Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第6話「決戦! 真ゲッターザウルス」

 かつて訪れた南極の地。

 再びドライクロイツはここに現れた。

 號と竜馬が作ったワームホールを抜けて通常空間に戻ったドライストレーガー。

 彼らを待ち受けていたのは、見渡す限りのオルクスーラ軍団だった。

 だがそれだけではない。

 彼らにとって見覚えのある機体が、すでにオルクスーラ軍団と交戦していた。

 カールレウム・ヴァウルのグラヴァリンだ。

 

「もう来たのか、ドライクロイツ」

 

「カールレウム! 貴方が、どうしてここに……?」

 

 ミツバの問いに、彼はさも当然といったふうに答える。

 

「君達が通りやすいよう、クェーサーには道を開けてもらおうとしたのだが。

 結果は見ての通りだ。

 彼らは『先生』……クエスターの言うことしか聞かないようだ」

 

「どういうことです? 我々の味方をすると?」

 

 ミツバの疑問も当然だった。

 カールレウムは今までクエスターズの実働部隊の長として、幾度となくドライクロイツの前に立ちはだかってきたのだ。

 だがカールレウムは恥じることなく堂々と言う。

 

「その通りだ。私は君たちドライクロイツに味方する」

 

 唖然とするドライクロイツに向けて、彼はその理由を語る。

 

「君達に言って信じてもらえるかは分からないが……

 クエスターズが実際には協議など行っておらず、たった一人の独裁により運営されていたなど、私は知らなかった。

 この事実を知った以上、私には彼ら……いや、彼の過ちを正す義務がある」

 

 あまりに清廉すぎるカールレウムの物言いに、多くの者は呆気(あっけ)にとられてしまう。

 しかしミツバはわずかな思考の後、答えた。

 

「……信じます。貴方は虚言を(ろう)するような人物ではありませんから」

 

「ミツバ……」

 

 心底嬉しそうにミツバの名を呼ぶカールレウム。

 これでドライクロイツは心強い味方を得たが……しかし南極上空に浮かんでいる敵機の数は尋常ではない。

 ざっと見て、数百体に及ぶ大軍だった。

 さらに一般量産機であるオルクスーラたちの後ろには、未だ見たことのない機体も散見される。

 恐竜のようなフォルムをした怪獣型ロボットと、頭部のない人型ロボットが数体。

 それらを指してカールレウムはドライクロイツに注意喚起する。

 

「後方で待機している機体には気をつけろ。

 師父たちの乗るエル・ミレニウムとゼル・ビレニウムは強力な機体だ。

 私のグラヴァリンにも劣らないだろう」

 

 そしてドライストレーガーのブリッジ内で、オペレーターのイレーヌが艦長のミツバに報告する。

 

「敵陣の奥に、次元の強い歪みを観測しました」

 

 これにカールレウムが答える。

 

「そこが君達の目指すべき場所、サブ・スペースへの入口だ」

 

 ドライクロイツが目指すべき場所は判明した。

 しかし眼前にある問題は変わらない。

 オペレーターのリアンが引きつった声を出す。

 

「ですが……敵の数が多すぎます!」

 

 敵の数はあまりに多く、もしも號の提案がなく素直に向かっていたら、確実に間に合わなかっただろう。

 だが時間に余裕がないのは現状でも同じ。

 すべての敵機を相手にしているだけの時間は、今の彼らにはない。

 

「おそらくクエスターズの全ての戦力をここに集結してきた。

 逆に言えば、サブ・スペースに入ってしまえば邪魔するものは何もないだろう」

 

 カールレウムの情報提供を受け、ミツバは作戦の指針を決定した。

 

「総員で突撃し、1機でも敵陣の最奥まで辿り着くことを目標にします!」

 

 つまりは、正面突破である。

 そんな思いきった作戦にも、ドライクロイツの中から異論は出なかった。

 自らの愛機に搭乗した戦士たちは、皆それぞれに力強く応え、格納庫から次々と発進していく。

 そんな中で、ゲッターアークに適者進化態から通信が入った。

 アークチームのもとに届いてきたのは、若い隼人の声だ。

 

「忠告だ、アークチーム。敵陣の奥で何が待っているか分からない。

 であれば、あらゆる状況に合体変形で対応するよう造られているゲッターロボが適任だ。

 ここでは無茶をせず温存しておけ」

 

「分かったぜ。要するに、臨機応変に状況次第ってことだろ!」

 

「……そういうコトだ」

 

 隼人は説明を諦めたように嘆息して、通信を切った。

 そうして戦闘可能な機体の出撃が完了。

 ミツバは彼女らしい強い意志の籠もった声で、全軍に向けて号令をかける。

 

「では総員、作戦開始! 我々の未来を、この手で切り開くために!」

 

 おう、と全機から一斉に応答。

 それに続き、まず誰よりも先に前進して戦端を開いたのは、旗艦であるドライストレーガーだった。

 

「主砲、発射最終段階へ! 防御シャッター、降ろせ!」

 

「AGブレーキ、作動!」

 

「発射準備完了!」

 

 副長とオペレーターの報告を受け、ミツバは力強く告げる。

 

「撃てっ!!」

 

 艦首超大型重粒子砲。

 ドライストレーガーの主砲が口火を切る。

 艦首先端から放たれた巨大なビーム砲は、まるで南極の地図に大きな線を加えるかのように伸び、敵陣を大きく穿(うが)つ。

 一気に数十体のオルクスーラが光に飲み込まれて、霧散した。

 ドライストレーガーの前方が開けた。

 その敵陣に空いた穴を埋めるように、出撃した全機が先を競うように突撃していく。

 ボルテスV、ダンクーガ、SRX、光武二式、龍虎王、ガンダム・バルバトス、スコープドッグ、アルトアイゼン・リーゼ、ダイゼンガー、ULTRAMAN……等々。

 まったく規格の違う、別々の世界で生まれた多種多様なロボットたちが、まるでひとつの意思を持つ生き物のように、一丸となって突き進む。

 

