Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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「竜王降誕 後編」

 あれから2日後。

 格納庫のゲッターザウルスの前に、ザウルスチームの3人がいた。

 彼ら3人は現在の状況と、自分たちの今後について話し合っている。

 

 ザウルスチームがこの世界にやって来た経緯は、アークチームと同じだ。

 ゲッターアークとゲッターザウルスは共に、未来から来て地球を侵略していた敵勢力に反撃するべく、時空を越えて乗り込んだ。

 アークとザウルスは未来世界では戦力として役に立たなかったものの、結果として敵が使用していた時間移動装置は破壊され、作戦は成功。

 だが元の時代へと帰る途中で、こちらの世界に紛れ込んでしまった……

 

 ザウルスチームがアークチームと違うところは、こちらの世界に来た彼らの前に、皇帝ゴール三世が現れたことだ。

 ゴール三世は彼らに命じた。

 元の世界に戻る前に、こちらの世界にいるゲッターアークを破壊せよ、と。

 人間とハチュウ人類。もともとは地球の覇権を競う不倶戴天の敵同士だ。

 共通の敵がいなくなれば対立するのは当然のことである。

 

 ザウルスチームのリーダーであるバイスが二人に言う。

 

「だが、俺たちは元の世界に戻れるのか?」

 

 バイスは燃えるような赤い頭髪をしており、人間に近い顔立ちをしている。

 ハチュウ人類らしからぬ容姿は地リュウ一族によく見られる特徴で、これも彼らの一族が恐竜帝国で(ないがし)ろにされる一因である。

 バイスの疑問に、2号機メインパイロットのガンリューが答える。

 

「さて、どうだろうな。皇帝は戻る手立てがあるような口ぶりだが」

 

 ガンリューの風貌は標準的なハチュウ人類と変わらず、爬虫類らしさが強い。

 続けてバッファローのような大きな角を持つ巨漢、ゴズロが言う。

 

「なに、俺たちは戻れなくたって構わねえ。

 恐竜帝国の怨敵・ゲッターロボとゲッターチームさえ倒せば、地リュウ一族の地位は安泰だ。

 俺たちゃ、そのために決死行(ジュラ・デッド)に志願したんだ。そうだろ?」

 

 地リュウ一族の歴史は悲惨だ。

 かつて彼ら3人の父親たちは早乙女研究所を襲撃し、あと一歩というところまで追い詰めたが、からくも失敗した。

 一旦は勝利しかけただけに当時の皇帝ゴールの失望は大きく、地リュウ一族は以前にも増して過酷な境遇へと追いやられてしまった。

 その厳しくも苦しい暮らしを思い出し、ガンリューもゴズロに同調する。

 

「そうだ。親父たちの無念は俺たちが晴らす。

 そしてあの暗く冷たい世界から、俺たちの家族を救い出す!

 そのためなら俺の命なんて捨ててやる!」

 

 彼らは3人ともに尋常ならざる覚悟をもって戦いに臨んでいた。

 そんなふうにゴズロとガンリューが決意を新たにしている中で、ひとりバイスだけがゲッターザウルスの爪先に腰を下ろしたまま動かなかった。

 

「…………」

 

「バイス、何かあるのか?」

 

 仲間の問いかけにバイスは呟くように答える。

 

「……お前たちは、これでいいのか?」

 

「どういう意味だ?」

 

 バイスは何か思うところのあるようなそぶりを見せる。が、彼はそれだけ言うと黙り込んでしまう。

 微妙な空気を追い出すように、ガンリューは話を変えた。

 

「どんな心配よりも、まずは俺たちがアークに勝てるか……じゃないか?」

 

 それにはバイスも頷く。

 

「アークはこの世界の技術で強化されてるようだ。

 ザウルスも同程度には強化しなければ。

 だが……あのオラシオとかいう男、信用できるのか?」

 

 バイスがそう言った時だった。

 

「少なくとも、その点は心配無用ですねぇ」

 

 言葉とともにオラシオが格納庫に姿を現す。

 その風采(ふうさい)は、思わずザウルスチームがぎょっとするくらいにひどいものだった。

 何週間も着たままの衣服は悪臭を放っており、目の下は(クマ)で真っ黒。頬は骸骨と見紛うほどにこけて、まるで病人だ。

 しかしその衰弱した身体とは裏腹に、異様に漲る生気が全身から発散され、両の瞳はぎらぎらと輝いている。

 

「断言しましょう!

