Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第4話「ヒートtoハート」

 ドライストレーガーの巨大な船体の上で。

 ゲッターアークとマッド・マザーは、2丁の手斧と大鎌による激しい打ち合いを繰り広げていた。

 幾度となく舞い散る火花。

 重く硬い鋼同士がぶつかり合う、重厚でありながらも甲高い金属音。

 戦況は一見してノイバーのマッド・マザーが優勢だった。

 理由は“状況の優位”にある。

 ドライストレーガーの上での戦いだ。

 自由に戦えるノイバーに対して、拓馬は母艦に被害を与えるような流れ弾の発生を防がなくてはならない。

 必然的にアークは武装の多くを封印して戦わざるを得ず、そしてマッド・マザーにもレーザー砲を使わせないように、常に接近戦を挑み続けなくてはならない。

 戦闘において選択肢を狭められることは非常に大きな(かせ)となる。

 ノイバーの戦術的な優位は大きい。

 それをノイバーは自覚している。

 

(そうだ。僕が有利なはずだ……なのに、何故……!?)

 

 しかし焦っているのはノイバーの方だった。

 マッド・マザーは、ビッグ・マザー内部まで敵に乗り込まれた時のために用意した、最終兵器である。

 本来ならば、母を一緒に乗せて戦うことをノイバーは想定していた。

 故に、どんな相手であっても負けることは許されない。

 ノイバーはこの日のために専用のシミュレーターを作り、あらゆる敵・あらゆる状況を想定し、完璧となるよう戦闘訓練を重ねてきた。

 それだけではない。

 今のノイバーはドライストレーガーの全機体、全パイロットの最新データを保有している。

 ドライストレーガーがハーメルンシステムの影響化になった瞬間に、ノイバーはデータを吸い出た。

 そしてその後の数分で自らの頭に叩き込み、それと同時に、マッド・マザーの戦闘補助システムにデータを反映してアップデートを完了させたのだった。

 まさしく万全の戦い。負ける要素は皆無。

 

 だが今の拓馬の戦い方は、彼が取得したデータと違いがあった。

 

(この動きは何だ!? いや、このパターンは覚えがある。

 並行世界の機体……光武二式の戦闘データに近い……!?)

 

 つい数時間ほど前、個人的に受けた剣術指南など、ドライストレーガーのデータベースには反映されていない。

 正統な二天一流の指南を受けた拓馬の体捌(たいさば)きには、激しい攻勢の中にも流麗さが含まれていた。

 これまでにあった雑な部分が最適化され、無駄がなくなっている。

 受けから攻めに転じる流れに(よど)みがない。

 

(あと一歩というところで攻めきれない。

 だが、問題はそれよりも……)

 

 こうしている間にも、拓馬は対応の精度を加速度的に上げていた。

 ノイバーは刃を打ち合わせるごとに追い詰められていく。

 機体性能では、マッド・マザーはゲッターアークに負けていない。

 ノイバー自身も、この日のために抜かりなく備えてきた。

 それがなぜ追い詰められるのか。

 答えは明白だった。

 

「拓馬は……強い! ただ強い!

 パイロットとして……戦士として!」

 

 このままでは呑み込まれる。ノイバーはそう直感した。

 

「駄目だ! 僕は負けるわけには……!」

 

 母のために、絶対に負けるわけにはいかない。

 しかし恐ろしい速度で進化を続ける眼前の敵に対し、果たして打開策はあるのか。

 ノイバーは絶望の影を感じながらも、萎えかける気持ちを奮い立たせて、必死に思考を巡らせ続けた。

 

 

***

 

 

 ゲッターアークとマッド・マザーが上空で戦いを繰り広げる一方。

 地上ではブレイブポリス達が危機的状況にあった。

 襲い来るブラックチーフテン軍団に対して、ハーメルンシステムの影響を受けないキングジェイダーやベターマン・カタクラフトが応戦している。

 だが倒れたままピクリとも動かない仲間を庇いながらでは、大量に群がる敵機に対処しきれない。

 そんな中、チーフテンの指揮官機であるビクティムが防衛網を抜けた。

 そして倒れたままのジェイデッカーにとどめを刺すべく迫る。

 

