Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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第7話「炎の空」

 現れた真ゲッタードラゴンは、ゲッターGを両断したトマホークをどっしりと肩にかつぐ。

 そして、そこに乗るメインパイロット――流竜馬(ながれりょうま)は、野性味に溢れた笑みを浮かべて口を開いた。

 

「一丁あがりだ!」

 

 同じ機体に乗る神隼人(じんはやと)車弁慶(くるまべんけい)も、それに続く。

 

「なに格好つけてやがる」

 

「サイバスターに置いてかれたのにな」

 

「うるせえ! 間に合えばいいんだよ!」

 

 戦地であるにもかかわらず、そんな軽口を叩く初代ゲッターチームの3人。

 その自信と余裕の満ちた振る舞いは、歴戦の勇士たる風格を感じさせる。

 そんな彼らの掛け合いに反応したのはカムイだ。

 

「その声……(じん)大佐!?」

 

 カムイの驚きに対して、隼人が答える。

 

「カムイとやら、お前たちのことはマサキから聞いてる。

 だが、どうやら悠長に語り合ってる暇はなさそうだ」

 

 バグによる温度上昇の範囲は広がり続けており、もはや一刻の猶予もない。

 今すぐにでも災害の源である(バグ)を倒さなければならない。

 状況を理解している初代ゲッターチームは、すぐに動く。

 

「速攻勝負なら俺の出番だな」

 

 隼人の言葉とともに、真ゲッタードラゴンが持つ巨大なトマホークが肩部に仕舞(しま)われる。それはまるで質量保存の法則を無視したかのような収納だった。

 そして右手の手首から先がドリルに。左手は閉じた傘のような形状に変形する。

 真ゲッタードラゴンのライガー形態だ。

 長距離飛行においてはドラゴン形態が速いが、ライガー形態は圧倒的な瞬発力を誇る。

 

 真ゲッタードラゴンとサイバスターはゲッターGの群れに狙いを定める。

 敵に仕掛ける前に、マサキは言った。

 

「今度は遅れんなよ? ゲッターチーム」

 

「フッ、誰にものを言っていやがる」

 

 隼人の返しと同時、真ゲッタードラゴンの背面にあるゲッターウイングが変形。大きなブースターになる。

 急発進する真ゲッタードラゴン。

 その速度は一瞬で音速を超え、衝撃波と轟音を残して敵陣へと突き進む。

 

 そうして、真ゲッタードラゴンとサイバスターは競うように次々とゲッターGを撃破していく。

 その戦いぶりを見て感嘆の声を漏らすカムイと獏。

 

「映像で見るのとは違う……これが全盛期の(じん)大佐か」

 

「すげえな。あのスピードで、あんなに正確に操縦できるもんなのか。

 マサキの言ってたエーオスってやつのおかげか?」

 

「おそらく、それもあるのだろうが……」

 

 単なる操縦技能とは違ったものを、カムイは彼らの動きから感じ取っていた。

 技術だけならむしろ、長くゲッターロボに乗る訓練をしてきたカムイが上回っている部分は多々ある。

 しかし彼らが戦いの中で見せる、ある種の大胆さ。それは実戦経験の少ないカムイには持ち得ないものだった。

 カムイはその戦いに見入ると同時に、機体の中に乗っている人物のことを思う。

 

(若い頃の(じん)さんが乗っている……なら、あのゲッターには……)

 

 カムイはモニター越しに拓馬を見る。

 

「…………」

 

 拓馬は無言。

 拓馬もカムイや獏と同様に、真ゲッタードラゴンをじっと見ている。

 その顔は何か思うところがあるようだったが、しかし何も言わなかった。

 

 一方、現れた2機に撃破されていくゲッターGを見て、諸葛孔明のバグが動き出す。

 

「ムウッ、邪魔立てするか!

