Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第3話「親心、子心」

「ハァ……ハァ……!」

 

 移動要塞ビッグ・マザー、その内部にある倉庫のひとつで。

 追手から逃亡中のノイバー・フォルツォイクが、資材の陰に身を隠していた。

 

「おうおう! どこ行きやがった、お坊ちゃんよぉ!」

 

「こちとらヒマじゃねえんだ、隠れてないで出てきやがれ!」

 

 外の通路では、大勢のチーフテンがせわしなく走り回っている。

 

「く……」

 

 彼らの気配が遠ざかるのを、ノイバーは息をひそめて待つ。

 やがてその足音が離れて聞こえなくなると……ノイバーは崩れるように膝をついた。

 

「なぜ……どうしてしまったんだ、母さん……?」

 

 ノイバーの思考を埋めるのは母のこと。

 おかしい。こんなはずがない。

 あの優しい母が、自分に危害を加えるなんて有り得ないことだ。

 絶対に何かある……

 原因として考えられるのは、ひとつ。

 母の後ろに立っていた黒衣の女だ。

 

「あの女は何だ……?」

 

 ノイバーも知らない人物だった。

 しかし「自分も知らない」という事。

 それと地球圏では見られない異様な風貌から、その正体は推測できる。

 

「そうか。あれはおそらく、異世界セフィーロの……」

 

 そうやって考えを整理しながら呟いている時だった。

 

「おい、誰だ!?」

 

「っ……!?」

 

 突然の声にノイバーは身構える。

 しかしその声の主は、彼を追うチーフテンではなかった。

 このビッグ・マザーにいるはずのない者たち。

 拓馬、カムイ、獏のアークチームだった。

 

「なんだ? おいおい、こんな所で何やってんだよ」

 

「流拓馬……!? それはこちらのセリフだ。

 どうやってこのビッグ・マザーに入ってきた!?」

 

 そこでアークチームの後ろから小柄な人影が歩み出てくる。

 セフィーロ最高の魔法使い、導師(グル)クレフだ。

 クレフはノイバーの疑問に答える。

 

「私が彼らを連れてきた。我が精獣、フューラの力を借りてな」

 

「セフィーロの魔法、それがあったか。

 しかしチーフテン達の迎撃を()(くぐ)れるとは……」

 

「ああ、そこはタイミングが良くてな。

 いきなりカギ爪の男が現れやがって、ゴタゴタし始めたからな」

 

「なに……!?」

 

 ドライクロイツの一員であるヴァンが追う“カギ爪の男”こと、本名クー・クライング・クルー。

 ドライクロイツの多くが戦闘不能になった時、彼は突如として戦場に舞い降りた。

 大型ヨロイ『バースディ』に乗った彼は、エヴァ・フォルツォイクに敵対を宣言。

 それと同時に、自分と手を組むようドライクロイツに要請した。

 だがカギ爪の男の目的は「全世界の人類に自身の思想を強制的に植え付ける」というもの。

 到底、受け入れられるものではない。

 ドライクロイツの指揮官であるミツバは、この共闘の申し出を拒否。

 するとカギ爪の男はドライクロイツとエヴァ・フォルツォイクの双方に宣戦を布告し、攻撃を仕掛けてきたのだった。

 

 こうした話をアークチームから聞いて、ノイバーは唖然とする。

 

「この短い時間にそんな事が……」

 

 それと同時に、追いかけてきたチーフテン達が余裕なく駆け回っていたことにも合点がいく。

 拓馬はひととおりの説明を終えると、今度はノイバーに尋ねる。

 

「それで、お前はなんでこんな所にいるんだ?」

 

「…………」

 

 ノイバーは迷った末に、自らの事情を話すことにした。

 ほんの些細な口答えを母にしたところ、「不要だ」と母から言われ、チーフテンを差し向けられた事。

 思い返せば、それ以前から母の様子が少しおかしかった事も。

 それから、妙な女が母の傍にいて、母をそそのかしているらしい事。

 最後にノイバーは、その女の特徴を伝えた。

 話を聞いてクレフが口を開く。

 

「その女は、デボネアだろう」

 

