「何だあんた? 誰かの知り合いか?」
いきなり現れた怪しい男に問いかける獏。
その問いに対して、男は芝居がかった口調で自己紹介を行う。
「おおっとぉ? これは失礼。
私、オラシオ・コジャーソと申します。
ジャロウデク王国で……まぁ、しがない技術者をしている身で。
先日から、そこにある早乙女研究所の調査をしていたのですが……私の手ではどうにもならずに、困っていたのですよ」
オラシオ・コジャーソ。拓馬たちはもちろん、マサキも知らない名だ。
しかしジャロウデクという国名には、マサキは覚えがあった。
この世界では並行世界とは別の異世界が存在する。その異世界にいくつかある国のひとつが、ジャロウデク王国だ。
現在、ジャロウデク王国軍はDBDにより次元の境界が不安定になったことを利用し、地球へと侵攻してきている。
こうした話をマサキは皆に説明した。
「おいおい、今度は異世界かよ!
どんだけ何でもありなんだよ、この世界はよ」
「まったくだ。こうなったら怪獣が現れたって驚かないぜ」
もはや驚きを通り越して呆れてしまう拓馬と獏。
マサキはこれ以上に話がややこしくなることを避けるため、すでに怪獣も現れていることは黙っておいた。
「異世界って、要するにラ・ギアスみたいなものよね。
でも、この世界の地球人にとっては敵なのよね?」
こちらの世界の事情に明るくない拓馬たちは、マサキの意見を聞こうと目を向ける。
しかしマサキよりも先に、オラシオが口を開いた。
「どうでもよくないですかぁ? 国とか所属とか。
そんなことより! アナタ、あの白い機体の
「ああ、そうだが。それがどうした?」
マサキが肯定すると、オラシオは激しく興奮した様子で話し出す。
「あの加速! そして無理なく美しい、芸術的な旋回性能!
素晴らしい……あれこそ
……ですが、なぜ人型に変形を?」
「いや、人型に変形っつーか……人型からサイバードに変形するんだが……」
どうやらオラシオ・コジャーソの目には、飛行機形態であるサイバードが通常の形態に見えるようだった。
その思い違いはともかく、いきなり熱狂的にまくしたてられたマサキはたじろぐ。
しかしそんな反応も気にすることなく、その異様なテンションそのままに、オラシオはアークチームにも詰め寄る。
「あのゲッターロボのパイロットはアナタ達ですね?
何です? 何なんですか、あの軌道は!?
ああ、あのように空を自由に飛べたら……さぞ楽しいでしょうねえ!
……どうです? 私を乗せていただけませんか?」
大きく目を見開いて、狂気じみた様相でアークチームに迫るオラシオ。
引き気味に後ずさる拓馬に代わって、カムイが答える。
「やめておけ。常人がゲッターに乗れば、最初の加速で全身の骨が砕ける」
これにはさすがのオラシオも驚愕する。
「な、なんと……操縦者の身体強度を前提に……?