 ならばアークの前に血祭りにあげてくれるわ!」

 

 マサキは敵の本丸が動き出したことに気付いて、初代ゲッターチームに声をかける。

 

「向こうの大物はゲッターチームに任せるぜ。

 俺はゲッターGをやる! すぐに倒して来るから、待ってろよ」

 

「急がなくてもいいぞ。

 お前がもたもたしてる間に、俺たちだけで倒してやる」

 

「へっ、そうかよ!」

 

 ゲッターGの群れに向かって飛翔するサイバスター。

 その場に残された真ゲッタードラゴンに、バグの巨体が迫る。

 アークにとどめを刺すためにゲッターGを残したい諸葛孔明は、周囲を巻き添えにしない近接戦闘を選択した。

 バグは真ゲッタードラゴンに向かって飛び上がりながら、その両手の中に新たな武器を創り出す。

 

()でよ! 青龍層子戟(せいりゅうそうしげき)!」

 

 漆黒のエネルギーから生み出されたのは、槍と斧を合わせたような長柄の武器。

 下から振り上げられたそれを、隼人が操る真ゲッタードラゴンは難なく(かわ)す。

 だが空振りしたと思いきや、蒼色の残像が6つの異なる軌道を描いて伸びて、真ゲッタードラゴンの胸部と左手を切り裂いた!

 

「……ちぃっ!」

 

 胸部は大きく(えぐ)れ、左腕のチェーンアームは食いちぎられたようにボロボロになる。

 しかし、これしきのことで戦闘意欲が萎えるゲッターチームではない。

 むしろ思わぬ強敵の出現に対して、狂気じみた笑みをもって神隼人は応える。

 

「面白い武器を見せてもらった礼だ。見せてやるぜ、この俺の戦いを!」

 

 言うが早いか、爆発的な加速でバグに迫る真ゲッタードラゴン。

 そして通り抜けざま、ドリルで装甲を削りとる。

 しかしその一度では終わらない。

 諸葛孔明がバグを振り向かせた時には、超高速で折り返した真ゲッタードラゴンは、またバグの巨体の反対側に突き抜けていた。

 

「まだまだっ!」

 

「むうっ!? ぬおおぉぉっ!?」

 

 5回や10回ではきかない。20回、30回と絶え間なく往復する超高速突撃。

 バグは手にした(げき)を振り回すが、虚しく宙を切る。

 常軌を逸した急加速と急停止を繰り返しながらも、しっかりと敵の挙動を把握し、それでいて操作を誤らず正確無比に機体を操り続ける。

 これが神隼人。音速を超えた世界の住人が見せる戦いだった。

 

「クッ……小癪(こしゃく)な! ならば……!」

 

 バグが(げき)を上に掲げると、黒い稲妻がその穂先に収束する。

 力を溜めて一気に全方位へと攻撃するつもりだ。

 しかしバグが両手を上に向けた瞬間だった。

 真ゲッタードラゴンはライガー形態からポセイドン形態へと変形。両手の先がゲッターポセイドンの頭部のような形になり、そこから網が射出する。

 

「フィンガーネット!」

 

 網を飛ばした真ゲッタードラゴンの手はすぐに通常の形に戻る。

 その手で敵を捕らえた網を掴むと、隼人から操縦を代わった弁慶が、思いきり引き上げる。

 するとバグの巨体が宙に浮いた。

 

「なにぃっ!?」

 

「ぬぅりゃああぁぁっ!」

 

 弁慶はそのままバグを上空高くへ放り投げると、そこから網を振り下ろして、直角近い角度で網の中にいる敵機を地面に落とす!

 

「武蔵直伝! 大雪山おろしぃぃぃ!!」

 

 まるで爆音のような轟きを鳴らして地面に激突する青黒い巨体。

 阿吽の呼吸が成せる、隼人から弁慶へと繋がる見事な連携だった。

 隼人はバグに攻撃を始めてすぐに、ライガー形態のドリルでは強靭な装甲に対して決定打を与えられないことを理解していた。

 そこで、一撃の重さがあるポセイドン形態に切り替えたのだ。

 バグのバリアに防がれない物理的な攻撃となると、真ゲッタードラゴンが使える中ではこれが最大の一撃となる。

 ……だが、それでもバグの体躯に大きな損傷は見られなかった。

 地面に叩き落とされた巨体が、ゆっくりと立ち上がる。

 そのバグの中から諸葛孔明の声が漏れた。

 

「ぬ、むぅっ……」

 

 苦しげな呻き声。

 圧倒的な耐久力を誇るバグだったが、しかし中に入っている操縦者まで頑丈になるわけではない。

 そこを付け入る隙と見るや、即座に動くゲッターチーム。

 

