地球連邦の手により解体され、遺棄されたはずの早乙女研究所。
その地下では隠された施設が今も生き残っていた。
明かりが灯った階段を一行は下っていく。
そんな中、先頭に立って先導するカムイが意外そうに呟きを漏らす。
「……どうやら罠はないようだ」
「それじゃあ敷島博士が隠れてるってセンはなさそうだな」
それにアークチームだけでなくオラシオも頷く。
「ま、私でも罠は仕掛けておくでしょうねぇ!
研究した成果物が他者の手に渡ることは、研究者にとっては耐え
「それもあるだろうが……
敷島博士は特に理由がなくても、いたるところに罠を作ってしまうからな」
カムイの敷島博士評にセニアは
「どういう人なのよ、敷島博士って……」
「どうも常識的な人物ではなさそうですねぇ」
「…………」
セニアは何かを言いたげな目でオラシオを見るが、ぐっと
やがて階段を下りきった彼らは、広めの空間に出る。
そこは格納庫のようだった。
様々なゲッターロボがあるが、その多くは壊れた状態のまま、打ち
研究材料の山を見つけたオラシオは歓喜する。
「おぉ~、これはいい!
これだけあるなら、分解して中身を調べても構いませんよねぇ!?」
「まだ奥にも何かあるみたいだから、後にしなさい。
……にしても、ゲッターロボにも色々あるのね」
一行はいくつものゲッターロボを眺めながら、それらの横を通り過ぎていく。
「こいつは初代か。おっ! あっちにはD2もあるぞ」
「だが俺たちの知らないゲッターもあるようだ」
「この世界はいろんなロボットがあるらしいから、その影響でゲッターも色々作られたのかもしれんな」
などと言い合いながら格納庫の奥へと進む。
その先には、地下とは思えぬほどの広大な空間が広がっていた。
そこで彼らが見つけたのは、やはりゲッターロボ。
だが、その数が尋常ではない。とても数えきれないほどの大量のゲッターロボが、無造作に積み重なっていた。
「な、なんだこりゃあ……!?」
異様な光景を目にして、皆一様に息を呑む。
彼らの脳裏に浮かんだイメージは、廃棄物処理場。
しかしよく見れば、それらは壊れていない。今すぐにでも使えそうな状態だった。
皆がゲッターの山に圧倒される中で、カムイはひとつの事実に気付いた。
「……ここにあるのは全てゲッターGか」
ゲッタードラゴン、ゲッターライガー、ゲッターポセイドン。
形態が異なっているが、これらはいずれもゲッターロボGと呼ばれる、初代ゲッターロボの後継機となるマシンだ。
「なんでゲッターGばっかり、こんなに作ったんだ?」
それは当然の疑問だった。
そもそもゲッターロボは乗り手を選ぶので量産には向かない。
大量のゲッターロボを造ること自体が、不可解な行為と言える。
「この世界の早乙女博士は人類に反旗を
「フゥ~ン? なら人を乗せずに機械で動かすつもりだったのでは?