そんな設計思想があるとは……!」
オラシオは地球のロボットの設計に驚く。
が、その一方でカムイの顔を気にした様子はなかった。
それが逆に気になったシロはオラシオに
「そっちの世界じゃ、カムイみたいニャ顔は珍しくニャいのか?」
「顔? ああ……。
目が3つも4つもある
そう言うオラシオは、喋る猫もあまり気にしていないようだった。
異世界の文化と当人の嗜好が相まって、独特の価値観を形成しているオラシオ。
そんな奇妙な異邦人との距離感を測りかねて、マサキや拓馬らは戸惑っている。
そんな中で、オラシオに笑顔で話しかけたのはセニアだった。
「サイバスターが気に入ったの? ふふふ、なかなかお目が高いわね」
セニアは全魔装機の中でサイバスターが最も好きだと公言しており、そのサイバスターを褒められたのが嬉しいのだ。
同好の士を見つけたようなゴキゲンな気分で、セニアはオラシオに尋ねる。
「それじゃ、あたしのノルス・レイはどう?」
「は? クソですね」
「……へ?」
ぴたりと固まるセニア。
オラシオはすぐ近くに立っているノルス・レイを、まるでゴミでも見るかのような目で一瞥して言う。
「まず人型という時点で意味が分からないのに……何ですかねぇ? あの無駄な装飾は? そんな資金があるんだったら、装甲の一枚でも追加するべきでしょうよ」
兵器に求められるのは合理性のみ。それがオラシオ・コジャーソの持つ信条だ。彼は大空を思いのままに飛ぶことを夢見ており、兵器開発はそのための資金集めだと完全に割り切っている。
対するセニアは、機械好きが高じて研究者になったタイプだ。彼女にとってのロボットは趣味の延長線上にあるため、合理性の大切さは重々承知しつつも、浪漫や格好良さは外せない。
水と油……とまでは行かないにしても、なかなか相容れない二人だった。
「あぁ、目からビームなんかも出していましたね。いったい何の冗談ですかねぇ? わざわざ顔の形にしなければ、もっと小型化して被弾を減らせますよね?
ハァ~……非効率極まりない! 設計者はバカですね、純粋に頭の出来が悪いですよ」
「は……はぁ~~~!? なによそれ!?」
自分の愛機を滅茶苦茶にこき下ろされたセニアは怒り心頭。一歩も引かない二人の激しい口論が勃発する。
「兵器は兵器。最小の費用で最大の戦果をあげる、それ意外に何があるのでしょうか? ロボットぉ? 浪漫? そんなモノはぁ~……ゴミ箱にドン! ですよ!」
「ロボットが人型なのは汎用性を考えてるの! 人命救助や人々の心理的不安の軽減とか……ただの兵器じゃないんだから。それに、兵器開発者には良心が必要よ! 効率と成果だけを考えるなんて、科学者としてあるまじき姿勢だわ!」
「良心~? 依頼の通りに造って納品した技術者が、なぜ責任を負わなくてはならないんです? 兵器も道具なのですから、使った人間の責任ですよねぇ?」
ヒートアップして止まらない二人の様子に、クロとシロも呆れる。
「あ~あ、二人とも熱くニャっちゃってるわね……」
「っていうか、早乙女研究所の話はどこに行ったんだニャ?
身のある話とか言ってた当人が、一番どうでもいい事ばっかり言ってるニャ」
「……まあ、本人にとっちゃ大事なことなんだろうよ。
にしても、早乙女研究所のことは気になるからな。セニア、そろそろいいか?」
「なによ? こんなやつから話を聞くの? 信用できないと思うけど」
第一印象が最悪だっただけでなく、口論していく中で科学技術に対する考え方の違いも浮き彫りになり、セニアはオラシオを強く警戒している。
しかしマサキの考えは、セニアのそれとは少し違った。
「たしかに危険だが、悪いやつじゃないと思う」
「悪いやつじゃないって……こいつが?」
「ああ。ゼツみたいなマッドサイエンティストとは違いそうだ」
ゼツ=ラアス=ブラギオ。かつてマサキたちが敵対したラ・ギアスの錬金学士で、“生きた人間の脳を魔装機に組み込む”という非道を行った人物だ。
「少なくとも、そいつから悪い気は感じねえ」
マサキは人のプラーナを敏感に感じ取る。そのマサキの見立てが信用できることを、セニアは知っていた。
とはいえ、「はいそうですか」とすぐに納得できるものでもない。セニアはアークチームに目を向けた。
「あなた達はどう? こいつを信用できると思う?」
その問いに対してカムイが答える。
「信用する必要はないだろう。利害が一致すればそれでいい。
兵器は使い手次第という考えも、俺としては同感だ」
そんなカムイの言葉に拓馬と獏も同意する。
「要するに敷島博士みたいなもんだろ? なら別にいいんじゃねえか」