「弁慶、もう1回だ!」

 

「おうよ!」

 

 再び弁慶はフィンガーネットを飛ばす。

 しかし投げられた網に、バグが二度もかかることはなかった。

 気付けば、いつの間にかバグの周囲に黒いビットが滞空している。そこから放たれた光線が、飛んできた網を焼き切ったのだ。

 

「くそっ、対策されたか!」

 

 それを見て悪態をつく弁慶と、冷静に分析する隼人。

 

「なるほど……敵はおそらく戦闘員じゃないな。近接戦闘は不慣れで、代わりに頭が働くタイプ。学者……司令官……そんなところだろう。武器を創り出す能力との相性がいい。同じ攻撃は二度も通じないと思った方がいいな」

 

「それじゃあポセイドンだけじゃなく、もうライガーも対策されてるか?

 となると……」

 

 その弁慶の言葉を竜馬が引き継ぐ。

 

「任せろ、俺がぶった切ってやる!

 ゲッタァァァァ! トマホォォォォォォク!!」

 

 竜馬は真ゲッタードラゴンの肩部から巨大な戦斧を取り出すと、バグに向かって突っ込んでいく。

 

「おおおおりゃあぁぁぁぁっ!」

 

 大質量の塊が大気を押しのける轟音。

 竜馬は遠心力を乗せた荒々しい一振りを、バグの胸部装甲に叩きつける。

 舞い散る火花と、奏でる鉄の異音。

 戦斧が通った後、バグの装甲には大きな傷跡が残されていた。

 

「ぬうっ!?

 そんな旧世代の原始的な武器で、このバグに傷をつけるか!」

 

 キリクのダブルドリルストームに続く、バグにとって二度目の明確なダメージ。 しかしそれでもまだ「軽傷」と言って差し支えない程度のものだ。

 この程度では10回、20回と繰り返したところで、バグを倒すことはできない。

 

「一応効いてる!

 が、たいした傷じゃないぞ」

 

「それでも、これを繰り返すしかない。

 竜馬、接近戦を続けろ!

 離れたら、あの大火力の兵器が飛んでくるぞ」

 

 バグがキリクに対して放った量子真空元戎(げんじゅう)による破壊のエネルギーは、すでにドライストレーガー内のレーダーが観測している。

 あんなものを受ければ、いくら真ゲッタードラゴンでもひとたまりもない。

 ゆえに活路は敵の懐の中にしかなかった。

 

「やってやろうじゃねえか!

 おい亀野郎! その甲羅、叩き割ってやるよ!」

 

「愚か者どもめ!

 力の差を思い知らせてくれるわ!」

 

 斧と(げき)

 燃え上がる浅間山の上で、長大なふたつの武器が激しくぶつかり合った。

 

 

**

 

 

 その戦いを、アークチームの面々が離れた位置から見つめていた。

 戦闘を見ながらカムイは呟く。

 

「あのゲッターロボ……」

 

 真ゲッタードラゴンの戦いを目の当たりにして、カムイは気がついた。

 パイロットの力量だけでなく、アークとは機体性能が違うということに。

 

 AOSというシステムについて。

 すでに彼らはマサキから話を聞いていたが、そこで語られた情報はシステムの中のごく一部の機能に過ぎなかった。

 万能戦闘母艦ドライストレーガーの中核となるこのシステムは、乗組員に最適なトレーニング方法を提供するだけはない。

 あらゆるロボットの改造を適切に行い、その性能を向上。

 さらには特殊な機能を付与する強化パーツの設計図を、勝手に作り出したりもする。

 まさに夢のようなシステムだ。

 はっきり言って、地球圏の技術力を遥かに超えた代物である。

 

 ……これはドライクロイツの乗組員もまだ知らないことだが、ドライストレーガーに内蔵されているAOSシステムは、かつてこの宇宙を支配していた古代文明による産物だ。

 その高度な技術力はアンドロメダ流国にも比肩し得る。

 過去に繁栄した文明と、遠い未来の文明。

 数奇な巡り合わせにより遭遇した両者であったが、しかし今この場において、バグの機体性能は圧倒的だった。

 

「まずいな、押されてきてるぞ」

 