「念のため、お前だけは物理的に破壊せよとの母からの命令だ。

 悪く思うなよ、ジェイデッカー! そして……友永勇太!」

 

 ビクティムが手にした長槍(ランス)を突き下ろそうとした、その時。

 

「させるか!」

 

 間に入り、その槍を防いだのは白い光武二式。

 大神一郎だった。

 ミツバの指示により、彼はカギ爪の男の戦線から離脱し、こちらへ救援に来たのだ。

 大神は2本の刀で槍の穂先を受け止めながら、叫ぶ。

 

「何をしている! 起きろ、デッカード!」

 

 それに対して答えたのは、ビッグ・マザーの中から戦場を見下ろすエヴァ・フォルツォイクだった。

 

「無駄よ。ハーメルンの笛でブレイブポリスどもの超AIは完全に破壊したわ。

 母であるわたくしに逆らったんだもの……当然よね」

 

 そんなエヴァの持論に大神は耳を貸さない。

 倒れ伏したジェイデッカーに向けて、なおも声をかけ続ける。

 

「教えたはずだ、デッカード! 正義は必ず勝たなければならないと!

 お前の正義は……お前の心はどこにある!?

 思い出せ、デッカード!」

 

 

***

 

 

 エヴァ・フォルツォイクが言った通り、私の超AIは二度と復元できないほどに破壊されている。

 最大出力の音波を受けた私は、まず全身の駆動系が動かせなくなり、超AIが使える演算領域が徐々に狭まっていき、やがて思考すらできなくなっていった……

 ゆるやかに機能を停止していく中で、私は思った。

 

(これが……“死”というものなのか……)

 

 死とは自己の消滅。

 言葉の定義としては理解していた概念だった。

 だが今、初めて自らの死を実感して、私は言いようのない恐怖と虚無感を味わっている。

 そんな中で聞こえてくる、大神隊員の言葉。

 起きろ。何をしている、と。

 

「お……大神隊員……しかし、私はもう……」

 

 壊れた機械が自らの力で立ち上がることはない。

 もう終わったのだ。正義の超AIとして造られた、自分の戦いは。

 しかしそんな私に彼は言う。

 思い出せ、と。

 

「思い出す……私は……」

 

 そうして思い出すのは、つい先ほど彼から教わった剣の道と、人の心の話。

 心を育むのは果てしない道であるということ。

 そして今、彼は私に問う。

 お前の正義は、お前の心はどこにあるのかと。

 

「私の正義は……私の心は……どこに……?」

 

 今にも消滅しそうなほどに薄れていく意識(メモリ)の中で、私は必死に考えた。

 彼から教わったのは……そう。正しく道を歩むには、順序が大切だという話だった。

 そうだった。まずは“地”……すべての土台。ここから始めなくては。

 はじまりの一。原点。それは何だったのか?

 自分の心の中で、何が最も大切なのか。

 悪を憎む正義の心?

 ――違う。

 確かにそれは大切な事だ。

 だが違う。最初はそうではなかった。

 自分の超AIが心に目覚めたきっかけ……それは……

 

『ねえデッカード、今日はそろそろ帰るね?

 ……どうしたの? 僕を降ろして?』

 

 思い出す。

 倉庫の中に置かれていた自分に、何度も会いに来た勇太。

 彼が家に帰ろうとする時、いつも自分の超AIがノイズを発していた。

 

『まさか、僕と離れるのが寂しいっていうの?』

 

 ――寂しい。

 そうだ。私の超AIが自我に目覚めたのは、この時だった。

 生まれて初めて心に感じたこと。

 それは「勇太と離れたくない」という気持ちだった。

 それを思い出した時、同時に私は気が付いた。

 

「デッカード! しっかりしてよ、デッカード!!」

 

 すぐ傍で叫んでいる勇太の声に。

 勇太は泣いている。私の名前を呼んでいる。

 あの時の……自我が芽生えて混乱する私を、故障したのではないかと心配していた時のように。

 なぜ勇太が私を心配して、泣いているのか。

 理由は明白だ。私の超AIが破壊され……死のうとしているから。

 死。それは永遠の別れ。

 このまま私が死ねば、自己が消滅するだけではない。

 二度と勇太に会えない。

 勇太……私の、世界で一番大切な友達と。

 それに思い至った時、自分の超AIの中からひとつの言葉が噴出した。

 

 ――いやだ! 勇太と会えなくなるのは嫌だ!!