「セフィーロのデボネア……やはり、そうか」

 

「ああ、間違いない」

 

 頷き、クレフはデボネアという存在について語る。

 デボネアは、不安や憎悪といった負の感情が具現化した存在である。

 自分と同じように人の心の影から生まれたノヴァに目をつけたデボネアは、ノヴァを自らの手駒にして操っていた。

 

「おそらくノヴァを失ったデボネアは、ノヴァに代わる新たな手駒を探した。

 そこでエヴァ・フォルツォイクが抱く憎悪に目をつけたのだろう」

 

 クレフはそう言い、さらに続けて語る。

 

「デボネアは人間の負の感情を受けて力を増し、その力を他者に与える。

 それと同時に、人間の負の感情を増幅させる。

 そうして増幅された負の感情は、さらにデボネアに力を与え……

 延々と悪循環を繰り返していくのだ」

 

 それを聞いて、たまらず獏が口を挟んだ。

 

「なんじゃそりゃあ。自作自演かよ」

 

 カムイも同様に眉をひそめる。

 

「マッチポンプのようであり、永久機関のようでもある……とにかく厄介だな」

 

 そこで、遠くから爆発音が聞こえてくる。

 続いて反応したのはカムイが持つ通信機。

 ハーメルンシステムの音波の中でも連絡できるようとセニアに持たされた、エーテル通信機だ。

 カムイが受信のボタンを押すと、低く(かす)れた弁慶の声が聞こえてくる。

 

『おう、こちらゲッターチームだ。

 たった今、ハーメルンシステムの制御装置の破壊に成功したぜ』

 

 その言葉を弁慶が言い終える頃には、けたたましい警報音がビッグ・マザー内部に鳴り渡り、チーフテン達の怒号と慌てたような足音が響いてくる。

 

「先を越されちまったか」

 

「向こうには(じん)さんがいるからな」

 

「あぁ~……ロケラン担いで張り切ってたからなぁ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 軽い調子でそんなやり取りをするアークチームを、ノイバーは驚愕の表情で見上げた。

 生身で敵地に乗り込むような無謀をやらかす連中が、アークチームの他に何人もいる。

 彼は認めざるを得なかった。

 ドライクロイツという集団に対する理解が浅かったことを。

 そうして再び通信が入り、今度は隼人の声が流れてくる。

 

『あわよくば内部の破壊工作やフォルツォイク親子の捕縛も考えていたが……

 中にいるチーフテンの数が、想定より多い。

 これ以上は危険だ、お前たちも脱出しろ』

 

 隼人の指示を聞いて、アークチームとクレフは頷き合う。

 しかし今すぐこの場を離れるには、ひとつの問題があった。

 目の前でうなだれているノイバーの処遇だ。

 そんな失意の中にいるノイバーに声をかけたのは、カムイだった。

 

「……母親に不要だと言われればショックだろう……

 だがそれはデボネアの力で言わされた言葉だ。あまり気にするな」

 

 カムイにしては意外なほど親身になって語りかける。

 しかしカムイには、ノイバーが他人事のようには思えない。

 幼い頃に母親と離れ離れにされたという境遇は、二人ともに共通していた。

 そして「母のために」という戦いの動機も、カムイにとっては強く共感できるものだった。

 だがノイバーは苦しげに、呻くように答える。

 

「デボネアとやらは……憎悪を増幅しているだけで、心を操っているわけではないのだろう?」

 

 クレフは苦々しい顔をしつつも、その言葉を肯定する。

 

「……ああ。それはそうだが……」

 

「つまり僕を不要と言ったのは、母さん自身の心から出た言葉……そういうことになる」

 

 その認めがたい事実に、ノイバーは身を震わせる。

 彼の顔は病人のように青ざめていた。

 この様子には獏も見かねて、慰めの言葉をかける。

 

「あ~…なに、そんなに気にするもんじゃねえ。

 妄語(もうご)綺語(きご)両舌(りょうぜつ)悪口(あっこう)衆生(しゅじょう)(つね)の習いなり。

 人間、思いもしないことを口にしちまうもんだ」

 