 獏の言葉の通り。

 決定打を与えられないトマホークでの攻撃に対して、バグの(げき)は少しずつ真ゲッタードラゴンを捉え始めていた。

 竜馬も多彩な攻め手を駆使して敵に的を絞らせないよう立ち回っているが、その綱渡りの戦いがいつまで()つか分からない。

 真ゲッタードラゴンだけではバグの相手は苦しい。

 やはりサイバスターの参戦は必要だった。

 だがサイバスターが相手をしているゲッターGは、まだ7体も残っている。

 サイバスターがゲッター軍団を倒しきるには時間がかかる。

 そして、それからサイバスターが合流してバグを倒せたとしても、その頃には……

 

「カムイ! 獏!」

 

 突如として発せられた拓馬の呼びかけ。

 それに驚き、声を返したのは、アークの修理をしているセニアだった。

 

「拓馬、あなた……まさか戦う気!?」

 

「ああ。このままじゃ人里に被害が出る」

 

「だからって……!」

 

 そんな拓馬とセニアの問答にカムイが割って入る。

 

「だがどうする拓馬。

 アークの性能も、俺たちの技量も、あの戦いについていける水準ではない」

 

 冷静で的確なカムイの評価。

 それは事実として、拓馬も充分に承知している。

 その上で拓馬は言った。

 

「んなこた分かってる。足りねえもんは気合で何とかするっきゃねえだろうが!」

 

 純度100%の根性論。

 普通に考えれば、まるで話にならない意見だ。

 冷静なカムイなら否定してくれるだろう。セニアはそう思ったが……

 

「そうだな。俺もこのまま済ませるつもりはない。やるぞ」

 

 カムイから返ってきた答えは予想外のものだった。

 あてが外れたセニアは、思わず声を荒らげる。

 

「ちょっと、分かってるの!?

 まだ修理は半分も終わってない!

 それ以前に、そんな体でゲッターロボの加速を受けたら死ぬわよ!」

 

 その言葉は、まさしく正論ではあったが……

 しかし、こんなことを言っても彼らが止まらないであろうことは、セニアにも分かっていた。

 そこでセニアは常識的な話ができる獏に期待を向ける。

 

「獏、あなたも二人を止めて!」

 

 そんなセニアの訴えを聞いた獏は、深く頷く。

 

「ウム……」

 

 そして、こう答えた。

 

「すまんセニア! 俺たちはバカなもんでな!」

 

「ちょっ……!」

 

 セニアの答えを待たずにキリクはオープンゲットした。

 3機の戦闘機は中空で集まり、合体。

 1体のロボットとなって現れる。

 

「チェェェンジ! ゲッターアーク!」

 

 乗り込んだ男たちの闘志をそのまま表したような、(あか)く力強い鋼の体躯。

 ――燃え上がる灼熱の浅間山にて。

 ゲッターアークは再び炎の空へ飛び立った。

 

「拓馬。今のアークは、あまり無理な動きは出来んぞ」

 

「だが手前のやつはサイバスターの剣で切れ目が入ってる」

 

「だったら……」

 

 仲間の言葉を受けて、拓馬は肩からトマホークを取り出し、両手に握る。

 そのまま最も近くを飛ぶゲッタードラゴンに向かって突進しながら、両腕をだらんと脱力させた。

 ゲッターアークとゲッタードラゴン、両者がトマホークの間合いに入る。

 その瞬間にゲッタードラゴンは手斧を振る。

 それを拓馬は左手の斧で受けると、その勢いに逆らわずに体をコマのように回転させて、受け流した。

 

「二天一流……」

 

 拓馬は回転する流れを止めない。

 力の流れに逆らわず、敵の攻撃の勢いをそのまま利用し、回転しながらもう一方の手に握った斧で横薙ぎに一閃する。

 ゲッタードラゴンの腹部に突き刺さるトマホーク。

 手斧の刃先はディスカッターで出来た切れ目に寸分違わず入り、敵機の胴体を綺麗に両断した。

 

「……一撃必殺!」

 

「やるな拓馬」

 

「喜ぶのは早いぜ。囲まれるぞ!」

 