こっちの世界にはありますよねぇ? そういう技術が」
先日戦ったオルクスーラだけでなく、ロボットにパイロットを乗せずにAIで動かすというのは、この世界の地球では珍しくない。
そんなオラシオの予想に、カムイが答える。
「いや、ゲッターロボは3人の操縦者が揃わないと力を発揮できない。
無人機でも戦えないことはないが、そんな運用をするならゲッターよりも他のロボットを量産した方がいいだろう」
「はぁ。なんとも面倒な仕様ですねぇ。普通に兵器として欠陥品では?」
「もう、そういう話は今はいいでしょ。
……でもカムイ、ゲッターに乗れる人なんて、そうそういないわよね?」
「ああ。どれほど訓練された軍人でも、まともに乗りこなせなかった。
この世界の早乙女博士は、いったい何を考えていたのか……」
なぜ大量のゲッターロボが造られたのか。
そして、なぜゲッターGなのか。
どちらの理由も、今のカムイたちには
カムイやセニアが首をひねっていると、奥にまだ別の部屋があることに拓馬が気付く。
「おい、まだ何かあるみたいだぜ」
「行ってみるか」
頷き合うと、彼らはさらに奥へと進む。
ゲッターロボの山を越えた先には、大きなシャッターあった。
カムイは壁のボタンを押してシャッターを開ける。
これだけ奇妙な情景を目にした後だ。もう何があっても驚かない。……そんなふうに思っていた彼らだったが……
拓馬、カムイ、獏の3人は、そこで待ち受けていた者を見て驚愕する。
「お、お前は……」
「なぜここに」
自分の目を疑う獏とカムイ。
拓馬はその者の名を大きな声で口にする。
「……諸葛孔明!!」
そこにいたのは、拓馬たちの地球へ攻め込んできたアンドロメダ流国の司令官、諸葛孔明だった。
部屋の奥で機械を操作していた諸葛孔明は、拓馬の声に振り向く。
「来たか……ゲッターの申し子どもよ!」
アークチームと諸葛孔明の両者は、最大の警戒と敵意をもって睨み合う。
アークチームにとっては、地球を滅ぼそうとする敵の親玉。
諸葛孔明にとっては、いずれ銀河を滅ぼすゲッターの尖兵。
互いにとって最も倒さねばならない宿敵だ。
だが、敵基地の自爆から逃れてきた拓馬たちは、そこで諸葛孔明も死亡したものと思っていた。
「どういうことだ? こっちの世界にも同じ奴がいるのか?」
「あるいは、俺たちを追ってきたか……」
その呟きに諸葛孔明は
「ハハハハハハ!! わしは正真正銘、貴様らの知る諸葛孔明よ!
だが、貴様らを追ってきたというのは少し違う。わしが追ったのはこいつじゃ」
と言って横を見上げる諸葛孔明。
そこにはゲッターロボと比べても一回り以上は大きな、巨大ロボットがあった。
「これは……?」
青黒いカラーリングに重厚なフォルム。
その姿を目にしたセニアは、彼女の知る中で最も強大な力を持つロボット――武装機甲士グランゾンを思い出していた。
その得体の知れない機体は何なのか。諸葛孔明は拓馬たちに向かって語る。
「こやつの名はバグ!
ゲッター軍団に対抗すべく造られた、我がアンドロメダ流国の最終兵器よ!」
「なに!? これが……バグ……」
諸葛孔明の言葉にカムイが反応する。
目にするのは初めてだが、カムイはその名を知っている。未来の戦場で、アンドロメダ流国の傘下である百鬼帝国のマクドナルから、カムイ自身が託された兵器だ。
カムイはそのマクドナルから、未完成のバグを過去の地球に送ったと聞かされている。それを過去に戻ったカムイが恐竜帝国の科学力を用いて完成させて、地球人類を滅ぼす……そういう筋書きだった。
しかしそのバグが、なぜか別世界の早乙女研究所の地下にある。
困惑するカムイに向けて答えるように、諸葛孔明はここに至った経緯を語る。
「わしはマクドナルに命じ、このバグを過去の地球へと送らせた。
だが時空を超える際のエネルギーを観測すると、過去の地球ではなく別の場所に向かったことが分かった。
そこでわしも貴様ら同様、
「な、なんだと……」
「諸葛孔明……そこまでするか」
敵ながら、その覚悟の決まった行動に戦慄するアークチーム。
「首尾よくバグを見つけたわしは、同時にこちらの世界での協力者を得た。
そして密かに兵器を完成させるのにうってつけな、この早乙女研究所の地下を提供され……ついにわしはこの地で、未完の兵器であったバグを完成させたのだ」