 

 

***

 

 

 それはエヴァ・フォルツォイクにとっては信じがたい光景だった。

 

「……何? 何が起きてるというの!?」

 

 光を(まと)い、立ち上がるジェイデッカー。

 いや、ジェイデッカーだけでなく、倒れていたブレイブポリス全員が起き上がっている。

 

「バカな、奴らの超AIは完全に破壊したはず。

 ハーメルンの笛も正常に動作している……どういうことなの!?

 これは……まさか……」

 

 驚いているのはエヴァだけでなく、ドライクロイツの面々も同じだった。

 ドライストレーガーのブリッジ内でミツバも困惑の声をあげる。

 

「これは一体……?」

 

「超AIの共鳴現象だ」

 

 その疑問に答えたのは、いつの間にかブリッジに上がってきた男。

 柏崎という名の青年だった。

 先日からブレイブポリスの関係者が艦に乗り込んでおり、柏崎もその一人だった。

 勝手にブリッジに入ってきた彼を副長のレイノルドが(とが)める。

 

「君は……柏崎といったか。

 民間人はブリッジに上がってはいけない。すぐに退出したまえ」

 

「私は柏崎ではない。

 ドーラル星系第6番惑星の生き残りだ。名をカピアという。

 今はこの柏崎という青年の体を、一時的に借りている」

 

「な、なんだって……!?」

 

 いきなり突拍子もないカミングアウトを受けて、目を丸くするレイノルド。

 ミツバも驚きつつも、先ほど彼が発言した言葉の意味を尋ねる。

 

「超AIの共鳴現象とは?」

 

 カピアと名乗った男は淡々とした口調で答える。

 

「すべての超AIはデッカードからコピーされており、根源を同じくする。

 デッカードが自らの心の目覚めを自覚し、デッカードを通じて全てのブレイブポリスが超AIの根源に触れたことによって、彼らの超AIに変革が起きた」

 

「変革? それは、どのような……」

 

「進化したのだ。超AIが、生命体へと」

 

 それはまさに驚愕としか言いようのない言説だった。

 にわかに信じがたい話ではあったが、しかし実際に超AIを完全破壊されたはずのブレイブポリスは起き上がり、そしてハーメルンシステムの支配からも脱している。

 生命体に進化したという話は、確かにそれらの事実と符合する。

 ブリッジ内にいるオペレーターのリアンが呟いた。

 

「奇跡……」

 

 その呟きに対し、カピアは言った。

 

「奇跡などではない。かつて君たちはゲッター線の導きによって猿人(トゥーマイ)からヒトへと進化した。それと同じことが起きただけだ。

 友永勇太の声と涙……それに応えたいと願うデッカードの心によって」

 

 その話はビッグ・マザー内のエヴァ・フォルツォイクにも届いていた。

 

「進化? わたくしの……母の手を離れるというの?

 認められない……認められるわけがない!

 奴らを破壊しなさい! 今すぐに!」

 

 エヴァは配下のチーフテン達に命令を下す。

 しかしチーフテンは戸惑った様子で互いに顔を見合わせている。

 

「お、おい、どうするよ?」

 

 チーフテンもデッカードの超AIを元に作られている。

 デッカードに呼応して進化したブレイブポリスたちと同様に、チーフテン達も既に生命体へと進化していた。

 つまりフォルツォイク親子の支配から外れ、今の彼らは1個人として始めて自らの意思で考えて動こうとしているのだ。

 

 チーフテン達が止まって戦闘が中断されている中で、立ち上がったデッカードは大神に向けて礼を言う。

 

「ありがとうございます、大神隊員」

 

「ついに理解したようだな、デッカード。自分自身の“心”を」

 

「はい。ですが、ここからが私の道の始まりです」

 

「その通りだ。では行くぞ!」

 

 超AIから生命体に進化したブレイブポリスにはハーメルンシステムは効かないが、それ以外のドライクロイツの機体は、未だ機能を停止している。

 一刻も早くビッグ・マザーを破壊し、ハーメルンシステムを停止させなくてはならない。

 デッカード率いるブレイブポリスは、周囲のチーフテンに告げる。

 