「むしろ敷島博士と比べたら、大分まともなんじゃないか?」
「だな」
善悪に頓着のない危険な科学者など、ゲッターチームの面々にとっては馴染み深いとすら言えるものだ。早乙女研究所での暮らしが長いカムイなどは特に、オラシオ以上にエキセントリックな科学者の姿を飽きるほど見ているのだった。
「くっ……そうね、ゲッターチームならそうよね」
どうやら味方がいないことを悟って、セニアも諦める。
「しょうがないか。この後どうするにしても、とりあえず話は聞いとかないといけないしね」
意見がまとまったところで、オラシオは自らの事情を語る。
地球の技術を参考にするべく独自に調査していたオラシオは、閉鎖されている早乙女研究所に目をつけ、何か情報が残っていることを期待してやって来た。
しかし研究所は完全に廃墟となっており、書物もなければロボットのひとつも見当たらない。しかも建物には動力が通っておらず機械も動かない。
無駄足かと落胆したオラシオだったが、注意深く探索を続けたところ、地下への隠し扉を発見する。どうも地下には動力が通っているようだったが、分厚い扉にはロックがかかっており開けることができない。
そうして途方に暮れていたところに拓馬たちが現れた、ということだ。
「ここは完全に解体されたって聞いてたがな。
地球連邦が見つけられなかった地下施設があるってのか?」
マサキの疑問にカムイが答える。
「俺の知る早乙女研究所とは違うだろうが……ありえる話だ。
俺たちがいた世界の早乙女研究所では、敵襲に備えて隠し通路がいくつも用意されていた」
拓馬と獏も頷く。
「何度も敵に侵入されてるらしいからな、早乙女研究所は」
「それに増改築を繰り返してるから、施設の全貌がワケ分からん事になってるよな」
一同はオラシオに案内を任せ、その隠し扉を確認しに行くことにした。
電気の通わぬ暗い通路を進んだ先、部屋と部屋の隙き間にある隠し通路から地下への階段を降りた先に、それはあった。
「デカイ扉だな。そして電子ロックがかかってると。いかにも何か隠してますって感じだ」
「こちらの世界の機械……コンピュータ? については調べたんですけどねぇ。
さすがに私もお手上げでして。
「よし、いっちょ開けられるか試してみるか。
ここも早乙女研究所なら、こうして繋げれてやれば……」
獏が端末を取り出し、ハッキングを試みる。その様子を後ろから見るセニアは、感心した声を出す。
「へえ、手際いいのね」
「へっへ、ゲッターロボをハックしたこともあるんだぜ。
俺には軽めの予知能力があってな。パスワードとか、設計者が作ったバックドアとか、なんとなく分かっちまうんだ」
「なんとなく、って……すごいわね。まるでデュカキスみたい」
「デュカキス?」
「あたしが作った、論理飛躍が可能なコンピュータよ」
そんな獏とセニアの会話にオラシオが口を挟む。
「論理飛躍が可能……? 一体どういうことです?」
「簡単に言うと、勘がいいコンピュータね。さっき獏が言ってたみたいな事ができるのよ。持ち運べるようなものじゃないから、ここにはないけどね」
「なんと……そんなものが……!」
地球の科学技術についてある程度は調べていても……いや、だからこそオラシオは衝撃を受ける。オラシオの専門はエーテル等の基礎研究と設計であり、ソフトウェアの方向にはあまり明るくない。しかしそれでも想像力に長ける彼には、ラ・ギアスの技術が地上と比べても遥かに高いことが理解できた。
それからしばらく端末を忙しく操作する獏を全員で見守っていたが、10分ほど経ったところで、しびれをきらしたマサキが声をかける。
「で、どうなんだ? ハッキングできそうか?」
「いや、それがどうも……」
獏とセニア、優秀なハッカーふたりが揃って首をひねっている。
「これ、あたしの知ってる地上のコンピュータとはOSが違ってるみたい」
「セニアもか? 俺の世界のやつとも違うな」
彼らは知らない事だが、この世界の地球圏ではエヴァ・フォルツォイクという科学者が開発したシステム『フォルツォイクロン』が、あらゆるコンピュータに組み込まれている。
そのため一見して似たような世界であっても、コンピュータ周りの勝手がだいぶ違っているのだ。
「それじゃ、この扉は開けられないのか?」
「ウーム、俺にゃ無理だな。セニアはどうだ?」
「ん~……できるとは思うけど、時間かかっちゃいそうね。早くても3日はかかるかな」
その答えにそれぞれが思案し、まずオラシオが最初に口を開く。
「3日ねぇ。それくらいなら私は構いませんが?