「協力者だと? 誰だそいつは!」
「貴様らに言う必要はない!」
問いかける拓馬に対して諸葛孔明は一方的に話を終わらせると、その身体を大量の
「まずいぞ! 乗り込む気だ!」
生身のままではロボットに対抗できない。
諸葛孔明がバグを起動させる前に、一刻も早く地上へ戻らなくてはならない。
「逃げるぞオラシオ! ……ん? あいつ、どこ行った?」
拓馬が振り返ると、そこには誰もいない。
つい先程まで自分たちの後ろにいたはずのオラシオは、いつの間にか姿を消していた。
「え、嘘でしょ? もう逃げたの?」
「なんてやつだ」
だが驚いている暇はない。すぐさま獏はセニアを担ぎ上げると、全速力で来た道を戻る。
拓馬やカムイはもとより、獏の身体能力も常人の規格から大きく外れていた。人ひとりを抱えながらも、世界のトップアスリートに引けをとらない走りを見せる。
それでも地上は遠い。ゲッターGの山を飛び越えていく拓馬たち……その背後からは地獄から鳴り響くかのような、低く大気を震わせる起動音が聞こえてくる。
それに続いて、分厚いシャッターが粉砕された爆音。
「くそっ、やべえぞ! 地上まで間に合わねえ!」
このままではアークに乗り込む前に踏み潰されてしまう。
さすがに焦りで引きつった顔を見せる面々に対して、獏に抱えられながら手元の端末を操作しながらセニアは言った。
「……大丈夫、もう来るから!」
「来るって何が――」
その言葉を言い終える前に、上方から大きな破砕音。
拓馬たちが見上げると、広い空間の上部が破壊され、上からノルス・レイが降ってきた。
「おお! 遠隔で動かせたのか!」
セニアは着地したノルスに乗り込と、残る3人も来るように促す。
「早く乗り込んで!」
「いや、俺たちは外でいい。このまま飛べ!」
「え……!?」
その異常なカムイの指示にセニアは戸惑うが、
セニアはすぐにノルスを地上に向けて飛翔させた。
「ぬおおおおおっ!?」
「く……」
「うぐぐぎ……!」
必死になってノルスの外装にしがみつく拓馬、カムイ、獏の3人。
そして地上に出ると、まるで何事もなかったように走ってアークへと乗り込んでいった。
その限度を超えたタフさ加減には、ノルスのコクピットに入っているシロとクロも口を開いて驚く。
「……今さらだけど、拓馬や獏もホントに人間ニャのかしら?」
「ゲッター線ってすごいニャ」
こうして、ひとまず窮地を脱した拓馬たち。
だが本番はここからだ。
地下からは迫り来る
「……来るぞ!」
それは予想していたような、激しく地面を突き破っての登場ではなかった。
地面の一部が、まるで急激に水分を奪われたかのように乾いた砂へと変わって、地下へと沈み込んでいく。
何が起きたのか分からない謎の現象に、一同は目を見張る。
その流砂のごとく大地が崩れ落ちる中から、それはゆっくりと姿を表した。
「さて……始めるか。
とはいえ、
「ぬかしやがれ!」
拓馬の気迫に呼応するように、アークの額が新緑に輝く。
「くらえっ!
ゲッタァァァ! ビィィィィムッ!」
そこにセニアも合わせる。
「容赦しないわよっ!」
ノルスの背に翼のように展開したジェネレーターから、きらきらと輝く白い羽根がこぼれ落ちる。
「エンジェルウィスパァァッ!!」
こぼれ落ちた数十枚もの光の羽根が、一斉に敵へと向かっていく。
緑の光線と白い羽根。
ふたつの強力な攻撃が迫る中で、諸葛孔明のバグは回避行動をとらなかった。
なぜなら、その必要がないからだ。
バグの周囲に展開されたバリアによって、どちらも標的の直前で霧散し、完全に消滅した。
「なんだと!?」
「うそ!? あれで無傷だなんて……!」
エンジェルウィスパーは、セニアのノルス・レイに搭載されている中では最も強い武装だ。
これで全く傷をつけられないということは、ノルスでは何をしてもダメージを与えられないということになる。
「愚かな……」
諸葛孔明の呟きとともにバグの手が上がる。
その
「ぐああああっ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
アークの装甲がいくつか弾け飛び、ノルスに至っては一瞬にして全壊に近い状態にまで損傷する。
「くそっ! なんだこのパワーは!?」
「セニア、下がれ!」
セニアは悔しげに唇を噛みながらも、煙を上げるノルスを操作して、すぐにその場を離れた。