 もしも勝利の足枷となるものがあるのなら、それは乗り手の腕しか有り得ないと!」

 

「なんだと!?」

 

「俺たちがアークチームに劣るとでも言うのか?」

 

 オラシオの挑発的な大言に、ガンリューとゴズロが鋭い眼光を向けた。

 だがオラシオはどこ吹く風で小首をかしげてみせる。

 

「はぁあ? むしろ自分が彼らより(まさ)っていると思うのですか?

 今の彼らはアナタ達が知るアークチームではないというのに」

 

「どういうことだ?」

 

 掴みかかろうと踏み出すガンリューとゴズロを制して、バイスは問う。

 しかしオラシオにとって、それは言うまでもない事実だ。

 オラシオはこの世界に来た直後と、つい先日の両方のアークチームを知っている。

 自ら飛竜戦艦(ヴィーヴィル)に搭乗したオラシオは、以前とは全くの別人と言っていいほど成長したアークチームを目にしているのだ。

 それを説明した上でオラシオは言う。

 

「彼らは、この世界の強敵達と死闘を繰り広げて進化しているのでしょう。

 その間、アナタ達は何と戦っていたのですか?

 おんやぁ? まさかと思いますが……何とも戦っていない!?」

 

「…………くっ」

 

 ザウルスチームは何かを言い返そうとしたが、全くの図星であり、返す言葉がなかった。

 ゴール三世から目立つことを禁じられている彼らは、この世界での戦闘経験を積めていない。

 そしてオラシオの言葉を受けて、ザウルスチームの3人の脳内では、過酷な戦場を生き抜いて進化したアークチームの姿が有り有りと想像できてしまった。

 黙り込むガンリューとゴズロの代わりに、バイスが代表して口を開く。

 

「なら、俺たちでは勝てないというのか」

 

「まさか!

 乗り手がヘボだから勝てない……そんな屈辱を二度も味わうつもりはありません」

 

「おい、誰がヘボだ!?」

 

 そんなゴズロの文句をオラシオは無視する。

 

「必要なのは優れた設計思想と、それを十全に発揮する性能!

 そして私はぁ……実現しましたとも、それを!

 喜んでくださいよぉ? アナタ達の勝利は確定です!」

 

 そうして天を仰いで大声で笑い出すオラシオ。

 ザウルスチームからすれば、にわかに信じがたい。狂人の戯言にしか見えなかった。

 そんな奇人の哄笑が響き渡る格納庫に、アレクシス・ケリヴが姿を見せる。

 彼はいつものように悠然とした態度で、この場にいる者たちに告げる。

 

「その様子では完成したみたいだねぇ。

 いやあ、丁度よかった。先日のテロリストが、この場所を突き止めたらしい。

 既にすぐ近くにまで迫っているようだ」

 

 あまりにタイミングが良すぎる。さてはこの男が情報を流したのではないか……と、バイスは疑いの目を向けるが、それを口に出すことはなかった。

 

「ンッフフ!

