Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

27 / 30
第5話「マン・イズ・アローン」

 地球圏の平和を脅かす最大にして最強の敵、クエスターズ。

 その代表者である『先生』はドライクロイツの前に姿を現し、あたかも運命が終わりの鐘を鳴らすように告げる。

 

「このアルティム・フィーニこそはクエスターズの知の結晶。

 今より300年前、そして今再び、神文明エーオスを打倒した究極の決戦兵器です。

 万に一つも君達に勝機はありません。……まして、その状態ではね」

 

 そう言い、戦闘態勢をとる『先生』。

 すでに宣言していた人類抹殺を、ただちに実行するために。

 ドライクロイツの指揮官であるミツバは、この場での決着が避けられないことを悟る。

 だが今はまずい。フォルツォイク親子、デボネア、カギ爪の男……複数勢力との激戦を繰り広げた直後である。

 個人差はあれど、大半の機体は損傷している。エネルギーや弾薬を使い果たした者も多い。

 ミツバの隣で副長のレイノルドが叫ぶ。

 

「艦長、まともに戦える状態ではありません!」

 

 ミツバも頷き、矢継ぎばやに指示を出す。

 

「まずは部隊を立て直します!

 消耗している機体は、近くの戦艦に入って修理と補給を行ってください!

 その間、損傷の軽微な機体で時間を稼ぎます!」

 

「損傷が軽い機体……?」

 

 思わずレイノルドは眉をひそめた。

 あの激しい死闘の中、そんな機体があるのだろうかと。

 彼の疑念に答えるように、多くのロボット達が帰艦しようと下がっていく中、それらは前に進み出た。

 

 アムロ・レイのHi-νガンダム。

 兜甲児のマジンカイザー。

 ゲッターチームの真ゲッタードラゴン。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 3つの機体が並び立つ。

 

「行くぞ、甲児、ゲッターチーム!」

 

「へへっ、負ける気がしねえな!」

 

「一番槍は貰うぜ!」

 

 言うが早いか、我先(われさき)にと真ゲッタードラゴンが突撃する。

 上下左右への急制動で敵の目を(あざむ)きながら、その敵――アルティム・フィーニの眼前に迫る。

 

「ゲッタァァァァァトマホォォォク!!」

 

 豪快に振り下ろされる巨大で重厚な戦斧。

 並みのロボットなら一撃で両断する脅威の戦斧は――

 その刃をアルティム・フィーニの指に挟まれ、止められていた。

 

「な、なにっ!? 白刃取りだと……

 野郎、ふざけやがって!」

 

 その指ごと強引に断ち切ってやろうと、全力で斧を押し込もうとする竜馬。

 しかし結果は彼が望んだものとは反対だった。

 

「竜馬、押されてるぞ!」

 

 押し切るどころか、逆に押し返されるトマホーク。

 まさか正面から、それも片手しか使わない相手にパワー負けするとは思わず、隼人も目を()いて驚く。

 

「こいつ……なんてパワーしてやがる!」

 

「弱く……脆いものですね。合成鋼Gなど」

 

 ばきん、と。存外に軽い音をたててトマホークの刃がへし折られた。

 そして次の瞬間、アルティム・フィーニの拳が真ゲッタードラゴンに向けて突き込まれる!

 

「まずは1体――」

 

「くっ、マズい……!」

 

 その突きはあまりに速く、正確で、一切の無駄がなかった。

 避けられない――

 直撃すればおそらく、その顔面は吹き飛ぶ。

 ……しかし、そうはならなかった。

 真ゲッタードラゴンに向けられた拳は、間に割って入ったマジンカイザーの掌で受け止められていた。

 

「甲児!」

 

「力比べが得意か?