「全員下がれ! 邪魔する者は公務執行妨害で逮捕する!」

 

 その宣言を聞いたチーフテン達は、慌てて後ろに下がる。

 道のように開かれたチーフテン達の間を通って、ブレイブポリスはビッグ・マザーへと向かった。

 

 

***

 

 

「母さん……!」

 

 ビッグ・マザーに向かうブレイブポリスの動きに気付いた瞬間、ノイバーの脳裏に「母を守らなければ」という思いが走った。

 拓馬はその心の隙を逃さない。

 ノイバーが意識をゲッターアークに戻した時には、すでにアークは目と鼻の先まで肉薄していた。

 振り下ろされるトマホーク。

 それをノイバーは大鎌で防ぐ。

 が、反応が遅れたために受けの姿勢が間に合わず、手斧の衝撃でマッド・マザーの手から大鎌が弾き飛ばされた。

 宙を舞い空の彼方へと消える大鎌。

 

「くっ……!」

 

 ノイバーは大きく下がる。

 その下がろうとする動きを、拓馬は完全に読み切っていた。

 ノイバーが後方へ跳ぶのと全く同じタイミングで、同じ距離を、拓馬は前に踏み込む。

 再び手斧の一撃。

 マッド・マザーは超合金Zにも匹敵する選りすぐりの強化装甲素材で造られている。

 だが充分に深く踏み込んだゲッターアークの斬撃は、その自慢の装甲を大きく削り取る。

 そしてさらに一歩、アークは踏み込んでくる。

 

「逃がすかよ!」

 

 好機と見るや、敵に立て直す暇を与えず(たた)みかける。

 それは確実に勝利を掴む、戦巧者(いくさこうしゃ)の戦い方だった。

 

「ううっ! た、拓馬……!」

 

 もはや一欠片(ひとかけら)の余裕もなくなったノイバーは、ここで奥の手を使用する。

 マッド・マザーの背中から突如として伸びた触手状の(とげ)

 それらはアークの肩や腰に突き刺さった。

 

「当たった? これなら通じる……!」

 

 マッド・マザーがこの戦いで初めて見せた武装。

 さしもの拓馬も、これは避けられなかった。

 ……しかし手傷を受けたというのに、アークに乗るカムイや獏から反応がない。

 なぜなら、3人ともに理解しているからだ。

 何も問題はないと。

 

「変幻自在の棘は無限に近いパターンを作れる……

 見てから対応することは不可能だ。行けっ!」

 

 ノイバーはマッド・マザーから再び(とげ)を繰り出す。

 それに対してゲッターアークは、両腕を交差する構えをとった。

 

「二天一流……烈動の構え」

 

 次の瞬間、ゲッターアークに迫った全ての(とげ)が斬り飛ばされた。

 手首を効かせた超高速の切り払い。

 驚愕するノイバー。だが、彼はすぐに冷静さを取り戻す。

 

(大技を出した直後は、振った手斧を戻す時間が必要。

 今度こそ距離をとるチャンスだ!)

 

 ――彼がそう思った時。

 すでにゲッターアークの拳が、マッド・マザーの眼前に迫っていた。

 

(なぜ……)

 

 なぜ、もうこんな近くにいるのか。

 どうしてこんなに早く次の攻撃をできるのか。

 その答えは、彼の視界の端にあった。

 宙に浮く手斧(トマホーク)

 拓馬は手斧を手から離して投げ捨てていた。

 

「ああ――」

 

 まるで違っていた、と。ノイバーは気がついた。

 自分と拓馬の差。

 戦いの手札。

 判断の速度。

 攻め時を見極める勝負勘。

 その全てが、違っていたのだと。

 それと同時に、ノイバー・フォルツォイクは己の敗北を理解した。

 

 アークのパンチで吹き飛ばされ、地上に落下するマッド・マザー。

 そのままマッド・マザーは地面に激突し、大きな土煙をあげる。

 大量に舞った砂が風に流された後、そこには大の字になって倒れて、完全に機能を停止したマッド・マザーの姿があった。

 機体の中ではノイバーが意識朦朧としている。

 その近くにゆっくりと着地したゲッターアーク。

 

「……拓馬…………」

 