 小粒の相手ですが、試運転にはおあつらえ向きじゃあないですかぁ!」

 

 オラシオが懐から取り出した設計図の束を掲げると、すかさずアレクシスが唱えた。

 

「インスタンス・アブリアクション!」

 

 するとアレクシスのバイザーが赤い輝きを放ち、ゲッターザウルスに照射される。

 みるみるうちの形を変えていくゲッターザウルス。

 体躯はひとまわり大きくなり、元から太かった肩や足はさらに分厚さを増して重厚に。

 見た目からは、あまり劇的な変化はない。

 大きく変わったのは口元のパーツがゲッターアークに近くなったことくらいだ。

 それ以外には、元々の作りを保ったまま順当にアップグレードされた……といった外観である。

 そこに現れたゴール三世が、ザウルスチームに向けて命じる。

 

「行け、ザウルスチームよ!

 新しいゲッターザウルスの力を、わしの前に見せてみろ!」

 

「了解しました!」

 

 3人はすぐさまゲッターザウルスに乗り込み、格納庫から出撃した。

 

 

***

 

 

 アムリトサルでオラシオの試作型飛空船(レビテートシップ)に蹴散らされたテロリスト集団は、自分たちに攻撃を加えた者がこの地にいると聞きつけてやって来た。

 ゲド・バッカやスコープドッグなどが総勢20体以上。テロリストの1組織が用意するにしては、かなりの戦力だ。

 さらにこれらに加え、今回はなんとザンスカール帝国のアドラステア級戦艦――通称「バイク戦艦」まで投入してきた。

 全長400メートル以上のバイクが砂上を突き進んでいくのは、一種異様な光景であった。

 

「行け、皆の者! 我らを侮る者に報いを受けさせよ!」

 

 バイク戦艦のブリッジに響き渡るのは、組織を率いる指導者の男の声。

 彼らは傷ついた威信を取り戻すべく、自分たちの全戦力を集めてきたのだ。

 

「前方、所属不明機を発見! 近付いてきます!」

 

 遠くにちらりと見えた機体。それは出撃したゲッターザウルスであった。

 テロリストの指導者は、すぐさま攻撃を指示すべく口を開く。

 が――その命令が発せられることはなかった。

 突如、轟音とともにブリッジの中を吹き荒れる暴風。

 何事かと横に目を向けた男が見たのは、信じられない光景だった。

 戦艦のブリッジの半分が、まるで何かにこそぎ取られたかのように、丸ごと消滅していたのだ。

 事が起きた瞬間、ブリッジにいた人々の視界の端に一瞬だけ映っていたのは、小さな無数のトゲがついた鉄球のようなもの――

 彼らが認識できたのはそこまで。

 次の瞬間にはアドラステア級戦艦は大破し、爆発を起こして轟沈した。

 

 

***

 

 

 ゲッターザウルスの戦いの様子をオラシオ、アレクシス、そしてゴール三世の3名は飛空船(レビテートシップ)の中から見下ろしていた。

 アレクシスはその戦いぶりを見て、感心したように言う。

 

「おお~、すごいじゃないか!

 今の異常な加速……明らかにゲッターキリクを超えているねぇ。

 空中機動に特化した機体……そうか、飛竜戦艦の設計思想。

 つまり制空権の確保を最重要としたわけだね?」

 

「ご明察。空を制する者が戦場を制します」

 

 オラシオはこの場にいるゴール三世に合わせて、余所行きの敬語で答える。

 彼らが見下ろす先では、ゲッターロボ以上の高機動で戦場を飛び回るゲッターザウルスの姿があった。

 その様子を眺めるアレクシスは、ひとつの疑問を口にする。

 

「しかし、あんな動きをしては中のパイロットが……

 ああ、そうか。彼らは人間ではないんだったね」

 

「そういう事です。

 身体の強度だけなら、彼らはアークチームよりも上のようですからね」

 

 人間では耐えられない動きも、ハチュウ人類ならば問題ない。

 先日の試作型飛空船で出てきた問題点を、今回は搭乗者の特性によってカバーしたのだった。

 しかしここでまた新たな課題が浮上してくる。

 バイク戦艦を一撃で落としたはいいものの、ゲッターザウルスはその後の小さな敵機の殲滅に思いのほか手間取っていた。

 オラシオはすぐに理由を察する。

 機体の動きがあまりにも早すぎて、ザウルスチームが対応できていないのだ。

 そこでオラシオは、ザウルスチームに通信を送る。

 

「いいですかぁ、ザウルスチームの皆さん?