 どうやらサイバスターより(くみ)(やす)いと見たか、周囲のゲッターGがゲッターアークに集まってきた。

 地上にいたゲッターライガーやゲッターポセイドンもドラゴン形態になって飛び上がり、アークを取り囲もうとする。

 ゲッターアークが参戦するなり、すぐに訪れた難局。

 そこにマサキの声が飛ぶ。

 

「こっちだアークチーム!」

 

 疾風のように駆けつけたサイバスターは、先行してアークを誘導する。

 

「ついて来い! 動きを止めるなよ!」

 

「おう!」

 

 サイバスターは剣で、ゲッターアークは手斧で、近付く敵を振り払って囲みを突破していく。

 ――頼もしい。

 拓馬は率直に、そう感じた。

 味方機の後ろをついて行くという点では、未来世界でゲッター軍団に導かれた時と状況が似ている。

 あの時は周囲のゲッター軍団が全ての敵をあらかじめ殲滅し、アークは舗装された道をただ歩かされたという印象だった。

 

 だが今は違った。

 マサキはアークを戦力として数え、先導しながらも自分の背中を任せている。

 それに応えるように拓馬も全力でついて行く。

 その中で拓馬は、自分の力が引き上げられていくのを感じていた。

 今よりもっと高く飛べる。

 もっと熱くなれる。

 風に煽られて勢いを増す炎のように。

 

 そうして敵陣の中で旋回し続けて戦う2機だったが――

 ノルス・レイからの通信でシロの声が届く。

 

「マサキ、囲まれてるニャ!」

 

 残る6機のゲッタードラゴンは少しずつ距離を詰めていき、きっちりと円を描くようにサイバスターとゲッターアークの周りを取り囲んだ。

 自分たちが徐々に囲まれているのはマサキにも分かっていた。

 なぜなら、そうなるように誘導したからだ。

 

「へっ、飛んで火に入る……ってな。

 行けぇっ! サイフラァァッシュ!」

 

 サイバスターを中心に光が広がる。

 光を浴びたゲッタードラゴンたちは、その装甲を削り取られていく。

 だが同じように光の中にいるゲッターアークや、周囲の木々には何も影響がなかった。

 その特殊な力に獏が驚きの声をあげる。

 

「こいつはすげえ! 敵味方を識別できるのか!?」

 

 しかし地上でそれを見るセニアは、苦い顔をする。

 

「あまり効いてない……?

 もしかして、またプラーナコンバーターの不調?」

 

「ええ、こっちに来た時に壊れたままニャのよ」

 

 サイフラッシュは周囲の6体すべてにダメージを与えたが、破壊しきれない。

 だが、そんなことはマサキも織り込み済みだ。

 マサキはサイフラッシュを放つと同時にサイバスターの変形を開始していた。

 サイバード形態になったサイバスターは、飛行速度が飛躍的に向上する。

 サイバードは全力で加速し、高速で離脱。

 その場に残されたのは半壊した6機のゲッタードラゴンと、そしてゲッターアーク。

 

「行け、拓馬!」

 

「おぉぉぉぉっ……」

 

 力を溜めるように両手を握り、背中を丸めて前のめりの姿勢をとるアーク。

 拓馬は大きく息を吐き、腹に力を入れた。

 すると自分の身体の中を熱い血液が駆け巡るのを感じる。

 アークの背面にある9本の翼が展開。

 拓馬は全身に溜まった力を一気に解放するように、叫んだ。

 

「サンダァァァァ!! ボンバァァァァァァァァッ!!」

 

 雷が周囲のすべてに向かって放たれる。

 サイバスターはその電撃に飲まれる寸前で逃げ切り、逃げ遅れたゲッタードラゴンは(ほとばし)る雷光に食らいつかれる。

 バグに対しては一方向に向けて放ったが、サンダーボンバーはこのように周囲の全方位に向けて撃ち出すことも可能だ。

 サイフラッシュで装甲が削られていたゲッタードラゴンは、その激しい電撃によって完全に破壊された。

 6機すべてが黒煙をあげて地上に落ちていく。

 これでゲッターGの群れは全滅。ノルス・レイの中でセニアは歓喜の声をあげる。

 

「やった! やるじゃない、アークチーム!」

 

「サイフラッシュボンバー、決まったニャ」

 