 だったら、この魔神皇帝の相手をしてくれよ!」

 

 熱い光子力のパワーが超合金の全身に(みなぎ)る。

 マジンカイザーの手に握られたアルティム・フィーニの拳が、少しずつ押し込まれていく。

 

「マジンカイザー、未来の力……

 しかしそれでも所詮は地球の機械です」

 

 その『先生』の言葉と共に、アルティム・フィーニの体から浮き出るように半透明の分身体が現れる。

 それらは1秒に満たない時間で、完全にマジンカイザーと真ゲッタードラゴンを包囲した。

 間髪入れずに全ての分身体から放たれる、突きと蹴り。

 

「う――」

 

「速すぎる……!」

 

 その包囲の速さ、異様な攻撃の即時性に、甲児も竜馬も対応しきれない。

 地味でシンプルな攻撃ながらに、それら一つひとつが必殺の威力を持つことは既に示されている。

 絶体絶命。

 だが再び、致命的な運命は(くつがえ)される。

 アルティム・フィーニ分身体の攻撃がマジンカイザーと真ゲッタードラゴンに当たる直前、その手や足がそれて、全てが空を切った。

 分身体の体に当たった、フィン・ファンネルのメガ粒子砲によるものだ。

 

「ニュータイプ……!」

 

 さしもの『先生』にも予想外だったようで、そのヘルメット越しにも息を()む気配が見られた。

 その隙を兜甲児は見逃さない。

 マジンカイザーの胸部にある放熱板が高熱を発する。

 圧倒的な熱量は、見る者の眼球を焼き切らんばかりの輝きを伴い、極大極限の力へと変貌する。

 さながらそれは、現世に顕現(けんげん)した大焦熱地獄。

 その業炎をマジンカイザーは解き放つ。

 

「くらえっ! ファイヤー! ブラスタァァァァァッ!!」

 

 射出される真っ赤な熱線。

 手が触れるほどの至近距離から受けたアルティム・フィーニは、たまらず両腕を交差して防御姿勢をとる。

 数十万度の熱量を受けて、濁流に押し流されるように吹き飛ぶアルティム・フィーニ。

 しかし彼らはそこで終わらせない。

 ファイヤーブラスターを放つマジンカイザーの背後。

 そこには緑色のゲッター線を収束させ、それを黄金の輝きに変える真ゲッタードラゴンの姿があった。

 

「ゲッタァァァァァァ! シャァァァァァァァイン!!」

 

 真ゲッタードラゴン最大の一撃、真シャインスパーク。

 太陽のごとき灼光に身を包み、ドラゴンは飛ぶ。

 加速に次ぐ加速。まさに加速度的に、1秒ごとに速度を上げて突き進む。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 そして敵機にぶつかる直前――物理法則を無視したかのように急停止。

 黄金の破壊エネルギーだけが機体から切り離されて、熱線を浴び続けるアルティム・フィーニに衝突した。

 揺れる大気。

 余波だけで巨木が舞い、粉々に消滅する。

 見る者に世界の終わりを想起させる大破壊……

 その中心に位置するアルティム・フィーニへと、ぴったりと向けられる砲門があった。

 ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー。

 Hi-νガンダムの持つ超大型メガ粒子砲である。

 

「いけっ!」

 

 空を貫く一条の光。

 天をふたつに切り分けるような、およそモビルスーツが出せると思えない超大火力のビーム砲。

 その莫大なエネルギーはラー・カイラムからエネルギーケーブルを繋げて供給されたものだ。

 

 過剰とも思えるほどの一斉火力集中。

 3機が連携した全力攻撃を受けて、『先生』のアルティム・フィーニは……

 

 焦げ痕と、わずかな傷を受けていた。

 

「やはり危険ですね。光子力……ゲッター線……サイコフレーム。

 君達の持つMAGINEの力は」

 

 そんな『先生』の呟きの直後、アルティム・フィーニは瞬時にマジンカイザーへと迫る。

 拳の突きを予想し、ガードを固める甲児。

 その防御の上からアルティム・フィーニは掌底を放つ。

 

「うおっ!」

 

 大きく弾き飛ばされるマジンカイザー。

 アルティム・フィーニは次に真ゲッタードラゴンへと接近。

 竜馬は打たれる前に拳で迎撃しようとする。

 が、その突き出された真ゲッタードラゴンの腕を『先生』は掴むと、いとも容易(たやす)()じ切った。

 

「ぐあぁっ! てめえ、何しやが――」

 

 そのまま即座にアルティム・フィーニは真ゲッタードラゴンを蹴り飛ばすと、千切り取った腕を振りかぶり――Hi-νガンダム目がけて投げつけた。

 その投擲すらも尋常ではない威力を発揮する。

 しかしアムロ・レイには見えていた。

 音速を超えて飛来する真ゲッタードラゴンの腕。それを回避しようとする……が、その動きをラー・カイラムと繋げている有線ケーブルが阻んだ。

 

「しまった……!」

 

 直撃する――!