 ――戦闘開始から数分。

 多くの機体が敵に阻まれ、足を止めていく中で、3つの機体が先行して部隊を牽引していた。

 シンカリオン。

 ゲッター2の適者進化態。

 そしてゲッターキリク。

 これらスピードのある3機は、通りすぎざまに攻撃しながら敵機の間を縫って進んでいった。

 彼らの勢いは止まらず、瞬く間にオルクスーラの層を突き抜ける。

 しかしその後に立ちはだかるのは、クエスターズの幹部である『師父』たちが駆る強力な機体。

 師父の一人が虚ろな声で呟く。

 

「愚劣な文明は淘汰すべき……」

 

 呟きの後、その機体は奇妙な動きを示した。

 首のない人型ロボットのゼル・ビレニウム。

 そのボディが細かい無数の尖った結晶へと分離し……それらが(つぶて)のように降りそそいで来たのだ。

 およそ人が乗っている機体がするとは思えぬ非常識な攻撃に、シンカリオンに乗るハヤトは仰天する。

 

「え!? そんな攻撃……うわあぁっ!?」

 

 驚いて被弾してしまったシンカリオン。

 攻撃を受けて動きの止まったシンカリオンに、すかさず師父たちの機体が殺到する。

 そこにカムイの意識が向く。

 

「……!」

 

 カムイの手は無意識にブレーキをかけようとする。

 しかしそこへ鋭く響いたのは、隼人の声だった。

 

「止まるな、カムイ!」

 

 ゲッターキリクと並走していた適者進化態が直角に軌道を変え、シンカリオンの方へと向かっていく。

 

「隼人……」

 

「アークチームの方が、俺たちよりも対応力が高い。行け!」

 

「――ああ、任せた!」

 

 先を託されたカムイは振り返らず、前に向き直った。

 しかしゲッターキリクの行く手を阻む障害は、まだ残っている。

 キリクの前に立ちはだかる、怪獣じみた機械。

 ……が、ここで予想外のことが起こった。

 どこからともなく出現した怪獣が、師父の機体に背後から組みついたのだ。

 

「なんだありゃあ?」

 

「分からん……だが、チャンスだ」

 

「考えてもしょうがねえ! 進めカムイ!」

 

 分からないことを考えている余裕はない。

 ゲッターキリクは最高速を維持して進み続けた。

 

 そうして、ついに。

 敵陣を突き抜け、キリクは次元の歪みが発生している地点へと到着した。

 だが、そこで待っていた光景に彼らは唖然とする。

 別次元『サブ・スペース』へと繋がる次元の歪みは、南極の凍った大地の上にあった。

 しかしそこには、(ふた)をするように大量の奇怪な怪物たちが群がっている……

 プラハの街で見た怪物……ドグラだ。

 

「おいおい! なんでこいつらが!?」

 

 慌てるアークチーム。これではとても中に入れない。

 

「どうりで、この次元の穴から敵が距離を取っているわけだ」

 

「くそっ、こんなところで足止めくらってられるか!」

 

 アークチームは機体を分離させ、ゲッターキリクからゲッターアークにチェンジした。

 そして即座に放つ。

 

「サンダー! ボンバァァァァァッ!!」

 

 眩い雷撃が怪物の群れを()き、消滅させる。

 だが吹き飛ばしたのも束の間、その忌まわしい怪物はすぐに増殖して、あっという間に穴を塞いでしまう。

 わずか数秒の後には元通りとなって、拓馬は舌打ちする。

 

「ちっ、こうなったらやるしかねえか……

 イチかバチか、サンダーボンバーしながら突っ込む!」

 

「ジュラ・デッドを思い出すな」

 

「うげ。ホントにそれしかねえのか……?」

 

 ほんのわずかに触れただけで全身を侵食してしまうドグラの脅威は、すでに拓馬の口から仲間たちへと共有されている。

 そんな中に突撃するというのは、あまりにも分の悪い賭けだ。

 最悪の未来を想定して冷や汗を流す獏。

 そんな彼らのもとへと、それは風を伴って現れた。

 アークに続いて敵陣を抜けてきた、2体目の機体。

 サイバードだった。

 やって来たサイバードはゲッターアークの隣で止まると、サイバスター形態へと変形する。

 そしてマサキはいつものように軽口を叩く。

 

「おいおい、まだこんな所にいたのかよ」

 

「マサキ、お前それ……」

 

 サイバスターの姿は、控えめに言ってボロボロだった。

 その原因は周囲のクエスターズではなく、カギ爪の男との戦いによるものだ。

 あの戦いでサイバスターは大きく損傷したため、修理が間に合わずに今回の出撃からは外されたはずだったが……

 

「まったく無茶するニャ」

 

「帰ったら、またセニアに怒られるわよ?」

 

「うるせ。こんな時に一人で寝てられるか。で……」

 

 マサキは地面に広がる怪物の群れへと目を向けた。

 

「足止めしてるのはこいつか。

 ……そうか、だったら俺の出番だな」

 

 そうマサキが言うと、サイバスターは剣を抜いて構える。

 その手に持つのは、以前のサイバスターが使っていた直剣のディスカッターではない。

 (いびつ)な形をした2本の剣。

 マサキはそれらを重ね合わせると、2本の剣は1本の肉厚な大剣となった。

 

「こいつなら行けるはずだ。虚空を斬って飛ばす……」

 

 マサキの脳裏に去来するのは、プラハの街で見た剣技。

 あの謎の男の動作を自らの身体でなぞるように、切っ先で円を描く。

 すると剣でなぞった場所に、漆黒の穴が生まれた。

 そこへマサキは剣を薙ぐ。

 

「バニティリッパー虚空斬波!」

 

 横に一閃。

 剣に生み出された黒い穴はふっと()き消え――まったく同じものがドグラの群れの中に出現した。

 

「ギイイィィィィィィィィィィィイ!!」

 

 響き渡る耳障りな奇声。

 断末魔をあげて、その怪物どもは黒い穴へ吸い込まれていき――

 ……やがて全てのドグラを吸い尽くした穴は、小さくなって消えた。

 驚くほどあっさりと怪物の群れは消滅し、本来の南極の大地が(あら)わになった。

 まるでそこには、最初から何もなかったかのように。

 

 そうして最後の障害が取り除かれると、地面から黒い光の柱が立ちのぼる。

 

「これがクエスターズの本拠地、サブ・スペースの入口か」

 

「よし、行くぞ!」

 

 ゲッターアークは意気揚々と黒い柱の中に入る。

 するとアークの体が、先端から少しずつ消えていく……

 別の次元へと転移しているのだ。

 