 こうして残るはバグのみ。

 拓馬たちアークチームの役目は終わった。

 あとは真ゲッタードラゴンとサイバスター、この2機に任せればいい。

 ……しかし、ここまでのバグとの戦いで、この場にいる全員が気付いていた。

 このままドライストレーガーが合流すれば、おそらくバグは倒せるだろう。

 だが真ゲッタードラゴンとサイバスターだけではバグを倒すことは難しい。

 ましてや時間内に倒すことは不可能だ。

 現に真ゲッタードラゴンの姿を見れば、すでにバグの攻撃で大きく破損し、厳しい状況に追い込まれている。

 かといって、どうすればいいのか――

 そんな閉塞感を打ち破るように、力強い声があがった。

 その声の主は獏だ。

 

「拓馬、行けるぞ!」

 

「おう!」

 

 獏の声に反応して、拓馬は躊躇(ちゅうちょ)なくバグに向かってアークを突撃させた。

 いくらなんでも無謀が過ぎる行為だ。

 同乗しているカムイも驚愕する。

 しかしカムイはすぐに、ひとつの理由に思い至った。

 

「獏、未来が見えたのか!?」

 

「ああ! ビンビン来たぜ!」

 

 予知能力者である獏には、何かしらの活路が見えたのだろう。

 

「だが……」

 

 今のアークの力で、どうすればバグに決定打を与えられるのか。

 どれだけカムイが頭を働かせても思いつかない。

 絶対的なバグの守りを切り崩すには、現状ではどう考えてみたところで、攻略に必要な要素(ピース)が足りていない。

 

 ――その時だった。

 アークに向けて個別の通信が入る。

 その発信源は……早乙女研究所だった。

 

『アーアー、聞こえてますかねぇ? アークチームの皆さん?』

 

 その声は誰も予想だにしていなかった人物。

 オラシオ・コジャーソの声だ。

 

「無事だったか、オラシオ!」

 

 オラシオは先に逃げたと見せかけて、後からバグが隠されていた部屋へと戻り、データを集めていたのだ。

 科学技術へ異常に執着するオラシオの姿勢が、今回は幸いした。

 研究所の地下はこの程度の温度変化をものともしない空調が備わっており、逆に外へ逃げていたら今ごろはバグによる気温の上昇で干からびるか、山火事に飲まれて炭になっていたことだろう。

 そのオラシオは一切の前置きを省いて、要点だけをアークチームに伝える。

 

『よぉ~く聞いてくださいよぉ?

 そのデカブツのバリア発生装置は、脇腹の奥にあります!

 そして、その付近は内部強度が不足しています』

 

 すでにカムイが看破した通り、バグは万全ではない。

 内部の機構を支える強度が足りず、脆い部分がいくつかある。そのうちのひとつが、胴部に収まるバリア発生装置の付近にもあった。

 

「でかしたオラシオ!」

 

「いや待て、そう言われても……」

 

 弱点が分かったところで、それを実際に突けるかどうかは、また別の問題だ。

 バグの外装は非常に強固。

 しかもバグの巨体では一口に「脇腹」といっても範囲が広い。

 今の口頭での説明では、バリア発生装置の大まかな位置しか分からない。

 あの硬い装甲を貫いて内部にピンポイントで攻撃を届かせるというのは――例えるなら、目を閉じて遠く離れた針穴に糸を投げて通すようなもの。およそ実現不可能な神業だ。それこそ奇跡を起こさなくてはならない。

 そしてバグはもう目の前だ。

 大地の上にどっしりと構えて上空の真ゲッタードラゴンを迎撃しているバグは、ゲッターアークの接近に気付く。

 

「アークめ、貴様から向かってくるとは!

 まさに飛蛾(ひが)の火に(おもむ)くがごとき愚行よ!」

 

 諸葛孔明は真ゲッタードラゴンを右手の(げき)で振り払うと、左の(てのひら)をアークに向ける。

 

「死に急ぐというなら望み通り消え失せるがいい、この宇宙から!」

 

 バグの手から漆黒の稲妻が(ほとばし)る。

 

「オープンゲット!」

 

 それをアークは分離することで回避。

 アーク号、キリク号、カーン号の3機が、それぞれ違う角度でバグに突っ込んでいく。

 拓馬と獏に合わせて敵機に向かいながら、カムイは考える。

 

 ――どうする?