 アムロがそう思った時、彼の視界に黒い影が入り込んできた。

 ヒュッケバイン30thだ。

 閃く光剣。

 投擲された真ゲッタードラゴンの腕は、ヒュッケバイン30thのビーム・ソードによって切り落とされた。

 

「エッジ!」

 

「やれますよ、俺も。

 裁判官気取りの勘違い野郎なんぞに、好きにやらせるかってんだ!」

 

 颯爽(さっそう)と現れて啖呵(たんか)を切るエッジ。

 それを見た『先生』は(さと)すように告げる。

 

「エッジ・セインクラウス……エーオスの尖兵。

 君が乗るヒュッケバインもMAGINEと同様、この世界の地球人が持つべきものではありません」

 

 先刻に続いて再び『先生』が口にした言葉に、甲児が反応する。

 

「MAGINE……ザガートやDr.ヘルも言ってたな。

 いったい何なんだ、MAGINEってやつは?」

 

 甲児の疑問を受けて『先生』は解説する。

 

「MAGINEとは、宇宙の法則に反した禁断のテクノロジーです。

 人の意志に応え、無限のパワーを発揮し、次元そのものを歪めてしまう」

 

「俺たちの機体が……?」

 

 アムロは驚きを籠めて呟いた。

 確かに彼ら地球連邦は、サイコフレームの技術は自分たちには扱えないと考え、一度は封印しようとしていた。

 しかし“宇宙の法則”などとは、突飛で大袈裟な言葉だと感じられた。

 だが甲児はすぐにピンと来る。

 

「……禁断のテクノロジー、か」

 

 今の彼が乗り込んでいるマジンカイザーは「未来の兜甲児が過去に向けて送った」という常識外れの代物だ。

 科学者である彼は、その危険性を十二分に理解している。

 甲児が把握したのを見てとり、『先生』は講義を続ける。

 

「特にサイコフレーム、光子力、ゲッター線は、人類がMAGINEを制御する引き金となり得るでしょう」

 

 そこへ竜馬が横から口を挟む。

 

「制御できるんだったら、いいじゃねえか。何が問題なんだ」

 

「技術的に制御できたとしても、人類は知性体として未熟です。

 未熟な心、未熟な倫理……

 MAGINEのような力を扱える段階に達していません。

 例えば、つい先ほど君達が破壊したヨロイ……あれもMAGINEのひとつです」

 

 突然告げられた話にミツバも驚く。

 

「あの大型ヨロイが……!?」

 

「彼があのMAGINEの力で何をしようとしていたかは、ご存知でしょう?」

 

 大型ヨロイ『バースディ』。“カギ爪の男”はこの機体を使って、全人類の思想を自分と統合させようと目論(もくろ)んでいた。

 具体的な例を出されたことで、MAGINEが使い道を誤れば大きな災禍をもたらす技術だと、ドライクロイツの面々も理解できた。

 

「そしてこのアルティム・フィーニも、MAGINEのひとつ。

 かつて神を名乗り全宇宙の秩序を統括していたエーオスには、この宇宙の法則を覆すMAGINEの力が必要でした」

 

 当時を思い出すように『先生』は胸に手をあてて語る。

 

「MAGINEは一歩間違えれば、宇宙そのものを消滅させる恐れもある危険な力。

 この力を正しく、誤らずに扱えるのは、真理の探求者たる我らクエスターズしかいません」

 