研究所の中には、非常食も残っていますしぃ?」
一方で、拓馬やカムイは違った提案をする。
「頑丈そうな扉だが、アークならぶっ壊せるぜ」
「いや、わざわざ扉を通らずともキリクなら地中を潜って行ける。壁は壊すことになるがな」
「どうする、マサキ?」
この世界の事情に通じているのはマサキしかいないので、自然とマサキに判断を仰ぐ形になる。
とはいえマサキとしても悩みどころだった。
ゲッターチームが早乙女研究所の近くに転移してきた事には、マサキは何らかの意味を感じていた。
何よりマサキ自身が、この扉の向こうに良くない気配を感じている。
しかし問題があった。現在、サイバスターは戦闘の直後でエネルギーに余裕がなく、またゲッターアークに至っては機体の修理も完了していない。
「よし、扉の奥を調べよう。だが今すぐはやめた方がいいな。魔装機は放っておけば少しずつエネルギーが溜まっていくが、ゲッターもそうだよな?」
「ああ。地球に降り注ぐゲッター線を吸収していくからな。早乙女研究所があるんなら、ゲッター線もあるだろ」
「なら、エネルギーの補充と機体の修理ができるまで待機だな。それまでに扉を開けられれば良し。無理なら壊す。それでどうだ?」
そのマサキの提案に全員が同意し、それぞれの作業に取りかかっていく。
セニアは扉のロック解除を始める前に、まずはゲッターアークの修理から終わらせた。
「助かった、感謝する。
ここまで直れば、後は俺たちだけで整備できる。拓馬、手伝え」
「おうよ。それじゃあセニア、獏。扉の方は任せたぜ」
「それなんだけど……ちょっと待ってくれる?」
「うん? まだ何かあんのか?」
セニアはノルス・レイを移動させて研究所の隣につけると、研究所の内部から引っ張ってきた配線をノルスと繋げて、なにやら色々な操作を始める。
それからしばらくすると、研究所の一部が突然明るくなった。電気が通ったのだ。
「うん、ノルスを発電機代わりにしてみたけど、上手くいったわね」
「そんなこともできるのかよ! すげえな!」
「このあたりは破損が少なかったからね。でも生活区域みたいだから、できるのはシャワーとか料理くらいかな。動かせるコンピュータも残ってるかもしれないけど」
「……!」
その言葉に大いに反応したのはオラシオだ。
よほど地球の技術を欲しているのだろう、いの一番に研究所の中へと駆け出していった。
***
そうして、それぞれが自分の作業を進め、夜になった。
あらかじめ決めていた食事の時間になったが、食堂にいるのは拓馬、カムイ、獏、マサキ、そしてシロとクロの4人と2匹だ。セニアとオラシオは作業を優先して食事の時間がずれ込んだため、ここにはいない。
すでにアークチームとマサキはすっかり打ち解けており、談笑しながら食事を摂る。
食事の最中、獏は思い出したようにマサキに尋ねた。
「そういやマサキ、お前も予知能力があるのか?」
「なんだいきなり? サイバスターを使えば未来見に似たような事はできるが……俺にはそんな力はないぞ」
「そうなのか。お前、拓馬の攻撃を全部避けてただろ。だからひょっとしたらと思ったんだが……」
「ああ、あれか。あれは相手のプラーナを読んでるんだ」
その耳慣れない言葉に、拓馬が横から聞き返す。
「プラーナ?」
「プラーナは生命エネルギー、いわゆる“気”ってやつだな。
俺がラ・ギアスで教わった無窮流の剣術は、プラーナの操作を重視してるんだ。戦いの最中に相手のプラーナを読めば、どこを攻撃しようとしてるかが先に分かる」