 武器を振る必要はありません。

 アナタ達はただ高速で移動しながら、その手に握ったフレイルを当てればいいだけです」

 

 オラシオのアドバイスはすぐに功を成した。

 ゲッターザウルスがジグザグ飛行で敵の間を縫うと、敵機が次々と吹き飛んでいく。

 ゲッターザウルスの主武器『ダブルシュテルン』はトゲ付きフレイル。すなわちこれは質量を敵にぶつける兵器だ。

 その破壊力は物体の質量と目標に衝突した瞬間の速度に依存する。

 超高速移動したままぶつかれば、それだけで圧倒的な破壊エネルギーが敵機を粉砕する……という寸法だ。

 

「機動力を攻撃力としてそのまま活用……

 パイロットの特性ともマッチして、なんとも合理的だねぇ」

 

 その無駄のない設計にアレクシスも思わず唸る。

 飛竜戦艦(ヴィーヴィル)は巨体をもって体当たりを仕掛けて格闘戦に対応したが、このゲッターザウルスでは質量が減った代わりに速度を活用した形だ。

 するとそこで、ここまで無言を貫いていたゴール三世が話に割って入る。

 

「ううむ。しかしザウルスチームが扱いきれないのは不安材料ではないか。

 速度が破壊力に変換されるというなら、間違って壁にぶつかったりしたら壊れてしまうのではないか?」

 

「いえいえ、そこは問題ありませんとも。

 ゲッターザウルスをよぉ~くご覧くださいますれば……」

 

 言われてゴール三世は遠くで戦うゲッターザウルスを改めて見る。

 そしてオラシオの言葉通りによく目をこらして見てみれば、それは判った。

 何度も敵にぶつかり、いくつも流れ弾に当たっているというのに、ゲッターザウルスの装甲には傷のひとつも見当たらない。

 

「全くの無傷だと……?」

 

「そう! 今回、装甲素材には超合金ニューZを主に使用しております!」

 

「なに、合成鋼Gではないのか?」

 

 そうした依頼主の疑問を受けて、オラシオは説明する。

 ゲッター合金および合成鋼Gの特長というのは、ゲッター線を照射することで様々な変化をする点だ。

 これによりゲッターロボは物理的に不可解とも思える変形機構を実現している。

 しかしこの世界には装甲素材として見た場合、もっと優れた金属がある。

 それが超合金ニューZだ。

 その説明に、今度はアレクシスが口を挟む。

 

「ということは、あのゲッターザウルスは合体変形ができないんだねぇ」

 

 やや残念そうな声色のアレクシスを、オラシオはばっさりと切り捨てる。

 

「不要ですよ、そんなものは。機体の強度も安定性も著しく落ちてしまう。

 それに戦闘中に分離合体するなど、まさしくリスクの塊と言わざるを得ません」

 

 加えて言うなら、ゲッターロボは宇宙開発や未知の領域で戦うことを想定して、合体変形で対応するよう設計されている。

 だが、こと“戦闘で勝つ”だけを目的とするのなら、合体変形機構を実装するのはデメリットがメリットを上回る……というのがオラシオの考えである。

 

「複雑な機構を排除すれば超合金ニューZを採用できます。

 ハッキリ言ってこの金属はですねぇ……

 まったくもって! おかしな代物なのですよ、これは!