 そうして『先生』は自信に満ちた様子で断言した。

 彼の言葉が真実であれば、今の人類にとって手に余る力というのは否定できない。

 あの“カギ爪の男”だけでなく、サイコフレームの力で世界を滅ぼそうとしたゾルタン・アッカネンの存在も、ドライクロイツにとっては記憶に新しい。

 ドライストレーガーのブリッジで、適切な返答をするべく思案するミツバ。

 だが彼女が口を開く前。

 別の場所から『先生』に向けて問いかける者がいた。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

 セニアだ。

 彼女は今、ドライストレーガーの格納庫に置かれた『クジラ』の中にいる。

 作業着姿のセニアは、クジラに備え付けられた通信機に向かって()く。

 

「あなた、自分を真理の探究者、って言ったわよね?」

 

「ええ。真理を探求し、高い倫理感をもって、宇宙を適切に管理する。

 それこそが我らクエスターズの使命です」

 

「そう。じゃあ、あなたの言う真理って何?」

 

 セニアの問いに『先生』は堂々と答える。

 

「私と師父たちは、あらゆる議題について日々討論を重ねています。

 エーオスの打倒から今に至るまで、300年もの永きに渡って。

 ゆえに我らの結論は絶対の真理として疑いありません」

 

 その回答を聞いたセニアは、自身の耳を疑うような、驚いた表情を浮かべた。

 そして皮肉混じりの口調で『先生』に言う。

 

「そんなもので絶対の真理? ちゃんちゃらおかしいわね」

 

 セニアの言葉を受けて、『先生』はピクリと反応する。

 

「ほう……? 地球人が何を言い出すかと思えば……」

 

 そんな『先生』の声に被せるようにして、セニアは彼を真っ向から否定する。

 

「ラ・ギアスでは地上のような科学を捨てて、数多くの錬金学士たちが、より正しい技術の使い方の議論を続けてきたわ。何千年も前からね。

 それでも、間違いのない結論なんて見つかってない。

 たかだか300年ぽっちの話し合いで、真理なんてものが見つかるとは思えないわね」

 

「……不愉快ですね。

 我々は知的生命体として君達とは全く別のステージにあります」

 

 セニアの否定を受けて『先生』も反論する。

 その声色には苛立ちが混じり始めていた。

 しかしセニアは構わず論戦を続ける。

 

「それ、地球人よりも精神が成熟してるって言いたいの?」

 

「無論です。愚昧(ぐまい)な地球人……いや地底人ごときが、真理の探求者たる我々と同列であるかのように語ろうなどと、笑止千万でしょう」

 

(あき)れた! そんな言い方しといて、よく倫理がどうのと言えたわね」

 

 そう言うとセニアは自嘲気味に続ける。

 

「あたしも前に言われたわ。ラ・ギアス人は地上人よりも精神が成熟してる……なんて、とてもそうは見えないって。今なら、あいつの気持ちがよく分かるわ。

 あなたね……地球人より高い倫理観を持ってるようには、とても見えないわよ」

 

 そうセニアに指摘され、『先生』はヘルメット越しにも分かるほどに気色ばむ。

 しかし彼は溢れる怒気を抑え、努めて冷静さを保つようにして答えた。

 

「……我々は君達とは違います。

 私はエーオスを……神を滅ぼした者なのですから」

 

「あらそう。ラ・ギアスでは5000年も前に剣神ランドールが邪神を倒してるけどね。

 ま、それはいいわ。そんなことより、ひとつ興味深い結果が出たけど……聞く?」

 

 セニアはデュカキスⅡのモニターに映った数値を見ながら、『先生』の返事を待たずに告げた。

 

「こうして話してる間にあなたの声紋を分析したけど……

 カールレウムとの偶然一致確率が0.01%以下だったのよね」

 

 その報告を聞いて副長レイノルドが驚愕の声をあげる。

 

「な……!? 双子でも、そんな数値にはならないぞ……!」

 

「声が似ているとは思いましたが、まさかそこまで……」

 

 副長の隣でミツバも驚いている。

 これに対して『先生』は……

 

「…………」

 