物心ついた時から新興宗教の教祖である兄のもとで精神修養を積んできた獏には、そういった“気”の存在は実感としてあった。だが、それを能動的に活かす術を知らない獏にとっては、衝撃的な話だった。
「気の流れを読んで、あそこまで正確に動きが分かるものなのか……」
「拓馬は特にプラーナが強くて、読みやすかったからな。プラーナの強さはお前ら3人とも相当なもんだが」
そんなマサキの話にカムイも興味を抱き、話に絡んでくる。
「生命エネルギーは人によって強さに違いがあるのか」
カムイの質問に、テーブルの上で缶詰を開けようと四苦八苦しているシロが答える。
「そうそう。魔装機神に乗るには高いプラーニャが必要だから、地上からマサキたちが召喚されたんだニャ」
カムイはシロが抱える缶詰を取り上げると、プルタブを引いて開け、中に入っているツナを小皿に移す。
「ありがとニャ、カムイ」
シロはご機嫌でツナ缶の中身に食いついた。
その横でマサキは話を続ける。
「プラーナは感情の起伏で増加するんだ。
これはゼオルートのおっさん……俺の剣術の師匠から聞いた話なんだけどな。
「生身の人間が、ってことか? とんでもねえな」
「ま、何千年も前の話だ。誇張されてるんだろうけどな」
「プラーナが感情で強まるんなら、拓馬が強いのは納得だな」
獏はそう考えて納得したが、しかし意外なことにその分析は否定された。
「ところがそうでもニャいのよね。
たしかにマサキや拓馬みたいに、荒っぽい人ほどプラーニャが高い傾向があるにはあるけど……」
「そうだな。普段は大人しそうに見えてもプラーナが低いとは限らねえ。
水の魔装機神ガッデスに乗ってるテュッティなんかはそうだし、この中で言えばカムイもだな」
「感情の“起伏”がポイント、ってわけか」
そう呟いて、珍しく難しい顔をして思案する拓馬。
獏も神妙な顔で考えながら口を開く。
「プラーナか……俺たちの世界より研究が進んでそうだな。
グリーンアース教ではインドのヨーガも修行に取り入れてたから、俺もプラーナーヤーマはよくやってたが……」
「プラーナってのはインドの言葉なのか?」
「インドの古語だな。プラーナは“呼吸”や“息吹”を意味するサンスクリット語だ」
その獏の説明に、意外なところから驚きの声があがる。
それはプラーナの説明を最初に始めたマサキ当人だ。
「そういう意味の言葉だったのか……」
「え? マサキ、知らニャかったのか?」
「いや、俺はてっきりラ・ギアスの専門用語だと……」
一同の間になんともいえない微妙な空気が流れる。
そんな話の流れを変えるように、獏が強い口調でマサキに申し出た。
「なあマサキ、プラーナの扱いを俺にも教えてくれないか?」
「俺が教える? そいつはちょっと……」
「門外不出なやつかもしれんが、そこをどうにか頼む!」
テーブルにぶつける勢いで頭を下げられ、マサキは答えに窮する。
「いや、門外不出なんてことはないが……人に教えられるほど俺も出来てるわけじゃねえし……人にものを教えるってガラでもねえしな」
「いいじゃニャいの。人に教えることで、新たな理解が得られることもあるんじゃニャい?」
「マサキ今日は何もしてニャかったし、どうせ明日もすることニャいんだから、少しは人の役に立つ事したらどうだニャ?」
そんな2匹の猫からの正論に対し、その主人たるマサキにできることは、悪態をつく事だけだった。
「うるせ、お前らは黙ってろ。
……ったく、わかったよ。でも獏、あんまり期待はしないでくれよな」
「ありがてえ! 明日は頼んだ!」
話がまとまったところで、拓馬は話を変える。
「そういやオラシオはどうだ?