 これで機体の強度も軽さも、アークとは比較になりません!」

 

 超合金ニューZの利点を力説するオラシオ。

 実際、マジンガーZとゲッターロボの重量を比較して見た場合、マジンガーZは恐ろしく軽い。その重さは木材と変わらないくらいだ。

 ゲッターザウルスの尋常ならざる速度は、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の搭載や、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)からのエーテルスラスターへの換装もあるが、それらの要因よりも素材の“軽さ”が寄与するところが大きかった。

 

 そんなことを空の船上で3人があれこれと話しているうちに、ゲッターザウルスは無傷のまま全ての敵機の掃討を完了した。

 ここでようやくゴール三世はその圧倒的な性能を理解し、歓喜の声をあげる。

 

「素晴らしい!

 これなら()()()の力を借りるまでもない……確実にアークを倒せる!

 ゲッター線で被曝しても構わん、貴様らの骨は拾ってやるぞザウルスチームよ!」

 

「……あ~、申し上げにくいのですがねぇ。

 今回、ゲッター炉心は使用しておりません」

 

「なに、そうなのか?」

 

「ええ、まあ。

 合成鋼Gを使わないのであれば、ゲッター炉心を使うメリットも薄くなりますので」

 

「ならば何を動力に使っておるのだ?」

 

「それはですねぇ……」

 

 ロールアウト後のお披露目が無事に終わって、オラシオが依頼主の疑問にゆっくりと答えようとしていたところ……

 不意にアレクシスが前方へ身を乗り出す。

 

「んんっ!? あれは……!」

 

 そんなに取り乱したアレクシスの姿を見るのは、オラシオにとって初めてだった。

 オラシオはアレクシスの視線を追う。

 すると遠くの空から、謎の黒いロボットがこちらに向かってくるのが見えた。

 それは両腕の代わりに大きな翼を広げ、スカート状の下半身を持つロボットだった。

 その流線的で女性らしさを思わせるフォルムはセニアのノルス・レイに近い。

 しかし高貴な法衣を思わせるノルス・レイとは違って、その黒い機体はどこか喪服じみた暗澹とした空気を纏っていた。

 その機体を知っているらしいアレクシスが呟く。

 

「あれはスターメンビトル……?

 まさか、この進行度で彼女が動き出すはずが……」

 

 高速で飛来してきた黒い機体は中空で急停止すると、その両目の部分から赤いリング状の光弾を発射した。

 警告なしの無言で放たれた攻撃。その狙いはオラシオたちが乗る飛空船でも、ゲッターザウルスでもなかった。

 赤い光弾はゲッターザウルスが発進した格納庫の入口に突き刺さり、爆発とともに周囲の地形を大きく崩す。

 ザウルスチームは黒い機体の攻撃を敵対行動と判断して、即座に動く。

 

「何者か知らんが、相手が悪かったな! 行くぞ、ゲッターザウルス!」

 

 バイスの気勢とともにゲッターザウルスは高速で敵機に向かう。

 まるで瞬間移動したかのような超高速移動からの、手にしたトゲ付きフレイル(ダブルシュテルン)での殴打。

 凶悪なフォルムを持つ鈍器は、スターメンビトルと呼ばれた機体の胴部へと命中する。

 シンプルゆえに強力な一撃は必殺の威力を伴う。

 ……その威力は疑いなく、この正体不明の敵機にも通用した。

 だが流麗な見た目に反してその装甲は思いのほか堅牢で、ザウルスの攻撃は外装に少しの罅を入れた程度だった。

 そして敵は左右の大きな翼に光を纏うと、お返しとばかりにゲッターザウルスへ向かって突撃する。

 ザウルスは回避……したつもりだった。

 しかし光の翼にザウルスの足がわずかに触れると、そこを中心に青黒い奇妙なエネルギーが広がり、一気に炸裂する。

 

「なんだ、この衝撃は!? ぐうぅっ!」

 

「まずいぞバイス! 左足が動かん!」

 

「なにっ!?」

 