 無言。

 何も言わない『先生』に、セニアはさらに続けていく。

 

「ついでに言うと、クェーサーだっけ? あなた達クエスターズの一般兵。

 彼らと比べても、話者特徴ベクトルの距離が極めて小さく、声紋パターンが酷似してるわ」

 

 こうしたセニアからの情報を聞いて、真ゲッタードラゴンの中で隼人が納得したように鼻を鳴らす。

 

「ふん……そういう事だったか」

 

「おいおいおい! 双子より似てるって、そりゃあつまり……」

 

 弁慶もその意味を察して身を乗り出した。

 セニアはそんな彼らに答える。

 

「そういうコト。

 ねえ、『先生』? あなたの言う“師父”との“討論”って……

 まさかと思うけど、自分のクローンと話してるんじゃないの?」

 

「……………………」

 

 長い沈黙。

 緊張感のある静寂を経て『先生』は大きく息を吐きだすと、自らが被るヘルメットを外した。

 中から出てきたのは、ドライクロイツには馴染みのある端正な顔。

 クエスターズの戦闘部隊を束ねる男……カールレウム・ヴァウルと全く同じ顔だった。

 

「その通り。クエスターズはその全てが、私のクローンだ」

 

 そうして、彼はセニアが提示した疑惑を認めた。

 それに伴い、それまでの慇懃な態度から口調が切り替わっていた。

 アムロは事実を確認するように言う。

 

「つまり……クエスターズというのは最初から、お前一人だけの組織だったということか」

 

「その理解は正しい。クエスターズとは、私そのもの。

 そうだな……私はエーオスを倒し、新たな秩序の守護者となった時に名は捨てたが……

 言うなれば、私こそがクエスターである」

 

 ついに明かされた真実。

 自らを『先生』と呼称していた、クエスターという人物。

 これが、かつて全宇宙を支配していた神を滅ぼした後、たった一人で宇宙の秩序を守ろうとしている男の正体だった。

 そのクエスターにミツバが問う。

 

「そして先ほど貴方が倒した相手が、神文明エーオスの首魁(しゅかい)と見て間違いありませんか?」

 

「ああ、そうだ。奴はエーオスの女王サイクラミノス。

 どうやら300年前、私は奴を倒しきれていなかったようだ。

 サイクラミノスは別次元に身を隠しながら、並行世界から様々なロボットをこの世界に呼び寄せ、私と敵対するように仕向けていた」

 

 彼の発言はマサキと獏の予想を裏付けるものだった。

 クエスターはサイクラミノスについて、さらに続ける。

 

「……が、奴は動きすぎた。

 私は奴の隠れている次元を突き止めて乗り込み……後はお前たちが見た通りだ」

 

「なるほど、先ほどの戦いの意味は理解しました。

 しかし()に落ちない点があります」

 

 ミツバは未だ払拭(ふっしょく)されない疑問をクエスターに尋ねる。

 

「なぜ今、ここに現れたのです?

 貴方はこれまで、地球圏のことはカールレウムに任せていたはずです」

 

 先ほどクエスターは「自分こそがクエスターズそのもの」と言った。

 それはつまり、彼一人が倒れるだけで組織が瓦解するということだ。

 そのリスクを理解しているからこそ、これまで自分は表に出ずに、自身のクローンに前線を担わせてきたのだ。

 ドライクロイツが消耗していた時を狙ったにしても、危険を冒してクエスター本人が出てきたからには、相応の理由があるはず……

 ミツバの問いには、そうした考えがあった。

 また、このミツバの問いかけには単純な疑問以上の意味合いがある。

 少しでも収容した機体の補給が進むように、時間を稼ごうという目論見だ。

 クエスターはそんな彼女の思惑を知ってか知らずか、素直に回答する。

 

「“彼女”から聞いて考えを改めたのだ」

 

「彼女……?」

 

「およそ100日ほど前、並行世界との扉が開かれた」

 

 それを聞いてミツバの隣で副長レイノルドが口を開く。

 

「100日前というと……

 我々がセフィーロでザガートとの決戦を行っていた時ですね」

 

 そう言いつつもレイノルドはいまいちピンと来ていない。

 代わりに、ひとつの心当たりが思い浮かんだのは、『クジラ』の中から聞いているセニアだ。

 

(マサキはあの時、ゲートが開いた感覚があったって言ってたけど……

 まさか……?)