 しかし獏の説法にも、ノイバーは頷くことができなかった。

 母の口から「要らない」と言われたことが、それほどまでにショックだったのだ。

 

 このノイバーの繊細さには理由がある。

 

 彼の中にある母との思い出は、幼少期にしかない。

 その後の多感な少年期・青年期には一度も母に会うことができず、彼の記憶の中の母は、自分が幼い頃のままで止まっていた。

 エヴァは研究が忙しく、家を留守にする時も多かったが……そのぶんノイバーは二人の時に、母から大きな愛情を注がれていた。

 息子と会える時間が少ないということもあり、息子の前にいる時のエヴァは、常に理想の母親でいることができた。

 そうした母の顔しか見ていないノイバーにとっては、母親から拒絶の言葉を向けられるということ自体が、信じられないのだ。

 

「バカ野郎、母親の言いなりになってどうすんだ!

 母親なんてのはなぁ、都合のいいことを子供に言うモンなんだよ!」

 

「え……?」

 

 いきなり思いもよらないことを告げられて、戸惑い、顔を上げるノイバー。

 拓馬はノイバーに向けて声を荒らげて語る。

 

「俺のオフクロは言ってたぜ、流竜馬は厳格で立派な人物だってな!

 それがどうだ。実際に見てみりゃあ、口より先に手が出るわ、メシの最中に屁はこくわ、まるでウソっぱちじゃねえか!」

 

 そこで繋げたままにしていた通信機から、竜馬の怒鳴り声が出る。

 

『おい、聞こえてるぞ! 屁なんかこいてねえよバカ野郎!』

 

『いや、こいてるぞ』

 

 それに答えたのは隼人だった。

 思いもよらぬ方角からの奇襲を受けて、竜馬は狼狽する。

 

『なに……!?』

 

『ああ、こいてるな。まさかお前、自分で気付いてなかったのか?』

 

 さらに弁慶まで加わり、一瞬にして四面楚歌に陥る竜馬。

 彼はしばらく口ごもった後、言った。

 

『……そんなにはこいてねえ!』

 

 そこでカムイは通信を切った。

 静かになったところで拓馬はノイバーに言う。

 

「親が子供にあれこれ言うのも、ちゃんと育って欲しいって親心なんだろう。

 けどな、いつか親はいなくなる。分かるだろ?」

 

「それは……」

 

 その言葉には重みがあった。

 口では親に対して悪しざまに言っているようにも見えるが、そんな言葉とは裏腹に、拓馬の根底には母に対する深い愛情がある。そうノイバーは感じていた。

 

「親の言うことを、そのまんま丸呑みしてたらダメだ。

 親のダメなところも知って……そうやって子供ってのは、親離れする。

 そういうモンなんじゃねえのか」

 

 親離れ――

 ノイバーの人生において考えもしたことのない概念だった。

 だからどう答えたらいいのか分からず、言葉を返せなかった。

 そんなノイバーに拓馬は声をかける。

 

「迷ってるんなら来いよ。どうせ、ここにはもう居場所がないんだろ?」

 

 思いもよらぬ誘い。

 手を差し伸べる拓馬を、ノイバーは眩しいと感じた。

 立ち上がって、その手を掴みたいという気持ちが湧き上がる。

 しかし……

 

「……僕は…………」

 

 そうしてノイバーが答えられないでいるうちに、ついに彼らが隠れている場所がチーフテンにより発見された。

 

「見つけたぞ! こんなところに隠れてやがったのか!」

 

「侵入者までいるじゃねえか! よっしゃ、殺れ殺れ!」

 

 躊躇なく撃ち込まれる機関銃の弾丸。

 咄嗟に、皆それぞれに物陰に隠れる。

 アークチームとクレフは進入路へと戻る方向に逃げ込めたが、ノイバーは敵に近い遮蔽に隠れる形になってしまった。

 

「クレフ、いけるか!?」

 

 拓馬の問いにクレフは首を横に振る。

 

「あの射線に出るのは無理だ。

 一本道で火力が集中しすぎる……私の魔法でも防げん」

 

「くそっ……!」

 

 言っている間にもチーフテンは倉庫になだれ込んでくる。

 拓馬に向け、カムイの鋭い声が飛ぶ。

 