 無敵の超合金ニューZでも防げない謎の攻撃を受け、ザウルスチームの間に動揺が広がる。

 だがザウルスチームが引くことはない。焦燥を感じながらも、果敢に敵機へと立ち向かっていく。

 繰り返される速く重い鈍器での殴打。

 幾度も鳴り渡る重厚な打撃音。

 つい先程までの気楽な掃討戦とは打って変わって、たったひとつのミスが敗北と死に繋がる緊迫した戦闘が繰り広げられる。

 戦況は五分五分のように見えて――わずかに不利なのはゲッターザウルスの方だった。

 理由は火力不足。

 ダブルシュテルンでの攻撃では、この敵を倒しきるには時間がかかり過ぎる。

 

 その戦いを飛空船(レビテートシップ)の中で見ていたアレクシスは、得心したように唸る。

 

「向こうの狙いはこちらの拠点か……なるほどねぇ。

 しかし新型機に慣れない彼らには荷が重そうだ。

 仕方ない、ここは私が……」

 

 意を決して重い腰を上げようとしたアレクシス・ケリヴ。

 しかし、その動きを遮るようにオラシオが言った。

 

「いえ、問題ありません。

 聞こえていますかぁ、ザウルスチーム!

 もうひとつの武装を使いなさい!」

 

 オラシオからの通信を受けて、ゲッターザウルスのコクピットの中でザウルスチームが叫ぶ。

 

「もうひとつの武装……? どれだ!?」

 

「これだ! バイス、操縦桿の赤いボタンだ!」

 

「やるしかない! 行け、バイス!」

 

「おおっ!」

 

 メインパイロットであるバイスが引き金に指をかけたところで、再びオラシオから通信が入る。

 

「これはほんのアドバイスですが……

 その武装はアナタ達の気迫、精神力が重要です。

 ですのでぇ、撃つ時には技名を叫ぶことを推奨しますよぉ?」

 

「何だか分からんが……やってやる!」

 

 バイスは操縦桿を力の限り握り込むと、操縦席の幻像投影機(ホロモニター)に映った魔導兵装(シルエットアームズ)の名前を叫ぶ。

 

「くらえっ! インシニレイト! ビィィィーーームッ!!」

 

 ――その瞬間、竜の胸の奥でドクンと鼓動があがる。

 

 ゲッターザウルスの内部にある擬似プラーナ発生装置が起動。

 発生したプラーナは操縦席から流れる3人のプラーナと混ざり合い、熱い血液の奔流となってザウルスの心臓部へと流れ込んだ。

 竜の心臓が動き出す。

 それと同時にゲッターザウルスの全身が異様な高温を発する。

 鼓動とともに心臓から発せられた超高密度のエネルギーは、銀の神経を通じて瞬時にして喉元へと駆け上がり、口内に刻まれた紋章術式(エンブレム・グラフ)を満たす。

 

 開かれた恐竜の顎門(あぎと)

 超々高温の熱線がゲッターザウルスの口から放たれる。

 収束・高熱化した炎は輝く灼光となって突き進み、スターメンビトルの胴部中央を瞬時にして焼き切った。

 

 インシニレイトビーム。

 飛竜戦艦(ヴィーヴィル)の切り札である戦術級魔法(オーバード・スペル)竜炎撃咆(インシニレイトフレイム)』をオラシオが改良してゲッターザウルスに実装したものだ。

 オラシオはこの世界でプログラミングを学んだことにより、その理解を魔法術式の改良に応用することが可能となった。

 元々は巨大で強力な火炎放射器といった魔法だったが、炎を拡散させず直線状に集約するよう魔法術式(スクリプト)を変更したことで、より高熱化して威力を高めることに成功した。

 

 ゲッターザウルスの熱光線を受けて、ぽっかりと胸に大きな穴を開けたスターメンビトル。

 その体躯がガクガクと痙攣し、まるで怨嗟の断末魔を残すかのように火花を散らすと、中空で大きく爆発して四散した。

 あれだけ苦戦していた相手を一撃で葬る威力に、ゴール三世が驚きの声をあげる。

 

「こ、これは……なんという力だ!」

 