 

 クエスターはミツバの疑問への回答を続ける。

 

「それは私にとって……おそらくサイクラミノスにとっても予期せぬ出来事だっただろう。

 彼女はまず私のところに来た。

 そして私は知ったのだ。私の予測を遥かに超えていた、ゲッターエンペラーの脅威を」

 

「ゲッターエンペラーだと……!?」

 

 これには思わず竜馬も声をあげた。

 そしてクエスターは核心となる内容を告げる。

 

「私の目的はふたつ。

 ひとつは、ゲッター線の根絶。

 もうひとつは、この世界とあらゆる並行世界の断絶だ」

 

 その衝撃的な言葉に、ドライクロイツの通信回線がざわつきで満たされる。

 クエスターは理由を説明する。

 

「ゲッターエンペラーの発生を止めることは必須だが、それだけでは片手落ちだ。

 すでに並行世界ではエンペラーが存在しており、それらを止めることはできない。

 まずはこの世界からゲッター線を除去した上で、さらに並行世界との繋がりも断つ必要がある」

 

 にわかに信じられないといったように、副長レイノルドが呟く。

 

「並行世界との繋がりを断つ……? そんなことが可能なのか?」

 

「可能だ。お前たちにとっても悪い事ではないだろう?

 他の世界との繋がりなど混乱の元……

 残しておいて良いことは何もない。今すぐに断つべきだ。

 もしもお前達が素直にこれを受け入れるなら、人類の抹殺は考え直してもいい」

 

 並行世界との繋がりは混乱を生む。

 確かにそう聞けば、一理ある話だった。

 だが今のドライクロイツからすると、この提案には大きな不都合があった。

 とりわけ強い反応を示したのは、ドライストレーガー艦内の格納庫にいる(ひかる)だ。

 

「他の世界との繋がりを断つ……?

 そんな事したら、エメロード姫とザガートを探しに行けなくなるんじゃないのか!?」

 

 (ひかる)の声にミツバが頷く。

 

「そうです。

 そして、並行世界から来た人達も元の世界に帰れなくなってしまう……」

 

 反応を示したのは彼女たちだけではない。

 これにはゲッターチームも声を出さずにはいられなかった。

 

「ゲッター線の根絶、ってえのも聞き捨てならねえな」

 

「はいそうですかと、軽々しく放棄するわけにはいかんな」

 

「ああ。どうやら早乙女のジジイは、俺たちを信じて託したらしいからな!」

 

 だがクエスターはにべもなく一蹴する。

 

「お前たちには聞いていない。判断を下すのは責任者であるミツバ・グレイヴァレーだ。

 どうする?

 私の提案を拒んで人類を滅ぼすか……受け入れて人類を救うか」

 

 話の流れで唐突に、人類の命運を左右する選択を迫られてしまったミツバ。

 自分達だけでなく人類全体の話となっては、慎重な回答が求められる。

 ミツバはわずかな沈黙の後、鋭く目を細めて口を開いた。

 

「……ひとつ確認させてください」

 

「何だ?」

 

「根絶するのはゲッターロボと、ゲッター線の技術だけですか?

 それ以外の……ゲッター線で進化した新人類などについては?」

 

 ゲッター線により進化した新人類。

 ドライクロイツには、その該当者がいる。

 真ドラゴンに乗る號だ。

 このミツバの問いに対して、クエスターは思案することなく即答した。

 

「当然、それも殺す」

 

 その回答を受け、ミツバも即答で返す。

 

「では交渉は決裂です。我々ドライクロイツは、貴方の提案を拒否します」

 

「やはり愚かだ……この程度の道理も理解できんとは」

 