「拓馬!」

 

「……くそっ! 逃げるぞ!」

 

 いくら人間離れした力を持つ彼らでも、武装したロボットと正面から戦うことはできない。

 アークチームとクレフはビッグ・マザーの外へと撤退した。

 

 

***

 

 

 クレフの精獣に乗ってドライストレーガーへと帰艦したアークチーム。

 多くの機体は戦場で機能を停止していたが、ゲッターアークは未だドライストレーガーの格納庫にある。

 拓馬がプラハの街から戻ってくるのが遅れたためだ。

 

 格納庫内で精獣(フューラ)から飛び降り、着地した拓馬、カムイ、獏。

 3人は先を競うように、横並びでゲッターアークに向かって駆けていく。

 そんな彼らをゲッターアークの足元で出迎えたのは、セニアだ。

 作業着姿の彼女は油汚れを気にすることなく、軍手の甲で額の汗を(ぬぐ)い、走ってきた3人に告げる。

 

「ふぅ……なんとか間に合わせたわよ。

 ノルスの修理装置を応用して改良した、あたし特製のリペアキットを積んどいたわ。

 1回しか使えないから、使いどころに気をつけてね」

 

「ありがてえ! これで思いっきり暴れられるな!」

 

「ちょっと! だからって無茶しないでよね!」

 

 セニアの文句が聞こえているのかいないのか、意気揚々とアークに乗り込む拓馬と獏。

 カムイはその前に立ち止まって、セニアに声をかけた。

 

「その格好……ノルス・レイには乗らないのか」

 

「ああ……うん。まあ、ね」

 

 頷きながら、セニアは複雑な表情を浮かべる。

 セニアは研究者・技術者・メカニック等々、さまざまな領域で超一流の能力を発揮する、マルチスキルの天才だ。

 そんな彼女だが、実は以前から「戦場でエースとして活躍したい」という願いを抱いている。

 しかし残念なことに、セニアは戦闘の才能を持ち合わせていない。

 それでも彼女はノルス・レイに乗り込む。

 たとえ適正がなくても諦めたくない。

 無理をしてでも戦場に出続けるのは、彼女なりの、ささやかな抵抗だった。

 その話をセニアから聞いたわけではないが……カムイはそんな彼女の気持ちを、なんとなく察していた。

 

「あなた達アークチームも、ゲッターアークも、前よりずっと強くなった。

 悔しいけど……あたしとノルス・レイじゃ、もう今の戦いにはついていけない」

 

「……そうか」

 

 そんなことはない、などとは言えなかった。

 カムイには返す言葉もない。

 視線を下げて押し黙るカムイ。

 (うつむ)いたカムイを見て、セニアは大きく前に踏み込んだ。

 そして彼女はカムイに至近距離まで近付き、その顔を下から覗き込む。

 いきなり視界にセニアの顔が現れて、カムイは慌てて顔を上げた。

 

「な、なんだ……!?」

 

 そんなカムイの胸板をセニアはドンと叩く。

 

「またそんな顔して。考えすぎるのはあなたの悪いクセよ、カムイ。

 あたしはね、あたしが後悔しない選択をしたのよ」

 

 ――後悔しない選択を。

 かつて朽ちた早乙女研究所の外で交わした言葉を思い出す。

 

「あたしに遠慮なんてしないで、全力で戦いなさい。後悔しないように、ね」

 

「……ああ」

 

 カムイは自らの胸の前でグッと拳を握る。

 

「ありがとう」

 

 素直に口にした感謝の言葉に、セニアは花のような笑顔で返す。

 そこへゲッターアークの中から獏が言う。

 

「心配すんな、セニア! こいつらは俺がしっかり面倒見といてやる」

 

 それに対して拓馬やカムイからの文句が出るより先に、セニアがじろりと睨んで言った。

 

「なに言ってんの。もう分かってんのよ獏!