 

 思いつくのは、キリクのダブルドリルストーム。あれをもう一度やるしかない。

 だがカムイには出来るイメージが沸かない。

 それに諸葛孔明が二度も同じ攻撃を許すとも思えなかった。

 そんな躊躇(ためら)うカムイの耳元に声が届く。

 

「カムイ、信じろ!」

 

「……!」

 

 拓馬の声。

 その直後、3機はバグの目の前で合体する。

 そこに姿を現したのは、ゲッターカーン。

 

「読めるぜ、お前のプラーナ……お前が隠したいのは……」

 

 強く握りしめられるゲッターカーンの拳。

 

「ここだあっ!」

 

 カーンの拳がバグの脇腹に突き刺さる!

 その衝撃はバグの内部まで突き抜け、バリア発生装置を囲む壁の一面を破壊。自重を支えきれなくなり、バグ自身の重さで装置は押し潰された。

 

「何っ!?

 ば……馬鹿な! こんな事が……」

 

 バリアが機能を停止したという情報がモニターに映し出され、目を疑う諸葛孔明。

 しかし我を失い取り乱したのは、ほんの一瞬。

 すぐに思考を切り替え、眼前のゲッターカーンを睨む。

 

「……ならばアークチームよ!

 貴様たちさえ消せれば、それでよい!!」

 

 バグが手にした(げき)をカーンに振り下ろす。

 カーンの速度では回避不能だった。

 巨大な斧状の穂先がカーンの胴体に直撃。

 さらに遅れて伸びてきた 無数の蒼い刃がカーンの全身を串刺しにする!

 

「ぐおああぁぁぁぁっ!!」

 

 両腕は斬り飛ばされ、頭部の操縦席は剥き出しになり、装甲が削り取られて心臓部にあるゲッター炉心までもが露出する。

 元から壊れかけだったゲッターアークは、ついに完全に破壊された。

 

「ゲッターアーク!

 貴様だけは……貴様だけは何としても……!」

 

 もはや動けもしないカーンへ、鬼気迫る形相で追撃をかける諸葛孔明。

 そのバグが大きく足を踏み出した時だった。

 飛来した何かがバグの足首を掴む。

 

「むっ!? ぬおっ!」

 

 バランスを崩したバグが膝をつく。

 見ると、バグの足首を掴んでいるのはロボットの手。

 ノルス・レイの手だ。

 戦いに巻き込まれないよう距離をとっていたはずのノルス・レイが、いつの間にかバグの目の前、最前線にまで出てきていた。

 

「セニア、お前……!」

 

「早く離れるわよ!」

 

 ノルスは自分の倍近くも大きなゲッターカーンの体を引っ張って、バグから離そうとする。

 それは無謀な行為だった。

 バグは足首についたノルスの手を容易(たやす)く握り潰して立ち上がり、すぐに追撃を再開する。

 

「まずいわ、早く……早く離れないと! アークもエンジンふかして!」

 

 その無茶な要請に、カムイは機体の状態を冷静に把握して答える。

 

「だめだ、これ以上出力を上げると爆発する」

 

「いいから動かして!」

 

「な……!?」

 

 セニアらしからぬ滅茶苦茶な言動にカムイは面食らう。

 その理由をカムイが知るのは、1秒後のことだった。

 

「馬鹿め、逃がすか!」

 

 ……と、大きく(げき)を振りかぶるバグ。

 その真横から飛来した4つの白い光弾が、バグの胴部へと吸い込まれるように直撃した。

 

 ――輝き。

 

 鮮烈な光がバグの中から広がる。

 

「なっ……何だ!? 何だこれは! ぬおぉぉっ!?」

 

 巨大な星の最期を思わせる、あまりに(まばゆ)く強い輝き。

 真っ白な光は無限大にも思える桁外れのエネルギーを伴い、バグの巨大な体躯を崩壊させていく。

 

 その輝きの名は、コスモノヴァ。

 魔装機神サイバスターに搭載された究極の一撃だ。

 