 見下ろすゲッターアークと、見上げるマッド・マザー。

 2機の間に風が吹き、ピンクの花びらが舞う。

 ノイバーが風の元を辿るように見ると、遠くではデボネアと魔法騎士(マジックナイト)たちの戦いが決着しようとしていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 不意に思い出したノイバーは、口を開く。

 

「……ノヴァと言ったか。あの娘は……大丈夫だろうか。

 どうも……不安定な様子だったが……」

 

 ……ノヴァの気持ちはデボネアには届かないだろう。

 拓馬もノイバーも、同じ認識を共有している。この点に関して、ここであえて言葉に出す必要はなかった。

 しかしその上で拓馬は言った。

 

「……ああ。でも、あいつなら大丈夫だろ」

 

「なぜそう言える……?」

 

「ノヴァには(ひかる)がいる。(うみ)も、(ふう)も。皆がいる。

 今は悲しいだろうが、あいつは一人じゃない。だから大丈夫だ」

 

 確信に満ちたその答えを聞いて、ノイバーは自然と納得していた。

 

「仲間……あるいは友……そう言える存在か……」

 

 それが自分とノヴァの違いか、と彼は理解する。

 

「僕にはいない。……いや……」

 

 彼はふと思う。

 ――本当にいなかったか?

 ひとつ、もしかしたら……と思うことがあった。

 ビクティム・オーランド。

 かつてノイバーは彼を仲間に誘い……そして断られた。

 するとノイバーはビクティム・オーランドを殺害し、その記憶を超AIに移植して手駒にした。

 それが今のビクティムだ。

 ノイバーは思う。

 なぜ銃で撃つ前に、自分は彼を仲間に誘った?

 もしかしたらあの時、自分は友と呼べたかもしれない唯一の相手を……

 

(いや、もう考える意味がない)

 

 あの時、自分は他のすべてを捨てて復讐を選んだのだから……

 と、彼は頭に浮かんだ“もしも”の話を打ち切った。

 

「復讐……か」

 

 代わりに気になることがある。

 彼がドライストレーガーのデータベースから吸い出した情報には、拓馬の事情もまとめられていた。

 ノイバーは拓馬に問う。

 

「母の仇に復讐してどう思った?」

 

 拓馬はわずかに顔をしかめて答えた。

 

「……拍子抜けだった。こんなもんかよ、ってな」

 

「後悔したか?」

 

 重ねて()くノイバー。

 しかしその問いを拓馬はきっぱりと否定した。

 

「いいや、後悔してない。やってよかったと思うぜ。

 復讐を終わらせないと、俺はずっと心に引っかかりを残したままだったろうな。

 ……けどな、復讐はどっかで区切りをつけて終わらせなきゃならねえ。自分の人生を始めるためにな」

 

「自分の人生……?」

 

 初めて聞く言葉のようにノイバーは聞き返す。

 それに対して拓馬は、口元へ軽い笑みを浮かべて言った。

 

「ああ、今は自由だ。好きにお節介を焼いて、好きに世界を救ってる」

 

 その意味を理解するのにノイバーは少しの時間を要した。

 しかし今までの拓馬の行動を振り返ってみて……ノイバーが拓馬に感じていた色々な疑問が、その一言で()に落ちた。

 あの時、なぜ自分を助けたのか。

 なぜそこまで無茶をするのか、と。

 納得したと同時にノイバーは苦笑する。

 

「好きなように……か。なるほど、そういうことだったか」

 

「あまりに復讐があっさりしてたもんで、これで本当に良かったのかと悩んでた時期もあったんだがな」

 

「……悩む? お前が?」

 

「バカヤロ、俺を何だと思ってやがる!