 サイバスターは黒い柱には入らない。

 柱の前に立って、アークチームを見送る。

 消えゆくゲッターアークに向けて、マサキは口を開いた。

 

「そういや拓馬……お前に礼を言い忘れてた」

 

「あん? 何の話だよ?」

 

「いやなに。あー……

 魔装機神操者の権利と義務の話は、お前らにしてたか?」

 

 その言葉にカムイが答える。

 

「あらゆる権力に従わなくていい権利と、世界存続の危機に際しては、すべてを捨てて立ち向かう義務……だったな」

 

 かつてカムイがセニアから言われた話だ。

 そしてこれはセニアの兄であるフェイルロードがマサキに教えた言葉でもある。

 マサキはこの言葉に従い、ラ・ギアスの平和を脅かす存在となったフェイルロードを討った。

 その時、セニアは兄が脱出するように促したが、すでに脱出装置は外されており――

 

「ああ。俺は魔装機神操者としてフェイル殿下を倒した。

 その選択は間違ってると思わない。

 ……けどな。ずっとその時のことが、俺の背中にのしかかってた」

 

 自らの罪を懺悔するかのように、長くマサキは一人で抱え続けた心中を吐露(とろ)する。

 拓馬とアークチームは彼の言葉に耳を傾けた。

 

「だが拓馬、ドライクロイツで戦ってるお前を見てるうちに思ったんだ。

 俺は……『魔装機神操者の義務』って言葉に縛りつけられてた。

 義務だから……じゃない。自分がやるべきだと思うから、やる。

 自分の心のままに進むお前を見て、それでいいんだと思えるようになった。

 だから……ありがとよ」

 

「なんだよ……そんなもんお前……」

 

 何か気の利いたことを言おうと頭を働かせる拓馬だったが、気まずさと焦りでうまく言葉が出てこない。

 なにしろ、すでにゲッターアークの体は大部分が消えていおり、考える時間がない。

 だから彼は、最後に言いたいことだけを言うことにした。

 

「今度会ったら、また前みたいにケンカしようぜ」

 

「誰がやるかよ、バーカ」

 

 こうしてゲッターアークは地上から姿を消した。

 ドライクロイツの一員として得た経験と想いの全てを背負って、この世界における最後の役割を果たすために。

 

 

 

 クエスターズの本拠地『サブ・スペース』。

 そこには大地がなく、大気もない。宇宙空間とよく似た組成をしていた。

 ただ、分かりやすく異なる点がふたつ。

 ひとつは、ところどころに浮かんだ四角いキューブの存在。

 

「隣接次元に似ているな」

 

「確かにな。あそこはDr.ヘルがいたが……」

 

 もうひとつは、無限にも思える広大な空間の中にぽっかりと浮かんだ、直径数kmの真っ黒な球体。

 

「あれが『真なる地球』ってヤツか」

 

 そしてその前で、アークチームが来るのを待ち受ける待ち受ける機影――

 

「中に入ればガラ空き……なんてこたぁないだろうとは思ってたがよ」

 

「まさかお前らがここにいるとはな」

 

 アークチームの記憶とは少し違う姿。

 だが見紛うはずもない。

 かつて地球の命運のために、同じ決死行に臨んだ仲間が乗っていた、その機体。

 人類の技術供与を受けて恐竜帝国が開発した、異例のゲッターロボ。

 ゲッターザウルス。

 今はその名を、真ゲッターザウルスと言う。

 

「ザウルスチーム……!」

 

 そして真ゲッターザウルスの背後には、ひとつの戦闘機が浮かんでいた。

 サイバードを参考にしてオラシオが作った飛空船(レビテートシップ)だ。

 そこに乗るのは恐竜帝国の現皇帝、ゴール三世。

 

「来たなゲッターアーク! ここが貴様らの墓場だ!」

 

 

***

 

 

 場所は変わって東京、渋谷駅ハチ公前広場。

 この地を訪れている者が2人……

 オラシオ・コジャーソと、アレクシス・ケリヴだ。

 オラシオはベンチに腰を下ろして、携帯端末を片手にアークと真ゲッターザウルスが対峙する様子を見ている。

 隣にいる頭に炎を纏った怪人のことは、なぜか周囲を行き交う人達の誰もが気にしていなかった。

 

「いいねぇ、うまくお膳立てできたよ」

 

「くそっ、よく見えねぇな。もっとでかいモニターはないのか」

 

 小さな携帯端末に顔を近付け、悪態をつくオラシオ。

 そんな彼のためにアレクシスは両手を広げて言った。

 

「では、こうしよう。インスタンス・ドミネーション!」

 

 すると立ち並ぶビル群に張り付けられた大型モニターの全てが、ドライクロイツの戦いの場面を映し出す。

 プラハでのクエスターとの戦い。

 南極のドライストレーガー。

 そしてサブ・スペースで対峙するゲッターアークと真ゲッターザウルス。

 突然の事態に周囲の人間は驚き、立ち止まってモニターを見上げた。

 地球連邦軍独立遊撃部隊ドライクロイツの存在と、彼らの活躍は、すでに世界中に知れ渡っている。

 地球の命運を賭けた戦いが映し出されていることを、人々はすぐに察した。

 立ち止まった通行人は口々に声をあげ、誰もが食い入るようにモニターに目を向けている。

 そんな中でアレクシスはオラシオに言う。

 

「もちろん、ここだけじゃないさ。

 地球圏にある公共のモニターすべてに映している。

 なに、前にクエスターズがやったのと同じことだよ」

 

 以前、クエスターズは太陽系全体の通信ネットワークを乗っ取って、地球人類に宣戦布告の放送をしたことがあった。

 しかし何の仕込みもなく、単なる思いつきでそれを実現してしまうアレクシス・ケリヴの力は、あまりに異常であった。

 しかしオラシオはそこを問いただしたりはしない。

 なぜなら彼の興味は他にあるからだ。

 

「とんだ大騒ぎだな。まあ、モニターが大きくて見やすいからいいが」

 

「この世界も見納めだ。最後くらい派手にいこうじゃないか」

 

「最後か……」

 

 アレクシスは首を振り、ため息をつきながら言う。

 

「この世界はもう無茶苦茶だよ。

 サイクラミノスが余計なものを喚んだせいで、全ての予定が崩れてしまった。

 馬頭竜のオペレーターまで出てきてしまってはねぇ……

 残念だが、もうこの宇宙にはいられない。

 しかし退散する前に、是非ともこの戦いだけは見届けておきたい」

 

 アレクシスが話していることの大半はオラシオには理解できなかったが、この戦いを見届けたいという望みに対しては、心の中で頷いて同意する。

 ビルに張り付いた大型ディスプレイを見上げるオラシオ。

 そこにアレクシスは、楽しそうに尋ねる。

 

「さて、どうなるかな?