 その隣でオラシオが得意満面で解説する。と同時に、先ほど中断された動力についての疑問に答える。

 

「基本は安定性の高い光子力エンジンを使用していますが……

 さらなる高出力を実現するため、“もうひとつの動力炉”を搭載しています。

 ただしぃ……この炉は少しばかりクセがありましてねぇ。

 高純度のエーテルがなければ、まともに動いてくれないのですよ」

 

 それを受けて、さらに横からアレクシスが口を挟む。

 

「君が飛竜戦艦(ヴィーヴィル)に使っていた、あの炉だね。

 しかし図面を見た限りでは、新しいゲッターザウルスには源素晶石(エーテライト)は積まれていなかったようだが……?」

 

 源素晶石(エーテライト)はエーテルの塊とも言うべき鉱石で、高純度のエーテルを発生させるには必須の燃料であるはずだった。

 

「ええ。源素晶石(エーテライト)を大量に積めば機体は大型化し、機動力が損なわれてしまう……のみならず、被弾率と継戦能力にも問題が生じます」

 

「だよねぇ。では高濃度のエーテルを、どうやって用意したのかな?」

 

 アレクシスの疑問に答えるために、オラシオはまず前提となる事柄から説明を開始した。

 

「今までこの世界の様々なロボットやロボットのような者たちを見てきて、気付いたことがありましてねぇ。私どもの言う『魔力』とよく似た性質を持つエネルギーが、色々な機体で使われている……と」

 

 例えば、セフィーロで言う『心の力』。

 これも魔法の使用に必要なリソースであり、『使うと疲労する』ところもオラシオの世界の魔力と共通している。

 そして、この特徴はプラーナも同様だ。

 

「そこで私はひとつの推論を立てました!

 魔力、心の力、プラーナ……これらは名称が違うだけで同一のものなのでは?

 ……とね」

 

「いいところに目をつけたねぇ!

 確かにどれも『定量的な生命エネルギー』だ」

 

「その推論は、試しに作ってみた疑似プラーナ発生装置から取り出したプラーナを紋章術式(エンブレム・グラフ)に通してみたところ、魔力を流した時と同様に魔法が発動したことで証明されました」

 

 疑似プラーナ発生装置は、かつてセニアが超魔装機デュラクシールに搭載したものだ。

 この装置により、デュラクシールは精霊と契約せずとも魔装機神に匹敵する性能を得ることが可能となった。

 

「それでは、そのプラーナで高出力のビームを……

 いや、アレはその程度で得られる出力ではないよねぇ。

 疑似プラーナ発生装置はあっても、フルカネルリ式永久機関は積まれていないのだから」

 

「……まあ、そこを再現するのは無理でしたよ。さすがにね」

 

 オラシオは悔しいのか、露骨に不機嫌な顔をする。

 フルカネルリ式永久機関はサイバスター等、多くの魔装機に採用されている動力機関で、プラーナのエネルギー変換効率を劇的に高めるものだ。

 

「ですので高出力を出すには回り道をせざるを得ませんでした。

 それが例の『高濃度エーテルで稼働する炉』ですね」

 

「ここでさっきの話と繋がってくるわけだね。

 だけど、どういうことかな?

 魔力やプラーナの話とエーテルに、どういう関係が?」

 

 アレクシス・ケリヴにも考えが及ばない。

 それはオラシオが生まれた世界にのみ存在する、こちらの世界で言うところの“基礎科学”に相当する分野の話であり、オラシオはその根本的な原理を説明する。

 

 彼がいた世界では、大気中のエーテルを人間が体内に取り込み、それを心臓が魔力へと変換している。

 その仕組みを機械で再現したのが幻晶騎士(シルエットナイト)に積まれている魔導転換炉(エーテルリアクタ)だ。

 そして魔力というものは魔法術式(スクリプト)を通すことで魔法現象を起こす。

 ここからが、この問題における核心だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そぉ~こで私は考えました!