 怒気を孕んだクエスターの声。

 ついに戦いが再開されるかと、戦場にいる者達は身構えた。

 ……しかしその予想に反して、クエスターはなおも言葉を(つむ)ぐ。

 

「お前達に教えよう。

 私がどうやって並行世界との断絶をしようとしているのかを」

 

 意外な言葉。

 あえて彼がドライクロイツに教える必要が分からない。

 とはいえ無視できるわけもなく、ドライクロイツはクエスターの発言に耳を傾けた。

 

「クエスターズの本拠地であるサブ・スペース内には、『真なる地球』という装置がある。

 本来は地球人類を理想的な種族に入れ替えるための装置だが……

 これを利用して地球を基点に宇宙を固定し、他の宇宙群から隔離する」

 

 そして、クエスターはとんでもないことを言い放った。

 

「今、その準備を進めている最中だ。

 これをお前達が止めるには、今すぐ南極から次元の歪みを通ってサブ・スペースに向かい、『真なる地球』を破壊しなくてはならない」

 

「な、南極へ……!?」

 

 現在地であるチェコ共和国は、南極から遠く離れている。

 ドライストレーガーが全速力を出しても2時間程度はかかる。

 

「準備はあと3時間もすれば終わるだろう。

 なに、『真なる地球』は地球を模したミニチュアに過ぎない。

 辿り着くことさえできれば、破壊するのは簡単だ」

 

「……!」

 

 それを聞いてミツバは理解した。

 これは明らかにドライクロイツが戦力を分散するよう仕向けたものだ。

 目の前のクエスターと、南極。どちらも無視できない。

 今すぐ部隊を2つに分け、両方に対処する必要がある。

 アムロも苦悶の表情で呟く。

 

「こちらの戦力を減らしたいということか……」

 

「おいおい! あれだけ人を見下しといて、ずいぶん弱気じゃないか!」

 

 挑発する甲児に、クエスターは薄笑いを浮かべて答える。

 

「私もこの話を明かすつもりはなかった。

 だが数値上、お前達の攻撃でアルティム・フィーニに傷がつくことは有り得ないはずだった……

 程度の低い地球の技術といえど、やはりMAGINEの力は(あなど)れん」

 

 幸か不幸か、ドライクロイツの全力の攻勢により引き出された言葉であった。

 ドライストレーガーのブリッジは、またしても判断を求められる。

 

「艦長、どうしますか……?」

 

 伺いを立てるようにミツバを見る副長。

 そこにセニアから通信が届く。

 

「一応……嘘をついてる可能性は低い、ってデュカキスは言ってるわ」

 

「…………」

 

 ミツバは苦しげに目を細めて、眉根を寄せた。

 判断を難しくしているのは、クエスターが提示した残り時間だ。

 

(急いで南極に向かえばギリギリで間に合うように思える……

 でも上手くいかなければ、ただ無意味に戦力を分散するだけになる。

 どうしたら……)

 

 迷えば迷うほど時間は無為に過ぎていき、クエスターの思う壺。そう分かっていても、決断の難しい局面だった。

 正解を探して必死に思案するミツバ。

 そんな彼女にかけられる、凛とした声。

 

「心配するな、ミツバ艦長」

 

 声の主は號だ。

 ドライストレーガーの隣で浮かぶ真ドラゴンの巨体から、號は静かに告げた。

 

「ゲッターエネルギーを収束させ、ワームホールを作る」

 

「な、なにを言っているんだ……?」

 

 號の言っていることが理解できずに困惑するレイノルド。

 彼だけでなく、ドライストレーガー内の多くの者が首をかしげた。

 そんな中で口元に笑みを浮かべたのは、竜馬だった。

 

「へっ、そういうことかよ。

 艦長、俺たちでドライストレーガーを南極へ飛ばす!」

 

 一体どういう理屈でドライストレーガーを南極へ飛ばすというのか。

 当たり前のように納得しているのはゲッターチームだけだった。

 ミツバにも理解できない。

 だが、彼女は號と竜馬を信じた。

 並行世界から来た者たちがドライストレーガーに乗り、それ以外は他の艦に乗るよう、ミツバは即座に指示を飛ばす。

 編成の指示を出し終えたミツバは、ラー・カイラムへと通信を送る。

 