 あれからザウルスチームは訓練を重ねて、機体の制御は上達しているが……?」

 

「勝敗は決まりきってる。

 ザウルスチームにやる気さえあれば、アークチームとの腕の差など関係ない」

 

 

***

 

 

 サブ・スペース内で対峙する、アークチームとザウルスチーム。

 そしてこの場に現れたゴール三世。

 

 ――やはりザウルスチームも来ていたのか。

 

 ――なぜ兄上が……皇帝ゴール三世がここに。

 

 などいう言葉を、カムイは口から出さずに飲み込んだ。

 彼らが敵対する意志を持ってここにいるのは明白だ。

 事ここに至って、そのような問答は無意味。

 そう考えて口を閉ざしたカムイに代わり、ゴール三世が語り出す。

 

「くく……ここでゲッターアークを倒せれば良し。

 仮に倒せなかったとしても、貴様らが元の世界に戻れなくしてしまえばいい。

 それで地球……いや全宇宙は、我々ハチュウ人類のものになる!

 わしは元の世界に戻らせてもらうがな」

 

 それは、すでに元の世界に戻る手段は確保しているといった口ぶりだった。

 

「さあ行け、ザウルスチーム! 真ゲッターザウルスよ!

 脆弱な地上のサルどもに、恐竜帝国の力を思い知らせてやれ!」

 

 配下のザウルスチームに命じるゴール三世。

 ……だがザウルスチームの反応は、彼の想定とは違っていた。

 真ゲッターザウルスの中で、バイスはゴール三世の命令に応答せず、なぜか沈黙している。

 これにはゴール三世だけではなく、チームメンバーであるゴズロとガンリューも困惑する。

 

「ど、どうしたんだバイス……?」

 

「皇帝陛下の命令だぞ!」

 

 バイスは静かに口を開いて、言う。

 同じ機体に乗る仲間に向けて。

 

「お前たち、本当にそれでいいのか」

 

 それは、どういうことか。

 バイスの意図が分からず、ゴズロとガンリューの困惑は深まる。

 そんな仲間たちへとバイスは言葉を続ける。

 

「あの光の中で未来を見た。

 俺たちは……なぜ俺たちは、カムイに任せてしまった?

 おかしいだろう。あれは俺たちハチュウ人類がやらねばならない事だった」

 

 それはまだ見ぬ未来の話。

 セフィーロでの戦いの中で、クワトロが放った光。

 あの光の中でカムイが垣間見た未来の話を、バイスはしている。

 恐竜帝国の命運をカムイが背負い、地球人類と戦う未来を。

 それに気付いたカムイは呟く。

 

「お前たちも見ていたのか……」

 

 バイスは続けて話す。

 自らが内に抱える想いを。

 

「恐竜帝国の進退は我々ハチュウ人類の手で作らねばならない!

 なぜ俺たちは人間とのハーフであるカムイに押し付けてしまったのか……」

 

 そのバイスの言葉に、ゴール三世は同意する。

 

「そうだ、だからこのゴール三世がやるのだ! 地球人類の抹殺を!」

 

 しかしそれをバイスは否定した。

 

「いいや。それは無理です、皇帝」

 

「な、なにをぬかす!」

 

「貴方では……ゴール三世では帝国に先はない。ならば……」

 

 バイスはコクピットの中で強く拳を握りしめる。

 

「俺がやる! 俺が皇帝となり、恐竜帝国の未来を創る!」

 

 バイスの口から飛び出したのは、まさかの皇位簒奪宣言。

 当然ながらゴール三世は激怒し、顔を真っ赤にして反駁(はんぱく)する。

 

「ふ、ふざけるな!

 最下層の地リュウ一族なんぞに、恐竜帝国の民が従うものか!」

 

 コクピット内の機材を叩いて激昂するゴール三世。

 その時、真ゲッターザウルスの姿が消えた。

 そう。消えたとしか思えなかった。

 実際には移動……それは目にもとまらぬ超高速移動だった。

 そして鳴り響く破壊音と同時に、ゴール三世が乗る飛空船(レビテートシップ)がトゲが付きフレイルにより粉砕された。

 

「な、なんだあっ!?

 き、きさまっ! このゴール三世に攻撃をしたのかあっ!」

 

 ゴール三世は手元のコンソールを操作するが、機体はうんともすんとも言わない。

 たった一撃で機体は完全に破壊され、行動不能になっていた。

 その皇帝にバイスは冷たく言い放つ。

 

「そこで見ていろ。恐竜帝国に戻ったら譲位を宣言してもらう」

 

「ば、ばかな……」

 

「必要なのは力だ。圧倒的な力の前に、異を唱えられる者などいない。

 そう……この真ゲッターザウルスの前には!」

 

 そうして真ゲッターザウルスはゲッターアークに向き直ると、その武器『ダブルシュテルン』を構えた。

 バイスはその瞳に決意を込めて、アークチームに告げる。

 

「カムイ……もうお前に押し付けたりはしない。

 俺たちが人類を滅ぼす! 止めようというなら、来い!」

 

 慌ててザウルスチームの仲間もバイスに追従する。

 

「や、やるぞガンリュー!」

 

「お……おお!」

 

 そうしたバイスの決意表明と宣戦布告を受けて、アークチームも応える。

 

「上等じゃねえか! やるぞ、カムイ! 獏!」

 

「ああ……奴らを止める!」

 

「油断するなよ。ヤバい感じがビンビンするぜ!」

 

 かくして、戦いは幕を開けた。

 ゲッターアークと真ゲッターザウルス……地球人類とハチュウ人類との、雌雄を決する戦いが。

 

「ゲッタァァァァ! ビィィィィィムッ!!」

 