こうして一対一になったアークとバグだが、早くもアークは大きなダメージを受けてしまっている。
「拓馬! あんなのを何度もくらったらアークがもたんぞ!」
「なら、やるしかねえ!」
迷いなく攻勢に転じる拓馬。
アークの背中に9本ついている棒状の翼。それらが上を向いて展開し、先端から一斉に雷を放つ。
これがゲッタービームを上回るアークの必殺兵器――
「サンダァァァ!! ボンバァァァァァァァァッ!!!」
九つの電流は、まるでそれぞれが意思を持つ蛇竜の頭のように、バリバリと咆哮のごとき雷鳴を響かせながら敵に襲いかかる。
……が――それすらもバグのバリアは防ぎきった。
ゲッターアークが誇る必殺の一撃をもっても倒せないどころか、その体に届きすらしない。
「おい、まじかよ!? どういうバリアだ!?」
「エネルギー兵器は駄目だ! 格闘か実弾を使え!」
「それなら、こいつはどうだ!」
攻撃が通らなくても、拓馬の攻める遺志は止まらない。
アークはバグへと急速接近しながら、大きく腕を振りかぶる。
「バトルショットカッタァァァァ!!」
アークの腕についた刃で敵を切り裂く。
ギャリギャリッと鳴り響く、耳をつんざく異音。
しかしそれだけ。アークの刃は、バグの装甲に薄い傷跡を残しただけだった。
「うそだろ……硬すぎる。こんなのどうすりゃいいんだ」
愕然とする獏に対して、まるで未熟な生徒へ教え諭すように諸葛孔明は言う。
「どうにもならぬ事もあると学ぶがよい。
どだい科学力が違うのだ、貴様らのアークと、このバグとでは。
完成したバグの前には、この時代の兵器など子供の玩具も同じよ」
獏はここに来る前に見た未来の戦場を思い出す。
そこでは、その他大勢の量産機の相手すらアークでは務まらなかった。
それも当然。数千年後の未来と現代とでは、天と地ほども科学力に差があるからだ。
だが、それに異を唱える者がいた。
「……いや、それは嘘だ」
カムイだ。
「なに……?」
「どういうことだ、カムイ?」
カムイの言葉を諸葛孔明は訝しみ、拓馬は聞き返した。
それらに向けてカムイは答える。
「この世界の早乙女博士を見たところ、俺たちの世界と科学技術に大差はない。この研究所の設備で、数千年後の未来の技術を扱えるはずがない」
これを聞いて納得する獏。
「なるほどな! 理論があっても設備がなけりゃ、どうにもならん」
「ってことは、つまり……」
「ハッタリだ。バグは完成などしていない」
「む……」
そのカムイの指摘に、諸葛孔明はわずかに喉奥から唸り声を漏らす。
しかしすぐに泰然と姿勢を整え、言葉を返した。
「さすがに
だが、それが分かったからといってどうなる?
貴様らとわしの力の差は変わりはしない。それに……」
バグが上に掲げた両の手の間から、再び黒い力が湧き出る。
「バグの中核となる機能は、すでに出来上がっている」
膨れ上がった黒い球状のエネルギーは、敵であるアークではなく、なんとバグ自身に向けて放たれた。
瞬間、激しい振動と衝撃波が周囲一帯を襲う。
大地と、そして大気が震える。その震えは、まるで地球そのものが鳴動しているかのようだった。
「くっ! なんだ……!?」
「何をしやがった!? べつに何も変わりは――」
最初にその異変に気付いたのはカムイだ。
「これは……周囲の温度が上がっている」
大気温度が上昇し、外気温は40℃、50℃、60℃……まだまだ上がり、気温の上昇は止まる気配を見せない。
さらに離れて様子を見守っていたセニアが声をあげた。
「何これ、おかしいわ! 周りの温度が上がってるのに熱源がどこにもない!」
セニアの指摘通り。
気温が上がっていることよりも、何よりおかしいのはそこだった。
発生した“何か”が周囲の温度を上げているのかと思いきや、そうではない。
その異変の理由を諸葛孔明が回答する。
「これがバグの力よ。このバグには、自身の周囲を創り変える機能がある」
「なに……?」
「環境操作……それがバグの能力か」
すでに早乙女研究所周辺は機体から出れば人間には耐えられない暑さになっており、シカ、キツネ、イヌワシといった周囲の生物が次々に倒れていく。
それだけではない。気温上昇の影響範囲も、際限なく拡大していく。
「まずいぞ、どんどん広がってる!」