 アンタが一番、言い出したら人の話を聞かない、厄介なヤツだって事!」

 

「あり?」

 

 鋭く核心を突かれた獏には、トボけることしかできなかった。

 それからすぐにカムイが乗り込み、アークの出撃準備が完了する。

 格納庫内の滑走路から発進しようとするゲッターアーク。

 その背に向けて、セニアは声をかける。

 

「行ってらっしゃいアークチーム! あたしの代わり、頼んだわよ!」

 

「おう、任せろ!!」

 

 3人が声を合わせ、真っ直ぐに応えるアークチーム。

 すべての準備は終わった。

 機体・パイロットともに万全に整ったゲッターアークが、戦火の中へと飛び立っていく。

 

 

***

 

 

 アークチームがドライストレーガーから出撃する、少し前。

 すでに前線では激しい戦いが繰り広げられていた。

 改良型ハーメルンシステムの効果が消えたことにより、ドライクロイツの全ての機体が戦線に復帰した。

 これに対する敵勢力は3つ。

 エヴァ・フォルツォイクの移動要塞ビッグ・マザーと、超AI軍団。

 自ら戦場へ姿を現したデボネア。

 そして突如として乱入してきたカギ爪の男。

 ドライクロイツは部隊を3つに分けて、これらに対処している。

 

 ビッグ・マザーと超AI軍団にはブレイブポリスを中心に、ガオガイガーやコン・バトラーVなどを加えた部隊編成で。

 デボネアには、魔法騎士(マジックナイト)やノヴァなどのセフィーロ勢を中心にして対応。エルのイカルガ等も戦列に加わっている。

 カギ爪の男に対しては、復讐に燃えるヴァンとレイが艦長の指示を待たずに猛然と攻撃を仕掛けており、ルルーシュの月虹影帥やカレンの紅蓮特式などがフォローに回っている。

 これらの他にもドライクロイツには大勢のモビルスーツやスーパーロボット達がいるが、それらは戦力に偏りが出ないようミツバの指示で配置されていた。

 

 多彩なロボット達がいたるところに展開し、強力な砲火と爆炎が入り乱れた、混迷極める戦場。

 その混沌を縫うようにして、ひとつの機体がドライストレーガーに接近していた。

 ビッグ・マザーから出てきたそれは、大量のブラックチーフテンがブレイブポリス達を抑えている間に、戦線を突破する。

 その機体の名は『マッド・マザー』。

 黒を基調としたボディに、女性のような頭部。背面には大きな白い翼。そして手には身の丈を越えるほどの大鎌を握っており、死神、あるいは堕天使などを連想させる外観をしていた。

 ドライストレーガー艦内のオペレーターが、その接近に気付く。

 

「敵、データにない機体が本艦に接近しています!」

 

 ブリッジ内に響く緊迫した声。

 その報告を受けて、艦長のミツバは即座に指示を出す。

 

「迎撃します! ガトリング砲、撃ちかた始め!」

 

 指令を受けて即座に、艦体前方にある5つの砲身からガトリング砲が発射される。

 直径75ミリの砲弾が豪雨のように降りそそぐ。

 ドライストレーガーはただの母艦ではない。スーパーロボット達にも劣らぬ高い戦闘力を誇る、万能戦闘母艦だ。そう易々と敵機の接近を許しはしない。

 正面から急接近してきた敵機は激しい弾幕を受けて、それ以上に接近するのを止め、ドライストレーガーの横下へと回り込むようにして砲弾の雨を避ける。

 しかしこの動きが単なる回避行動ではなく別の意味を持つことを、このすぐ後にドライクロイツは知ることになる。

 この敵機にとって、ここまで近付けば充分。

 マッド・マザーの腹部に空いた4つの穴。そこから高密度のレーザービームが発射された。

 4つのビームの全てを1箇所に集中して、ドライストレーガーの装甲を灼き切る。

 それは艦体への損害として小さくはないが、かといって致命的と言えるほどのダメージでもない。

 だが、敵の狙いは別のところにあった。

 

「えっ!? これは……

 ドライストレーガーの出力、大幅にダウンしています!」

 

 エンジン等、重要な機関部が破壊されたわけではない。

 不可解な現象だった。

 そして、同様の現象が起きたのはドライストレーガーだけではなかった。

 戦場ではドライクロイツの機体が次々と動きを鈍らせ、その機能を停止していく。

 ドライクロイツ指揮官のミツバは戦慄する。

 

「まさか……!」

 

「艦長、報告です!

