セニアは慌てて声をあげる。

 

「ちょっと! そんなことより大丈夫なの!?」

 

 そんなセニアを安心させるように獏が言う。

 

「大丈夫だろう。

 マサキの方も、最後にぎりぎりで後ろに跳んでいた」

 

 獏の言葉を証明するように、マサキはゆっくりと上体を起こす。

 

「痛っ……なんて馬鹿力してやがる……」

 

 しかしそのダメージは大きく、上体を起こすだけで精一杯で、自力では立ち上がれなかった。

 そんなマサキの前に手が差し伸べられる。

 すでに立ち上がっていた拓馬の手だ。

 

「やるじゃねえか、マサキ。勝負はおあいこだな」

 

 その拓馬の顔を見上げたマサキは、少しだけ苦々しい、しかしどこかさっぱりとした顔で言った。

 

「いや……俺の負けだ」

 

 そうしてマサキは手を伸ばし、握手をするように拓馬の手を取った。

 そんな男たちの姿を見て、セニアは口を開く。

 

「よく分からないけど……

 なんだかいいわねぇ、こういうのって。

 ちょっとうらやましいかも」

 

 どうなることかとヒヤヒヤして見ていたセニアだったが、いい感じの流れに落ち着いたようで安堵する。

 ――そんな時だった。

 上手くまとまりかけた場の空気を()き乱し、空の彼方にまで吹き飛ばすような、その闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れたのは。

 

「や~~~っと終わりましたかぁ!?」

 

 全員の目が、研究所の方角から現れたその男に向けられる。

 

「まったく、待ちくたびれましたよ。

 くっだらない茶番はそこまでにしてぇ?

 それじゃあ、身のある話を始めようじゃありませんか」

 

 冴えない風貌に反した、独特の口調とテンションで振る舞う奇妙な男。

 ジャロウデク王国開発研究工房長、オラシオ・コジャーソだった。




【姓名の表記について】
姓と名をつなげる記号は近年のスパロボだと「・」で統一されていますが、SFCの『魔装機神LOE』が発売された当時は「=」が使われていたので、魔装機神関連のキャラクターはこちらの表記を採用しています。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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