遠くの鳥がばたばたと落ちていくのを見て、獏から焦りの声があがる。
セニアは周辺の温度変化を計測。即座に計算する。
「このまま気温上昇の範囲が広がると、数分で浅間山を越えて、人が住む地域まで広がるわ!」
「なんだと!?」
そんな速度では、とても避難など間に合わない。大勢の人達が犠牲になってしまう。
さらにそのまま止まることなく広がっていったなら、やがては地球人類すべてが死に絶えることになるだろう。
その最悪の想像を諸葛孔明は肯定する。
「亜空間銀河で地球を飲み込む作戦は失敗したが……バグの力を使えば、同じように地球人類を消し去ることは
未来の戦場で星ひとつを丸ごと腐らせる兵器を目の当たりにした拓馬たちには、「そんなバカな」とは言えなかった。
とはいえ、この世界の地球を滅ぼすことが諸葛孔明の目的ではない。
「なに、元の世界へ戻る前の試運転よ。
国ひとつを覆ったあたりで、止めておこうではないか」
そんな
「バグの機能ってことは、こいつをぶっ壊せば止まるんだろ!」
今にもバグに向かって突撃しようとする拓馬。
それを押し留めたのはカムイの言葉だ。
「待て、焦るな拓馬」
「なぜ止めるカムイ!?
このままじゃ人が大勢死ぬんだぞ!」
「分かっているのか拓馬?
この世界は俺たちが住んでいた世界じゃない」
言ってみれば、拓馬たちアークチームは迷い込んだ異邦人だ。
元の世界に戻ることが当面の彼らの目的であり、そして元の世界に戻ってしまえば、こちらの世界とは二度と関わることはないだろう。
つまりこの世界の住人は、自分たちとは無関係の人達だ。
だが――
「そんなことが関係あるか!
そこに人が暮らしてんだろうが!」
拓馬の答えには迷いがなかった。
目の前の理不尽に対する、純粋でまっすぐな怒り。
その言葉を正面から受け止めたカムイは、改めて何かを理解したように、小さく頷いた。
「……そうだな。拓馬、お前の言う通りだ」
二人の問答は終わったが、しかし根本的な問題が残されている。
それを指摘するのは諸葛孔明だ。
「グワハハハ! 愚かに過ぎるわ!
この圧倒的な力の差を、どうやって覆すというのだ?
まだ分からぬのなら、理解させてやろうではないか!」
諸葛孔明の高笑いとともに、黒い電撃が放たれる。
拓馬はそれを咄嗟に回避した。
もう一度まともに受ければ、アークの装甲がもたない。
防げないのでは、避けるしかない。
拓馬は空中で急激な加速と停止を繰り返し、バグの掌から連続で撃ち放たれる稲妻を避け続けながら、叫ぶ。
「おいカムイ、どうすりゃいい!? 教えろ!」
自ら
「現状では、やつを倒す手立てはない」
その身も蓋もない回答に獏も声をあげる。
「お手上げってことかよ!?」
本当なら、まだ手はある。
ゲッターアークにはサンダーボンバーを超える最強の武装が存在する。
しかし彼らはまるで示し合わせたように、その名を口にしなかった。
3人の心がひとつになっていない今の自分たちでは、アークの真の力を引き出すことはできないと、感覚的に理解していたからだ。
「……今はな。
だがバグが未完成なのは確かだ。必ずどこかに綻びはあるはず。
やつの弱点が何なのかは、戦いの中で見出すしかない」
それを聞いた獏は大きく息を吐いて、覚悟を決める。
「結局、やるしかないって話だな」
「だったら――」
拓馬はすぐさまスイッチを押して、電撃を避けつつアークを分離させる。
流れるようなオープンゲットからの、地面スレスレでの合体。
そうして地上に降り立ったのはゲッターキリクだ。
「任せたぞ、カムイ!」
「おおっ!」
ゲッターキリクはアーク、キリク、カーンの3形態の中で、最も瞬発力に優れる。
敵の攻撃を回避するならキリクが適任だ。
残像すら残る超高速の移動で、キリクは放たれる電撃のすべてを
だがキリクを選んだ理由はそれだけではない。
「逃げてばかりでは活路は開けん。行くぞ!」
キリクはドリル状になっている両腕を頭上に掲げ、急激な高速回転を始める。
その回転は周囲の大気を巻き込み、渦巻く暴風を形成。
そして自らも竜巻のごとき一つの巨大なドリルと化して、敵機に向かって突撃する。
「うおおおっ! ダブルドリルストーム!!」
回転して嵐を纏うキリクの勢いは、バグが放った黒い稲妻をも弾き飛ばした。
「なにっ!?」
驚愕する諸葛孔明。キリクはそのままバグの胴体に突き刺さる!