 それはつまりぃ、魔法術式(スクリプト)を通して魔法を使えば、エーテルが生成される……ということではないのかと!」

 

 オラシオの説明を聞いて、アレクシスは合点がいったとばかりに両手を叩く。

 

「なるほど! ここでさっき話した、『プラーナを魔力の代わりに使用できる』という実験結果が生きてくるわけだ」

 

 オラシオは頷く。

 つまり、こういう流れだ。

 大量のプラーナを魔法術式(スクリプト)に通せば、大量のエーテルが作れる。

 そうして作ったエーテルで『高濃度のエーテルがなければ稼働しない動力炉』を動かしたのだ。

 

「そうか……どうして合体変形しないのに3人も乗っているのか疑問だったけど、プラーナを確保するためだったんだねぇ」

 

 いつしかオラシオとアレクシスの二人だけで語り合っており、取り残される形になっていたゴール三世が、ここで口を開く。

 

「ふむ……要するに、その2基目の動力炉が、今のすさまじいパワーを引き出したわけだな」

 

 オラシオは思い出したように依頼主へと向き直ると、両手を広げる大げさな身振りをしながら告げる。

 

「そうですともぉ!

 我が竜血炉(ブラッドグレイル)により、ゲッターザウルスは最強の力を手に入れました!

 もはやゲッターアークに負ける要素は皆無と言って差し支えないでしょうねぇ!」

 

 その名前にアレクシスが反応する。

 

「ブラッドグレイル……ザウルスの中に竜血炉とは、なかなか洒落(しゃれ)ているじゃないか」

 

 そんなアレクシスの言葉を受けて、ゴール三世は興奮した様子で大声をあげる。

 

「竜血炉!? ハハハハハ!

 なんとも我らハチュウ人類の最終兵器にふさわしい名前ではないか!」

 

 そうして彼は自分たちが乗る飛空船の前に帰還してきたゲッターザウルスを見上げると、ここにはいないアークチームに向けて宣戦布告するかのごとく、朗々と告げた。

 

「竜の心臓を取り込んだゲッターザウルス……これこそ本当のゲッターザウルス!

 そう、真ゲッターザウルスの誕生だ!!」




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・ゲッターザウルスの持つフレイルは原作漫画版から出てきていたが、その名称は不明だった。「ダブルシュテルン」という名前はアニメ版のXの公式アカウントのポストから→(https://x.com/getterrobot_arc/status/1431981629912780811

・マジンガーZは全長18メートルで20トン。対してゲッター1は全長38メートルで220トン。マジンガーZはゲッターロボ以外の他作品のロボットと比較しても異様に軽い。

・ゲッターザウルスがゲッター炉心を使用しているかどうかは不明。原作漫画版では設定らしい設定が存在せず、アニメ版でも「ゲッターロボの合体ノウハウを技術供与した」としか書かれていない。

・スターメンビトルはスパロボ30のDLCの追加シナリオで登場する機体。メインストーリーでラスボスを倒した後に出てくる新勢力「神文明エーオス」の戦力。

・プラズマ駆動エンジンを使用したネオゲッターロボのように、ゲッター線を利用していないにもかかわらずゲッターロボとして扱われる機体も存在している。また、ブラックゲッターのように合体変形機構がないゲッターロボも存在する。「ゲッターロボ」の定義は謎に包まれている。

・スパロボ30世界の地球には、世界中に光子力プラントがあり、エネルギー問題の多くが解決されている。(ただし『マジンガーZ/INFINITY』では「光子力エネルギーの使いすぎによりDr.ヘルが蘇ったのでは?」という疑惑が作中のラストで出ている)

・フルカネルリ式永久機関は高いプラーナがないとエネルギー変換効率も低い。一応稼働はできるが高濃度のエーテルがないとまともに動かせない竜血炉とは、だいぶ似通った特徴がある。
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