 まず開幕、口火を切ったのはアークによるゲッタービーム。

 拓馬は様子見などしない。先手必勝の原則に従い、自ら果敢に仕掛ける。

 これに対して、ザウルスチームの真ゲッターザウルスは――

 

「おおおおおおっ!!」

 

 バイスの気合一閃。

 銀の神経を通って注がれる、熱いプラーナ。

 どくん――と、竜の心臓が鼓動する。

 

「インシニレイト! ビィィィィィィム!!」

 

 (ほとばし)る焔炎。

 真ゲッターザウルスの喉奥から噴出した炎が、ゲッターアークの放った光線を、いとも容易く飲み込んだ。

 

「――!」

 

 拓馬は危機を察知した瞬間、反射的にゲッターアークの翼を展開していた。

 

「サンダーボンバァァァッ!!」

 

 まっすぐに伸びる極太の火焔に、9つの電光と1つの光線がぶつかる。

 サブ・スペースの空間に荒れ狂う暴虐の力。

 紅の竜炎と、雷の九頭龍。

 それらは押し合い、敵を屈服せんと絡み合い、そして――

 ……後に残るは、空間を歪めるほどの熱気と磁場。

 真ゲッターザウルスのインシニレイトビームは、ゲッタービームとサンダーボンバーの同時使用という機転によって、なんとか相殺することができた。

 だが、アークチームの背筋には冷たいものが流れていた。

 ほんの少し判断が遅れていれば、今ごろアークは消し炭になっていただろう……

 それほどの圧倒的な出力差を、彼らは今の一撃だけで感じ取った。

 

「おい! あんなもんカーンでも耐えられんぞ!」

 

「ああ。あれを撃たせるのはまずい」

 

「なら決まってる!」

 

 言うが早いかゲッターアークは真ゲッターザウルスに突撃し、接近戦を挑む。

 しかしこちらが敵の間合いに入るより先に……

 

「――拓馬!」

 

 獏の声。

 拓馬の手は考えるより先に動き、ゲッターアークに防御姿勢をとらせた。

 次の瞬間、アークの全身に大きな衝撃が走る。

 気付くと真ゲッターザウルスは目の前にはおらず、ゲッターアークの背後にいた。

 超高速で動いた真ゲッターザウルスが、通り過ぎざまにフレイルを当ててきた……と、アークチームはすぐに理解した。

 その異常な速度は、すでにゴール三世への攻撃で目にしている。

 ……が、改めてその脅威を自身に向けられ、アークチームは戦慄を禁じえなかった。

 

「嘘だろ、速すぎる!」

 

「やつの速度は、明らかにキリクよりも上だ」

 

「速さだったら、こっちだってあんだよ!」

 

 ゲッターアークは、手斧を持った両手を交差するよう構える。

 二天一流、烈動の構え。

 ノイバーのマッド・マザーを打倒した最速の剣技だ。

 しかし……

 再び真ゲッターザウルスの姿が消える。

 

「う――」

 

 打撃音と、衝撃。

 砕けた装甲を撒き散らし、吹き飛ばされるゲッターアーク。

 迎撃は失敗した。

 烈動の構えでは、真ゲッターザウルスの速度に対応できない。

 まず敵の攻撃に対して反応できないのであれば、こちらの攻撃がどれだけ速かろうと意味がない。

 

「くそっ、まだまだ!」

 

 拓馬は特殊な構えを捨て、自然体でトマホークを握る。

 全身から力を抜き、心身をリラックスさせ、敵の動きを察することのみに全ての意識を傾ける――

 

(そうだ。なにも本当に消えてるわけじゃねえ……ただ速く動いてるだけだ)

 

 真ゲッターザウルスの姿が消えた瞬間、拓馬は動いた。

 

「……そこだ!」

 

 集中力を極限まで高めた拓馬ならば、その攻撃の初動を捉えることも可能。

 

 一方の手斧による受け。

 同時に、もう一方での返し――

 

 大神一郎に教わった二天一流の勢法である。

 

「くらえっ!」

 

 トマホークの刃が真ゲッターザウルスの胴を薙ぐ、が……

 がきん、と拒絶の音をたてて刃が弾かれた。

 

「なんだと!」

 

 反撃は確かに成功した。

 したが……ゲッタートマホークは切っ先が立たず、逆に堅固な装甲で弾き飛ばされてしまった。

 硬い。あまりにも硬すぎる。

 それを見てカムイが口を開く。

 

「これは……まさか超合金ニューZか……?」

 

「そうだ! よく分かったな!」

 

 カムイの呟きをバイスは肯定した。

 その事実はアークチームに衝撃を与える。

 

「まじかよ、カーン以上の硬さってことじゃねえか」

 

「そして速度もキリク以上……」

 

「ついでにアークよりも火力が上ってか。

 こんなもん造るのはアイツだよな……

 へっ、そりゃあ付け焼き刃なんか通じねえわけだ」

 

 明確に浮き彫りになった彼我(かが)の戦力差。

 正面からの真っ当な戦い方では、自分たちに勝ち目がないことをアークチームは悟った。

 それでもカムイは冷静に分析を進める。

 逆転の一手を掴み取るために。

 

「弱点がないわけではないだろう。

 例えば、関節部などは超合金で作るわけにはいかないはずだ」

 

 その言葉を頼りに拓馬は関節部への反撃を試みる。

 だがそれは難しかった。

 関節部が弱点となることは、とうの昔にザウルスチームも製作者(オラシオ)から告げられている。

 そのためバイスは戦い始めた時からずっと、関節部にだけは攻撃を受けないようにと、カバーして立ち回っている。

 ザウルスの異常な速度も合わさり、これでは関節部への攻撃など通すことはできない。

 

「そんなら、これならどうだ!