獏、昼間はあいつのところにいたんだろ?」
「ああ。今日はまだやる事がないから、オラシオのやつにいろいろ教えてたんだが……いや、たまげたぜ。1を教えたら10も20も分かっちまう」
「そいつはすげえな。天才ってやつか」
「それでメシの時間だってのに、まだモニターと睨めっこしてるわけか……」
そう呟きながら拓馬は、食堂に来る前に声をかけたものの、一切返答を返さずモニターを凝視し続けるオラシオの姿を思い出していた。
***
そしてオラシオは今もモニターを至近距離から睨みつけていた。
研究所に電気が通った時から現在までずっと、オラシオは飲まず食わずで一心不乱に調査を続けている。
最初はキッチリしていた貴族風の服も、今ではだらしなく着崩していた。
そんなオラシオが、いきなり拳をキーボードに叩きつけて叫びだす。
「くそっ! このコンピュータも駄目かよ!」
そうしてどっかりと乱暴に椅子の背もたれに身を預けると、大きなため息を吐き出した。
「ハァ~~~~……情報が全部消されてんじゃねぇかよ。やっぱり地下に行かなきゃならねぇのか……」
コンピュータ室で独り言を呟くオラシオの口調は、他の者の前で見せる芝居がかった話し方とは違っている。要するに“素”が出ているのだ。
ジャロウデクでは王国開発研究工房長という立場ゆえ、王侯貴族と顔を合わせる機会が多い。そのため、人前では慣れない敬語を使おうとして慇懃無礼な発言や奇妙な立ち振る舞いになってしまう。だが一人でいる時には、こうした気だるげでずぼらな面が顔を出す。
「……やっぱり納得いかねぇ。もう1回データの復元を試してみるか……」
そうやって再びキーボードに手を伸ばしたところで、不意に部屋の扉が開いた。
そこからひょっこりと顔を出してくるのは、セニアだ。
「いつまでやってるの?
多分そのコンピュータはデータを復元できても、大した情報は出てこないわよ」
「うるさいですねぇ、人のすることに口を出さないでもらえます?」
オラシオは虫でも追い払うかのように、しっしっと手を振る。
しかしそんな程度で気後れするようなセニアではなかった。
「べつに止める気はないから、好きに続けていいわよ。あたしも研究してる時は外に出ないで籠もりきりになるし。でも何かお腹に入れておかなきゃ、頭が働かないわよ?」
そう言ってセニアは部屋の中へと無遠慮に踏み込むと、パスタが盛り付けられた皿を机の上に置いた。
「ほら、あたしが作ってあげたんだから」
「はぁ? 誰がそんなこと頼みましたかぁ?