 全員が息を()んで、その光景を見守る。

 あれほど鉄壁の堅牢さを見せつけていたバグが、あえなく崩れていく。

 しかしこの途方もない威力の前では、もはや()(すべ)はない。

 終わった。

 ……そう、誰もが思った時。

 

「ぬうっ……! ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 響き渡る諸葛孔明の声。

 その雄叫びの後、バグを覆う光が突如として弱まる。

 バグはコスモノヴァが直撃した胴部を押さえるように両手を当てており、その(てのひら)からは黒い光が次々と湧き出し、バグの内部から出る白い光と打ち消し合っていた。

 コスモノヴァによる崩壊を、諸葛孔明はバグの機能を使って抑え込もうとしているのだ。

 

「なんだと!?」

 

 マサキは驚愕する。

 邪神ヴォルクルスすら(ほふ)った最強の一撃だ。

 直撃を受けて耐えられるロボットがあるなど、考えられない。

 しかし少しずつではあるが確実に、バグを包むコスモノヴァの光は弱まっている。

 

 ――そこで、その男は動いた。

 

「やるぞ! 隼人、弁慶!」

 

 その一言だけで、真ゲッタードラゴンに乗る二人は察する。

 竜馬が何をしようとしているのかを。

 

「だが……やれるのか?」

 

「難しいな。俺たちはまだ、真ゲッタードラゴンに馴染めているとは言いがたい」

 

 竜馬はともかく、隼人と弁慶はつい先日まで重症を負って入院していた。

 リハビリを終えてゲッター乗りとして復帰したのも、初めて真ゲッタードラゴンに乗り込んだのも、ほんの数日前のことだ。

 

「なにを寝ぼけた事をぬかしてやがる!

 あれだけの根性を見せられて、俺たちがやらないワケにいくかよ!」

 

 竜馬の言葉に、隼人と弁慶はにやりと笑う。

 その瞬間、3人の心にゲッター炉心が呼応する。

 

 壊れたゲッターロボの中で拓馬は見た。

 真ゲッタードラゴンが金色の光を放つ姿を。

 

「ゲッタァァァァァ!! シャァァァァァァイン!!」

 

 高く上空へと舞い上がった真ゲッタードラゴン。

 煌々(こうこう)とした輝きを身に(まと)ったそれは、空から地上の敵機に向かって急降下する。

 物理法則を無視したかのような急加速。

 加速に次ぐ加速を繰り返しながら、真ゲッタードラゴンは輝きを増していく。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 3つの咆哮が1つに重なる。

 (まばゆ)く白い超新星の光に、太陽のように輝く光が突っ込んでいく。

 

「シャイン!! スパァァァァァァァァァク!!!」

 

 そうしてバグに衝突する直前。

 真ゲッタードラゴンはこれまでの加速から一転した急停止。

 体に(まと)っていた灼熱のエネルギーのみを標的にぶつける。

 ――合わさる2つの光。

 

「こ、これは……!」

 

 消滅していく。

 光に飲み込まれる中で、諸葛孔明はあらゆる後悔と無念を自らの内に飲み込み、そして叫んだ。

 

「大女王メルドウサと、アンドロメダ流国の民に、輝く未来あれ……!!」

 

 塵ひとつ残さずこの世界から消えゆく強敵の姿を、空に佇んで見届ける真ゲッタードラゴン。

 その背中を拓馬は目に焼き付けた。

 そして、その一方で――

 

「諸葛孔明……」

 

 カムイは光の中に消えるバグの姿と、諸葛孔明の最期の言葉を、忘れることのないよう自らの胸の内に刻み込んだ。




【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・三国志で諸葛孔明の仲間である関羽の武器として知られるのが青龍偃月刀。刃の部分に青龍の装飾が施されている偃月刀が青龍偃月刀と呼ばれる。ただしこの時代には存在しないもので、後世による創作とされる。

・「層子」は中国語。素粒子の分類のひとつ「クォーク」のこと。

・戟は史実の諸葛亮孔明が生きていた時代に広く使われていた武器。西洋で言うハルバードに似た、斧と槍を合わせたような長柄武器。

・「飛蛾の火に赴くが如し」は「飛んで火に入る夏の虫」の語源となったといわれる、中国のことわざ。

・厳密にはこの時点でマサキ達に倒されているのはヴォルクルスの本体ではなく分身体。
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