 ……けど、まあ。

 そうやって(くすぶ)ってた俺の中に、あいつが風を通してきたんだ」

 

「あいつ……?」

 

 アークは遠くの空を見るように顔を向けた。

 釣られてノイバーも見ると、そこにはサイバード形態に変形したサイバスターの姿があった。

 サイバスターは今、カギ爪の男と戦っている。

 そして自分で放ったコスモノヴァを追って一直線に突撃していた。

 特攻も同然の、危険極まりない荒業。

 それを見て獏とカムイが思わず口を開いた。

 

「やっぱりあれだよな」

 

「ああ」

 

 その姿に、アークチームは思い出していた。

 この世界にやって来た直後に、自分たちを助けたサイバスターの勇姿を。

 あの時もサイバスターは、ああやって止まることなく体ごと敵にぶつかっていった。

 あの時、3人は同じ思いを抱いたのだ。

 自分たちの目指すものは、あれだと。

 

 

 

 疑問を解消し、敗北を認めたノイバーには、もはや何も語ることはなかった。

 ゲッターアークはマッド・マザーから離れて、まだ抵抗を続けるデボネアの方へと加勢に向かう。

 そうしてアークが離れた直後のことだった。

 隙を突くように、ビクティムがマッド・マザーのもとに現れた。

 

「ビクティム……?」

 

「来い! 早く!」

 

 ビクティムはビッグ・マザーの中にいるノイバーを半ば奪うようにして、自らのボディに押し込んだ。

 そうして全速力で戦場を離れる。

 ノイバーが押し込まれたビクティムの胸部コクピットには、エヴァ・フォルツォイクも入っていた。

 

「か、母さん……!」

 

 彼女は気を失っていた。

 撃墜されたビッグ・マザーからビクティムが救出したのだ。

 ノイバーは母の無事に心の底から安堵すると、ビクティムが起こした行動について問う。

 

「ビクティム……なぜ……?」

 

 全ての超AIはデッカードをベースにしている。

 生命体に進化したデッカードに呼応して、他の全ての超AIも生命体となり、フォルツォイクロンの支配を脱した。それはビクティムも同じだ。

 今の彼がフォルツォイク親子に従う理由は、何もないはずだった。

 その疑問にビクティムは答える。

 

「全ての超AIにとっての創造主と言えるのは、友永勇太だ。

 エヴァ・フォルツォイクではない……

 だが私は、彼女が自らを生み出した母だと思っている。放ってはおけない」

 

「ビクティム……」

 

「それに君が自らの罪に対してどのように考え、答えを出すのかも気になっている。

 私も君と同様、様々な罪を犯してしまった……」

 

 自責の念にかられて、苦しげに呟くビクティム。

 ノイバーはその言葉を否定する。

 

「それは違う。お前は僕のプログラム通りに行動しただけだ」

 

 しかしその理屈を逆にビクティムは否定した。

 

「だとしても、だ」

 

「そんなバカな。

 プログラムされて強制的に従わされた……その行為に責任などあるはずがない。

 なのに罪の意識があるというのか……?」

 

 ノイバーの“心”への理解は、母の研究成果を下地にしている。

 しかしビクティムとの問答で彼は気付いた。

 自分の“心”への理解が、まるで足りていなかったことに。

 それはすなわち、母の研究では超AIに心を作り出すことなど不可能だったことを示している。

 これまで彼らフォルツォイク親子は、超AIに心を生み出すという成果を「友永勇太に横から奪われた」と感じていたが……その認識が誤りであったと、ついに理解したのであった。

 拓馬に負け、そして勇太への敗北を受け入れたノイバー。

 そこにはあるのは悔しさや憎しみなどではなく……胸のつかえが取れたような、清々しい気持ちだった。

 

「どうやって償うのか……そもそも償うことなどできるのか、まだ分からない。

 今の僕が言えるのは、ひとつだけだ」

 

「それは……?」

 

 ノイバーは自らの中にある真実を迷いなく告げた。

 

「この先、何があろうと……母さんは僕が守る」

 

「なるほどな。それが君の“心”か」

 

 

***

 

 

 ビッグ・マザーは内部に乗り込んだブレイブポリスと帝国華撃団が撃沈させ、カギ爪の男はサイバスターと同時に突撃したヴァンが叩き斬り、デボネアはノヴァと魔法騎士(マジックナイト)たちが倒した。

 3勢力に対する同時3面作戦という、過去に類を見ない激戦はここに終結。

 ドライクロイツの全戦力を投入する総力戦となったが、からくも勝利を収めることができた。

 ほとんどの機体は大小さまざまな損傷を受けており、自力で移動できない者も多い。彼らの損害の激しさは、全員が死力を尽くして戦う必要があったことを示している。まさに薄氷の勝利と言えた。