「いける! 刺さったぞカムイ!」
無敵かとも思われたバグの装甲が、キリクのドリルのよって削られていく。
カムイはこの機を逃すまいとドリルの回転を上げた。
「おおおおおおおおっ!!」
「むうっ……!」
バグが雷を放ってもキリクは止められない。
しかしそこで諸葛孔明が出したのは、雷ではなかった。
バグの手から生まれた漆黒のエネルギーは、とりもちのような粘着質の物体へと姿を変える。
諸葛孔明はそれでキリクのドリル部分を覆うと、周囲に飛び散らないよう両手を使って押さえ込む。
すると見る間にキリクの回転が落ちていき……やがて完全に停止。
今度はカムイが驚きの声をあげる番だった。
「これは……!? うおっ!」
諸葛孔明のバグは、キリクを無造作に放り投げた。
地に膝をつくキリクを見下ろしながら、諸葛孔明は言う。
「カムイよ、貴様はバグの能力を環境操作と言ったが……それはバグが持つ真の力の副産物に過ぎぬ」
「なんだと……?」
諸葛孔明は驚きの事実を言い放つ。
「バグとは、天地創造を行ったとされる太古の遺物を、我がアンドロメダ流国の科学で模したもの!
この機体には、あらゆるものを創り出す力がある!」
また一段と話のスケールが広がり、もはや獏も呆れ半分の声を出す。
「天地創造だって?
こいつ、とんでもねえことをぬかしやがる」
「これもハッタリだろう!
そんな事できるわけねえ!」
そんな獏や拓馬の意見に続いて、セニアも自らの私見を語る。
「そうね……もしそれが技術的に可能だとしても、操縦者が使いこなせるかは別問題よ。
本当に何でも創れるのなら、こんな戦いにはならない。
おそらくバグの能力は使い手のイメージに強く依存していて、創れるものは限られるはず」
「……むう、カムイといい……
苦虫を噛み潰したように
しかし絶対的強者の立場にある彼は、すぐに余裕の顔を取り戻す。
「無論、このバグは天地創造のオリジナルには遠く及ばぬ。
ナビゲーターも不在では、力の深淵を引き出すことは叶わぬだろう。
だが――こういう事なら、わしにでも出来る」
諸葛孔明がそう言うと、バグの肩周りにいくつもの黒い球が出現する。
それは数十本ものクロスボウが複雑に絡み合ったような、奇妙な兵器へと形を変えた。
「我が
量子真空
バグが創った兵器から、数えきれないほどの矢が発射される。
それは辺り一面への一斉掃射。
キリクがどれだけ速度に優れていようとも、逃げ道がなくては避けることはできない。
それでもカムイは被弾を少なくしようと必死に回避行動をとる。
……が、矢の一本がキリクの足に触れた瞬間、大爆発を起こす!