 驚けお前ら、俺の魔法を見せてやるぜ!」

 

 などと言って、ゲッターアークはその場でコマのように回転。

 するとアークを中心として、緑色をした風の渦が巻き起こる。

 

「むっ……!」

 

 竜巻に隠れてゲッターアークの姿が見えなくなったことで、バイスは警戒して攻撃を止める。

 そこに拓馬は仕掛けた。

 

魔法騎士(マジックナイト)直伝! 緑の竜巻だぁぁぁぁぁっ!!」

 

 勿論それは魔法ではないし、彼は魔法騎士(マジックナイト)に教わってもいない。

 放出されたゲッター線が渦を巻いただけだ。

 拓馬はその竜巻を(まと)ったまま敵機に向けて突撃。

 緑色の暴風が真ゲッターザウルスを飲み込む。……が、この程度の威力で手傷を受ける超合金ニューZではない。

 しかし拓馬の狙いは別にあった。

 竜巻による目くらましによって、ゲッターアークは敵機の至近距離に接近。

 ほぼゼロ距離まで近付いたアークは渾身のビームを放つ。

 

「くらえっ! ゲッタービィィィムッ!!」

 

「なにっ!?」

 

 予想外の攻撃を受けてバイスは反射的に身を(かわ)す。

 その結果、肩関節を狙ったビームは真ゲッターザウルスの胴体に命中した。

 

「ちっ、失敗……

 ……うん? なんだ?」

 

 そこに拓馬は違和感を覚える。

 ゲッタービームを受けた真ゲッターザウルスの胸部。

 その硬い装甲もさすがに歪んだ……ように見えたが、違った。

 

「待て、まさかこれは……」

 

「冗談だろ」

 

「こいつ……進化したってのか!?」

 

 なんということか。

 高濃度のゲッター線を浴びた超合金ニューZは――さらに強度を増した物質へと進化を遂げたのだった。

 

 

***

 

 

「ハッハッハッハッ! いやはや、これは傑作じゃないか!

 まさか超合金ニューZαになってしまうとはねぇ!」

 

 スクリーン越しにその光景を目にしたアレクシスは、たまらず手を叩いて笑い声をあげた。

 

「しかしこれは……

 いよいよもって、ゲッターアークに勝ち目がなくなってしまったんじゃないかな?」

 

 ここまで来ると、この後の展開を心配してしまう。

 そんなアレクシスに対して、その隣でスクリーンに視線を注いでいるオラシオは――

 

「…………」

 

 何故か、今にも悪態をつきそうなくらいの渋い表情で顔を歪ませていた。

 

 

***

 

 

 ここまでに拓馬は、ありとあらゆる手札を投入して戦いを繰り広げてきたが……ついに結果が出た。

 ――この敵には勝てない、と。

 だというのに、拓馬の表情には(かげ)りが見えなかった。

 なぜなら彼は知っているからだ。

 こんな時に、どうすればいいのかを。

 

「そうかよ。だったら行くぜ! オープンゲットだ!」

 

 アークでは対応できないと見るや、彼らは一か八かの分離・再合体を試みる。

 異なる形態に変形することによって、あらゆる状況に対応できる……

 これこそがゲッターロボ最大の強みだ。

 しかしザウルスチームとて、ゲッターロボを駆る者。

 彼らも重々承知している。合体中がゲッターロボ最大の弱点であるということを。

 

(狙いは集合地点……)

 

 威力は要らない。ゲッターロボは合体に失敗すれば、その衝撃に耐えられずバラバラに分解する。

 バイスは分離した3機の動きを見定め、合体する瞬間を待つ。

 

「……そこだ!」

 

 アーク号、キリク号、カーン号が虚空の一点へと集合した瞬間、真ゲッターザウルスが握ったダブルシュテルンが唸りをあげる。

 ……しかしその鉄棍は空を切った。

 アークチームは合体のために集合する直前、3機ともに急速旋回して方向を変え、真ゲッターザウルスの攻撃を回避したのだ。

 

「なに!?」

 

 これには驚愕するバイス。

 その間にアークチームはすぐさま集合して、合体した。

 そこで現れたのは、ゲッターカーン。

 

「よっしゃ、やったれ獏!」

 

 合体に成功したゲッターカーンを、バイスは悔恨(かいこん)の表情で見据える。

 

「くっ……これは俺のミスだ。合体を狙う必要などなかった」

 

 もっとシンプルに、分離した3機のうちの1機だけを狙えば良かったのだと、後になってバイスは気付く。

 そしてそれはアークチームも理解していた。

 カムイは仲間に告げる。

 

「分かっているな、獏。

 今のは上手くいったが、次はないだろう」

 

 もう変形はできない。

 つまり、このカーン形態で真ゲッターザウルスを攻略するしかないということだ。

 ゲッターカーンで来るとは思っていなかったザウルスチームは、わずかに戸惑う。

 

「カーンか。どうする、バイス?」

 

「奴ら、何か策があるのか……?」

 

 警戒するゴズロとガンリューを安心させるように、バイスは努めて冷静な声色で言う。

 

「問題ない、やることは変わらん」

 

 そう言って真ゲッターザウルスは再びダブルシュテルンを構え直す。

 そしてこれまでと同様に、超高速移動でゲッターカーンの横を通り、トゲ付きの鉄球を当てていく。

 同じように2回、3回、4回……

 繰り返すうちに、バイスは手応えがおかしいことに気がついた。

 

「なんだ……?」

 

「どうした、バイス?」

 

「どうも、こちらの攻撃がうまく当たっていない」

 

 攻撃は当たっている……が、直撃していない。

 ザウルスチームには、その理由が分からない。ゲッターカーンは鈍重な形態であり、真ゲッターザウルスの高速移動攻撃を避けられるはずがないからだ。

 

 カーンが直撃を回避する理由。

 それは獏の予知能力によるものだった。

 この世界のサイコミュ技術や、優れた予知能力者であるギリアムのデータ等を活用した訓練プログラムによって、獏の予知能力は以前よりも鍛えられている。

 今では、ある程度なら自分の意志で力をコントロールできるようになっていた。

 とはいえ、それでもカーンの速度では限界がある。

 敵の攻撃箇所・タイミングを先読みできても、完全には避けきれない。

 ザウルスチームもそこに気付いて、打撃の手応えのなさには構わず、攻撃を繰り返すことを選択した。

 徐々に、少しずつ、カーンの装甲が削られていく……

 

「おいコラ! 何をビビっとるんじゃバカタレ獏!

 お前キンタマついてんのか!」

 

「う、うるせえ!