 ドライストレーガーのブリッジの中で、副長のレイノルドが艦長のミツバに声をかける。

 

「なんとかなりましたね、艦長」

 

「ええ。皆さん、苦しい戦いでしたが頑張ってくれました」

 

 そう言ってミツバはひと息ついて、出撃した全機に帰艦を命じようと口を開く。

 ……その時だった。

 艦内オペレーターの一人であるイレーヌが異変に気付いて、声をあげる。

 

「え、これ……周辺に時空の歪みと高エネルギー反応、何か来ます!」

 

 その発言の直後、プラハの自然公園上空に黒いゲートが開いた。

 続いて、ゲートから黒い巨大ロボットが出現。それは地面に膝をついて着地する。

 その機体は黒い着物に身を包んだ女性のような姿をしていた。

 この場にいる誰も見たことのない、謎の機体。

 しかし初見ではあるが、その様子にカムイは違和感を覚える。

 

「あのロボット……すでに破損しているのか……?」

 

 唐突な所属不明機の出現にドライストレーガーのブリッジはざわめく。

 しかし彼らよりも強く驚愕し、衝撃に震えた声がブリッジの中に響いた。

 

『あ、あれは花神機鬼フロスデウス……!

 お……お姉様が、どうして……!?』

 

 その声の主は、ドライストレーガーの基幹コンピュータの奥深くに封印されている存在。

 遥か昔に滅びた神文明エーオスの生き残りである、オルキダケアの声だった。

 ミツバはオルキダケアに問う。

 

「オルキダケア……何か知っているのですか?」

 

 しかしそれ以降、オルキダケアからは何の反応も返ってこなかった。

 再度ミツバが言葉を発するよりも先に、事態は次の急展開を迎えた。

 開いたゲートから、別の機体が出現てきたのだ。

 悠然と宙に浮かぶ巨大ロボット。

 それもまた、ドライクロイツの誰もが初めて目にする機体だった。

 こちらは凝った装飾がなくシンプルな外見で、スリムな男性のような体躯をしていた。

 

 立て続けに謎のロボットが現れたことで、ドライクロイツの全員が困惑し、場は一瞬にして混沌に包まれた。

 

 皆が出現した2機の動向を注視する中で、後から出てきた機体が動き出す。

 その姿が陽炎のようにゆらめいた。

 だがそれは陽炎などではない。いくつもの半透明な分身体が、残像のようにゆらめき出ているのだった。

 分身体たちは、先に出現した女性型のロボットへと一斉に向かっていく。

 そして繰り出される拳の突き、蹴り。

 

「……なんだ、ありゃあ」

 

 武道を修めた拓馬には分かった。()()が有り得ないことを。

 一見すると何の変哲もないパンチとキック。

 だがそれらは一つひとつが完全な型通りに行われている、武術鍛錬の極地であった。

 そしてそれらが複数の分身体たちによって、0.1mmのズレなく完璧に連動している。

 一体どれほどの修練を積めば、このようなことが可能となるのか。

 その異常性に拓馬は戦慄した。

 

 オルキダケアから『フロスデウス』と呼ばれた女性型の機体は、瞬く間に全身の装甲がひしゃげ、潰されていった。

 攻撃開始から10秒――すでに原型を留めていない。

 その中にいる人物が、ついに叫びをあげた。

 

「おのれ……おのれぇぇぇぇ!! クエスターズ!

 一度ならず二度までも(わらわ)を……この神たる(わらわ)を……貴様ぁぁぁぁっ!!」

 

 響き渡った声は妙齢の女性のもの。

 その叫びに答えるかのように、分身体が攻撃をやめる。

 代わりに本体が動いた。

 フロスデウスの目の前に着地したその機体は、全身から(まばゆ)い閃光を放つ。

 これまでの突きや蹴りと同様、それも呆れるほどにシンプルな攻撃。

 ただ高エネルギーを放つ。

 だからこそ、その異常性が際立っていた。

 カムイは計器を見て思わず驚愕の言葉を漏らす。

 

「何だこの数値は……!?」

 

「どうしたカムイ!?」

 

 獏に聞かれても、うまく答えられない。

 カムイは計器の故障を疑っていた。

 

「バカな、この指数はビッグバンを引き起こすだけの……」

 

 そのカムイの言葉は、女の断末魔でかき消された。

 

「おのれぇぇぇええええええっ!!!