「なに!? うおっ!」
吹き飛ぶキリクの装甲。
激しい爆発は、ゲッターロボの中にいるパイロットにまで、全身が砕けるかのような激しい衝撃を伝えた。
だが、それで終わりではなかった。
その爆発を引き金として、周囲を飛ぶ他の矢も同じように爆発する。
それらは連鎖的に次々と誘爆を繰り返していき、その中心にあるキリクは、数十回もの爆発の衝撃をその身に受けることとなった。
「ぐああああああああぁぁっ!!」
爆音の中でアークチームの絶叫が響き渡る。
そうして爆発が収まった時……そこには、かろうじて人型ロボットの形を留めているゲッターキリクの姿があった。
しかしもはや動かせる状態ではないのは、誰の目にも明らかだった。
「カムイ! 獏! 拓馬! 3人とも聞こえる!?」
セニアの呼び声にも返事はない。
ゲッターの操縦席にいる3人は、完全に破壊されたキリクと、ほとんど同じような状況だった。
まだ息をしているのが不思議なほどの瀕死の重症。
カムイは朦朧とする意識の中で仲間に呼びかける。
「拓馬……獏……生きているか……?」
答えはない。二人とも完全に意識を失っている。
カムイは力の入らぬ手でキリクを操作しようとするが、操縦桿に触れてもキリクはピクリとも動かなかった。
地面の上に倒れたキリクの中で、カムイは周囲を見渡す。
……そこでは、辺り一面に火の海が広がっていた。
バグによる外気温の上昇が続いたことで、浅間山の木々が発火したのだ。
周囲のどこを見ても炎。さながらそれは、焦熱地獄のような様相だった。
そんな中、炎が作る陽炎に揺られるバグが、悠然とゲッターキリクを見下ろす。
その絶対的な威容を見上げるカムイに向けて、諸葛孔明は
「カムイよ、なぜわしを睨む?」
「なに? なにを言っている……」
その問いの意図が分からず困惑するカムイ。
そんなカムイに諸葛孔明は続ける。
「恐竜帝国のカムイよ。おぬしの本当の敵は、わしではないはずだ」
「それは……」
「分かっているのだろう?
お前たちの真の敵は、我がアンドロメダ流国ではなく……ゲッターだと」
「…………」
カムイは反論できない。
諸葛孔明の言葉の通りだった。
元の世界に戻った後、カムイは恐竜帝国をまとめて、地球の人間を残らず殲滅するつもりでいる。
諸葛孔明とカムイの目的は同じだ。敵対する理由がない。だが……
「いや、だが……それは……」
「今が千載一遇の好機!
お前がやるのだ、カムイよ!」
その言葉に、カムイはハッと顔を上げる。
「俺が……!?」
「お前がその手で殺せ!
ゲッターの操縦席にいる二人を!!」
それはひとつの答え。
そうすれば、宇宙の平和は守られる。
【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。
【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・『ゲッターロボアーク』に出てきたバグのデザインは、同作者の石川賢氏による作品『セイテン大戦フリーダーバグ』に出てくるシグム・セイクンと同じ。『セイテン大戦』における「バグ」の呼称はセイクンというロボットを操るパイロットの一族の名で、それがアークではロボットの名前に使われている。このことから「セイクンの話がアンドロメダ流国では不完全に伝わっているのだろう」と想像して、今回のバグまわりの設定を捏造しています。
・『セイテン大戦』のセイクン(バグ)は宇宙の創造まではしておらず、地球をデザインした程度。ただ今回は「地球人視点で見ればそれも天地創造と言えるはず」と考え、アンドロメダ流国および諸葛孔明には天地創造と伝わっている…という設定にしました。
・『ナイツ&マジック』原作小説およびアニメで、オラシオは敗色濃厚になったらいつの間にか逃げ去っている。原作小説では機密書類まで持ち出して亡命している。
・魔装機神ですらない通常の魔装機でも、操者が「来い」と言うと魔装機がどこからともなく出現する描写が『魔装機神LOE』にある。このことから多くの魔装機は遠隔操作が可能だと考えられる。なお、サイバスターに至っては近くにいるマサキを勝手に自分のコクピット内に転移させたりしている。
・エンジェルウィスパーの戦闘モーションは作品によって全く違っている。最新の魔装機神シリーズでは光輪をたくさん飛ばす攻撃になっているが、それ以前は羽根を飛ばす攻撃だった。今回は古い戦闘モーションを採用。
・天才的な軍師として知られる史実の諸葛亮孔明だが、彼は軍略家であると同時に発明家でもあり、弩を改良して連射可能にしたと言われている。この弩は「元戎」や「諸葛連弩」などと呼ばれる。