 今の攻撃でハーメルンシステム無効化装置が破壊されました!」

 

 副長レイノルドの言葉で、ブリッジ内に衝撃が走った。

 敵の「改良型ハーメルンシステム」は潜入したゲッターチームが破壊した。

 しかし「通常のハーメルンシステム」はまだ生きている。

 ドライストレーガーに積まれた装置で、その音波を無効化していただけだ。

 

 戦場を見れば、その影響は明らかだった。

 ブレイブポリス、ファイナル・ガオガイガー、コン・バトラーVなど、フォルツォイクロンを搭載しているロボット達はピクリとも動かない。

 そこへ好機とばかりにチーフテンが群がり、キングジェイダーやベターマン・カタクラフトといったハーメルンの笛の影響を受けない面々が、動けない仲間を守って戦っている。

 敵が繰り出した起死回生の一手。

 しかし、こんなことは普通ならば不可能だった。

 

「こんな正確に装置だけを狙えるなんて……!」

 

 装置の開発は重要機密として、敵に知られぬよう、できる限りの対策を敷いていた。

 だがフォルツォイクロンは地球圏のあらゆるコンピュータに使われており、排除することは不可能。これに関してはドライストレーガーも例外ではない。

 対策はしたが……フォルツォイク親子にとっては無意味。艦内の情報は筒抜けだったというわけだ。

 

 復活したビッグ・マザーのハーメルンシステム。

 ただしこれまでと違うのは、その音波の影響がビッグ・マザーの周囲に限定的であることだった。

 エヴァ・フォルツォイクはハーメルンシステムが放つ音波の範囲を狭める代わりに、その効果をより強力で即効性のあるものにした。

 その音波の範囲内にはドライストレーガーも入っている。

 今、ドライストレーガーは一切の火器が使用不能。まともな航行もできず、宙に浮かせているのが精一杯の状態だった。

 

「艦長! 敵機、ドライストレーガーに接近してきます!」

 

 何もできなくなったドライストレーガーに、マッド・マザーが再び迫る。

 今度は艦長やオペレーターのいるブリッジに目がけて。

 ブリッジからは肉眼でその接近を視認できた。

 間近に迫る敵機。

 白い翼を背負った黒衣の死神は、その手にした大鎌を振りかぶる。

 ……しかし、その鎌が振り下ろされることはなかった。

 金属同士がぶつかる甲高い衝突音。

 大鎌を止めたのは、2本の手斧。

 たった今ドライストレーガーから出撃した、ゲッターアークだった。

 並行世界のロボットであるゲッターアークは、ハーメルンシステムの影響を受けることなく活動できる。

 重なる刃の下で。

 拓馬は眼前の敵機に向けて声をあげた。

 

「お前、ノイバーか!」

 

「拓馬……!」

 

 マッド・マザーを動かしているのは超AIではなく、その中に搭乗しているノイバー・フォルツォイクだった。

 ノイバーは大きく後ろに下がって距離を取る。

 ドライストレーガーの上で対峙する2機。

 

「なんでお前がそれに乗っていやがる!

 お前がドライクロイツと戦う理由が本当にあるのかよ!?」

 

 それに対してノイバーは答えず……まったく話の繋がらない言葉を口にした。

 

「拓馬……ありがとう」

 

「……あん?」

 

 いきなり礼を言われて困惑する拓馬。

 対するノイバーは静かだった。

 その瞳も、表情も、氷のように澄んでいる。

 

「仲間になれと。君に言われた時……僕は、嬉しかった」

 

 一見すると友誼(ゆうぎ)を受け入れるような言葉。

 しかし拓馬はその時、感じた。

 自分と彼の道は、完全に決別したのだと。

 

「君は少し前に、僕にこう言ったな。『復讐がお前のやりたい事なのか』と」

 

「……ああ」

 

「君の言う通りだ。確かに、僕の望みは復讐じゃない。

 僕が本当にやりたい事は……今度こそ、母さんを守る事だ」

 

「今度こそ……か」

 