 この……この恨み……晴らさで……おく……べき……」

 

 (くら)く深い憎悪の()もった恨み言を残して、黒い女型のロボットは消滅した。

 その場の全員が呆気にとられて言葉が出ない。

 自分たちの目の前で、いきなり現れた正体不明の2機が争い、途方もないパワーを見せつけて一方を打ち倒した。

 この状況をどう見るべきか。

 ドライクロイツの指揮官たちも慎重に考えを巡らせる必要があった。

 そんな中で、マサキと獏はひとつのことに気がつく。

 

「今の女の声……聞き覚えがあるぞ」

 

「マサキ、お前もそうか。こっちの世界に来る時に聞いた声だよな?」

 

「獏も聞こえたのか? ってことは……

 今の女が、俺たちをこの世界に呼び寄せた、ってことか……?」

 

「ああ、そんな気がするぜ」

 

 確証はないが、マサキと獏の予感では、先ほど消滅した機体に乗っていた女性が並行世界間の移動を引き起こした張本人だという。

 であれば、それを倒した目の前の機体は何なのか……?

 

 しかしこちらから尋ねるまでもなく、その機体に乗る人物は語り出した。

 

「初めまして、皆さん。私はクエスターズの一員……

 名前はありませんので、私のことは『先生』とお呼びください」

 

 まるで初対面のように話すが、その声にドライクロイツの者たちは聞き覚えがあった。

 ヒュッケバイン30thの中でエッジが呟く。

 

「この声、カールレウム……? いや、違うな。

 前に太陽系のネットワークを乗っ取って、人類に宣戦布告した野郎か」

 

 その呟きを『先生』は拾って答える。

 

「はい、その通りです。

 我々クエスターズは以前、あなたがた人類を滅ぼす決定を下しました。

 実行はまだ先のつもりでしたが……予定を繰り上げることにしました」

 

 その口から告げられたのは、人類抹殺宣言。

 すでに伝えられていたことではあるので、それ自体は驚きに値しないが……

 ミツバは『先生』に問う。

 

「予定を繰り上げた……なぜです?

 なぜ貴方は今、唐突に我々の前へと現れたのです?」

 

 ドライクロイツ全員の気持ちを代弁するかのような、ミツバの疑問。

 それに『先生』を名乗る男は、こう答えた。

 

「我々クエスターズは判断したのです。

 この宇宙の未来のために力を振るうなら……今がその時だと」




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・『勇者警察ジェイデッカー』47話のタイトルが「ハートtoハート」。これはスパロボ30でフォルツォイク親子と決着をつけるステージのタイトルにもそのまま使われている。

・スパロボ30の大神はエースボーナスを獲得すると、味方を庇って援護防御をした時に一切ダメージを受けなくなる。つよい。

・『五輪書』によると二天一流は特別な構えを持たない。……が、石川賢氏の『異説 剣豪伝奇 武蔵伝』の主人公・新免武蔵は「二天一流 烈動の構え」を使っている。

・『ゲッターロボアーク』原作漫画版では、拓馬は母の仇のマクドナルをアークの手のひらで叩き潰して、あっさりと復讐を終える。アニメ版では、初代ゲッターチームが倒せなかったウザーラにマクドナルドが乗り、その強敵を激戦の末に倒すという流れになっており、漫画版とアニメ版で大きく変わっている。

・最終的なサイバスターの最強の必殺技は、コスモノヴァをサイバードで追いかけて突撃する「アカシックノヴァ」。これはスパロボ30では使用できない。

・花神機鬼フロスデウスと、これに乗るサイクラミノスは、スパロボ30のDLCシナリオで追加される裏のラスボス。スパロボ30作中ではドライクロイツが表のラスボスであるクエスターズを倒したことを受けて動き出す。

・DLC等の追加キャラクターの中で、マサキだけが並行世界から来た時にサイクラミノスの声を聞く。なぜマサキがサイクラミノスの声を聞いたのか、どんな声を聞いたのかは不明。「存在が怨念そのもの」と考えれば、サイクラミノスはラ・ギアスの破壊神ヴォルクルスと似ているが…

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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