 くそっ、分かったよ。覚悟決めたぜ!」

 

 ゲッターカーンは両手を広げて、ザウルスの攻撃を待ち構える姿勢をとる。

 それは例えて言うなら、大相撲で横綱が土俵入りする折の姿勢、『不知火型』に似ていた。

 しかしそれは、あまりにも分かりやすい構えだった。

 バイスは瞬時に獏の意図を察する。

 

「攻撃の瞬間を狙って捕まえるつもりか。

 なるほど確かに、こちらのスピードにも目が慣れ、タイミングも掴んできた頃合いだろう。

 ……甘いな、アークチーム!

 この真ゲッターザウルスの力を思い知らせてやる!」

 

 そう言うとバイスは、これまで7割ほどにセーブしていた光子力エンジンをフル稼働させた。

 再び真ゲッターザウルスの姿が()き消える。

 獏は未来予知によって、その動きを予測できていた。

 攻撃が来る場所。タイミング。

 それが分かれば、あとは先に手を置いておくだけ――

 予知の通りに、カーンの腕は横を通り過ぎようとする真ゲッターザウルスの腕を掴む。

 

 ……だが、ここに落とし穴がある。

 

 オラシオ・コジャーソによって真ゲッターザウルスに与えられた設計思想。

 それは“速度は威力”である。

 真ゲッターザウルスを掴んだゲッターカーンの腕。

 掴んだ時には、その腕は完全に破壊されていた。

 速度を増したことにより破壊力も上げた鈍器の殴打によって。

 肘が砕け、千切れるゲッターカーンの腕。

 

「――今だ!」

 

 その時、攻撃を受けた瞬間にカムイはボタンを押していた。

 それはリペアキットの使用ボタン。

 白く光るナノマシンがゲッターカーンの肘を覆い……次の瞬間には元通りに修復されていた。

 これがセニアの改良による効果。

 ゲッターアークに積まれた特製リペアキットは、あらかじめ修復箇所を指定することで、瞬間的な修理を可能としたのだ。

 ただ一度だけの瞬間回復。

 これを予想することは、ザウルスチームには不可能だった。

 通り過ぎようとしていた真ゲッターザウルスの体が止まり、バイスは何が起きたか分からず戸惑う。

 

「なんだ!?」

 

「捕まえたぜ」

 

 カーンの手が真ゲッターザウルスを引き寄せる。

 そして二度と離してなるかと言わんばかりに、カーンはその両手を真ゲッターザウルスの後ろに回して締め上げた!

 拓馬も興奮して声をあげる。

 

「いいぞ! がっぷり四つだ!」

 

 それは大相撲であれば鯖折り、レスリングであればベアハッグと呼ばれる絞め技であった。

 

 

***

 

 

 オラシオは大きく目を開いて驚愕した。

 

「しまった! その手があったか!」

 

 関節部に攻撃を加えるのではなく、圧迫により関節部に負荷をかける――

 その攻略法は、完全にオラシオの想定外だった。

 それも当然ではある。彼のいた世界では幻晶騎士(シルエットナイト)が格闘戦をしたデータなど、皆無に等しい。

 そしてオラシオ自身も格闘技の心得など一切ない。

 絞め技を使うなどといった発想が出てくるはずがないのだ。

 

 

***

 

 

 めき、ぎり、と。

 関節部から鳴る嫌な音は、ザウルスチームのコクピットにも届いていた。

 バイスは必死に振りほどこうとするが、万力のごとき膂力(りょりょく)で締め上げられ、抜け出すことができない。

 

「うおおおっ! こ、これがゲッターカーンのパワーなのか!?」

 

「ぬうりゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ま、まずい……」

 

「このままじゃ壊れるぞ、バイス!」

 

 ガンリューの言う通り、真ゲッターザウルスの関節部は悲鳴をあげ、今にも破壊されようとしている。

 バイスの脳裏によぎる“敗北”の二字。

 

「負けるかッ……!

 うおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 気焔(きえん)を吐き、もはや後先など考えられぬと、全力で暴れるバイス。

 そしてついに真ゲッターザウルスはゲッターカーンの拘束を振りほどいた。

 ザウルスチームは歓喜の声をあげる。

 

「やったぞ!」

 

「関節可動部……損傷軽微、問題なしだ!」

 

「はあ、はあ……

 やってくれたな山岸獏……だが勝負はもらった!」

 

 すぐさまバイスは再攻撃しようと、ダブルシュテルンを振りかざす。

 ……だが攻撃は行われなかった。

 真ゲッターザウルスは、その場に停止していた。

 

「……!?

 どうした、なぜ動かない!?」

 

 ガンリューが慌てて計器に目を向け、その原因を見つける。

 

「あ……え、エーテルスラスターが壊れてる……!」

 

「なんだと!?」

 

 その言葉に、がつんと頭を殴られたような衝撃を受けるバイス。

 獏の狙いは圧迫による関節部の破壊だけではなかった。

 ゲッターカーンは真ゲッターザウルスの背中に手を回すと同時に、背面のエーテルスラスターを破壊していたのだ。

 

「どうよ、これが二段構えの策ってヤツだ」

 

「でかした獏!」

 

「これでもう、これまでのように速くは動けまい」

 

 カムイの言う通り、真ゲッターザウルスの高速移動は封じられた。

 ガンリューはスラスター破損の影響を必死に計算する。

 

「移動はできる、が……真ゲッターザウルスの加速力、87%減……」

 

「な……」

 

 バイスは絶句する。

 それはもはや移動不能と同義だ。

 

 ここにきて戦況は一変した。

 カーンと獏が繰り出した起死回生の一手によって、戦況は完全に逆転。

 つい少し前まで真ゲッターザウルスが圧倒的優位だったはずが、今では圧倒的にゲッターアークが有利な状況である。

 

「だ、だめだ……これじゃどうしようも……」

 

「ちくしょう、俺たちじゃ勝てないってのか」

 

「…………」

 

 負ける――

 今度こそ敗北の足音が背後に迫るのを感じる。

 

(負けるのか、俺は……)

 

 絶体絶命の状況でバイスの心に去来した気持ちは、氷のような冷たい絶望と――

 

(あの予知した未来のように……

 俺はまた、何もかもカムイに押し付けようというのか……?)

 

 同時に腹の奥から湧き上がる、マグマのような激情だった。

 

「……ざけるな」

 

「バイス?」

 

「ふざけるなッ!

 俺は! こんなことで!