「ああ、今度こそだ。

 母さんが連れて行かれた、あの時……僕は何もできなかった。

 二度と僕の前で、母さんを連れて行かせやしない。誰にも傷つけさせない」

 

「…………」

 

 押し黙る拓馬。

 拓馬も同じだった。幼い頃に、目の前で母を奪われた過去がある。

 あの時、逃げなさいと母から言われ、拓馬はそれに従った。

 ……自分ひとり逃げたことを、何度悔やんだか分からない。激しい後悔とともに目が覚め、涙を流して月夜に吼えたのは一度や二度ではない。

 拓馬にノイバーの思いを否定することはできなかった。

 それを間近でずっと見てきた獏にも、彼らの気持ちは察せられる。

 幼い頃に母と離れ離れにされたカムイも同様だ。

 かける言葉など、ありはしない。

 答えのないアークチームに代わって、ノイバーは再び口を開いた。

 

「拓馬。確か君は、こうも言ったな。

 復讐しろと母が言い出したら、自分は止めると。……だが僕は違う」

 

 そのように語るノイバーに、獏が問う。

 

「その母親から要らないって言われてもか?」

 

 それはノイバーには酷な問いかけだ。

 彼は一瞬だけ(くら)く目を伏せ……しかし次の瞬間には、すべてを受け入れるような、静かな表情に戻った。

 

「……あれが母さんの本当の気持ちでも構わない。

 世界中が敵になっても、母さんから要らないと言われても……」

 

 そうして彼は大鎌を構えて、告げた。

 

「僕だけは母さんの味方だ」

 

 静かな、しかし確かな決意。

 そしてこれは、拓馬に対する明確な決別の言葉でもある。 

 カムイと獏の二人は、拓馬に短く声をかけた。

 

「……拓馬」

 

「どうやら、やっこさんは覚悟が決まってるようだな」

 

 二人の言葉の裏にある真意を、拓馬は理解する。

 問答の時間は終わりだ、ということ。

 

 拓馬はゲッターアークのコクピットの中で大きく息を吸う。

 そして吐いた。

 肺に取り込んだすべての空気を吐き出しきると、そこには真っ赤に燃える闘志を全身に(みなぎ)らせる拓馬の姿があった。

 

「わかったぜ。だったら俺がケリをつけてやらあ!」

 

 一度は触れ合うも、共に進むことのできなかった二人。

 彼らは胸に抱く嘆きを戦う力に変えて、中空に浮かぶ鋼鉄の船上にて激突した。




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・スパロボ30では、条件によってはフォルツォイク親子・デボネア・カギ爪の男と1つのステージで同時に戦うことになる。

・ウィンキーソフト時代のスパロボ旧作シリーズでは、マサキが兜甲児にエーテル通信機を渡されている。これは地上とラ・ギアスを隔てても通信できる優れモノ。

・妄語とは、嘘をつくこと。綺語とは、心にもないお世辞を言うこと。両舌とは、二枚舌のこと。悪口は悪口。これら4つを合わせて「口の四悪」という。

・ゲッターロボアーク原作漫画版では、拓馬の母はかなり美化した竜馬像を拓馬に語り聞かせていた。アニメ版ではこのくだりは変更され、実際の竜馬を美化せず伝えている。

・「リペアキット」はスーパーロボット大戦シリーズでは古くからある伝統の強化パーツ。ただし昔のリペアキットは1回使うと消えてしまう消費アイテムであり、ラストエリクサー症候群のプレイヤーを悩ませていた。

・『勇者警察ジェイデッカー』作中のマッド・マザーは、ビッグ・マザーの内部にあり、ビッグ・マザーに乗り込んできたブレイブポリスを待ち受ける、作品内におけるラスボスのポジション。しかしスパロボ30ではマッド・マザー単体ではユニットとして存在せず、ビッグ・マザーの攻撃アニメーションの一部としてのみ登場する。

・スパロボ30のステージ中のシナリオでは、突如現れたノヴァがドライストレーガーに遠距離から攻撃してハーメルン無効化装置を破壊する。ノヴァがどうやって装置の位置を知って、そこまでの精密な狙撃を行えたのか、その理由は不明。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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