「ブライト艦長、この場の指揮をお願いします」

 

「ええ、任せてもらいましょう。ミツバ艦長も、ご武運を」

 

 そうして部隊員の移動が終わると、竜馬が號に向けて言う。

 

「いつでもいいぜ、號!」

 

 それに応えて號が叫ぶ。

 

「おおおおおおおぉぉっ!!」

 

 號の操る真ドラゴンが空に向けてトマホークを投擲。

 そのトマホークを目がけて、真ゲッタードラゴンがありったけの力を込めてゲッタービームを放つ。

 

「ゲッタァァァァァビィィィィィィム!!」

 

 ビームの直撃を受けた手斧は爆発し、内部に込められたゲッターエネルギーを一気に放出。

 すると激しい大気の揺れと共に、大きな黒い穴が中空に生まれた。

 南極へと繋がるワームホールだ。

 黒々とした空洞の先にあるのは、未来へと続く希望か、あるいは彼らの心を(くじ)く絶望か……

 しかしドライストレーガーは迷うことなく、その開いた穴へと全速力で飛び込んだ。




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・スパロボ30のHi-νガンダムは、急造のνガンダムと違ってチェーンとベルトーチカがアムロのために用意した完全な専用機。……なのだが、精神コマンドなどの関係から、アムロよりもクワトロの方が向いていると言われている。

・スパロボ30ではマジンガー系列の乗り換えが可能なので、甲児は強化されたマジンガーZに乗り続けてもいい。総合力ではマジンカイザーだが、瞬間火力は強化マジンガーZが上、という差別化がされている。

・スパロボ30のゲッターチームは真ゲッタードラゴンで固定。初登場時には真ゲッターに乗っているがユニットデータは存在せず、イベント中に破壊されて以降、そのまま忘れ去られたように真ゲッターは二度と登場しない。

・スパロボ30のヒュッケバインは、並行世界からこちらの世界にもたらされた。なお、ドライストレーガーも同様に並行世界から来た戦艦をベースにしており、ヒュッケバインと対になるようにグルンガストに似たカラーリングがされている。(ヒュッケバインとグルンガストはともにSFC『第4次スパロボ』で初登場した主人公機。ヒュッケバインがリアル系主人公の乗機で、グルンガストはスーパー系主人公が乗る機体)

・スパロボ30では、甲児が「作れる」と確信を得るとマジンカイザーが造られる未来が確定し、未来の兜甲児がマジンカイザーを送り込んでくる。こんな無法者を相手にしなければならないDr.ヘルには当然のように「不屈」の精神コマンドが設定されている。

・地底世界ラ・ギアスでは大量破壊兵器などの化学変化が起きないようにする結界が張られていたり、平和のために危険な技術は抑制されていた。が、その結界の維持をしていた神聖ラングラン王国の国王が殺害されたことで抑制を失い、ラ・ギアス全土に戦火が広がってしまった。

・クエスターとカールレウムは顔の造形だけでなく髪型まで完全に一緒。このことから、おそらくクエスターはカールレウムにファッションの指導もしていたと考えられる。

・「探求者」をあらわす英語は一般的には「Seeker」となる。「Quester」は古典・物語などの旅をして試練を受ける冒険者といったニュアンスがある言葉。

・スパロボ30作中では、『真なる地球』にはクエスターにとって理想的な知的生命体が配置されており、これと実際の地球を入れ替えることで人類を抹殺しようとしていた。しかしこの世界の人類は既にテラフォーミングを完了させており、数多くのスペース・コロニーも作られている。人類の多くが地球外で暮らしており、クエスターの計画には大きな穴がある。

・OVA『真ゲッターロボ 世界最後の日』ではゲッターエネルギーを収束させてワームホールを作ってそこに飛び込み、最終決戦に臨む。なぜワームホールができるのか。どうやって目的地をうまく定めることができたのか。作中で一切の説明がないので、誰にも分からない。

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。