 負けられるかァァァァァァッ!!!」

 

 それは自分と、世界と、運命のすべてに向けた怒りの大噴火。

 竜の心臓は、その魂の叫びに呼応する。

 瞬時にして真ゲッターザウルスの回路を満たした大量のプラーナ。

 その熱い血潮を受けて、竜血炉(ブラッドグレイル)が起動した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

***

 

 

 竜血炉(ブラッドグレイル)を起動させる真ゲッターザウルスをモニター越しに見て、アレクシスは首をひねった。

 

「うん? 出力がこれ以上に上がっても、スラスターが壊れていてはスピードは出せない……これでは状況は変わらないように見えるが……」

 

 ちらりとオラシオの顔を見やると、先ほど狼狽していたのが嘘のように、彼の顔には勝利を確信した安堵が広がっていた。

 

「これが俺の用意した、真ゲッターザウルスの奥の手だ」

 

 取り澄まして言うオラシオ。

 アレクシスは改めて大型ディスプレイを見上げる。

 そこでは真ゲッターザウルスが燃えるように真っ赤に発熱していた。

 そしてその変化は、機体の周囲にも及んでいるようだった。

 

「とんでもない熱量だねぇ。

 周辺の温度は、数千度にまで上がっているようだ。しかし……」

 

「この程度は耐えられるように造られてるだろう。ゲッターアークはな。

 だが、中に乗ってる人間はどうだ?

 しかも今は、戦いの中で損傷して気密性に穴ができているはずだ」

 

「なるほど! それは人類には耐えられない!」

 

 案の定、ゲッターアークの中では、3人のパイロットが地獄のような熱波に悶えていた。

 人間離れしたアークチームなら数百度程度なら我慢できる可能性はある。

 しかしそれ以上、数千度となれば話は別だ。

 オラシオはアレクシスに向けて解説する。

 

「以前見たゲッターアークとバグの戦い……あれが参考になった。

 人間は暑さに弱い。

 だがハチュウ人類は熱への耐性を持つことが、ザウルスチームの身体検査で分かった」

 

 すなわち超高熱下で戦いは、ザウルスチームに大幅有利となる。

 

「面白いじゃないか! 種族の特性を活かすとはねぇ。

 ……しかしこれは、策としては問題があるのでは?」

 

 竜血炉(ブラッドグレイル)の起動には高いプラーナを必要とする。

 現に、今までザウルスチームが起動できたのはインシニレイトビームを放つ瞬間だけであり、追い詰められた今になってようやく継続稼働を可能とした。

 アレクシスの指摘の通り、これは策というより、ザウルスチームに期待した賭けに近い。

 

「だから言っただろう、『やる気さえあれば』と。

 ザウルスチームがアークチームに勝ってるのは身体能力だけだ。

 ただ……」

 

「ただ?」

 

「ザウルスチームの連中は、最初から殉職する気で来てる。

 だから状況によっては、アークチームより高いプラーナを出す可能性がある、と俺は踏んだ」

 

「なるほど……

 不確定要素はあるが、それなりに筋の通った賭けだったわけだね」

 

 そして結果はオラシオの読み通り。

 真ゲッターザウルスは竜血炉(ブラッドグレイル)を稼働させ、再び戦局の優位を作り出した。

 オラシオは業火に包まれるゲッターカーンを見つめて言う。

 

「こうなっちまったらもう、腕の差なんざ関係ない。

 さあて……どうするアークチーム?」




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・テレビアニメ『ゲッターロボ』第2話サブタイトルが「決戦!三大メカザウルス」。ゲッターロボのサブタイトルには他にも「◯◯!××××××」という形式でつけられていることが多い。(例:「ムサシ!男はつらい」「大爆発!くたばれ恐竜帝国」等)

・シンカリオンはその名の通り「進化」がかかっており、主人公の名前が「ハヤト」であったりと、ゲッターロボとの共通点が多い。

・『ゲッターロボアーク』でアークチームがゾーンを通って未来に向かおうとした時、ゾーンの向こうで敵が待ち構えていたため、アークはサンダーボンバーしながら飛び込んだ。

・『虚無戦史MIROKU』の主人公・無幻美勒は「九龍覇剣・虚空斬破」という技を得意としている。マサキも漢字が一字違うだけの「虚空斬波」を使用する。九龍忍法と無窮流には何か関わりがあのかもしれない。なお、虚空斬波は元々ディスカッターで攻撃する時に言っていただけの謎の言葉だったが、後にサイバスターの武器として実装された。

・『魔装機神2』では、魔装機神操者の義務に縛られて戦いの意義を失いかけていたマサキが、フェイルを含めた故人の魂と対話して初心を取り戻すというイベントがある。この時、精霊によって改造されたサイバスターは「プラーナディスチャージ」が使用可能になる。ディスチャージ(discharge)とは「放出」の意味であり、プラーナを放出する技。つまり剣神ランドールが使用していた技と同じである。

・フェイルが自分の乗機であるデュラクシールから脱出装置を外したのは、マサキに討たれた後に自分が生き残っていると再び争いの火種になってしまうため。なお、『魔装機神LOE 2章』では、このデュラクシールのコピーに乗ってマサキ達と戦ったキャラクターがいるが、脱出装置を外した状態の設計図を元にしてしまったようで、脱出できずに死亡した。

・『ゲッターロボアーク』の原作漫画版とアニメ版ではザウルスチームの設定が大きく違っている、というより全くの別人となっており、アニメ版のザウルスチームはカムイに対して敬語で話しており完全に忠臣といったスタンス。しかし漫画版では敬語を一切使わない。

・龍咲海は水属性の魔法を使うが、なぜかその中に「蒼い竜巻」というものがある。おそらく海自身が渦巻きのことを「竜巻」という語で認識しているのだと考えられる。(メタ的に考えると言葉の格好良さ・語呂を重視したのだと思われる)

・『ゲッターロボアーク』のアニメ版オリジナル技として、緑のゲッター線を纏った竜巻で攻撃する「トマホークハリケーン」がある。これはスパロボDDには実装されているが、スパロボYでは使用できない。

・マジンガーZの装甲に使われている素材が「超合金ニューZ」で、マジンカイザーは「超合金ニューZα」。マジンカイザーが初めて世に出た『第4次スパロボF完結編』では、マジンカイザーは「ゲッター線を浴びて進化したマジンガーZ」という設定だった。(後の作品では、この設定は採用されていない)

【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
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