余計なお世話という言葉は、地底人にはないんですかねぇ」
「ホントにひねくれてるわね……。
とりあえず置いとくから、食べても食べなくても、好きにして。じゃあね」
それだけ言ってセニアは部屋を後にした。
扉が閉まり再び独りになった部屋の中で、オラシオはデータの復元作業を再開する。だがすぐに行き詰まり、できる事がなくなってしまう。
「……さすがにこれ以上は時間の無駄か。
仮に復元できても、ろくな情報がないって話だしな……」
オラシオは先ほどセニアが言っていた言葉を反芻する。
少し話をしただけだが、セニアが技術者としても研究者としても稀に見るほど優秀な人間だということをオラシオは理解していた。自分の半分程度しか生きていない小娘が、自分よりも優れているかもしれないという予感。それはプライドの高いオラシオにとっては認めがたいことだった。その焦燥感が普段よりも言葉に棘を含ませていることは、オラシオ自身も薄々は気付いていた。
「……くそ」
ボリボリと乱暴に頭を
自分が誰かと比べて劣っているなど認めがたい。
……だが、認めるべきところは認めなければならない。
そうした高いプライドを持ちながらも自分を抑えるバランス感覚が、オラシオ・コジャーソという人間には備わっていた。
そしてオラシオの目が、セニアが置いていったパスタの皿を視界に捉える。
食事を摂らなくては頭が働かないというのは、まさに彼女の言う通りであり、認めなくてはならない事実だった。
「………………」
オラシオは仕方なく……といった感じに手を伸ばし、皿を引き寄せる。
そしてフォークでパスタを巻き取ると、それを口に入れる。
次の瞬間、オラシオの顔が固まった。
その顔色がみるみるうちに変わっていく。
「な……なんだこりゃあああ~~~~~~~っ!?」
夜の早乙女研究所に絶叫が響く。
かつて、セニアの兄であるフェイルロード=グラン=ビルセイアは、彼女の作った料理について、このように語った。
『セニアに料理させるのだけはよせ。……下手をすると命に関わる』
――と。
その後、早乙女研究所の食堂には奇声をあげてセニアに掴みかかろうとするオラシオと、それを止める拓馬。そして「少し配合を間違えた」などと不可解な言い訳をするセニアの姿が見られたのだった。
【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・飛空船(レビテートシップ)はオラシオの発明。飛空船のように空に浮く乗り物は、オラシオにより世界で初めて作られた。軍事戦略に革命を起こしたが、しかし機能としては空に浮いているだけで、移動には風を使わなくてはならなかった。戦闘能力はほとんど持っておらず、幻晶騎士(ロボット)の運搬が主な役割なので、残念ながらスパロボ30では影も形もなかった。
・錬金学士ゼツ=ラアス=ブラギオが“剣聖”シュメル=ヒュールの脳を取り込んで完成させた魔装機ガッツォーは、SFCの『魔装機神LOE』の中ではトップクラスの難敵。
・「未来見」とはラ・ギアスの予言者のこと。ラ・ギアスでは予言の理論が確立されており、予言された未来を回避する努力をしない限り、ほぼ100%的中する。神聖ラングラン王国の未来見が「ラングランは滅び、ラ・ギアス全土に大いなる災いが訪れる」と予言したことで、それに対抗するためマサキたち地上人が召喚された。
・ゼオルート=ザン=ゼノサキスはラ・ギアスでのマサキの身元引受人であり養父。“剣皇”と呼ばれ、上記のシュメル=ヒュールとはライバル関係にあった。マサキのライバルとなるシュウ=シラカワを止めるために戦い、一矢報いながらも敗れ、マサキの目の前で命を落とした。
・ランドール=ゼノサキスは『魔装機神』シリーズの生みの親である阪田雅彦氏によるWeb小説『ラングラン戦記』の主人公。その末裔が上記のゼオルート=ザン=ゼノサキス。そしてサイバスターに選ばれたマサキは、神聖ラングラン国王よりランドール=ザン=ゼノサキスの聖号を授与される……という繋がりがある。しかしマサキはその後、ラングランを守れなかったことで、「ランドール」の聖号を返上した。
・ランドールがプラーナの放出で街を滅ぼしたというのはマサキの言う通り誇張で、本当は周囲の家をいくつか全壊させた程度。このあたりは「5000年前の話なので正しく伝わってはいないだろう」という、個人的な考えによる調整になります。
・ファミリアの食事については『魔装機神』シリーズではあまり語られないが、LOE一章には「何も食べなくても一ヶ月くらいは大丈夫」という言及がある。
・セニアはマサキと同い年なので現在17歳。オラシオは30歳。
・セニアの料理はSFC『魔装機神LOE』のリメイクであるDS版で追加されたエピソード。常に悠然とした紳士として振る舞うフェイルが声を荒らげた珍しいシーン。